砂の城のような作品
立絵、CGはとても綺麗で、シナリオ、音楽も良質である。しかしながら傑作とは言えず、寧ろ泣きゲーの中では凡庸な出来に。
幽霊をメインヒロインに据え、死生感を様々な側面から捉え、章毎に展開させる形態は非常に良いし、夏から秋への移りを強調し、結末への進行を印象付ける方法も良い。ストーリー自体も日常シーンを繰り返しではなく結末へ誘導していく形になっており上手い。
では何故低評価をつけるのか?それはこのゲームは外面は良いが、中身、それも肝心なところで粗が多い。まさに少し突っ込むと簡単に崩れる砂の城のようである。シナリオ構成は良いが、内容が今一つであったり、エンディングがあまりに拙かったり。
他にも、夏→秋の季節の流れがかなり重要になってくるが、単に制服が変わる、背景の色が変わるで止めず、文章で気候の移り変わりを示唆するのではなく、もう少し自然に段々と変わっていくような流れが欲しかった。突然季節が変わって、突然明穂が薄くなるってのは違和感を隠せない。
以下個別ルート
つばさルート
姉への憧れ、嫉妬、かつ主人公への愛情という、共通ルートの三章と同じテーマで展開しているため、飽きる。つばさ自体が絵調も良く、ルートの出来が良ければ妹キャラとしてもっと評価できただけに残念。CGの質は高い。
珠美ルート
このルートはそこそこ。第4章と共通項を持たせつつも差異のある個別ルートになっており、この作品の中では内容は1番面白かった。珠美の設定もかなり良かっただけに、一段と完成度を高めていると言える。
ただエンディングが単なるラブコメの延長線に位置する形となってしまい、折角の特異なキャラ立ちを消してしまっているのが残念でならない。
千早ルート
シナリオ構成が拙く、間が持たなくなったら過去を曝け出して終了と言った感じ。シナリオ自体も短く、印象に欠ける。
明穂ルート
明らかに一番力を入れて作るべきルートが一番拙いというのはどういうことだろう。私はほとんど60点代はつけないのに今回つけた大きな要因はこのルートにある。
初めから設定が特異なだけに、今さらご都合主義について特に何も言うつもりはないが、与えられた自由度を生かして死生観に思い切りぶつかっていってもらいたかった。最終章で突然輪廻の話を出して、特に変わることなくそれを使用ってのは。考えさせられることを期待したテーマだけに、非常に残念である。
個人的には、委員長ルートを作って、ラブコメ路線に走った方が良かったようなと思う。日常シーンはよく出来ているからというのが理由である。反面劇的なシーンの出来が弱いと言うのは、まるで肝心な時に打てないバッターみたいで、締まりが悪いように感じる。