ままなりませんなぁ
この物語の主軸はどこまでいっても不条理に歪まされた兄妹の愛憎劇だと思っている。
「おかしいよな。大切なものは、わかってたはずなんだ。なによりも愛していたものが、あったはずなんだ。だけど、どうしてかな……気が付けば、手の隙間からこぼれ落ちていくんだよ。」というセリフに込められたままならなさがとても悲しい。
本当に大切な気持ちに気づくための悲劇と優しいモラトリアムはきっとルクル氏が空想彼岸から描き続けたテーマで、本作はとてもわかり易く伝えてくれたと思う。
月が手に入らなくとも、月の美しさに感動した心は変わらない。大切なものはその感情で、故にすべての仮面を脱ぎ捨てて演じることをやめた未来が最後に気づき受け入れたことが「あなたの妹として生まれてきただけで、私は誰よりも幸せだった」という気持ちだったのだ。
妹の死と妹を愛していたことを受け入れて消化しなければ、生き続けることすら出来なかった主人公だからこそ、ヒロインたちのことを誰一人として本当の意味で愛せなかったのである。それはマルチエンディングのエロゲとして見れば明らかな弊害であるのだが、だからこそ終盤の未来とのやり取りが映えたのだと思う。
終盤の双葉と未来、環と未来のやり取りが本質だと思っていて、あんなに不気味だった折原京子を一気に輝かせたのは圧巻だった。
その上で、ヒロインたちが前途多難な現実を確かに歩むことを予感させてくれるラストも大好きだった。
こうして好きなセリフ、好きな物語に出会えるからやめられないのだと改めて感じた作品だった。