プレイ時間は約3時間。推奨攻略順はありません。しかしシナリオ上の「アフターフェスティバル」の重要度が高いので、最初に「アフターフェスティバル」をプレイしておくことを推奨します。前作『コイバナ恋愛』を気に入っているかどうか。正直、本作『アフターフェスティバル』の内容が入ってようやく『コイバナ恋愛』は一人前の作品に進化する。そのような印象は抱いています。結局、『コイバナ恋愛』とは、青春の良い部分を切り取られて描写されることをどれだけ許容できるか。そこに尽きます。
☆作品紹介
昨年9月に『コイバナ恋愛』が発売してから約7か月。ついにファンディスクの登場です。正直、私は前作『コイバナ恋愛』に好感をあまり抱けませんでした。ASa Projectにしては恋愛描写不足の作品を出してきたなと思ってしまいましたね。この原因は主人公、叶太と、サブカップルの恋愛模様を両方描こうとして、失敗しているからと分析しています。八日なのか先生は業界の新時代を担えるほどの器を持った逸材です。後述する『フタマタ恋愛』ではその感情の複雑さ、人間関係の機敏さを見事に描き切りました。しかし前作『コイバナ恋愛』ではその「複雑さ」「機敏さ」が一気に抜け落ちている。
これはおかしいと私は本作をプレイし終えた今でも思っています。ASa Projectの売りはその笑い溢れる日常生活の裏に隠された深い人間ドラマのはず。そう信じてやまなかった私がいました。したがって、『コイバナ恋愛』は何かの間違いであって欲しい。そう考えました。例えばスタッフ間の連携不足。ライターさんと企画の祖語等です。その矢先に情報が出たのがこのファンディスクでした。私はついに来たかと思いましたね。ようやく八日なのか先生が描写したかったサブカップル群をきちんと描いてくれるのかと。きっと、『コイバナ恋愛』を補完する素敵なファンディスクになっているだとうと思って予約購入しました。さて、本作が私の、プレイヤーの期待に応えられるものであったのか、しっかり見ていきましょう。
☆シナリオ(31/50)
サブカップルの掘り下げはできていました。しかし…
〇『フタマタ恋愛』から続く恋愛劇に終止符?
私は前述した通り、前々作『フタマタ恋愛』をASa Projectの中で最も高く評価しています。その点数は批評空間上で89点(シナリオ:42キャラ:39その他:8)。キャラ造形がおよそ完璧で、その扱い方も流石の一言。シナリオは物足りない部分もありながら、人間関係の不和をきちんと描写し「登場人物達の成長物語」として成立させていました。そう、私は現在も『フタマタ恋愛』の亡霊に取り憑かれてるのです。
対して『コイバナ恋愛』。この物語は人間関係を青春時代に絞りながら、その陽の部分をかなり綿密に描いていました。もしかしたら万人受けするのは『コイバナ恋愛』の方かもしれません。しかし、私は結論から言うと、本ファンディスクを含めても『コイバナ恋愛』と『フタマタ恋愛』とではどう考えても後者に軍配が上がる。そう感じてしまいました。理由は明確です。『コイバナ恋愛』では青春の陽の部分にのみ焦点を当てたがために、ほとんど人間関係のうわべしか描写し切れていないからです。この「ほとんど」というのが重要です。本ファンディスクを以て考えれば、主に光生&いのりペアは一般的な恋愛模様を、八日なのか先生らしい感情の爆発を、丁寧に描写していました。
私は恐らく、ASa Project並びに八日なのか先生に期待し過ぎていたのでしょうね。ただヒロインが可愛い、ただ青春の一幕を描写されるだけでは不足だ、と考えてしまっていました。そして、実際私の評価基準から言って「その程度の描写で収まってしまう作品」は「佳作」、つまり60~69点なのです。本作はそこを明確に飛び越えるに至らない。大変惜しい作品となりました。
〇『コイバナ恋愛』は理想の青春の具現化
前述しましたが、『コイバナ恋愛』及び本作『アフターフェスティバル』ではまさに理想の青春時代を描写しています。そこは本当に評価できる点であると考えており、実際非常に楽しかった点の一つです。主人公、叶太はじめこころが、千依が、めぐりが、常夜が、そして何よりサブキャラクター達がそれぞれの出来る範囲で、全力で青春を謳歌しています。
しかし、一方、それは青春の陽の部分を綺麗に切り取ったに過ぎません。青春の苦しさ、苦さを描写していたのは意外と言うか、納得と言うか、結局、光生&いのりペアだけでした。その意味で、物語の注目ポイントという意味では叶太達はある意味蚊帳の外にいると言えるでしょう。光生&いのりペアは光生のひたむきな努力をいのりが跳ね除けていたペアでした。「失恋」という青春の負の部分です。しかし、前作『コイバナ恋愛』でもその部分はこれでもかと丁寧に描写しきれていました。皆さんは覚えているでしょうか。前作のいのりと光生のプールにおける一幕を。あのやり取り程、『コイバナ恋愛』の中で「学生恋愛らしい」描写はそうないと勝手に思っています。結論から言うと、本作『アフターフェスティバル』で光生&いのりは見事、結ばれます。しかも、学園祭の演劇の中心という主人公そっちのけの見せ場を得て。イベントCGは素晴らしかったですね。光生の願いを叶えるにあたって「結婚」という学生に似つかわしくない単語。これが登場人物の中で唯一いのりにのみ必要だったのです。ここまでお伝えすればお分かりでしょう。いのりと光生だけは青春のその先を見ているのです。視野が違うのです。ここは八日なのか先生の粋な計らいだと心から思います。「結婚してくれ」の言葉こそ、いのりを精神的に落とす最後の切り札として機能しているのですよ。本作はその意味で言えば、読む価値があったと心から言えます。
閑話休題、上記のように青春の一幕から外れている(視野を広く持てているとも言えます)キャラクターが存在しながらも、本作群は結局のところ、「理想の青春」に感情が、描写が「とどまってしまった」作品であると言えます。これは恐らくコンセプトの問題です。しかし、私がASa Projectに求めている重厚な感情劇とは悪い意味で一線を画す。そう感じてしまいました。したがって、私は本作のシナリオを一面では強力に評価しているのに、ただ、惜しいと考えているのです。
〇サブカプの掘り下げができていたか
さて、『アフターフェスティバル』に求められていた重要要素として、前作『コイバナ恋愛』で人気を博したサブカップル群をどれだけ魅力的に掘り下げることができるか、という話になってきます。
これも先に結論をお伝えすると、こちらは十分ではないにしろ、一定水準はできていたのかなと考えます。個人的には未愛が優遇されている印象でしたね。未愛の個性、負けず嫌いで、意地っ張り。しかし惚れた相手にはとことん尽くす。その方向性は非常に分かりました。Hシーンも本作でトップクラスにエロかったと思います。本当に余談ですが、未愛のハート目は本当に可愛いですね。かなり好きです。
また、サブカップルのHシーンについて、声の有無については今後、賛否両論あるかと思います。ただ、個人的にはここまで個性付けされた男性キャラクターです。彼らやその声優さん方に敬意を示すためにもHシーンは正直、声有りの方が良かったと感じました。
総合的に見ると、サブカップルの掘り下げは概ね成功していると言えます。もっとも、大河のパンツ好き設定がHシーンであまり発揮されていないように見える等、疑問、描写への異議は多少あるのですが、八日なのか先生に光生&いのりペアの魅力を深掘してもらえただけでありがたいと言えるでしょう。
〇良かった点、気になった点
次に細かい良かった点や気になった点をお示しします
☆叶梨のHシーンがある
これは意外にも望んでいた方々が多かったのではないでしょうか。私は基本的に他のHシーンに回して欲しい派なのですが、今回に限っては良い点と言えるでしょう。Hに至る理由は流石ASa Project、訳が分かりません(誉め言葉です)。
☆Hシーン全般が抜けた
これは私の主観になります。しかし本作は実用性があった気がしますね。声優さんの演技力も更新されていたように思います(特にめぐりと常夜)。
☆非HCGが少ない
これは気になった点です。後述する問題にも言えるのですが、いくら何でも非HイベントCGが少なく、通常のミドルプライスファンディスクである点を考慮しても、迫力にはかなり乏しかったです。情景自体は想像できるのですが、所謂良作ライン級になる作品の気配りとしては不足しています。
☆キャラクターの「その後」がない
これは『フタマタ恋愛』に脳を支配された戯言かもしれません。しかし、前々作であんなにも濃厚にヒロイン達の「その後、卒業後」に焦点を描き、あれほど感動的な締め方をしたのに今回は青春劇で終わってしまった点は大変気になります。無論、本作群は「青春劇」に焦点を当て、その中で完結させたいという意思には理解を示します。しかし、今までのASa Projectに戻ってしまったな、という残念な気持ちは正直持ってしまいましたね。
本作に非HCGが少ないのもその一環かもしれません。つまり、「その後」を描くより、HCGを描き切り、少しでも不足しているH要素を補完しようという思惑です。しかし、流石にそれでは作品自体が歪んでいるといわざるを得ません。「青春」だけで終わってしまい、非常に残念でした。
〇Hシーン
Hシーンは、シーン自体は良かったです。こころのオナニーや未愛のハート目H。そしていのり、楓美の初々しいHは非常に使えました。特にいのりですね。まさかあのいのりが中田氏を許すとは…意外でしたし、それだけ内面では光生のことが好きなのだなということが察することが出来て、私は大変幸せです。
一方、Hシーンは本作、『コイバナ恋愛』の作品群の致命的な弱点でもあります。前々作『フタマタ恋愛』のFD含めたHシーン数が30+7+6=43シーン。対して、『コイバナ恋愛』のFD含めたHシーン数は18+13=31シーン。いくら何でも不足しています。しかも、サブカップルのシーンにも割いているため、体感ではありますが、メインヒロインであるこころ達のシーン数はさらに少なくも見えます。ここは本当に致命的でした。前々作『フタマタ恋愛』のHシーン数が過剰という声もあるかもしれませんが、18禁ビジュアルノベルとして、このHシーンの差は、はっきり言って全く無視出来ません。せめて前作『コイバナ恋愛』の時点で、Hシーンを、さらに欲を言えばサブカップルのHシーンを丁寧に描くべきでした。その点の尽きるでしょうね。非常に残念だったので、ここは指摘させて下さい。
またHシーンの良い点として、サブカップル側のHシーンで、竿役の顔をほとんど出していませんでしたね。ここは構図を意識的にそのようにしたのでしょう。主人公とサブキャラクターを分けて考えるプレイヤーに対して、非常に良く出来た繊細な気配りでしたので、感心しました。
☆キャラ(29/40)
キャラクターは可愛いキャラクターが複数います。私で言えば、いのり、こころ、楓美がその筆頭でした。何より、本作の特徴としては魅力的な男性サブキャラクターの存在です。大河、光生、怜の三人は友人キャラクターとして非常に理想的とも言えるでしょう。
まずいのりですが、彼女は本当に八日なのか先生の陽の部分を如実に表しているなと言えましたね。意地っ張りで、自分の好意、恋慕に鈍感。しかし実は気付いている。その塩梅が非常に繊細、かつ上手だと読んでいてはっきり思いました。光生と合わせてベストコンビでした。彼女達のようなペアを次回作でさらに描写して欲しいと切実に思います。
次にこころ。彼女は青春時代において、彼氏ができて調子に乗った女子の典型ですね。しかしそこに好感が持てました。正直、18禁ビジュアルノベルの中では結構新しいというか珍しいキャラ付けをしていると思っています。加えて私は秋野花さんのファンです。好きになれた強力なキャラクターと言えます。
楓美も、上記二人ほどではないにしろ、好きになれました。歩サラさんは偉大です。何より、大河の面倒を見ている(と書くと大河に失礼ですが)楓美が非常に生き生きしているのですよね。キャラクターとして非常に輝いていました。その母性に包まれたいです。Hシーンもその路線でしたし、この分析で合っているはずです。
しかしながら、キャラクター30点の大台には乗せることが出来ませんでした。それは偏にめぐり、常夜という不遇としか言いようがないキャラクターが存在する点です。私は基本的にプレイヤーから見た、メインヒロインの好感度は均等であればあるほど良い作品であると認識しているので、この差異はかなり気になりました。結局、意識しているかは分かりません。ですが、キャラクターの描写に明らかに優遇、不遇があり、あまつさえそれをネタにして楽しんでいるのは流石に違う気がします。残念ながら、本作の常夜からはその空気を強く感じました。
総合的に見ると、部分的に見てキャラクターの個性に魅力を感じるものの、その活かし方、扱い方への配慮が本作では二歩不足しているように感じました。めぐりも常夜もあくまでもメインヒロインです(センターではありませんが)。そのことをよく吟味した結果、29点が限界だろうと感じました。ここもまた惜しいポイントです。
☆その他(8/10)
音楽は基本的に前作と変わらず、雰囲気に合っていますが、相変わらずASa Projectらしい印象には残らないものでした。ただ、今回新しくボーカル曲『らしくない恋』が追加されたのは地味ながら評価点でしょう。
次に雰囲気、世界観ですが、ここは正直前作から言っていますが、私には合いませんでした。私は18禁ビジュアルノベルに結局のところ、18歳以上らしい感情の機微に富んだ恋愛劇が好みなのですね。その意味で、青春の陽を描写し尽くす本作群とは相性が悪いと言えるでしょう。しかし、平等に評価しようとした時にこれほど、恋愛描写が青春チックな作品にもなかなか出会えないこと自体は認識しているつもりです。そこは素直に賞賛する必要があるでしょう。
最後にシステム、UIです。ここは流石優等生ASa Projectです。しっかりと準備してくれました。バックログからのシーンジャンプ、お気に入りボイス登録機能等を実装しているのは偉いです。
総合的に見て8点です。その他については『恋愛×ロワイアル』からほとんど変わりません。雰囲気が良い、素晴らしい作品であると思っています。
☆総括(68/100)
総合的には佳作(C)認定です。本作は結局のところ、前作の不完全性に付随して色々粗雑な点が出た印象です。つまりですね、本作『アフターフェスティバル』の内容が丸々『コイバナ恋愛』本編に入っていれば私は文句なく70点以上を点けていた可能性があります。しかし、結局本作は分割商法的な側面が隠しきれていませんでした。本来、作品外の事象を持ってくるのはお門違いなのですが、『コイバナ恋愛』群には商品の売り上げとしてプレイヤーに対して好感が持てる売り方をしているとはとても思えません。無論、それだけが原因で評価(点数)を落とすような真似は絶対にしません。しませんが、プレイヤーの印象は悪いところからのスタートになっていることをメーカーであるASa Projectは知るべきでしょう。事実、私は本作の出来と合わせて考えると折角、贔屓にしていたASa Projectという大切なメーカーさんから作品を買わないかもしれないという選択肢を考慮しているほどです(これは私の感覚的な問題でもあるのであまり触れませんが)。
そもそも「青春の陽の部分(一部)」のみを意図的に描写しよう、させようという企画が通った時点で私の中では『フタマタ恋愛』や『恋愛×ロワイアル』、『恋愛、借りちゃいました』といった作品群には遠く及びません。
ただし一つだけ言えるのは、私は『フタマタ恋愛』をはじめとした上記作品群を生み出して下さったASa Project、八日なのか先生はじめとしたスタッフの方々には感謝しているということです。今回の『コイバナ恋愛』は正直、作品として不完全な状態で終わったと認識しています。それは残念です。だからこそ今度こそ、ASa Projectには今後の18禁ビジュアルノベル界を引っ張る強力な作品を生み出して欲しい。そう強く思いますし、それが可能だとも思っています。以上です。今回も例によって大変長い感想を読んで下さった方々に心から感謝を。そして、何より素敵な作品を制作して下さったASa Projectの全てのスタッフの方々に感謝します。ありがとうございました。楽しかったです。