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eringi7854さんの終のステラの長文感想

ユーザー
eringi7854
ゲーム
終のステラ
ブランド
PROTOTYPE
得点
67
参照数
249

一言コメント

 プレイ時間は約11時間。極めて丁寧に描かれた文章。「恋愛」という枠にとらわれないテーマ。最高峰のシステム回りやサウンド。いずれもKey様、田中ロミオ先生の技術によって綿密に練られた強力な作品。大多数の方には刺さるのであろうなと思う反面、シナリオ、キャラ、ゲーム性という点で評価しようとした場合、正直、「厳しい」と感じる点も多々あり、私の中ではかなり評価を抑えています。とはいえ、強力な作品であることに変わりはないので、興味がある方はプレイする価値はあります。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

☆作品紹介

 ビジュアルノベル界隈最高峰の知名度を誇るKey様が、田中ロミオ先生とタッグを組んで制作された、アンドロイドと人間を登場人物とした「キネティックノベル」です。ビジュアルノベルの中でもゲーム性を求めない、純粋なノベル(小説)部分にフォーカスした作品ですね。私はKey様との相性はそこそこ、といった具合です。しかし、『Rewrite』は最も高く評価している作品群の一角です。特に田中ロミオ先生が執筆なさっているシナリオには満点を点けている。そのレベルで好きです。本作にも絶大な期待をして、満を持してプレイしました。
 Key様ということでシステム面やCG面は絶対的な信頼があります。ですが正直、シナリオ、キャラクター、サウンドには好みがどうしても介在します。さて、本作の良さと気になった点をネタバレありで、語っていきましょう。


☆シナリオ(38/50)

第一印象は丁寧。メーカー様に対する信頼には応えたが、不満点もある。

〇作品としての完成度は極めて高い

 前提としてですが、私は本作に総括67点という点数を点けているものの、シナリオ部分については一定以上の評価をしております。極めて丁寧に描かれた作品であり、客観的に見て、高評価であるであろうことが予想できる作品ではありますね。
 まず、最低限述べておきたいのは、本作に「恋愛要素」はありません。本当に、一切ないのです。これは非常に珍しいことで、私はこの点を心から評価したいと考えています。ビジュアルノベルである以上、恋愛要素は不可欠。そうお考えの方もいらっしゃることと思います。しかし、私は本作のテーマの一つでは確実にあるであろう「父娘の関係」というのは心打たれるものであったことをお伝えしておきます。今回の『終のステラ』も親子関係、アンドロイドと人間、人間とは何か等、大テーマは多いです。ですが、本作を通じて伝えたいテーマは至ってシンプル。そうお見受けします。それ即ち、本作終盤の「フィリアか、人間か」をジュードに迫った点でしょう。結局、「父娘」の関係性こそが本作の最大のテーマであり、田中ロミオ先生が伝えたかったことの一つであると考えております。私はこの点、非常にシンプルで、値段帯=尺に合っていると思います。

〇オーソドックスながら概ね面白いシナリオ

 さて、本作のシナリオですが、大多数の方は一定以上面白いと感じるのではないでしょうか。事実、私もシナリオ面で38点もの高得点を点けております。これは決して迎合ではなく、本心です。しかし、こうも思うのです。『終のステラ』に到達できるほどのプレイヤーは既にどこかの作品で、似たようなテーマを享受してしまっているのではないか、と。AIと人間の敵対関係の末、人間の文明が衰退した、というポピュラーな世界観の中で、「父娘」というこれまた(ノベルゲームでは少ないかもしれませんが)エンターテイメントとして見た場合、非常にありふれたネタを使用しているのです。特に、TVドラマを視聴する方には分かっていただけるかもしれません。ネタはオーソドックスなのです。
 しかし、オーソドックスとは王道の裏返しです。しかも、本作は田中ロミオ先生とKey様が自信を持って捧げる極上の代物。面白くないわけがない。そう、予感していました。実際、ジュードとフィリアの旅路は(大抵、フィリアのミスからトラブルが発生するので、ネタの引き出しは狭いとは思ってしまいましたが)良いものでした。途中の登場人物であるデリラや、老人ことウィレム公爵の存在感もあり、優れた作品であることはひしひしと感じました。
 トータルで見て、シナリオに関しては優れていると言って良いでしょう。特にCGを重視する方には是非、プレイしていただきたい内容となっておりました。本作のイベントCGは予算の限りを尽くされたがごとく、多種多様で満足いく出来でしたからね。この点はビジュアルノベルとして極めて褒められるべき点でしょう。ただ、満足がいくかは話が別です。私はどうしても本数を多少なりともこなしているプレイヤーです。ゆえに、先の展開が読める、ゆえに制作陣が想定している感動をほとんど得る事が出来ていないという状態に陥っていました。所謂、ベタなのです。究極的には、これで正解なのかもしれませんが、私の評価基準で言えば、超高評価に値する作品でありません。

〇ノベル「ゲーム」としての遊戯性は皆無

 さて、ここからは本作の気になった点です。まず、本作は「キネティックノベル」の名の通り、ノベル「ゲーム」としての構成を取っていません。しかし、本作は「ゲーム」として発売されているのですよ。その意味で、私にとって最重要と言って良いのが「選択肢や考察要素」なのですね。『終のステラ』に選択肢が一つでも、とは言い過ぎですが、それなりに存在し、分岐もしっかりしていて、「ゲーム」としての体を保っていたのなら、もう一段階上の評価をしていたことでしょう。
 しかも、本作は考察要素もほとんどありません。私はミステリやホラー系ノベルゲームで、考察要素が大きな作品であれば(例えば、『ひぐらしのなく頃に』、『うみねこのなく頃に』等)全く選択肢が存在しなくても問題ないと考えております。なぜなら、「プレイヤー(受容者)」に「考察」というゲーム要素を与えているからです。個人的にはむしろ選択肢の有無にかかわらず、この考察要素こそが重要であると考えている節もあります。一方、『終のステラ』は結末に至るまで丁寧に説明されてしまいましたし、フィリア、ジュードの結末に考察の余地はほとんど残っておりません。唯一、発生していたと言って良い、フィリアのその後についても豪華版特典のアフターストーリーブックである程度読めてしまう(補足可能という点でこれ自体には好感を持っています)のです。これでは、考察好き「ノベルゲームプレイヤー」が考える限り、ゲーム性を失ってしまっているのです。
 結論として、本作は、好みの問題はあれども、シナリオは優れている。しかし、「ゲーム」としての遊戯性を失ったことで、商品としての価値を大きく落としている、と私は考えています。「ゲーム」として発売する以上、やはり私は選択肢には重きを置いているのですよ。それこそ、本作のシナリオ最終盤。ウィレム公爵が提示した「フィリアを選ぶか、人類を選ぶか」という選択肢で、ゲーム上の選択肢があれば、評価は全く違ったものになったでしょうね。その意味で、寸前まで優れていたのに、結果的に期待を裏切っている作品とも言えるのが、本作なのです。

〇フィリアを可愛いと思えるかが勝負

 本作には『ATRI -My Dear Moments-』とかなり似た評価を点けています。なぜなら、本作(と『ATRI』)を愛することが出来るか、という点でキャラクターに感情移入出来るか、と言う点が非常に重要だからです。前提として、私は『ATRI -My Dear Moments-』のアトリにも、『終のステラ』のフィリアにもほとんど感情移入出来ず、正直、愛らしいと感じることが出来ませんでした。詳細はキャラの項目で述べますが、キャラに物語、つまりシナリオの完成度を依拠し過ぎているのです。
 本作はフィリア、ジュードに好感を持てないと、その時点で評価はかなり落ちてしまいます。その影響はある意味自然です。本作は、あくまでもプレイ時間約10時間を想定したノベル作品です。ゆえに、登場人物が少なくても仕方ないのかもしれません。しかし、本作は「仕方ない」で済ませて良いほどキャラクターが多くないのです。これでは、感動できる方は限られるのではないか。そう感じます。フィリアを可愛いと感じる。かつジュードに好感も持たせる。この条件がクリアできた時にようやく本作には感動が生まれるのです。つまり、本作で感動するための条件が厳し過ぎる。そう感じるのです。私はこの感想執筆時点では、他の方の感想をほとんど拝見していませんが、皆さんも同じ見解なのではないでしょうか。

 総合的にシナリオを見た場合、ゲーム性がない、キャラクターに完成度を依存し過ぎている、シナリオがかなり王道で、逆に言えば先がある程度読めてしまう。そういった弱点を複数抱えている作品ではあります。シナリオの起伏が単調に感じるのもシナリオ40点に届いていない理由の一つです。一方、イベントCGや全体の完成度という枠組みで見れば、本作は最高峰です。特にイベントCGに関しては、これほど豪勢な作りをしている作品を私はほとんど知りません。是非、楽しめる方は堪能していただきたいと考えます。
総じて、シナリオは流石に40点には届かないまでも、弱みと強みを総合的に見て、38点が妥当であろうと評価しました。


☆キャラ(20/40)

 上記の通り、結論から言うと私は本作のキャラクターに対してあまり感情移入出来なかったです。というのも、本格的な感情移入をするのにはイベントが若干ワンパターンな気配を感じ、尺が不足していたとう具合ですね。もっとも、そもそも本作の名前、立ち絵ありの登場人物自体が、ジュード、フィリア、ウィレム公爵、デリラしか存在しません。ゆえに、好感を持てるキャラの幅にも限界があります。ただし、お伝えしておきたいのは「登場キャラクターが少ないことが問題」なのではなく、登場キャラクターに好感を持たせるタイミングが少ないことこそ重要だと認識しております。
 はっきり言って、主要人物であるジュードとフィリアについてですら、プレイヤーに好感を持たせる十分な尺、シナリオがあったかはかなり疑問です。大きな二人のイベントもありましたが、いずれもキャラの掘り下げを十分になしていたかというと、私にとっては疑問でした。以上がまず、私のキャラクター項目に持った印象です。そのくだりは尺の関係もありますが、むしろ『ATRI -My Dear Moments-』より弱いとすら思っている部分です。
 次に、肝心のキャラクターです。私はジュードに心奪われてしまいました。恋愛要素がない作品。上述した通り、私は大歓迎です。この手の父娘関係をテーマの一つにした作品は本当に好きですし、ジュードの葛藤もある程度は理解しました。ですが、プレイヤーにとって、ジュードにさらに感情移入させるためにはやはりジュードの過去をもう少し掘り下げる必要があったとお見受けします。終盤での過去回想だけではどうしても限界があります。力ある作品にとってキャラクターとはそれだけ重要な要素なのです。しかし、本作は低価格路線を貫いていることを加味しても、キャラクターの魅せ方(シナリオを通じての深掘)という点で不足していると感じます。とはいえ、ジュードの魅力は十分に伝わりました。結局、根は善人なのですね。ジュードの甘さであり、良い点はまさにそこです。何だかんだフィリアの言うことに耳を傾けていたのは、本音のところ、ジュードの、人の良さが出ているのですね。運び屋として、非情にならないといけないところは無論、あります。しかし、根っこの部分が腐っていない。そこには名作主人公としての貫禄を感じます。
 さて、次はフィリアです。正直に言います。あまり可愛らしいとは感じる事が出来ませんでした。というか、可愛らしいと制作陣も思って欲しくて制作しているわけではないと思うのですよ。アンドロイドながら、人間を目指している。そこには明確な目的意識があり、そこが素敵な点です。一方、私は最終的な結論として、「愛らしい存在」とフィリアを見る事が出来ませんでした。幼過ぎるという点もあります。ですが、根本的な部分で、フィリアは成長し、その幼稚さも、甘さも薄まっていきます。最終盤、島で銃をジュードに向かって構える場面。本当に好きです。フィリアの葛藤も心から感じます。この場面ではプレイヤーである私も心動かされました。ただ、フィリアの葛藤に涙できるほど、私の感受性が強くはなかった。そう思います。
 フィリアというキャラクターは「無意識に人に愛される容姿、性格を付与されている」。そういう設定なのでしょうかね。そうとしか思えない場面は少なからずあります。Ae型アンドロイドの中でも、少年型ではなく、少女型であることがその代表例です。私はこういったアンドロイドヒロインには抵抗を抱かないタイプです。ですが、フィリアは刺さらなかった。その原因として、私は結局のところ、庇護されるタイプのヒロインにそこまで心を動かされるタイプではないのでしょう。そう分析しています。
 ウィレム公爵は良いキャラをしていたとは思いますが、出番が少なく、過去編もなかったことから、サブキャラクターと化していましたね。そこにも不満があります。終盤、ここで、ウィレム公爵の過去を少しでも挿入して、CGも追加すればさらに良くなるのに。そう何度考えたことか。惜しいと感じます。最後に、デリラ。彼女に関しても出番が少なく、ウィレム公爵と同様の瑕疵を持ってしまっています。もっとも、デリラは重要キャラクターでこそあるものの、そこまで物語の根幹に関わるわけではありません。そこまで掘り下げる余地がなくても仕方ない。むしろ、尺(限りある予算)をデリラに割かれなくて良かったとさえ考えます。予算、尺は限りがありますからね。そういった点では本作は上手いのかもしれません。
 総括、私はジュードには一定の感情移入は出来ましたが、フィリアについてはその魅力を享受することがついぞ出来ませんでした。恐らく、本作を絶賛しているプレイヤーもキャラクターに対してはそこまで比重を置いていないのではないかと見ています。しかし、私はキャラクター項目に40点割いていることからも分かる通り、キャラクターの愛らしさ、心地良さ、感情をいかに動かされたかを総合的に高く評価したいのです。その点で言えば、『終のステラ』はキャラクター項目20点が相応しいと思います。キャラクターの行動原理が非常に明確かつはっきりと分かりやすかっただけに、十分に掘り下げが出来ていないように感じるのは残念ではありました。思うに、キャラクターが少な過ぎるのではないかと見ています。低価格の作品であることには理解を示します。しかし、手を抜いて良い部分と悪い部分。そこで悪い方を引いてしまった作品。そう見ています。

☆その他(9/10)

 サウンド、世界観、雰囲気、システムです。総合的に、極めて高いレベルでまとまっています。
 サウンドですが、OP曲『breath of stella』に加えて、挿入歌『終の祈り』。ED曲『Ortus』全て良曲です。素晴らしい出来でした。特に挿入歌である『終の祈り』は泣かせにきてますね。ただ、心打たれるほど感動したか、あるいは感動できるタイミングで挿入歌が流れていたかは正直、疑問でしたね。中には涙する方もいらっしゃるでしょう。ただ、私はそこまで感受性が強くはない(ツボにはまらなかった)タイプですね。サウンド面、BGMも含めてあと一歩かな、といういつものKey様といった感触でした。レベルは高いことはしっかりと明記しておきます。
 続いて、世界観、雰囲気。これも強力な要素を多く含んでいます。世界観は人類が衰退を辿っている、未来の世界ということでSFでは割とポピュラーなものです。しかし、退屈に感じづらい自由度を武器に、繊細に構築されていると感じます。それに伴い、雰囲気も一流ですね。フィリアとジュードの旅路をよく彩っていたと受け取りました。
 最後にシステムですが、優秀です。最高峰と言って良いでしょう。私はNintendo Switch版をプレイしましたが、不便な点はお気に入りボイス登録機能が存在しない(そもそも必要とされる作品ではない)点くらいでした。最大級の敬意を払います。
 以上から、その他項目は主に、サウンド面の関係で満点には流石に届かないまでも強力な作品と言えるでしょう。特に世界観は、田中ロミオ先生の持ち味である「少数集団の中でどう生きるか」を活かしやすい地盤が敷かれていました。凄まじい完成度だと思います。文句なしの9点です。

☆総括(67/100)

 総合的には佳作(C)認定です。私はアフターストーリーブックを含む特典付きで入手しました。結果的に、アフターストーリーブックは入手しておいて良かったと思います。というのも、本作は散々、上述しましたが、「ノベルゲーム」ではないのですよ。ノベル型映画、ドラマ。さらに言うと、小説の方が、良さを生かせるのではないか。そのくらいアフターストーリーブックの完成度が高かったです。
 正直に申し上げると、期待していた出来より点数という意味では下回っています。何せ私は田中ロミオ先生の大ファンです。事実、代表例で言うと、Key様の『Rewrite』には極めて高い評価を点けているつもりです。『CROSS†CHANNEL』も大好きです。しかし、本作に一定以上の好感を持てずにいるというのが本音です。この違和感の正体として、以下の二点があります。第1に、フィリアにそこまで大きく感情移入出来ず、十分な好感が持てなかったから。第2に、本作に選択肢が存在せず、ゲーム性という点で乏しい作品であったから。この上記2点です。特に後者が致命的でした。「キネティックノベル」ではあっても、「ゲーム」として売っている以上、選択肢がない作品には「ゲームとして」相応の価値しかない。最終的にはそう感じました。
 とはいえ、本作は極めて高いレベルでまとまっている作品です。私のような「ゲーム」に拘る捻くれ者では、到達できないほどの「好き」を得る事ができるかもしれません。客観的に見て、本作はその格を有している。そう最後に述べておき、筆を置きます。
 こんなにも素晴らしい作品を世に送り出して下さった、Key様をはじめとした全ての制作陣の方々。そして、ここまで長大なネタバレあり感想を読んで下さった読者の皆様にも心からお礼申し上げます。ありがとうございました。