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elevenさんのアザナエルの長文感想

ユーザー
eleven
ゲーム
アザナエル
ブランド
NitroPlus
得点
85
参照数
4346

一言コメント

スクールランブルって漫画がありまして。その登場人物の一人に沢近って女の子がいるんですけど、当時、この娘が一番好きだったんですよ。けどね、この娘がまあなんというか、ある男に惚れましてですね。それがもう自分の中ではありえない展開だったもので、「うわーもうマジかよー」って軽くへこんだもんです。でまあなんでそんな話をここでするかっていうとですね、うん今回もそれと同じ気分を味わわされたんだ。もうほんとこういう思ってもみなかった所からくるのが一番キツい。さすがだよ、ニトロ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

大晦日の晩、解き放たれたアザナエル。
願いが叶う確率は六分の五。
失敗する確率は六分の一。


大晦日の晩、秋葉原に集う六人。
この中で、大晦日に引き金を引いたのは五人。六分の五。
元旦に引き金を引いたのは一人。六分の一。



如何にして、月夜乃沙紅羅に引き金を引かせるか。
それがこの物語の目指したことなのではないでしょうか。


人々の胸に勇気や希望といった弾丸を撃ち込んでいった沙紅羅は一人だけ明らかに他の五人とは立ち位置が異なります。
彼女はそもそも始まりから終わっています。
彼女は物語に登場したその時から、彼女の約束が決して成就されないことが約束されています。
大晦日に約束を果たさなければならないのに、どうがんばった所で、何をした所で絶対にその願いは届かない。そんな位置にいるのが沙紅羅です。
一見同じような位置にいる登場人物に綿抜フウリがいます。
大切な人が既に死んでいる点でフウリも沙紅羅と同じです。
ですが、フウリと沙紅羅では幸せに必要なものが異なります。
フウリの場合、彼女自身が心の奥底では「貫太の死」をすでに認めてしまっています。
彼女は物語の最初に手紙で貫太の死を知りますが(後でそれは太四郎の手による嘘の報であることが判明するが、実は事実でもあった)、それを否定し、忘れます。
手紙の内容が嘘であるかもしれないとは考えません。忘れるのです。向き合うことをしない。
そんなフウリに必要だったのは、貫太の死をなかったことにすることではなく、貫太の死と向き合う勇気でした。
彼女はそれを大晦日に出会ったたくさんの人々から受け取ります。
そして最後に引き金を引くに至るわけですが、フウリの幸せは「アザナエル」に頼らずとも手にいれられるものでした。
だから彼女には「アザナエル」で願いを叶えずとも前に進む勇気を手に入れた結末が用意されています。
フウリには必ずしも「アザナエル」は必要でないけれど、沙紅羅の願いを叶えるには「アザナエル」しかない。
これがフウリと沙紅羅、似たような位置にいる二人の決定的な違いです。
では他の四人はというと、彼らが大晦日アザナエルに願った願いは、
「大晦日にアザナエルによって引き起こされた事態(願い)をアザナエルで解決すること」だったと言い切れます。
こんな言い方はおかしいかもしれませんが、彼らの願いはある意味自業自得なものなのです。
故に彼らも沙紅羅とは違います。
そしてアザナエルを手にした時、その違いが浮き彫りになります。
沙紅羅以外の五人は、わりと簡単に、無謀にも、感情のまま、決意を込めて引き金を引くのに対して、
沙紅羅だけはその引き金を引くことを最後の最後までためらいます。
そう物語のなかで誰よりも強い心を持っていたはずの沙紅羅だけが、自身の願いのためにはその引き金を引くことができなかった。
一人では出来なかったのです。


では沙紅羅の願いとは一体なんでしょうか。
それは「同人誌を手に入れ、弟に届けること」そしてそこから「もう一度やり直すこと」でした。
「もう一度やり直すこと」。
これが沙紅羅の本当の願いで、何度も言いますが、物語開始の時点で叶うことのない願いです。
過去に一度、大切な人を失い立ち直った経緯を持つ沙紅羅は事ある毎に言います。
「あきらめんじゃねえ。遅すぎるってことはねえ。とりかえしのつかねえことなんてねえ。失敗は何度だってどこからだってやり直せる」と。
「願いってもんは自分の力で叶えるもんだ。自分で叶えないと意味がない」と。
彼女は自分を信じています。そして世界を信じていて、誰の心のなかにも神さまってやつがいると信じています。
そうやって弱い自分を必死に奮い立たせているのかもしれません。けれど彼女は決して自分に負けたりしない。
そんな沙紅羅は、大晦日の秋葉原でとにかく走り回ります。
自分でない、誰かのために。
今日その場で出会った友達を助けるために。
その行動は見ていて痛ましいほど必死で、あきれるくらいに考えなしで。でもいつだって本気です。
彼女に皆が勇気を貰い、希望の光を見出すは当然のことだったのかもしれません。
ですが沙紅羅のこういった行動は逃避でもあります。逃げて、忘れたフリをして、また逃げて。
弟の死を知らないからこそできる逃避の果てに、最後の最後で沙紅羅は、そのどうしようもない事実を知ります。
自分はまた失敗してしまったのだと。
やり直すことなんて無理だったのだと。
そして、自信を失ってしまう。
そんな彼女の手にアザナエルが渡ったのは運命の皮肉でしょうか。
偶然のいたずらでしょうか。
違います。
命を人の運命をもてあそぶために多くの人の手を流れてきたアナザエルは、
仲間の手によって、沙紅羅の願いを叶えさせるために彼女にもたらされたのです。
沙紅羅のいままでの行動が皆にそうさせたのです。
にもかかわらず、沙紅羅は最後の最後までその引き金を引くことをためらいます。
それは、命を失うのが怖いからではありません。
彼女は自分の命と引き換えに弟の命を手に入れることができるのならば喜んでその命を差し出すでしょう。
沙紅羅を躊躇させたのは、「結局、間に合わなかったどうしようもない自分が、姉として弟と向き合う資格がない」と
思い込んでいたからです。
こんな自分が願いを叶えていいのか?
もしかしたら、彼女が一番、幸せになることにおびえていたのかもしれません。
そんな沙紅羅だからこそ、大晦日の晩に秋葉原で走り回り、仲間たちと出会う必要があった。
アザナエルの引き金を引かせるために。
もう本当に届かない願いに手を届かせるために。
引き金を引く。
引いてもいいのだと。
みんな幸せを手に入れたのに、あなたの手にそれがないのはうそだから。
あなたはあんなにもみんなのためにがんばったのだから、今度は自分のために、自分の幸せのために、願いをかなえてほしい。
その願いは、絶対に叶えていい願いなのだからと。
そうして、最後にミヅハが手を添えます。
「人の力では届かぬ願い。それを叶えるのが神様の役目じゃ」
奇跡を手にする資格は確かにあるのだからと。
あなたはそれを信じてよいのだと。
勝負事の神様であるミヅハが力を貸すのだから、願いが叶わないはずはない。
けれどここで大事なことそんなことじゃない。
仲間が背中を押してくれるから。
友達であるミヅハがそばにいてくれるから。
ただそれだけが一番大切なことで。
だからこそ、沙紅羅は自分を信じて引き金を引くことできたのです。

この物語は沙紅羅がみんなの幸せを願って、みんなも沙紅羅の幸せを願った物語であり、彼女に引き金を引かせるためのあたたかな物語だったのだとそう思います。

















ここからは先は閲覧注意だよ!!!






















上のを投稿してから一日経っても抑えきれなかった、不満点やらなんやらを書きなぐっております。
気分を害される恐れがありますのでご注意ください。


















うん、グラサンつながりで思い出したんだ。分からない人はスマン。
双六の位置にはプレイヤーの分身(=主人公)を配置してほしかったなあと。
双六と沙紅羅がくっつくとかとかもうね。
これプレイする前に同月に販売されたイチャラブ萌えゲーをやったのもいけなかったのかもしれないけれど、
自分がちょっといいなって思っている娘がなんでそんな奴と!?みたいなのってほんとキツイ。
ある意味、恋人が寝取られるってのよりくるものがある。
寝取られゲーとかやってる時は、ごちそうさまっていう風に脳が働くからいいのだけれど、今回は、スマガチーム製作ってことでそういうの全然考えてなかったからもうね。
あ、でもスマガは積んでるんですけどね。雰囲気的に純愛系っぽいし寝取られはなさそうだなって思ってるだけなので、
実はありましたーってんだったら、そら悪いのはこっちなので何言ってんだこいつって思っといてください。


ええとそれで今作のアザナエル。まず何点つければよいのか悩みました。
いつもはけっこう感覚まかせでぽいぽいつけてるんですけどね。でも迷いはないのですよ。
でもこいつは正直今でもこの点数でよいのかわかんねっす。80点じゃなかろうかとも思うのですが・・・うーむ。
TRUE END(終幕と出るあれ)を観た直後だったら、90点なんですけど(基本シナリオ重視なので)、
その後のルート回収でかなーり、盛り下がってしまったのですよね。
盛り下がった状態でプレイすると、今度は粗が色々気になってくる。そいでもってますます盛り下がる・・・の悪循環に陥ってしまいました。
TRUE ENDみたのって6周目(ニュアンスとしてね)だったのですけど、残り4個の結末を見るたびに、なんかもう色々台無しというかw
なぜTRUE ENDを最後に開放する仕様にしなかったのか?
そもそも、「あなたの辿った道筋が本物で、そうして手にしたのがTRUE END」と謳うのなら、「TRUE END」って逆にいらないですよね?
いやあった方が断然いいけれど、それならもっと他の結末もがんばってよって言いたい。
「俺はこの結末のほうが好きだな」って大声でいえるくらいにはちゃんとしたものを作って欲しかった。
なので今の所、物語90、演出90、アザナエルシステム80、環境周り70って感じで端数切り上げの85点に落ち着いてます。


願いを叶える拳銃って発想は面白いですよね。
そこに「上辺の願いじゃなくて心の奥底に眠る願いを叶える」ってのが付加して
かなりいい感じになってるのがまたすばらしい。
でも、全然作中でこの設定が活かされてないんですけどね!!
ドラ○ンボールとほぼ同じで生き返りアイテムになってるじゃねえかって思わなくもないのよこれカナシイネ。
ああそうそう、それであのインド人なんだけど、黒幕なのはいいけれど、
名探偵と千秋に追い詰められるシーンのしょぼさは手抜きにしか思えませんでしたわ。
最後の最後で読み誤るにしてもあれはないんじゃなかろうか。
あれには本当にガッカリしたっす。


あれはないんじゃなかろうかつながりでもう一個。
というか一番これが言いたいことなのですけど。
登場人物たちの行動が感情任せというか行き当たりばったりすぎでしょこれ。
「お前ら、目先の事件に飛びつきすぎだろ。本来の目的をすぐにぽいぽい投げ出してそっちいくんじゃねえよ」って何回つっこんだことか。
もうほんと登場人物たちが物語の奴隷状態。
なのでちっとも感情移入できなかったよ。そういう意味では途中から諦めて読んでましたね。
笑えるシーン、泣けるシーンもたくさんあるし、物語それ自体は綺麗なんだよ。
けれど、諸々「アザナエルシステム」の犠牲になった感がある。
やっぱりその行動や考えに共感できないっていうのはかなりマイナス印象が残りますな。


あと移動にかかる時間なんだけど、みんな一分くらいで移動してたりするけど、アキバってそんな感じなん?
土地勘ないからさっぱりだよ。でもそれにしたって、短すぎるんじゃないだろうか?
なんて、地図を見ながら思ったりしました。・・・でもあの地図あんまし意味ないよねww


ゲーム環境。
ニトロはこいつの評判が芳しくないのだけれど、うん理解した。
まずゲームの起動がなんか遅い。
起動するのに30秒くらいかかるんですけどw
終了後も、なんかPCの動きがもっさり風味だし。
音声の再生も頻繁にだぼつくし。
相性の問題かもしれないけれど、他のゲームじゃこんなことないので、やっぱり疑ってしまう。
あとソフト電池。これなんぞ?
ネット認証は別にかまわんけれど、これだけはようわからん。
ダウンロード販売でインストールするタイプのゲームに使用されているのとは
また違うタイプのものなのだろうけれど、こいつのせいでPCの調子が悪くなってるんじゃないかってやっぱり勘繰ってしまう。うーん。






まあこんなところでしょうかねえ。
ああ、そういえば、他の方の感想に、
スマガやソニミコの販促臭がぷんぷんして不快だったっていうのがありましたけれど、
これはほんと笑えるくらい、スゴイ。
ここまでやられるといっそ感心する。
まあelevenがスマガ未プレイでよく知らんからあんまし気にならなかったってだけかもしれないのだけれど、今作に期待していた人には確かに不快なものかもしれない。
これからプレイする人はそういうもんなんだと割り切っておくとよいかもかも。



じゃあまあこんな感じで!!