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enkn_9905さんの月の彼方で逢いましょうの長文感想

ユーザー
enkn_9905
ゲーム
月の彼方で逢いましょう
ブランド
tone work's
得点
83
参照数
123

一言コメント

七人七色の魅力ある作品だった

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 過去と未来をつなげるスマホを媒介して物語が進むという、SF的なストーリーが果たした長いスパンで愛しあう二人を描写するtone work'sの傾向とマッチするのか。そんな不安があったものの、終わってみればSF要素との距離感も√様々でかつ致命的な矛盾もないようにまとめられており、それぞれのヒロインと物語の魅力を感じられるような作品であったと思う。

 本作は2部構成となっており、高校生時代と社会人時代(アフター編)がある。とはいえ過去と未来をつなぐスマホ『エンデュミオン』の設定が活かされるのは7人のヒロインのうち3人のルートのみであり、過去と未来を頻繁に行き来するレベルまでいくのは灯華ルートのみであった。この点で、本作がSF色の強いエロゲーであると言う感じはなく、大きめの舞台装置程度の扱いだったように思う。
 ではSF要素が全編を支配していないから駄作かといえばそんなことはない。むしろ、SFを取り入れたルートとそうでないルート、またそのグラデーションが見事に共存しており、これらを一つの作品の枠に収め切っていることは高く評価されるべきだと思う。そしてそれらすべてのルートにはー無論、複数ライターで7人もいるのだからすべてが等しく面白かったなどとは言わないが―一定の魅力があった。
 個人的な好みとしてはうぐいす、雨音、霧子が良いと感じたが、総じてアフター編のみのヒロインよりも高校生編から関係のあるヒロインとの物語の方がよくできているように思えた。とはいえ、それは「客観的」なクオリティの話であって、キャラクターの魅力はそれぞれ感じることができたし、アフター編のヒロインもSFが関わらない分社会人としての恋愛を素直に描いており過程を楽しみやすかった。
 上でアフター編よりも高校生編からのヒロインの方が出来が良い傾向にあると述べたが、灯華に関しては問題のある要素に気を取られてしまった。
 まずSF要素。このルートはもっとも『エンデュミオン』の設定を活用している。過去と未来が相互に干渉しあい、過去を変え未来を変えることを目的としている。雨音√は主人公や雨音自身が過去に戻ることはなかったし、うぐいす√は過去を変えた結果として未来も変わったものの、この点はもはや「ご都合主義」的なマス向けの配慮程度のはたらきしか果たしていないように思う。となると先に述べた通り灯華√が最も過去と未来を行き来しているということになる。
灯華√の問題点について端的に述べれば、過去と未来を行き来する過程は面白いが、設定レベルでの説得力を与えることなくハッピーエンドにしたこと、ついでに灯華があまり可愛くなかったということにつきると思う。後者については個人の好みと考えても良いが(もっとも、"このキャラクターが不快"POVが満場一致で灯華をあげている時点でなんらかの問題はユーザー間で共有されているだろう)、設定の説明不足は否めなかったように思う。話の流れとして、灯華が助かることは疑いえなかったが、一方でD-waveの「媒介者」としての役割を灯華が担っていた、という衝撃の事実()が√も残すところ5分もないところで明かされ、その後特に説明もされずにグランドエンディングに突入したことはいくらなんでも雑すぎるように思う。