会話以上に、地の文が美しかった。
アリスソフト35周年記念展に触発されてプレイ。アリスソフトのファンよりむしろアリスソフトの他の作品はあまり知らないという人からの評価が高いような印象もあった本作だったが、確かにアリスソフトに抱いていたイメージとはやや異なる趣の作品ではあった。
しかし、だからと言って期待外れということは全くなく、ビジュアルノベルの短編としてはよくまとまっていて、主要キャラクターに魅力があり、地の文は読ませるものであったと思う。
キャラクターに関しては、なんと言っても初音が魅力的であった。序盤・中盤はミステリアスなお姉さま、そして残虐な妖として、後半は和久に嫉妬したり奏子に愛情を持つ「人間味」のあるヒロインへと、実に多様な側面から魅力が描かれており、二次創作がたくさん出たのも納得がいく。
上述の性格の多様さによって、例えば「初音は沙知保や鷹弘をこれでもかというほどに弄んでいたのに、同じことをした白銀に怒るのは筋が通らない」などの批判もあるように思うが、しかしこれはあまり意味のある主張ではないように思う。確かに筋は通らないのだが、しかし初音はそのことに自覚的であった。自らのこれまでの歩みと同じことを繰り返す白銀に対する指摘は、白銀への指摘である以上に自らへの指摘であり、初音が死へと向かう最終盤をより意味のあるものしており、筋が通っていないことの方がむしろ重要であると言えるだろう。
テキストについて、これは特に素晴らしいと感じた。ビジュアルノベル形式の、画面全体にテキストを表示する形式だからこその、小説により近い書きぶりのテキストは、概して感情を激しく煽り立てるものではなかったが、三人称の淡々とした、しかし心情を的確に表現するテキストは初音がいかに残虐な妖であっても感情移入をせざるを得ない箇所をいくつか生み出していたように思う。
本作における難点と言えば、短さに比してキャラクターがやや多いところであろう。章ごとにキャラクターが出てきては消えたり消えなかったりする中で、途中から出てきた燐や転校生の少年はネームドで、物語に強く関わっていた割には存在感が薄かったと感じた。勿論、本作は初音、次いで奏子にフォーカスする作品であり、ただの人間は初音の「餌」でしかないためそのパーソナリティを掘り下げる必要はないのだが、しかし欲を言えば、燐のような物語の最終盤に関わってくるようなキャラクターにはもう少し説明があるとよかったなと感じた。