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eringi7854さんの恋愛、はじめましての長文感想

ユーザー
eringi7854
ゲーム
恋愛、はじめまして
ブランド
ASa Project
得点
57
参照数
781

一言コメント

 プレイ時間は約4.5時間。共通約1時間。メイン個別は1時間掛からない程度。攻略順は、メインヒロインは姫乃→恋丸→紫→天使ちゃん。シナリオラインとして、共通√でどれだけ好感度を稼ぐかという話を展開しておきながら、個別に入って、イチャイチャを堪能する形。エ〇ゲとしては正直、かなり不満が残る出来ではあり、『コイバナ恋愛』や『フタマタ恋愛』といった極めて強力なタイトルと比べて明確に強い部分がないです。表向き選択肢に力が入っているように見えて、その実、全く印象的な選択肢がない点はHOOK系列の宿命。選択肢を選んでいるように見えてかなり機械的。物語に入り込めない要素でしょう。反面、メインヒロインがきちんとプッシュされていた点は好感が持てます。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

☆作品紹介

 2025年2月28日に発売した新作。ASa Project様の期待の星です。色々なインタビューを読む限り、『コイバナ恋愛』の青春の陽の路線が好感触だったため、その路線に走ったとか。
 私は前々作『フタマタ恋愛』に脳を焼かれた人間です。『フタマタ恋愛』は凄まじい完成度であった。『フタマタ恋愛』にはリアルがあった。信田結愛というヒロインに出会ってから、私のノベルゲーム人生は変わったと言って良いでしょう。それくらい「好き」だったのです。ASa Project様には今でも、心の底から感謝申し上げます。選択肢が凝っていた点も魅力でした。詳細は『フタマタ恋愛』のネタバレになるので伏せますが、印象的な選択肢があったため、BADENDへの向かい方にもかなり納得感がありました。好きです。偽りなく。
 その次の『コイバナ恋愛』。構造としては『フタマタ恋愛』をかなり大衆向けにしつつ、「青春の陽」をコンセプトに展開していました。そしてその試みは(私は全く好感を持てていませんが)成功したと言って良いでしょう。『コイバナ恋愛』も選択肢がかなり強い。強力な選択肢を畳み掛けるスタイルが確立されており、今後のASa Project様に期待が出来る満足のいく出来でした。メインヒロインである4人の内、2人がかなり弱い立ち位置であることと引き換えに、サブカップルが充実しているのも強いです。特にいのり&光生ペアでは青春の「闇」。所謂「失恋」を取り上げ、ファンディスクで昇華するという芸当が出来ていました。無論、過程はかなり弱いのですが、少なくとも印象には残った訳でして。
 はっきり申し上げて、私は『コイバナ恋愛』に落胆を感じざるを得ませんでした。『フタマタ恋愛』があれだけ強力な作品力を持っているのに、ASa Project様の企画力は明確に節穴であると宣言しているようなものです。作品に対して敬意はあるものの、やはり納得のいく出来ではない訳です。なぜかと言うと、ASa Project様のコメディに潜む青春、モラトリアム期の「面倒臭さ」が致命的に欠損している。そう考えているからです。
 今だからこそ、自信を持って言えます。『フタマタ恋愛』は最高だった、と。本作、『恋愛、はじめまして』はその性質上、発売前から天使ちゃんのみ年上であることが分かっています(体験版はプレイ済です)。そして、「面倒臭さ」も前のめりに感じるところ。ここが私の「好き」と一致すれば評価は、作品完成度は、凄まじいものになる。そう、確信していました。さあ、見せて下さい。私に、今までのASa Project様の「面倒臭さ」を。存分に、全力で。


〈注意 この先ネタバレを含みます(また、『コイバナ恋愛』の構造上のネタバレも部分的に含みます)〉


☆シナリオ(21/50)

紫、天使ちゃんが強い構造面でやれることはやっているが…

〇全員がメインヒロイン

 先に良い点からお伝えしておきます。本作のメインヒロイン4人。天使ちゃん、紫、恋丸。姫乃。彼女達には全員にスポットライトが当たっていました。そこが『コイバナ恋愛』からの大きな進化であると感じて、光るものを感じます。そもそも『コイバナ恋愛』ではめぐり、常夜が不遇過ぎました。はっきり言って、尺の優遇でこころ、千依がメインのように感じてしまいました。そこが『コイバナ恋愛』のかなり惜しいポイントであると考えております。一方、『恋愛、はじめまして』はきちんとメインヒロイン4人にフォーカスされているではありませんか。無論、構造的欠陥は後述する通り存在します。ただ、メインヒロインがきちんとメインヒロインしていた。サブキャラクターに「真ヒロイン」の座を渡さずにゴール出来た。つまり、サブヒロインに逃げる事なく、メインヒロインがサブ的役割に甘んじる事なく、きちんとヒロインしている。それはある意味、基礎中の基礎です。大抵のノベルゲームでは出来ていることでした。しかし、ASa Project様ではそれが出来ていなかった。致命的欠陥だと考えております。ゆえに、私は何だかんだこれから言いますが、本作に対して最低限の(本当に最低限でこそありますが)好感は持っているのですね。
 無論、構造上、天使ちゃんと紫が目立つ展開ではありましたし、学年や学園が異なるので仕方ありませんが、恋愛が一気に発展する「林間学校編」に恋丸や姫乃が登場しないのは大きなリスクであると言えましょう。恋丸シナリオでは部分的に林間学校が描かれていましたので、存在はしているのでしょうが、やはり寂しいという感情もあります。しかし、逆に言えば林間学校編を通じて、紫や夕陽、章吾が抱えている青春問題に焦点を当てることが出来たのは収穫と言えば収穫です。
 前作『コイバナ恋愛』や『恋愛×ロワイアル』のようにサブキャラクターがメインヒロインを食っているというあべこべな構造にならなかった点が本作の最大の長所といえるでしょう。


 ここからが好感を持てなかった点です。


〇強力なシナリオラインが存在しない、“成り上がり”ではない

 まず、公式サイトのメインテーマ“成り上がり”דはじめまして”ですが、明らかに裏切られています。いや、ストーリーラインは確かに“成り上がり”を意識していたとは思うのです。ゆえに八日なのか先生の影響だけではないでしょう。ただし、肝心の紫が伊織に惚れる「過程」。これがかなり省かれていた。致命傷ですよ。これは。確かに“はじめまして”の名の下に、恋愛の様々な駆け引きが一見、楽しめているようなシナリオには見えます。しかし、紫の抱える問題が過去作と比較して、明確に小さいため、学園生の恋愛に説得力を持たせることがほとんどと言ってよいほど出来ていません。林間学校編が終わったら、いきなりノリで告白してきた「訳の分からない女の子」に紫がなっている状況。これは制作陣の方々は重く受け入れる必要があるでしょう。
 つまりですね、明らかに中途半端なのですよ。「青春」に振ろうとしているのか、「面倒臭い」に振ろうとしているのか、本作はどちらにもつかずの印象を強く持ちました。これは従来のASa Project様好きには分かっていただけると思うのですが、ASa Project様の真の強みはセピア色CGで彩られた、モラトリアムの面倒臭さです。『かりぐらし恋愛』から今の強みが本格的に発揮されるようになったという認識なので、ある意味、当然なのですが、ASa Project様としてはマンネリ打破のつもりだったのでしょう。その結果は「中途半端」でした。明らかに短いシナリオ。紫の恋愛に残る違和感。全体構造の欠陥。これらを招いたのは、偏に企業内部での企画と八日なのか先生が描きたかったものとの乖離が如実に出ているからと推測します。『フタマタ恋愛』をはじめとした過去作では連携が取れていた。しかし、本作では取れていなかった。それだけの話です。
 そもそも、十分な尺が用意できないのは明らかだったはず。“成り上がり”דはじめまして”という、少なくとも約5時間(私がプレイ速度を上げてプレイしたことを考慮しても)で描き切れるテーマではないです。企画は想定プレイ時間に合わせてミニマムに。シナリオを作る上での基本中の基本。これが明確に破られている時点で破綻一歩手前のシナリオであると私は感じてしまいました。

〇孕ませを意識しているのに描写が伴わない

 私がある意味、最も失望した部分はここです。エ〇ゲとして致命的欠陥でした。本作は中or外が選択式ではありません。その点、極めて好感が持てます。最近の作品はユーザーフレンドリーを意識しているのか、中or外を選択できる形式が多いです。しかし冷静に考えてみて下さい。ここをプレイヤーに選択させてしまっては、何のための「主人公」なのか。そう思います。中or外は物語の中で恣意的に選択されるべき。性交渉における避妊とは男女を興奮させる極めて重要な要素なのです。しかし、現在のエ〇ゲはその点に拘りを感じない作品が多過ぎる。避妊or外or中という極めて重要な選択肢をプレイヤーに求めるのはあまりにも物語の根幹をプレイヤーに依拠しているとともに、いくら何でも、投げやりに感じます。
 閑話休題。本作は中or外の選択肢がなく、その点極めて好感が持てます。ここまでは。問題はその後です。伊織が中田氏一辺倒なのですね。寧子以外(しかも、寧子も最終的には)ほぼ中田氏でした。それは良いのです。個人的には避妊という焦らしから満を持して中田氏の気持ち良さを味わっていただきたい。そう思っていますが、それはまあ、個人的な好の範疇でしょう。
 問題はその後、「中田氏」で、「妊娠を明らかに意識している発言(危険日等)があるのに」、「最終的に妊娠しているヒロインがいない」。これは本当に落胆したと同時に、エ〇ゲとして明確に不利な要素なので、どうしても指摘したい箇所でした。私にとって、性交渉をテーマに描き、避妊をしない選択を取っている以上、妊娠を巡る問題はマスト。向き合わなければならない問題です。事実、恋丸シナリオのエンディングでは恋丸に対して、伊織が「不妊治療も考えている」旨の発言をしていました。それくらい、真剣に考えるべきことなのです。それくらい、中田氏Hとは危険かつ、責任が伴う行為なのです。私はこういった無責任中田氏作品には「家庭の形成」か「妊娠問題」が必要だとは考えております。無論、流石に全ヒロインにこの問題を押し付けはしません。しませんが、エ〇ゲとして性交渉を描いている以上、妊娠を意識しないのは愚の骨頂であると宣言します。その意味で、私は妊娠を強く意識している発言を多数設けている本作に対しては一定の評価はしております。
ですが、蓋を開けてみたら誰も妊娠しておらず、世界は平和に動いている。これはないですよ。本当にエ〇ゲとしての欠陥だったので、ここは指摘させていただきます。何故、あそこまで妊娠を意識しておきながら、「家庭の形成」にまでいかないのか、と。ボ〇腹が見たいという一プレイヤーとしての願望は勿論、あります。しかし、本作はエ〇ゲとして匂わせ、意識付けで魅力を描き切れる地盤が整っていたのに、まんまと逃してしまった。これは最大の本作の弱所であります。
 特に、天使ちゃんなんかは過去編を鑑みるに、明らかに「家庭の形成」をゴールと置いているではありませんか。それがあのエンディングでは少なくとも一部のプレイヤーは誤魔化されたと認識しても仕方ありませんよ。仮にミニファンディスクを出す方針が固まっていて、ファンディスクで「家庭の形成」、「妊娠をめぐる波乱」が描かれるのだとしても、流石にここまで露骨ではプレイヤーの体力は落ちる一方です。私は、どんなにASa Project様が失敗しても、行く末を見たくなる気持ちがあります。ゆえにいつまでも作品を購入する気でいますし、レビューもこのように投稿するつもりです。ですが、様々な状況を鑑みる限り、一定の(しかもボリュームゾーン)からの信頼は失ってしまったと解釈して良いでしょう。それくらい、本作の全エンディングはある種、中田氏という事実から逃げてしまった。エ〇ゲメーカーとしてのASa Project様から逃げてしまった。そう私の目からは映っております。極めて悲しいです。

〇青春しきれていない、男キャラの持て余し

 次に気になった点は、青春しきれていないシナリオです。ここが「中途半端」になっている最大の理由ですね。前作『コイバナ恋愛』の青春劇が大衆には受けたため、方向転換して、この「青春万歳」構造になっていると思うのですよ。それ自体は、良い事なのです。しかし、どう考えても、青春を味わうという側面で本作は、『コイバナ恋愛』の足元にも及ばない。そう考えてしまいました。
 理由は多くあるのですが、個人的には男キャラクターの存在感がかなり薄いことにある。そう見ておりまして。というのも、章吾と夕陽の恋愛は一定のラインで掘り下げる事が出来たとは思うのですよ(無論、十分ではありません)。義男、雄華に至っては物語上の出番も勿論のこと(雄華に関してはゲームや姫乃関係で絡んでいるのでまだマシですが)、物語に存在するキャラクターとしての意味自体にかなり疑義を生むキャラクターとなっています。有り体に申し上げて、物語に関与していなさすぎます。サブキャラクターがサブに徹することが出来るのは、ライター様の技量だと私は考えております。ある意味、この選択は間違ってはいないのかもしれません。しかし、いくら何でも物語における義男と雄華の存在価値が希薄過ぎる。これは由々しき事態だとも思っておりまして。前作『コイバナ恋愛』では男性サブキャラクターの恋愛模様を面白おかしく描き切る事にある程度(完全に、ではない)成功した作品であるとは認識しております。ゆえに、その落差が激し過ぎました。章吾と夕陽の恋愛も、前作の高評価を経てデザインされた物語であることでしょう。しかし、本作全般に言えるのですが「前作群の良い点をブラッシュアップさせようとして、見事に失敗している」作品でもある訳です。
 他にも「青春」を押し出している割には林間学校くらいしか青春イベントが存在せず、肝心のメインヒロインは天使ちゃんという年齢不詳の、大人でした。私はこの事実自体は好きです。ですが、作品テーマとの乖離で見た場合、決して無視できない要素ではあるでしょうし、『コイバナ恋愛』のように畳み掛ける青春描写、例えば野郎がワイワイ集まって恋愛に関する作戦会議を開いたり、学園生みんなで募ってデートまがいの遊びに出たり、といったお決まりの定番イベントを差し込めなかった。この点は弱い点であると考えます。

〇選択肢が機能しきれていない

 最後の弱いと感じた点。それは選択肢です。私は常々、ノベル「ゲーム」である以上、選択肢は必要だと認識しております。そして、今回は攻略に必要な選択肢を行動で選んでいくというシステムになっております。その点は好感が持てます。しかし、ブラッシュアップポイント、70点→100点にする点をお伝えするならば、印象的な選択肢によるBADENDは必要だったのではないか。そう考えております。
 本作のBADENDは、ノーマルエンドを除けば物語初期も初期、体験版範囲での選択肢のみで、しかもそのまま物語がフェードアウトしてしまう形式に過ぎません。これではとても印象には残りませんし、何よりこのメインテーマ“成り上がり”דはじめまして”には印象的なBADENDが絶対に必要であった。そう断言します。成り上がりモノであるという宣伝文句。これ自体、失敗しているとは思っております。しかし、成り上がり出来なかった時の終着点としての明確なBADENDを、ノーマルエンド以外で用意することで、より本作は光る。そう確信しました。
 と言うのも、結局、本作の選択肢は悪い意味で機械的なのです。システムボイスで天使ちゃんから「攻略サイトなんて見てないよねえ?」と煽られ、私自身、きちんと攻略サイトを見ずに全ての√に到達出来ました。そうなのです。この作品は「選択肢のボリュームに気を取られるあまり、選択肢の真の重要性を逃した」作品なのです。選択肢の「真の重要性」。それは物語の可視化です。つまり、攻略難易度の可視化、選択肢による数多の世界との分岐。それを明確に感じる選択肢は一つだけでした。林間学校後の、紫の告白シーンです。この一シーンのみ選択肢の重要性を感じる事が出来ました。素直に良かったです。…もっとも、その後の展開がかなり選択肢と関連していない点で結局、マイナスイメージにはなっていますが。
 本題として、HOOK系列の選択肢の良い点を取り入れてはいるものの、『フタマタ恋愛』のBADEND選択肢のような後味が最高に悪い(最上級の誉め言葉)選択肢が存在しない時点で、私にとって、『恋愛、はじめまして』は凡百の作品に成り下がってしまったと言えるでしょう。大変、悲しいです。一つ、救いを述べるならば、『コイバナ恋愛』の選択肢よりは明らかに恣意的に感じて、『コイバナ恋愛』より良くも悪くもヒロインが平等でした。この点は前作からの進化が見られます。もっとも、『恋愛、借りちゃいました』、『恋愛×ロワイアル』、そして『フタマタ恋愛』と比較すれば、不完全燃焼感が残る選択肢の形式なので、完全に褒められたものではありません。せめて印象的な選択肢がもう少し存在していれば。そう願わずにはいられません。

〇その他雑感

 雑感ですが、一先ず各エンディングに触れておきましょうかね。
 寧子さん。かなり好きです。最初はゴム、避妊えっちだったのに、気付けば生〇メ状態が好きでした。ドエロかったです。
 すみれ。こちらもエロかったですね。というか、本作はエッチシーンに相応の力が入っておりましたから、サブも含めてエロさに関しては「使える」のかもしれません。すみれの
従妹同士という設定があるため、3Pも期待していたのですが、流石に期待が大き過ぎましたかね。とはいえ、職場であるコンビニバックヤードえっちはなかなかエロかったので、好感は持てます。
 次にメインヒロインのエンディングについて所感を。
 姫乃。まず、なぜ、ここでウエディングドレスを使ったのか。大いに疑問です。というか、本来、この立ち位置にいるべきキャラクターは天使ちゃんのはずです。しかし、姫乃が結婚式エンドというのははっきり言ってかなり不満です。メインヒロインを過度に優遇するのは違うと明確に言えます。しかし、メインヒロインのエンディングと足並みを揃える努力は絶対に必要です。その意味で、明らかにユーザーの反応狙いが透けて見えて、お世辞にも好感が持てるとは言えません。
 逆に恋丸。数少ない、私が大好きなエンディングです。シナリオからして、恋丸の成長と言うよりかは、ありのままの恋丸を受け容れる。そういったシナリオではありまして。だからこそ最終的に、恋丸が社会人になり、成長した姿を見せてくれるのは、シナリオでカバーしきれていない点を十全に発揮し、かつ、かつて子犬だったけれども、今(エンディング)では十分大人なのだよ、とプレイヤーにアピール出来るポイント。ここは強みだと思います。私の好きな要素ですし、声優さんである相模恋様の演技もなかなかでしたね。
 次に紫。一番印象に残らないエンディングでした。と言うのも、紫のみ、日常の延長線上でしかないエンディングで、工夫の欠片もない終わりだからですね。ただの一イベントではないか。そう感じてしまい、せっかくの水着姿にも集中出来ませんでした。紫なら、モデルとして、あるいは作中で少し触れられていた女優として、未来を描くことが可能だったと思うのですよ。そこが出来ていない時点で、かなり不満が残りました。
 最後に天使ちゃん。天使ちゃんが内包する問題の根本的解決に至っていません。彼女は学生時期に勉強や習い事で時間を消費してしまったため、真の青春の感覚が分からず、モラトリアムを不意に過ごしてしまった。この状況に不満があったわけです。その過程で、伊織という主人公と出会い恋仲になる訳ですが、根本的に、伊織の動きに対して、天使ちゃん。君は何をしたのか?そう考えてしまいました。まして、あの投げやりな「青春楽しんでますよ」アピールのエンディング。最後に取っておいて何ですが、拍子抜けしてしまいましたよ。本当にショックを受けました。天使ちゃんが抱える問題に対するケアとして、青春の再確認が挙げられます。であれば、卒業がテーマだというのにも一定の理解は出来ます。しかし、天使ちゃん√のシナリオを考えていたら、ただえっちしていただけじゃないか?という疑問が先に出てしまいまして。「家庭の形成」、「立派な大人」。それこそ恋丸のように社会人として真っ当に社会復帰出来ているエンドか、家庭の形成、もしく妊娠エンドで自分の母親と同じ道を歩まない意思を貫いて欲しかった。そう考えます。というかですね。私は天使ちゃんの「私の子どもには同じ苦しみを与えたなくない」という発言には感動を覚えたのですね。であるのに、このエンディングは、個人的感情が多分に含まれているとはいえ、不満です。
 その他、所感としては本作の良い点として、背景が多いため、デートや(数少ない)青春イベントで色々な場所に行ける強みがあるでしょう。これは偏にASa Project様の工夫あってこそです。その努力には敬意を払いますし、読んでいて使いまわし感も、まあ、勿論、過去作を知っている側からすればないわけではないというのが本音です。しかし、工夫して、キャラクターの活動範囲を広げることは十分信頼がおけますし、好きな要素ですね。
 また、良い点として個別に入ってからも他のメインヒロインが登場してワイワイしていたのは大変に褒められる要素でしょう。私の好きな要素です。最近のエ〇ゲは、本当に個別に入ると、別ヒロインが存在しなくなることが多い事多い事。基本的構造は信頼と安定のASa Project様と言えます。
 まとめると、エンディングには不満もありながら、背景の充実や個別√の賑やかさで挽回しうる要素は持ち、しかしどこまでも残念、と言うのが本音です。部分的に光るものはあります。

〇Hシーン

 Hシーンは全22シーンです。個数で言えば、直近のASa Project様、最大の個数を誇る『フタマタ恋愛』の30シーン。そして、逆に少な過ぎる『コイバナ恋愛』の18シーンの中間でしょうか。過不足は感じませんでしたが、そもそものボリュームが絶望的に少ないこともあり、是非、今後のASa Project様には『フタマタ恋愛』の個数を目指していただければと思います。『フタマタ恋愛』はHシーンが多い割に、各シーンに手抜きが存在しませんでした。その点、好感が持てていたので、『恋愛、はじめまして』でもそれが可能だったはずなのです。特に、静、夕陽は明らかにファンディスク行きという未来が見えました。ここは本気で残念なポイントなので、指摘させて下さい。
 肝心のプレイの内容につきましてはエロかったです、の一言です。避妊が少ない、というか存在しないのは残念です。しかし生〇メ好きにはたまらないものでしょうね。『フタマタ恋愛』のような特殊プレイもなく、みんなが幸せになる和姦ものでした。特に、個人的に好きな朝までえっちがほぼ全員に実装されていることが数少ない本作のアピールポイントでしょう。個人的な一押しは恋丸のフェ〇。天使ちゃんのコスプレ生〇メです。

 総合的に見れば、シナリオは21点です。褒める箇所がほとんどないと言って良いでしょう。前述しましたが、仄めかしておいて実行しない、がいくら何でも多過ぎます。従来のASa Project様からの脱却を図っていたのでしょうが、残念ながら滑っている。そう感じざるを得ません。
特に得るものがないというある意味、最悪な状況に陥っております。点数としては厳しく点ける必要があるでしょう。それが今後の、ASa Project様のためになると信じております。


☆キャラ(28/40)

 キャラクターの絡みは全体としては褒められることが多い反面、やはりと言うか詰めが甘いと感じる部分が多々ありました。
 天使ちゃんのキャラ造形が今回の肝である訳です。天使ちゃんにキャラクターとしての、人間としての、「面倒臭さ」をどれだけ感じる事が出来るかにかかっていたのですが、何と言うか、発売前の予想通りただの青春モンスターであり、それ以上でもそれ以下でもありませんでした。あれだけ家庭環境に問題がありそうな雰囲気を出しておきながら、その実、「幸せ家庭の苦難」という何ともモラトリアム期の充実感を得ることが出来なかった「だけ」のキャラクターとなってしまいましたね。そこが本作の大きな残念ポイントの一つであります。
 逆に紫、恋丸、姫乃。そしてすみれ、寧子。彼女たちはキャラとしてある程度の可愛らしさを担保出来ていたのではないかなとも考えております。特に、紫は表ヒロインと言っても良いであろう、シナリオ上のキーキャラクターでした。前述した通り、例の選択肢は美しかった。だからこそ紫というキャラクターが光るのです。一方、紫が伊織に惚れる理由が弱過ぎる。そうも感じてしまいます。と言うのも、表向き完璧超人の紫が、伊織に惚れる理由。ここに納得出来るほどの理由付けが、全くと言って良いほどなされていませんでしたね。上記の点からも分かるように、納得感が皆無なのですよ。林間学校前に距離が縮まったかと言うと、微妙な点でして、林間学校で急接近したかと言うと、疑問符状態です。これでは、どこに「恋愛」を感じて良いのか分かりません。本作の数多ある弱い点だと認識しております。
 恋丸、姫乃も青春を謳歌する上で重要なキャラクター形成をしています。そこは理解出来るのです。ですが、林間学校編のような大きなイベントもなく、そのまま恋愛に入るので恋愛の「過程」をまるで楽しめない。致命傷ですよ。青春を楽しむ上では特に。この2ヒロインは、エンディングはまずまずなだけに勿体ないと感じてしまいました。
 上記不満がなぜ起こっているのかと言うと、偏に人間の「面倒臭さ」、「葛藤」、「青春の陰」が描かれていないからです。天使ちゃん√ではそこに大変期待していたのですが、残念ながらかなり適当に処理されたという現実があります。また、キャラクターを活かしきれる土台も、シナリオ項目で語った通り、かなり印象が悪いです。総じて、お世辞にもキャラクターの深掘が出来ているようには感じませんでした。悔しいですが、ここはキャラクターが可愛らしかった点も考慮に入れて、28点です。


☆その他(8/10)

 世界観、サウンド、CG、システムです。
 まず、世界観ですが、いつものASa Project様らしいですね。それは誉め言葉でもありますが、正直、もう一捻りが欲しかったというのが本音です。基本的にASa Project様の持ち味は「学園ラブコメディー」なのですが、八日なのか先生の得意分野はやはりと言うか、大学以上の精神構造をしていないと真似できないキャラクターが多いとお見受けします。私はそこが嚙み合わないポイントであると見ておりまして、評価を低くしている理由です。そもそも、八日なのか先生が書きたいテーマと企業の不一致が本作のような不完全(ファンディスク商法も込みで)な作品を生んだと思います。これでは、一企業としては衰退する一歩。単純にファンとしてASa Project様のことが心配です。
 次にサウンド。これは良かったでしょうね。BGM、OP、ED。相変らず印象には残りませんが、適切な使われ方をしていると思います。個人的にはBGMで「We ' ve just started love」、つまりオルゴール曲の使われ方が従来のASa Project様らしくて好きですね。天使ちゃんシナリオの過去編では特に印象に残りました。OP、EDも基本的には元気調ということで。『ケ・セラ・セラ』は歌詞が青春への憧れや賛美を感じて、好きですね。メロディも含めて。
 一方、イラスト。ASa Project様独特のセピア色CGは、本作では印象的な描き方が出来ていなかったと考えております。どうしてもストーリーの重さが追いついていない。シナリオ項目でもお伝えしたように、もう少し重厚に出来たのかな、という努力、連携不足が垣間見えました。
 最後にシステム。バックログからのシーンジャンプ機能。お気に入りボイス登録機能。立ち絵鑑賞で遊べるモード。かなりボリューミーですし、ここは良い意味でいつものASa Project様ですね。お気に入りボイスは天使ちゃんと紫、すみれが多く、捗りました。
 結局、諸要素が相殺されて、8点が妥当だろうと判断しました。やはり、ASa Project様の強みはコメディの中に潜む暗い要素なのです。そこを押し出す上では過不足ない反面、やはりイラストを活かしきれていたかと問われれば、否と答えてしまいます。次回作に期待です。


☆総括(57/100)

 総合的には凡作(D)認定です。本作で確信しました。『フタマタ恋愛』は幻想であったと。本作からは私がASa Project様に求めていた人間の「生き苦しさ」、「もがき」を感じません。天使ちゃんと紫からは恋愛の色は感じることが多少できましたが、リアルには遠く及ばず、印象的な選択肢も少ないため、ゲームとしての完成度はかなり落ちています。恋丸、姫乃、すみれ、寧子は結局、良キャラクターではありましたが、印象に残ったかと言われると違います。
 分かりますか?全てが中途半端なのですよ。天使ちゃんと紫√を2周プレイして確信が持てました。これは企業としてのASa Project様が明確に迷走している証です。企業としての「ブレ」。この不完全要素が拡大してしまい、本作のような青春と不和のどちらつかずを生んだ。そう分析して、本感想を閉じたいと思います。少々、感想を述べるつもりが、10,000文字を超えてしまいました。私としては感想を書くという行為を含めて、(ゲームをプレイしていた時間は別として)非常に濃厚で、有意義な時間を過ごすことが出来ました。
 今後の、ASa Project様の動向には引き続き注目ですし、それは正しいことだとは思っています。しかし、本作のようなファンディスク商法が続くようなら。私はASa Project様をお気に入りメーカーから外すことを選択肢として持たなければならないでしょう。前作『コイバナ恋愛アフターフェスティバル』の感想でも述べましたが、私は売り方と合わせて、今のASa Project様のユーザーイメージはファンディスク商法と合わせてマイナスからスタートしている。その認識を是非、ASa Project様には持っていただきたい。そう考えております。
 本作のように興味深い作品をリリースして下さったASa Project様や制作陣に心からの感謝を。また、ここまで長大な感想を読んでいただいた読者の方々にもお礼申し上げます。