陰鬱な伝奇モノとしてはかなり面白かった。ストーリー全体を覆う不気味さや村の閉塞感がテキストや音楽だけでなく、UIなどのビジュアル面の作り込みによっても表現されており、老舗の強みを改めて感じた
CLOCKUP作品は『フラテルニテ』、『Euporia』ぐらいしかプレイ経験がなかった。そのどちらも、企画が一本芯が通ることによる全体を通した空気感の維持のうまさに唸らされたが、しかし刺さる、とまでは行かなかった。しかし本作『Erewhon』はとんでもなく面白いと思ってしまった。エロもかなり良く、熟女に分類されるようなキャラをエロいと思うのは久しぶりだった。
あらすじは省略し、後半一種のループに入るところから感想を述べる。これまで緩やかに違和感をもってプレイヤーに示されてきた因習や伝説が実は相当な部分で嘘だったと明らかになるのは、なるほど驚きであったが、しかし聞かされると思いの外ストンと腑に落ちた。それは共有妻のシステムが何百年も維持されるのはちょっと無理があるんじゃないか、等と思わされるからなのだがとにかくここでの種明かしは荒唐無稽すぎず、それでいて定番過ぎない絶妙なさじ加減を感じた。
十子を救うためにループをするという展開はかなり王道だが中々よかった。ループを繰り返すうちに異形になりはてたり物語に強く関われなくなるというのは『AIR』のような古典的作品でも見られる手法だが、本作は『AIR』が読み手に与えるような無力感はなく、最後には希望や救いによって物語を締めくくる。
ループを繰り返すキャラクターが別の世界線の「自分」のために自分を犠牲にする、という構造はループを繰り返すキャラクターからしてみればつらさの方が勝つ(死と同義なのだから)。しかし本作はノベルゲームであり、その特質として、消える自分は読み手そのものではなく、更に読み手は消えない「自分」やなんならヒロインに感情移入することができる。この性質を存分に活かし、つらさよりも希望を押し出してくる本作には、ノベルゲームというジャンルの素晴らしさを再確認せずには居られなかった。
不満点といえば稀世良周りだろう。伏線回収すればなんでも良くなるとは言えないが、しかしあれだけ思わせぶりな発言をしておいて妊娠エンドぐらいしかまともなオチがないというのは流石に気になってしまう。中盤の√では御三家にその肉を供しているわけで、そこを使ってもう1√あれば...と思わずにはいられなかった。
テキストについては、決してグイグイ読ませると言うものではなかったが、心理描写には目を惹くものがあった。特に洞窟に閉じ込められてからの主人公の内面は、動かない暗闇の背景が長時間続くことと相まってとにかく重さを感じた。ここで主人公がフィクションでは現実的な水準の人間である(因習に対して無力感を覚えるしループで何度も心が折れる)ということを示すことによって、終盤にカタルシスを与え、十子に対するどのような選択にたいしても説得力を持たせることに成功したように思う。触手のバケモノになって十子の移し身を凌辱し続けて心を満たす、というエンドにも「その気持ちわかるわ......」と思わされた点は流石に驚かされた。
エロについては殆ど満足、と言って良い内容だった。濃い精液描写や「純愛」なんてありませんよとばかりにヒロインの輪姦・レイプを挟む。サエや熟女組のような経験人数の多そうなキャラはモザイク越しでもグロマン気味に描写されていたのもこだわりを感じる。文句があるとすれば八千代と1対1もしくは十子との「親子丼」がなかったこと、ハーレム√が無かったことの2つくらいだが、そこはシナリオの構成上やむを得なかったと割り切るべきだろう。