プレイ時間は約4時間。主に陽葵の恋愛描写には比較的力が入っています。かといって、過去のヒロインを蔑ろにすることもなく、各ヒロインに出番を与えています。その点、非常に好感が持てました。一方、シノと沙奈の掘り下げはかなり不十分で、正直使い捨て感がありました。シナリオもバトル要素が若干長く、そこは好みがあるかと思います。概ね私は満足しましたが、言いたいことはかなりある作品でした。
☆作品紹介
2019年に発売されたWhirlpoolのロープライス作品の一応、最終作。セール時期に1~3パックを4000円以内で購入しました。陽葵、シノ、沙奈が加わりますます賑やかになった猫忍達との暮らし。正直、私の第一印象としてはこんな7人ものメインキャラを近江谷宥先生はコントロールできるのだろうかという一抹の不安を持っていました。とは言え、キャラは誰もがそこそこ個性的で可愛く仕上がっているとは思っています。『猫忍』シリーズ一応最終作、その底力、見せていただきましょう。
☆シナリオ(24/50)
恋愛過程は割と丁寧でした。
〇キャラ数のおかげで話を回すことができていた
陽葵、シノ、沙奈の三人は雑賀衆ということでゆら、たまとは別勢力です。ゆえに近江谷先生としては話の展開に困らなかったのではないでしょうか。律、マヤも含めて非常に賑やかな日常を描いていたとは思います。また春希の、今できることに取り組んでいくというスタイルにも好感が持てます。
さて、シナリオの本筋である雑賀衆とのひと悶着については明らかに前作のシナリオより、気合が入っていましたね。演出もそれなりに凝っていました(それでも値段相応、はっきり言って陳腐さは免れませんが)。このあたりのシナリオ回りが良い方向に働いているのは偏にキャラクターの数が増えて、物語に深みを持たせることができるようになったからでしょう。陽葵、シノ、沙奈いずれも活躍していたとは思います。
一方気になった点も二点。一点目が尺の問題。二点目がキャラの掘り下げの問題です。一点目の尺の面ですが、値段内に収める努力はなされていたと思います。しかし膨大なHシーン数とバランスを取る観点から見ると、どうしても尺が不足していました。それをプレイヤーに感じさせてしまう時点で、ゲームとしてはどうなんだろうと思ってしまいます。特に本作は尺不足が如実に表れていたので、余計そう感じます。そして、二点目のキャラの掘り下げ面です。こちらも尺の都合もあり、大変不足しています。正直、予想通りではあるのですが、陽葵、シノ、沙奈、特にシノの掘り下げが十分ではないと感じます。ただ出すだけで終わった。キャラを駒として見ている。そう感じてしまいました。
総じて、シナリオの大枠は思ったより頑張ってはいたけど、キャラの掘り下げ不足が本当に深刻で案の定、尺不足に陥っているということです。『竜姫ぐーたらいふ3』のように新規キャラを一人に抑えればこういった事態は回避できたのだと考えます(あるいは『竜姫ぐーたらいふ3』自体が『猫忍えくすはーと3』の反省を踏まえて制作された可能性があります)。楽しめた分、そこは素直に残念だと思いました。
〇猫忍独特のイチャイチャも健在
猫忍達とのイチャイチャラブラブ生活も健在です。きちんと全員にHシーンがあります。そこがWhirlpoolのロープライス作品の良い点でしょう。特に陽葵、シノ、沙奈の三人にはイチャイチャ描写も相応に用意されており、喜びもひろしおといったところです。
特に私が本作で感動したのは律とマヤの扱いですね。正直、『2』のみの使い捨てヒロインになるのではないかと懸念していたのですが、杞憂でした。きちんと後述するシリアス路線にも顔を出し、それなりの役割で話に絡んできました。また律、マヤとのイチャラブもまあ値段分、楽しめたのでこれはこれでありかなと思いました。その分、『3』の新規キャラクターのイチャラブが少ない印象がどうしてもありますが、そこは仕方ないとも思います。
〇恋愛描写が意外と丁寧
そして、私が最も驚いたのは陽葵の恋愛描写です。陽葵は初期から春希に恋愛感情を抱いていないキャラです。しかし沙奈による鼓舞や、自身の自覚、そしてシリアス要素によって段階を踏んで恋愛を描いていました。特に、恋愛が成就してからのデートシーンには満足しましたね。総じてロープライスの割に陽葵の恋愛感情についてはしっかり描かれていた印象です。この要素は『無印』でも『2』でも描かれませんでした。ヒロインが初期から好感度ほぼMAXで始まるからです。私はこの要素は大きく評価したいと思いました。
一方、その分、新規キャラクターのうち、シノと沙奈の恋愛についてはかなりおざなりになっていた形です。この部分ははっきり言ってかなり印象が悪かったです。せっかく、陽葵で恋愛過程を描けているのだから、2人についても描いてくれよ、と期待した分余計にそう思ってしまいます。沙奈はメイドとしての立場があるのでともかく、シノは里見八忍の一人なので、もっとアピールしても良いものなのですが…残念な要素です。
総じて恋愛描写は期待外れな部分もあれど、陽葵が頑張っていたので及第点と言ったところです。
〇シリアス要素あり
次にシリアス要素です。ここをどう見るかはプレイヤーによって変わると思います。本作では、主に雑賀衆の関係で若干シリアス、というかバトル要素が多いです。ゆえに演出は、なかなか頑張っていた方だと思います。
ただし、本作の大きな弱点として尺の問題があります。前述した通り、キャラクターが増え過ぎて、個々の掘り下げが不足しているのです。ここを考えると、バトル要素を削ってでもキャラの掘り下げ、もっと言えばイチャラブに尺を割いて欲しかったというプレイヤーがいてもおかしくありません。というか私がそうでした。前述した通りの陽葵の恋愛描写をシノと沙奈にも拡大しつつ、全員のイチャラブを押さえる。この手腕を、近江谷先生だったら持っているはずなのです。しかし、今回はシリアス方向で話の緩急を付ける方向にもっていった。これは個々の好みの問題なので仕方ない部分もあるのですが、個人的には恋愛シミュレーションゲームとして、恋愛&イチャラブ方向に頑張って欲しかった。そうすれば70点以上もあったのかなと感じます。
〇Hシーン
Hシーンですが、複数プレイが新規キャラとの4Pの、1シーンのみと前作よりかなり少ないのは個人的にはかなり評価したいです。というのもやはりHシーンはキャラの掘り下げとしてかなり重要視しているからですね。前戯なし、ピロートークほぼなしと、現実の性交渉の場ではおよそあり得ない描写ではありますが、概ね満足しました。個人的には沙奈のパイズリ→初体験が刺さりました。他キャラのシーンもかなり実用性に溢れた素敵なシーンです。この点で言えば同メーカーの『竜姫ぐーたらいふ』シリーズに全く見劣りしていないでしょう。
総シーン数も11シーンを誇り、『竜姫ぐーたらいふ3』と同シーン数。全体的に満足できる点でしたし、キャラクターとの交流もできて楽しいHシーンでした。
☆キャラ(29/40)
キャラクターですが、実は『2』のキャラに割いた点数と変わっていません。理由は今回加わった三人を全員、トータルで見ると、掘り下げが不足していると感じ、どうしても一キャラクターとして見ると、弱いと思ってしまったからです。これでは30点という大台に乗せるのは困難です。キャラクターの記号化も、残念ながらキャラクターが増えたことで進んだように感じます。そもそも、なぜ一気に三人も増やしてしまったのでしょうか?描写不足になることが目に見えていたはずなのに、メーカーがその判断にGOサインを出したのはキャラ売りを前面に出し、掘り下げを考えていない(捨てている)と邪推してしまいます。
それを踏まえて各キャラクターを見ていくと、新規キャラクターの、特にシノのキャラが明確に立っていません。無口な剣士というだけのワンコキャラでした。陽葵と沙奈はまあまあ個性的に感じましたが、それも前述した恋愛描写が比較的なされているからということでシナリオ上、補完されているからという面が大きく個々をゆら、たまと比較するとどうしても付き合いが長い分、そして尺の関係で個性が弱くなってしまいます。しかし、個人的見解を述べさせてもらうと、陽葵と沙奈は好きでした。陽葵の任務には忠実ながらも、何だかんだ甘い点は可愛らしいです。また沙奈はメイドとして、エロ可愛かったです。両者とも近江谷先生がキャラの売りを分かった上できちんと描写できているなと感じました(逆に言えば、シノについてはキャラ付けが迷子になっている印象でした)。ちなみに新規キャラクターの私服はみんな、キャラ立ちしていて、全員可愛いと感じました。
過去キャラもゆらは相変わらず幼いながらもニャンコ可愛いですね。やはり小鳥居夕花さんは偉大だなと感じました。たまもまた劇中で指摘されている通り、美味しいところをもっていく素敵なキャラクターです。そして、律とマヤですが、こちらもHでした。特にマヤのお声(歩サラさん)と身体がマッチしていて、大変エッチでしたね。律については、お声がもう聞けないのは残念ですが、今を満喫するという点で、花澤さくらさんのお声が聞けて、幸せです。
☆その他(8/10)
ボーカル曲1曲。OPの『たまゆら』は相変わらず『猫忍えくすはーと』シリーズらしい高テンポの曲で、個人的には好きです。ただ、私はやはり『無印』の『la la for you』がシリーズで一番好きですね。
世界観ですが、こちらは『2』から雑賀衆回りで、若干発展しましたね。この深掘が良い方向に向かっているかというと微妙なところですが、少なくとも世界観の深堀りはできています。相変わらず、説明不足甚だしい世界観で、納得できない部分も多々ありますが、そこは猫忍だよね、で押し通り、深く考えないようにしましょう。
そして、システム面ですが、前々作、前作と変わらず、バックログからのジャンプ機能、お気に入りボイス登録機能があり、大変ありがたいです。
☆総括(61/100)
総合的には佳作(C)認定です。『猫忍えくすはーと』の一応の最終作として恥ない出来だとは思います。キャラの増加スピードがあまりにも早い点や彩羽、なちにも焦点を当てて欲しかった(PLUSは勿論プレイ済です)点等、言いたいことはまだありますが、一通り吐き出せたかなと思います。
重ねてお伝えしますが、本作は陽葵だけ見ると、恋愛感情の抱き方について納得できるものでした。前述した通り、陽葵だけをメインキャラとして追加した場合だったら、もしかすると、深掘具合次第では70点(良作)以上だったかもしれません。そう考えると惜しい作品だとは思います。
値段は確実に安いです。しかし現在のノベルゲーム市場は全年齢含め、ロープライス、ミドルプライスでも傑作級の作品が身を潜めている魔窟です。その中で戦う以上、もう少し、キャラゲーとしてキャラの掘り下げをしっかりするなり、サブキャラにも光を当てたりということで個性を出して欲しいところでした。総じて、佳作、惜しいな、と感じます。Whirlpoolの今後には本当に期待していますし、続編や同じロープライスが出たら恐らく購入します。是非、弱点を見直した上で、強力な作品を制作してもらいたいものです。制作陣の皆さん、本当にお疲れ様でした。またここまで読んでいただいた読者の方も、本当にありがとうございました。