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dr.kazuhaさんのひこうき雲の向こう側の長文感想

ユーザー
dr.kazuha
ゲーム
ひこうき雲の向こう側
ブランド
FLAT
得点
85
参照数
350

一言コメント

会話のテンポがよく、自然と物語に引き込まれていきました

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

自分がこの作品を気に入ったのはタイトル画面がディスプレイに映されたときでした。季節に取り残されて静かに佇む一輪の花が思い起こされるピアノの旋律には言葉がでず、何度も何度も見返してしまいました。おもえば、タイトル画面にこれほど心を奮わされたのは、初めての経験です。(G魔王も良かったですが、ひこうきほどの衝撃はうけませんでした。)

内容に関しては取り上げて言うほどの問題はなかったですが、強いて言うならそれぞれのルートはどれも一見に値すると思いますが、一人を優遇しすぎてバランスがうまく取れていなっかたかなとだけ。

キャラクターもプレイヤーに伝えたい事と考えてほしいことをうまく表現してくれていてクリア後の哀愁の代わりに物思いをプレゼントしてくれました。

音楽はピアノ中心に寂しげなものが多めかと。好き嫌いはひとそれぞれかもしれませんね。

この場をかりて考えたいのは、やっぱり瑛莉のことですかね。
彼女の立場は自分の才能を良く思はない人からのいじめが原因で女性としての機能を失い恋が出来なくなってしまったけど恋がしたい(むしろだからこそ恋がしたいのか?)かなり微妙な立場に立たせれています。そして恋愛観測部なるものを設立し、告白現場を盗撮しては試練を与え恋とは何かを悩んでいました。そんな日常に主人公が介入し新たな歯車が動き始めます。恋がしたいけどできない瑛莉と恋をしているが逃げている主人公との絶妙なカップリングは見事true endを迎え、よくある幕引きをしてエンディング曲が流れました。
この時正直こんなものなのかな~と少しひっかかるものがありました。作中での瑛莉の態度がいまいちすっきりしなかったんです。瑛利は前提として、子供を産めないからだ=最後には絶望、があったからこそ、袋小路の道=はじまる恋、ができなかったはずです。エンディング以前に描写された部分にははさながら迷路にさまよい込む哀れな子猫のようすしか描かれていなかったようにしかおもえませんでした。
だけども、エンディング後のその後の二人が生きて行くようすを断片的に切り取った場面にはひたすらに感動しました。特筆すべきは年老いた瑛莉がひこうき雲を見たときに言った言葉の、たしか『雨の日もわるくない』みたいな台詞です。この言葉にいままでの悩みが一気に消え去りました。雨が指すものは将来への不安、いまあるものがなくなってしまう変化への恐れ、つまり終わりに向かうはじまり、これを許容できたこの瞬間に彼女の恋ははじまったのではないでしょうか。
まさしくこの瑛莉のこころの変化こそ「ひこうき雲の向こう側」なのかな~と考えています。

長文感想失礼いたしました、