安易なお涙頂戴モノかもしれない。しかし「ここが悪い、ここが変だ」などという粗探しは全部後回しにして、とにかくまっさらな気持ちでプレイして欲しい。そうすればきっと、それぞれの想いを抱いてたすきを繋いでいくヒロインたちの様に自然と心動かされるはず……
スポ根モノというだけでも弱いのですが、中でも駅伝のようなドラマ性のあるスポーツがテーマとなると手を出さずにはいられませんでした。
なにせ正月には毎年のように箱根駅伝のTV中継を見て、中継の合間の箱根駅伝今昔物語でも感動しているのですから……
しかし、ドラマ性のあるテーマだけに、エロゲだとそのテーマを十分に活かして描けないのではないかという心配はありました。
……が、結果としてはいい意味で期待を裏切られたんじゃないかと思います。
プレイし終えてみて、正直スポーツとしての「駅伝」のみを取り上げた場合、きっちり描けているとは思いませんでした。
それは駅伝の練習風景であったり、ヒロインたる陸上部員同士がまとまっていく様であったり、
そういう部分に対しての描写ははっきり言って本作を見る限り弱いかなと思います。
ただ、読み手に感動を伝えるという意味で、駅伝を物語の軸にしたことは大きかったのではないかという印象を受けました。
まず物語の舞台ですが、北九州の門司が舞台になっていますね。
関門海峡で有名……とはいえ、世間一般ではやや馴染みの薄いローカルな土地だとは思いますが、
割と地元に近い自分にとっては話にすんなり溶け込めるひとつの好材料になりました。
登場する高校の名前なども、地元の人間であればピンとくるところかもしれません。
次に、肝心のシナリオに関してですが、物語序盤から中盤にかけては足を怪我した元陸上選手の主人公が、
母校の女子陸上部のコーチになり、海峡駅伝大会の優勝を目指すというスポ根寄りの内容になっています。
そのため、上記したような練習風景などの描写の少なさに、ちょっと期待外れだったかなと感じていましたが、
結局ラストには「ああ、これなら駅伝をテーマにしたことも頷ける」と納得させられてしまいました。
ただし、中盤以降の展開を受け入れられるか否かは、人によって極端に変わってくるかもしれません。
というのも、物語がスポ根路線からあまりにもわかりやすいお涙頂戴路線に移行していくため。
このあたりの流れの変化を受け入れられない人や、一言「あざとい」と斬り捨てる人にとってはお薦めできません。
しかし、この先プレイする人がいれば、願わくばプレイ中だけでも、まっさらな気持ちで物語を楽しんでほしいと思います。
そうすることで、それぞれの想いをたすきに乗せて繋いでいくヒロイン達の姿に心打たれることが出来るはず。
かくいう自分も、ラストの海峡駅伝での挿入歌や、ヒロイン達それぞれが走る姿にスポットを当てるシーンなど、
演出の「あざとさ」に乗せられた感はありましたが、終わってみればそれも悪くないなと感動することが出来ました。
それは本来期待していたドラマとは違う意味合いでの感動だったかもしれませんが、終わりよければそれもまたよし。
一言コメントでも書きましたが、内容的には安易なお涙頂戴モノだということは否定できませんし、
プレイした10人中10人が素直に泣けた……と言えるような作品だとは思いません。
また、物語中の期間に対して共通ルートも短く、どのヒロインの個別ルートも似たような展開であるため、
ボリューム面などを考えても物足りなさが残ったという人もいるでしょう。
しかし、少なくとも自分にとっては「プレイして良かった」と感じることの出来る作品になり得ました。
駅伝の持つドラマ性や音楽などといった演出の妙によって泣かされてしまった本作ですが、
次回作ではどういう方向性の作品を作ってくるのか、早くも今後が楽しみなブランドです。