ErogameScape -エロゲー批評空間-

feeさんの久遠の絆 -THE ORIGIN-の長文感想

ユーザー
fee
ゲーム
久遠の絆 -THE ORIGIN-
ブランド
XUSE
得点
72
参照数
1730

一言コメント

「切ない恋物語」、「(男性キャラ同士の友情なども含めた)人と人との絆」をメインとし、それを描くための「障害」として「敵・バトル」があったのが『リメイク前』。「敵・バトル」をクローズアップした代わりに、「切ない恋物語」や「人と人との絆」が蔑ろにされたのが『リメイク後』。一旧作ファンとして、これを「久遠の絆」だとは認めたくない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


【まえおき】


まるっきりの別モノとして見るならば、「久遠の絆 the origin」はクソゲーではないと思います。
日本史の知識・教養を惜しげもなく使ったエロゲは希少価値も高く(僕は他に御子石氏の描いた「Campus」、「Lost passage」の二作しか知りません)、
テキストもきちんと読ませる文章だと思います。


しかし、「久遠の絆」の名を冠して発表した事。
それも(全く無関係のシリーズ新作などではなく)、リメイクとした事から、どうしても旧作との比較が生まれてしまいます。
そして、旧作と比較すると……残念ながら、旧作の魅力は大幅に失われ、新しい加点要素もほとんどない、という印象です。



【大きく変質したテーマ――「1000年前から好きでした」から、「1000年ずっと闘うぜ」へ――】


人と人との絆がメインで、バトルがサブだったのがリメイク前の「久遠」。
テーマとなるのは1000年間、転生のたびに重ねてきた絆。
逢うために焦がれど、『障害』により結ばれぬ恋人たち。
あるいは、どの時代でも片想いに終わってしまう報われぬ恋。
時に争い、時に共闘する、親友・宿敵たち。

人々の生き様を描く上で、『障害』となっていたのが「土蜘蛛」と呼ばれる敵役でした。


今回の「origin版」では、その「土蜘蛛」を含む敵の描写に力が入っております。
それは悪くはないのですが、代わりに人間ドラマの要素は極端に薄れてしまいました。
その結果、敵の陰謀とバトル要素ばかりが肥大化した結果、
大筋では似たような展開であるにも関わらず、受ける印象はまるで別作品となってしまいました。



【中途半端なイラスト流用――絵は同じなのに名前も性格も別人の彼女たち――】

絵を中心に、中途半端に旧作の素材を利用しているのも、マイナスにこそなれプラスにはなりえません。

CGについては、当時極めて美麗だと感じたCGも今となってはハッキリと古さを感じざるを得ません。
古いだけなら良いのですが、絵柄が大きく異なる描き下ろしCGも存在するため、どうしても違和感が生じてしまいます。
「さっきまで新しい絵だったのに、突然古い絵になったぞwww」的な脱力感がぬぐえません。
どうせなら全部書き下ろせば良かったのに、と思います。


統一感のなさだけが流用の弊害ではありません。
キャラクターの設定が大きく変わり、キャラ名までもが変わってしまったにもかかわらず、
立ち絵やイラストが同じため、統一感のなさ以上のモヤモヤ感・違和感が生まれてしまっています。


例を挙げます。
リメイク前の平安編に螢というヒロインがいました。
かぐや姫をモデルとする彼女は、運命に翻弄される悲運の少女でした。
彼女と主人公である鷹久はお互い惹かれあいますが、彼女には使命がありました。
その「使命」と「鷹久への愛」の板挟みにあった彼女は、「愛」を選びます。
これが天の怒りを買い、以後周囲の人々を巻き込んで、悲劇の輪廻が幕を開けてしまいます。

ちなみに僕はこのヒロインが大好きで、旧版「久遠の絆」と言うとまず彼女のことを思い出します。


今回、その螢という少女はいなくなり、変わって玉藻前という少女が登場しました。
彼女は、自らの肉体・色香を存分に利用して目的の達成を狙う女スパイ的なキャラクターになりました。
僕はこういうキャラクターが嫌いなわけではありません。
ただ、螢とは全くの別人と言わざるを得ませんし、個人的には螢の方が格段に好きです。
螢を見たとき、僕は「この儚い女性を守ってあげたい」と強く思いましたが、玉藻前なら主人公が守るまでもなく、独りでも力強く生きていけそうです。


で、この螢と玉藻前が同じイラスト……というか、螢の顔をしたキャラが出てきて「私は玉藻前」と名乗っているわけです。
OHPを見たときから、「ヤバくね?」とは思っていましたが、案の定悪い予感は完全に当たってしまいました。


このへん、桐子→寿子は性格がほとんど変わっていないため違和感は少ないのですが、玉藻前は完全に別人なので、とても気になります。


【不憫な太一】


今回のリメイクで、最も割を食ったのは太一でしょう。

主人公の頼れる兄貴、信頼できる仲間であった太一。

鷹久の支えであり続けた平安時代の安倍晴明から、万葉への報われぬ恋に狂ってしまった幕末編の大騎をも含め、
縁の下の力持ちとして主人公を助けながらも、恋愛の舞台では常に脇役であることを強いられ続けた彼の存在もまた、
「久遠の絆」の一つの魅力でした。


ところが本作の太一はと言うと、まず平安時代でケチがつきます。
安倍晴明から名前を変えた安倍泰親は、敵と味方の区別もつかない体たらくで、味方の足を引っ張ることしかできません。
また、玉藻前に恋をするエピソードもなく、以後彼の1000年間に恋のエピソードは1つも出てきません。
居てもいなくても変わらない空気でしかなく、現代編で突然バトルに参戦されても「お前はそんな重要なキャラじゃねーだろw」的な失笑すら浮かんでしまいます。


もう一人の名脇役、悠利はかろうじて魅力をキープしていることを考えるに、太一の置かれた状況はあまりにも不憫でした。


【必要を微塵も感じない昭和編――各時代編の、リメイク前との比較――】


新しく加わった『神代編』は、栞・沙夜の登場がなくいかにも小粒ではありますが、
要所は抑えた内容で、リメイク前の作風に割と近いものを感じます。
一つの悲恋モノとして、楽しめる内容でした。


テーマが大きく変質した『平安編』は、個人的には気に入らない展開ではあります。
これにより、「久遠の絆」の印象・面白みが大きく損なわれてしまったからです。
ですが、単体として見るならば日本史を素材に使ったバトルものとして、一定の評価はあげられると思います。


立川流が異様な存在感を放つ『元禄編』は、旧バージョンに比べるとかなり駆け足で、
もう少しじっくりと景久(旧:劉也)との友情→決裂を描いてほしかったと思います。


また茉璃に関しても、妖術を使える設定になってしまったため、
「元は天女だった彼女が、主人公に恋したばかりに、吉原の遊女へと身を落としてしまった」
「望まずして、見知らぬ男に体を与えなければならない。それでも、彼女は主人公を、主人公は彼女に恋をする」

という一種寝取られ的な切なさがなくなってしまったことは大きなマイナスだと思います。
他の男に汚されてなお、彼女は美しい。
その彼女を、何とかして守ろうとする主人公の焦りが表現できなくなってしまったからです。
せっかく18禁になったというのに、なぜこんなもったいないことをするのでしょうか。


ただし、その辺りを除けば、一番リメイク前の雰囲気を残しているのがこの元禄編で、
最低限のポイントは抑えていると感じました。


どの時代に関しても、リメイク前の方が格段に優れていると感じている僕ですが、
ここまでは擁護しようと思えば擁護することもできました。
しかし、『幕末編』の代わりに作られた『昭和編』だけは、全く擁護のしようがありません。


まず、あまりにも短いこと。1時間なかったんじゃないでしょうか。
そしてその昭和編の9割が戦闘シーンであり、恋愛のレの字もない物語になっています。
鷹臣などはミサキ(旧澪)のことを、万葉の転生体であることにすら気づいていないようですし、
リメイク前には澪に薬を盛り、無理やり唇を奪った大騎くんもまた、大全と名前を変えた単なるやられ役になり下がりました。
ミサキにキスをするどころか、彼女に惚れているという設定すら抜け落ちています。
澪よりも、観樹の活躍が目だった幕末編がなくなったことで、沙夜もまた割を食いました。
今回の「昭和編」、あの内容で千紗(旧観樹)を気に入る人がいるとは正直思えません。


ただただバトルをしておしまい、の「昭和編」。旧作のイラストを使うためだけに用意された編だったのでしょうか。
全く存在意義がわかりませんでした。


【ちぐはぐな18禁シーン】

ヒロインの転生体全てにHシーンが用意されていないのはやはり問題だと思います。
玉藻、茉璃、由布以外のヒロイン。寿子、暲子、ミサキ、千紗にHシーンがないのはどういうことでしょうか。

また、陵辱がやりたいのか、やりたくないのかもよくわかりません。
ヒロインとの和姦シーンは少ないですし、陵辱キターと思いきや「妖術による幻」オチには愕然とさせられました。
陵辱を嫌うユーザーに配慮したのかもしれませんが、物語展開を考えればいかにも不自然ですし、とても残念です。
物語をつまらなくする『配慮』(かどうかもしりませんが)などはやめて、純粋に物語を面白くする努力をすべきだと思います。


特に玉藻が中宮たちに囲まれるシーンはせっかくエロかったのに「妖術オチ」で台無しですし、
吉原に入れられた茉璃が男の客に囲まれても、「妖術オチ」では切なさの欠片もなく、
重仁が平安編の3人に囲まれてエロい拷問を受けるシーンも、「エロいね!」と思いきや当たり前のごとく「妖術オチ」。


神代編でタケミナカタに襲われた玉葉は、レイプされる前に危機一髪で脱出。
旧「幕末編」で澪に薬をもった大騎の活躍(?)も、リメイクされてカット。
万葉たちが敵の触手に縛られたり、栞が悠利に拉致されて鎖でつながれているシーンも、
エロい展開どころか服の乱れすらなし。


い い か げ ん に し ろ 


【まとめ】

単体で見るならば、しっかり読ませる文章で、歴史を題材にバトルを描いた作品ではある。
しかしリメイクと考えると失ったものはあまりにも大きく、
全編を通して流用などの省エネ感、チープ感もあるため、クソリメイクと言い切ってしまって良いと思いました。