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enkn_9905さんのNEEDY GIRL OVERDOSEの長文感想

ユーザー
enkn_9905
ゲーム
NEEDY GIRL OVERDOSE
ブランド
WSS playground
得点
82
参照数
217

一言コメント

「どこかで見たことある」をひたすらに集積した結果、唯一無二の作品となった作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ひたすらなサンプリング、『雫』、『AIR』、『君と彼女と彼女の恋。』。エロゲ―だけでも前述以外の多くの作品の要素がコラージュされた雰囲気はどこかで見たことある要素だらけなのにはじめて見るものになっている。勿論、近年のメンヘラを掘り下げた作品は、少なくともエロゲでは無いと思われるし間違いなく新しい要素もある。あるのだが、既視感も前に出てくるのだ。

 ところでこの作品はメンヘラ、つまり精神障害を持ったキャラクターを題材にしている。それ故に、発売当初から「倫理的にどうなんだ」という問いは多くなされてきた。これは深刻な生きづらさ―場合によっては命を絶つほどの―を抱えがちな属性をいたずらに消費してよいのか、偏見を助長するのでは無いか、という問題提起だった。では、これは正当だったであろうか?
 筆者は正当だと考える。この作品は間違いなく精神障害を「消費」している。制作にたずさわったにゃるら自身が精神障害の当事者であることを考慮しても、やはりそうであると言う結論は変わらない。
 しかし、単に「消費しているから悪」と切り捨てることもまたできない。この作品には25ほどのエンディングが用意されている。その中には超てんちゃんが配信で嘔吐したことがネットの笑いものになったり、ありきたりな統合失調症患者と化すエンドもある。そういういかにも軽薄な「消費」のエンディングがある一方で、しかし真剣に没入してしまう、超てんちゃん=あめちゃんの境遇を思わずにはいられないエンディングも存在する。そのようなエンディングもまた確かに「消費」には違いないのだが、プレイ後には「異常者m9(^Д^)」と軽々しく流すこともできない。そんなアンビバレンツな要素で構成されている。
 「消費」と対比して何か考えさせるエンディングがあるとはいえ、それらも手放しで褒められるわけではないというのもまた事実だ。少なくとも、この作品が精神障害者への偏見を助長しかねない要素を多分に孕んでいることは間違いなく、比較的「良い」エンディングでさえこれが払拭されているわけではない。
 しかし、結局のところ、「倫理的」でないからダメだという批判はフィクションにおいて重大な批判となるのだろうか。描写が現実と異なるフィクションなど(ファンタジーなどを持ち出すまでも無く)ありふれている。それらと比較してこの作品が著しく危険であったりけしからんものであるかと言えば、必ずしもそうとは言えないだろう。