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dr.takさんの何処へ行くの、あの日の長文感想

ユーザー
dr.tak
ゲーム
何処へ行くの、あの日
ブランド
MOONSTONE
得点
95
参照数
869

一言コメント

ただひたすら「世界」という可能性を求め続けた少女の物語。絶望を引きずりながら少女が辿り着いた「本当」の形とは……?『水夏』に勝るとも劣らない、紛うことなき呉氏の傑作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「水夏」や「あした出逢った少女」などの過去作と同じように、
ただ漠然とプレイしては掴み所のない印象を受けそうな、まさに呉氏らしい作品。
Serious Lyrical Fantasy ADVという公式発表のジャンル通り、ファンタジー色が濃く出ているが、
あくまで本作「何処あの」の中心にあるのは、切実なまでの絵麻の思い。

特に中心として描かれているのは絵麻と千尋。
話における「世界」が絵馬が求める可能性であるという以上、
主人公と2人だけの「世界」を望む絵馬の中で、主人公も「世界」の中心にいるのは確かだが、
本作のプレイヤー視点である主人公は当然「世界」の摂理を認識できていない。
このあたりは「あし少」などとかなり類似した設定と言えるのではないだろうか。

内容的には平行世界物といえばそれまでだが、多くの平行世界物では、
無数ある「世界」のひとつをその結末として描いているのに対し、
本作では各個別ルートの結末において、その「世界」が消えるという形式をとっている。
これは最初に書いたように、あくまで話の中心が絵麻の「思い」であるということ。

よって、個別ルートにおける「世界」は消される運命にある「可能性」であり、
千尋ルートなどでは、可能性を消す立場である千尋自らが、主人公と一緒になる可能性を消してしまう。
他のヒロインの個別エンドも可能性のひとつでしかなく、幸せになっても消えてしまう。
各ヒロインに思い入れがあった人にとっては少々キツい設定かもしれないが、
個人的には、いかにもライターの「らしさ」が出ていると思う。

そして、メインルートにあたる絵馬ルート。
千尋ルートである程度明かされた「世界」の謎が、ここでようやく解かれることになると同時に、
自ら死を選んでまで、主人公の中で最も大きな位置を占めるという可能性も登場するほどに、
絵麻の思いの強さを描いたシナリオになっている。
最終的に残る「可能性」も幸せな世界に見えて、絵馬が本当の意味で望んだ世界とは異なる。
一貫して「仲の良い普通の兄妹」を望む主人公の思いが、絵馬の思いとは対極にあたるため、
絵麻が本当に望む世界というのは存在しないのかもしれないが、やはりちょっとほろ苦い気持ちになる。

個人的には「水夏」「あし少」と並んで呉作品の中では大好きな本作だが、
絵麻や主人公に嫌悪感を抱いた人にとってはプレイするのが苦痛になるかも。
システム面でセーブデータの使いづらさに関して挙がっているが、自分はそう気にならなかった。
ただ、不満を挙げるとするなら、もう少しサブキャラをしっかり描いてほしかったということ。
本筋とは離れるとはいえ、せめて島が過去に何を望んでいたのかくらいは知りたかった。

楽しかった少年時代の夏のひとときを思い返すシーンが作中に出てくるが、
MOONSTONEもこの頃は本当に良かったと再プレイしてみてしみじみ感じた……