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encolpiusさんの幻月のパンドオラの長文感想

ユーザー
encolpius
ゲーム
幻月のパンドオラ
ブランド
Q-X
得点
75
参照数
698

一言コメント

十分に楽しむには、かなりの「妄想力」を必要とするが、やって良かったと思える作品だった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

(購入前の注目ポイント)
妹ゲーでわりと評判が高いこと。「人の欲望をゲーム化する」という突飛な設定。有栖川みや美と遠野そよぎが声優陣に参加していること。

(プレイ後の感想)
妹ゲーで評判だったので、やってみたいと思っていたが、なかなか購入に踏み切れなかった。キャラ絵に馴染めなかったからである。
それでも、やってみようと思ったきっかけは、有栖川みや美が演じる詩乃鈴に会いたいという気持ちが抑えられなかったからだ。
そして、その期待は裏切られなかった。
詩乃鈴は最高に魅力的なキャラだと思うが、その魅力のかなりの部分は、有栖川みや美の魅力的な声によって生み出されたのだと感じた。

詩乃鈴だけではない。真姫、uniのようなメインヒロインはもちろん、初露、千歩子、菘というようなサブヒロインも生き生きと感じられて楽しめた。
声優たちの魅力をここまで感じた作品も珍しい。

声優陣に魅力を感じたためか、主人公とヒロインたちとの会話が楽しかった。
個別ルートでの主人公とヒロインとのデートはゆったりした時間を感じられた。
また、エピローグでの会話がかなり長めだったのは、意外でもあり嬉しくもあった。

反面、ストーリー展開のためのシーンがかなり簡略化されているように感じられた。
この作品では、様々なゲームをクリアすることが劇中劇になっているが、選択肢を選ぶもの以外は、それがどんなゲームかを感じるには、かなりの「妄想力」を必要とする。
とくに残念だったのは、主人公たちが電芸部で製作したゲームについて、ほとんど何も想像する手掛かりがないことである。せめてタイトル画面とメインテーマだけでもあればもっともっと良かったと思う。まあ、それが製作方針なのかもれないが。。。

この作品にはバッド・エンドがない。
私は登場人物たちが皆ハッピーになってほしいと望む能天気な人間であり、凄惨なバッド・エンドに対する耐性も、どちらかといえば低い方だとと思う。
それでも、トゥルー・エンドの意味をより明快にし、より魅力を引き立たせるために、あまり重くならないバッド・エンドがあっても良かったという気もする。
しかも、この作品の場合、それぞれの個別ルートのバッド・エンドは容易に妄想できるのである。
あるいは、そういうものはプレイする側の「妄想力」に委ねようという製作方針なのかもしれない。

当初は感じていたキャラ絵への違和感は、プレイを進めるうちに収まっていった。
後半の個別ルートに入ってからは、素敵な絵を何枚も見つけることができた。
主人公とヒロインが手を繋いだり見つめあったりしているところを大胆な構図で描いた絵たちは、何度でも見たいと思うほど気に入った。
キャラの描き分けも多彩で基本的には上手いんだと思う。
ただ、癖が強いという印象は否めない。

個別ルートの攻略順はとくに指定されていないが、uni⇒真姫⇒詩乃鈴という順番が良いと思われる。

uniルートは、ストーリー全体についての説明が多く、魔界との関わりは最小限になっている。
真姫ルートでは、ストーリー全体の説明はやや簡略化され、魔界との契約の一部が明かされる。
詩乃鈴ルートでは、ストーリー全体の説明はかなり簡略化され、魔界との契約の全貌が明らかになる。
詩乃鈴ルートを見ないと回収されない伏線がけっこうあるが、詩乃鈴ルートだけだと消化不良になるような気がする。

いろいろ思うところも多いが、最後までプレイして良かったと思える作品だった。