ErogameScape -エロゲー批評空間-

enkn_9905さんの車輪の国、向日葵の少女の長文感想

ユーザー
enkn_9905
ゲーム
車輪の国、向日葵の少女
ブランド
あかべぇそふとつぅ
得点
94
参照数
344

一言コメント

親殺しと解釈したほうがいいのか

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 架空の国家で「特別高等人」という職業を目指し「義務」を背負った少女たちと交流していく作品、架空の国家や「義務」がディストピア的で興味があったのでプレイしてみたのですが、評判通りのシナリオの良さも相まって良かったです。個別√どれも名言(特に法月の)が多く立ち止まりながらプレイしていました。この作品は主人公の姉の璃々子√がトゥルーエンドと思われるのですがそこに至る5章(前キャラ共通)~エピローグの展開がもしかして父殺しのストーリーだったのかなぁ?と感じたのでそれについて

 プロローグから4章まで主人公は上司であるところの法月将臣から妨害や脅迫、時には助言を受け少女達の「義務」を解消すべく奮闘していますが5章以降は完全に敵対することになり健一やヒロインらは法月から激しい暴行・尋問を受けることになります。ですが主人公の一計により法月は敗北し主人公らは一時的に勝利します。しかし法月は作品内で時折健一が弟子として自分を超えることを求めており、前述のところも(健一にあのような負け方をすると想定はしていなかっただろうが)彼のお膳立て通りだったわけです。その証拠に健一らが町から脱出するために登った洞穴の外に彼は待ち構えていたわけですし。私には彼が持てる権力をふんだんに行使して執り行ったこの特別高等人の最終試験が一つの精神的父殺しの一環だったのではないかと思います。法月は上司であり師匠であると同時に父親的な役割を作品内で担わされていました、健一の実の父親である革命家樋口三郎とは学生時代に革命運動を共に起こそうとした仲であり樋口健(健一)を特別高等人として妖精しようとしたのも恐らく旧知の間柄であった三郎の息子だったからだと考えられます。法月は三郎の革命の意思を健一に誰にも悟られないように受け継がせるために教育し5章から璃々子√にかけては健一は法月を超えその思想を受け継いだのです。璃々子エピローグにて健一は政治家となり父の革命の思想を間接的に実行しようと璃々子と共に決意を表明し物語は終わります。最後には父三郎の革命思想すらも否定し二人の親殺しを達成した本作は親殺しを壮大なスケールで描いた作品として評価に値するのではないでしょうか(偉ぶった書き方になってしまいましたが)。