ErogameScape -エロゲー批評空間-

enkn_9905さんの恋愛×ロワイアルの長文感想

ユーザー
enkn_9905
ゲーム
恋愛×ロワイアル
ブランド
ASa Project
得点
78
参照数
561

一言コメント

気持ち悪い欲望を肯定してくれてありがとう

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 藤林椋。ひとまず一人を攻略し終えたとき、彼女の名前が頭に浮かんだ。『CLANNAD』藤林杏ルートの後日談において彼女は勝平と付き合う、主人公を差し置いて、である。
 現実において、過去自分と付き合った人間が別れたのちに他の相手を見つけるのはありふれたことである。初カノ、初カレに囚われていては恋愛などできない。しかし、中々これを許容できないのが人間の(特に男性?)の性らしい。
 はっきり言ってこのような感情は気持ち悪い部類にすら入る。もはや赤の他人である元カレ/カノをも「キープ」し続けようというのだから、仮に気持ち悪くは無くとも傲慢とは言えるだろう。本作『恋愛×ロワイアル』はこの欲望を真正面から肯定した作品である。

 

 本作において、個々のヒロインの魅力は重要事ではない。勿論このゲームはキャラゲーで、恋愛を目的としたゲームでヒロインに魅力が全くないということは現代の美少女ゲームにおいてまず成立しないのだが、本作は「〇〇たむ萌え~」ではなくまさに「ロワイアル」が共通のはじめから全ての個別の終わりまで持続することが肝要なのである。
 ラブコメ展開と聞くと、一人の主人公の周りにヒロインがワラワラと集まりワチャワチャと主人公を取り合うのがテンプレだが、本作も例に漏れずそんな感じである。しかし本作は、個別√―誰か一人と付き合うようになった―後ですらそのノリが持続する。それは過去に前例があるコンセプトかもしれないが(きっとそうだろう)、本作の希有な点は、この欲望を意図的に、正面から肯定することにある。
 例えばデート。主人公が誰かと付き合ってデートに行くとする。すると、必ず「負けヒロイン」達が後ろからつけてくる。
 例えば学校。主人公が彼女と付き合っていることを公言してもなお、腕に抱きついて胸を押しつけてくる。彼女たちは主人公が彼女持ちになったあとでも虎視眈々とその座を奪わんとしている。小悪魔な後輩が先輩をちょっとからかってやろうとかではない、マジなのだ。
 このように「ハーレム」が持続する状態は言うなればヒロイン達をキープしているのと同じ効果を生む。ハーレムを採用しているわけではない(一部そういうところもあるが)ので主人公は他の女に鼻の下を伸ばしながらも個別ヒロインへの永遠の愛を誓う。しかし、読み手である我々にはそんなことは関係ない。気にくわなければセーブポイントから選択をやり直し、一人攻略したあと間髪入れずに次のヒロインへ行けるエロゲーマーには永遠の愛は殆ど嘘みたいなものだ。
 これまでも言ってきたように、この種の欲望は気持ち悪いか傲慢だ。現実でやったら刺されかねないし、まずそんなことをするラインでパートナーを選り好みできる人は超少数派のはず。しかし『恋愛×ロワイアル』はこの欲望を肯定する。現実では許容されない欲望を正面から、果てまで許容してくれる。
 現実においては許されないが、創作ならNGの欲望は無数に存在する。そして、NGとされる欲望は時代を追うごとに増えている。たとえば人を拷問することに快楽を見いだす嗜好は、明確な階級格差があった過去ならともかく、少なくとも現代日本においては非合法にしか行えないだろう。エロゲで言えばリョナがそれに該当するし、もっとオタク諸兄に身近な例であげるなら妹萌えもそのような欲望の一例だ。これらの倒錯した欲望を肯定してくれるという点で『恋愛×ロワイアル』という作品は重要な、もし前例がなければ記念碑的な作品になるかもしれない。この点において非常に高く評価することができるだろう。




 ちなみに、あえて一人好きなヒロインをあげるとしたら由奈。頭身低めに統一されたキャラデザインが最もマッチしているし、サブヒロインかと思いきや一人だけ露わにする感情の重さが違う(ふくれてるだけの会長との格差はいったい...)