ErogameScape -エロゲー批評空間-

eroger_tさんのフェアリーテイル・レクイエムの長文感想

ユーザー
eroger_t
ゲーム
フェアリーテイル・レクイエム
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
85
参照数
223

一言コメント

プリズム落とした僕ら。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

大半の人は、幼い頃に見えた世界はたくさんの光で溢れていたはずだ。
レゴブロックで作った建物は、どんな攻撃にも負けない堅牢な要塞だった。
ミニカーを走らせた絨毯は、地平線の果てまで見通せるような広い荒野だった。
でも、そんな風になないろに輝いて見えた世界は、いつしかすっかり灰色になり、薄汚れて見えるようになった。
正確に言えば、幼い頃と大人になった今、光の数は変わらないのだろう。ただ、光を通すこの瞳が変わってしまっただけだ。
僕らは大人になるにつれて、僕らの瞳からプリズムを落としてしまったのだ。

「物語」はしばしば、一時的にプリズム越しの光を網膜に届けてくれるから好きだ。
本作フェアリーテイル・レクイエムは子供から大人になるまで、つまり各自が聖書にさよならを告げるまでの成長と冒険を描いている。
世界を灰色足らしめる大人たちの黒に翻弄されながらも、子供らしい不可思議で対抗していく。
現実はいつだって大人になることを要請するのに、子供であることを大人に強要された彼らが反発して大人になっていく姿は、社会の中で子供であり続けることの難しさや危うさを明示する一方で、子供であることの楽しさも教えてくれる。
大人であり続けることと子供でいてはいけないことは決してイコールなどではないのだ。
これは物語が好きな気持ちを肯定してくれるようで、なんだか嬉しくなった。

反面、物語のヒロインたちと、彼女たちを性的に消費したり人権を無視するような表現で尊厳を貶めようとする醜悪なゲストの構図からはエロゲプレイヤーへの痛烈な皮肉を感じた。
感性も生き方もまるで異なる人たちを糾弾したいわけではないが、ブスだの非処女の売女だのオナニー女だの、彼女たちを所詮作られた存在と軽んじているからこそ、もしも彼女たちが聞いたら顔を顰めたり不快な気持ちになるようなことが言えるのである。
比較的プラスの言い回しではあるが、嫁などもそうである。彼女たちが本当に存在するのであれば、君らを彼氏や夫にしたいとは基本思わないだろう。
勿論彼女たちは現実に存在しなくて、どう足掻いても作られた存在で、彼女たちが現実にいる僕らの言い様を見て何かを感じることなんてありえないとは分かっている。分かってはいるが、その存在を想うと滅多なことは言えないし言うべきではないと感じる。
とはいえ、自分自身が清廉潔白であるとは到底思えないので、自身の醜さすらも一緒に批難されたかのようで、どうにも居心地が悪かった。(事実好きを表現するために「もれの〇〇…」なんて言ったりする。絶対に見られない安心感とキモオタクである自身への侮蔑が混じって強い言葉を選ばせるのだが、もしも見られたらおぞましいだろうなぁと反省。)

総括すると読んでいて辛い箇所も大いにあったが、とても良い物語だったと思う。
時と場合に応じてという便利で難題な注釈は付きまとうが、現実においても適度にプリズム越しの景色を楽しみたいものである。


以下雑感
登場人物の中ではアリスとラプンツェルとオディールが好きで、特にアリスの感性は危うさの中に不思議な魅力に溢れていたと思う。
作中にはアリスが昨日の私と今日の私を明確に分けて考えていたシーンがある。そしてそんなアリスを見た主人公は、驚きながらもアリスなのだからそういうこともあると納得する。
不連続な記憶を抱えるアリスを見ても、アリスという認識が崩れないのは、記憶の連続性のみが人格や魂を保証するわけではないという気付きを与えてくれたし、その瞬間を無邪気に楽しむ姿勢は見ていて胸がすくような思いがした。
彼女のように生きたいとは思わないが、時には彼女のようになれるといいと思わせてくれる貴重な存在だった。この作品をポジティブな心持ちで読了できたのは、きっと彼女によるところが大きいのではないか。