(ADVとしての)美少女ゲームの構造を抉り出し、ユーザーに突き付けた短編。こちらは過去日本においても部分的にアプローチがあった要素。個人的には、詩によって内心を語らせる点に新鮮味を感じた。
さて、「美少女ゲームの構造を抉り出し」とは言ったものの、その抉り出し自体はこれまでの美少女ゲームにおける挑戦から必ずしも飛躍していない(連続した)営みである。なので、よりラディカルに、そしてそれに説得力を持たせるためのスクリプトによる表現は大いに評価できるが、必ずしも無から何かを生み出した「神」のような評価ができるわけでもないだろう。
その点において、本作をまるで美少女ゲームを根底から覆したかのように語ることは不適当ではないか、と思う。しかし美少女ゲームの魅力、その本質を別の方法によっても再発見しているような気もする。ではそれはなんだろうか。
『Doki Doki Literature Club!』が再発見したもの、それは攻略対象たる美少女を知ること、それに尽きる。とは言え、いや、この作品は短いし変なスクリプトは組んでるし、そもそもモニカ以外は後半空気じゃないか、それ以外のキャラクターのことはあまりわかってないんじゃないか、と言われるかもしれない。実のところそのような批判もあながち外れてはいない。しかし私は、そうであったとしても本作は美少女たちの内面を掘り下げていると思える。詩によって、である。
本作は"Literature"の名を冠しているが、その活動内容は"Poem"がほとんどである。文芸部なので別に小説でなく詩を書いていても問題はないが、しかしなぜか詩である(理由は言語化できないのだが)。ここでは詩の内容を詳細に分析することはしないが、しかし少なくともこれらの詩が彼女たちの一側面の写し鏡であるとは指摘できるだろう。
また、こちら側から詩を"作る"アプローチによってもキャラクターを知ることができるという、むしろこちらの方が意欲的で新規性のある手法も見られた。本作の1周目、モニカ以外の3人への分岐の際、フラグ成立のためのファクターの一つとして詩の作成がある。とは言ってもこちらが自由に作ることはない。というより提示された中から単語を選択していくだけで、それが詩になることはない。しかし、この単語の選択によってヒロイン達との会話に変化が発生する。この変化させるために選ばれる単語というのは、つまるところ各ヒロインの好きそうな単語で、作中ではその好きそうな単語をたくさん組み込んだ詩を作ることによってご機嫌を取ることになる。単語はヒロインごとに傾向があり、思弁的な単語、かわいい単語などおおまかに分類することも可能だろう。
では、作詞に見立てた単語の選択に何の意味があったのだろうか。これは、単語という断片の集積からヒロインのパーソナリティーを浮かび上がらせることだろう。幼ななじみのサヨリはその表向き明るい性格とは裏腹に"愚か"、"苦痛"、"死"などの陰のある単語を好む。その原因はすぐに明らかになることになるのだが、しかしこの選好を示されることによって、一層彼女の人間性がつかめてくるような気がするのではないか。