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eroger_tさんのさようなら、援交娘さん。の長文感想

ユーザー
eroger_t
ゲーム
さようなら、援交娘さん。
ブランド
夜のひつじ
得点
95
参照数
879

一言コメント

ありがとう。もう二度とやりたくはないけれど。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

きっとこの作品で得た感慨は長くは続かないだろう。言葉にしてもしなくてもそれは変わらないと、そう思います。何を見ても、何を感じても、どう思っても、対岸で行われたことはすぐにでも忘れていくようになってます。

作中テキストに準ずるなら、自己の輪郭が強固になっていくほどにゲームそのものに傷つけられることはなくなっていくと思うんです。つまりゲームを通じて追体験させられる過去の出来事を見つめなおして、自分で自分を傷つけるんです。そういう意味では、傷ついたり、嬉しかったり、楽しかったり、苦しかったり、痛かったり、怒ったり、悲しかったり、そんな経験をたくさんしている人生経験が豊かな人が、あるいは人生に瑞々しい感受性を維持できる人こそが、ゲームを楽しむことが出来る素養を持っているんじゃないかなと思います。

どこか後ろ暗いような。心の矛盾を指摘してくるような。生きていることを糾弾されるような。僕がそういう作品が好きなのは、自分の傷を掘り返せるからなのかもしれません。当然好き好んでやりたいとは思いませんが、どこか自罰的になることで救われる気持ちもあるんですよね。

だから、このゲームを読んで思い出した傷をいつだって掘り返せるように。そんなネガティブな気持ちでこの文章を書いています。

どうしようもなく不幸な女の子で、初めから何かが欠けていて、産まれた時から劣等感を抱えて、他人と自分の格差に打ちのめされる。這い上がれるはずだと思いながらも、もがけばもがくほど沈んでいく自分を自覚する。
そんな子が本当に這い上がれちゃう話も、自分が救われた気持ちになって好きです。逆に這い上がれない話も、一緒に沈めるなら同じくらい大好きです。僕は這い上がれていないので。

反出生主義というほどではないけれど、自分の複製を作るような行為はいつからかどこか否定的になりました。妊娠のことを寄生させると表現していたのにも、とんでもなく歪んだ見方なのに思わず息を呑むような納得感があって。繁殖のために努力することも、道行く人たちが当たり前のように繁殖していることも、何故こんな世界を前に、平気な顔してそんなことが出来るのかわからなくて気持ちが悪いです。歪んだ僕だからそう感じるのだということは、当然わかってますけど。
なので僕も実際に挿入を前にしたとき、たぶん勃起しないと思います。まぁ体験したことがないので知りませんが。


『俺たちの世界は”無い”で満ちている』
『自分で死ぬのはいやです。好きでもない相手にそんなことされるのなんて』

終盤のこのあたりのセリフ前後にとても共感して、もしも僕が「俺」だったら?なんていうありえない仮定で考えた時に、未来に希望が持てないくせに、どうしようもなく自分が嫌いで、それでも誰かに徹底的に受け入れてもらいたいと感じてしまっている自分はきっと、揺子を受け入れて一緒に死んでしまうのだろうな、と考えてしまいました。
(ただ、そのことを考えた時に一緒に死ぬ誰かは女性しかありえないと感じたので、もしかすると僕のこれは、満たされない生殖本能を代替する浅ましい欲望なのかもしれない。)

主人公は多分僕と似たような思いを抱えていたけれど、「受け入れる」と選択した時点で自分の意思になってしまうから、本質的に自分で自分を殺すのと同義になってしまう。それは好きでもない相手に殺されることだから拒絶したんじゃないかなと思いました。

僕ならば、もともと心中のような有意味な死は自分が求めていることでもあるし、僕だけでは自身の価値を肯定できないのは事実なので、矛盾に対して「彼女に求められたから」を都合よく理由にできるけれど、主人公は出来なかったんでしょうね。
汚された子宮への拭いきれない嫌悪感がそうさせるのだろうか。それとも矛盾した未来への期待感がそうさせるのだろうか。テキストを読む限りその両方がある気がします。きっと更にもっと複雑な内面があるんでしょう。

結局のところ、全部が全部分からないことだらけなのだけれど、このテキストを読んで感じたこれら文章を将来見返したときに、自分の青さに赤面できるくらいになっていたらいいなと、矛盾した未来への期待感をもって生きようと思います。

エロゲがあってよかったなぁ。
過去の傷を穿ったり、過去の傷に意味のない絆創膏を貼っているだけで僕は生きていけるもの。