段取リズムのためにせっかく階段を設置したのに、たまに2,3段飛ばして駆け上がることもあるあたり、「等身大の恋愛を丁寧に描きます」に疑問。ただしその階段がいきなり下り坂になったり落とし穴があったりすることは無く、適度に次のフロアへ行けるようになっている。また、雰囲気の良さとシナリオの安定感はかなり嬉しい。
購入動機は場の雰囲気が良いキャラゲーをやりたかったのと、コンセプトに惹かれたのと、主人公が気になったから。
結果、おおむね満足。
森崎亮人シナリオは『Sugar+Spice!』以来のプレイ。
シュガスパはめんどくせー女たちと悩むポイントがずれている主人公とのやりとりが好みだった(かなり乱暴な評)。
梓を担当したらしい玉城琴也シナリオは初めてプレイ。
本作はシナリオ毎に完成度にばらつきは感じなかった。
完成度は高いのだけれども、「恋愛を丁寧に描きます」はちょっとウソだろ、と思わざるを得ない。
「えぇーっここで付き合い始めるの!?」「キスシーンさらっと流した!?」「セックスはやっ!」なんて思ったことは割と。
以下、気になった点をピックアップ。
■気の合う仲間たちの、雰囲気の良さ
本作は、ヒロインとのマンツーマンが良いというよりは、雰囲気が良い作品と言えるかもしれない。
主人公への警戒心の解き方、各ヒロインの役割などが居心地の良さを演出している。
月夜の緩さ、まどかの適当さ、それらをある程度締めるけどキツすぎない梓、ボケと突っ込みを器用にこなす主人公。
そして、これらの態度はそれぞれに対する信頼感を土台に発現している様子が分かって、なかなか良い。
■主人公の人柄
主人公の真くんは「重要な事の置き方がズレている」なんて序盤で言われていた。
もちろんプレイヤー側から「付いていけないこんな奴」と言われるズレ方ではないけど、やっぱりどこか変。
月夜に対して嫉妬ややっかみなんて持たない、なんて言っていた序盤。
しかし、あるとき「天才だから、とどこかに壁を作っていた」ということに気付く。
分かりやすく嫉妬などするよりよっぽど、月夜に対して失礼なのではないかと申し訳なくなり自己嫌悪する主人公。
悪意やエロさは人並みに持っていながらも、こういう発現の仕方というのは面白い。
そういえばシュガスパの主人公も、記憶喪失の癖して自分より相手を知りたいと思うズレた良い奴だったが、一癖ある主人公は森崎シナリオ特有なのだろうか?
ちょっと他の作品もプレイしてみたくなった。
■段取りの良さ - 星見月夜シナリオを見て
月夜との距離の近付き方が良い。
馴れ初めから仲良しになり、意識し始めた後付き合うことになってまでの流れは良質。
(もう上でも少し触れちゃった内容だが)
月夜は一見、頭が弱いか主人公にあっさり惚れちゃうキャラなのだけど……
プロフィールに「芸術関係の話になると警戒心はなりを潜め」とあるのは、なにも絵画に関することだけではない。
月夜が真に対する警戒心を解いたきっかけは、真の優しさからではなく、作っているものを見たことからだと思う。
堅実な作品作りに安心と、梓との差異を見る楽しさを感じたのではないか。
実際、モデュロールへ行った際に「真のとは違う」という理由で、有紗の制作物であることを見破ったわけだし。
この後にお菓子に釣られたり、「はい、あーん」とかいう悪女っぷりを見せつけるわけで、
やっぱり残念な印象を抱くことになるのだが。
それでも、「警戒心を解いたから出てくる、残念部分露見なんだな」という気持ちになれる。
これらの順番が適切だったことから、「ちゃんと段階踏んでいる感」が出ていてグッドだった。
まあ、「梓もまどかも有紗もそうだったのでは?」と言われればそうなのだけれども。
これが一番丁寧で、自然だったのが月夜かなと感じた。
そして、そろそろ付き合うのかと思いきゃ一歩後退し……てからの月夜のちょっとした変化。
イベント『着信アリ』~『思うところがありまして』までの一連の流れは美しい。
いや、こりゃぽんこつでも惚れちゃうよね。
月夜シナリオの惜しさは、その後の展開とシナリオの締め方だろうか。
まず、イチャイチャが他のキャラと比べて足りないように思える。
それと、あのシナリオの最後で月夜は何を掴んだのかどうも見えてこなかった。
本人からするとかなり楽になったのだろうが、ひじりにあれだけお説教されたのだから、何か分かりやすい変化でもあると良かったのでは。
■段取りの悪さ - そのほかのシナリオを見て
そして、他のキャラについて述べると、今度は段取りが良くないように思う。
本作は、各キャラと恋人になったときの瞬間好感度はキャラによってばらつきがある。
「月夜はあの瞬間好感度100だったけど、恋人になるときに実は50とかだったってキャラもいるよね」みたいな。
それは良いのだけれども、恋人になっていちゃラブパートになると、微妙な経緯でつきあい始めたことも忘れ、
「この人と一緒になるのは運命だった」と言わんばかりのラブラブっぷりを発揮。
梓なんかは「付き合い始めてから分かる一面」を表現していたように思うのだけれども。
(逆に梓は、恋人になるシーンの前にもうワンクッション足りなかったかなと)
どこかでまずいと思ったのか、まどかは終盤で自らの口から、有紗は回想シーンを使って真を好きになった理由を補足する始末。
キスアトに期待していたのは、この描写をシナリオ全体に溶け込ませることだったのに。
■総評
プレイ前に予想できる方向性からはさほど外れておらず、そういう意味では良作なのかなと。
このレベルのゲームが出せるのなら、このラインは安泰なんじゃないかな。