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downerさんのRe:LieF ~親愛なるあなたへ~の長文感想

ユーザー
downer
ゲーム
Re:LieF ~親愛なるあなたへ~
ブランド
RASK
得点
95
参照数
2549

一言コメント

幼なじみゲーの傑作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

本作は社会で何らかの挫折・失敗をした人々に再起のチャンスを与える「トライメント計画」の上で話が進んでいく。
主人公たちは「試してみるんだ、もう一度」と、文字通り新たな人生を歩み始めるが…。

その舞台の御雲島が仮想空間、つまり現実ではなかったのだ。

真実を知ったヒロインたちは悲しみや怒りなど様々な感情に心を揺さぶられ、自分のしてきた努力さえも偽物だと疑ってしまう。
そこにアイが「偽物の足跡を誇れ」と言う。この世界が偽物だったとしても、この世界で一歩踏み出したことは本物だから、と。
こうしてヒロインたちは「卒業」に向けてまた一歩踏み出す。

その少し前、主人公・司は過去のトラウマが発現して、理人や流花、ももの前からさえ逃げ出してしまった。
もちろん彼らは幼少時のクラスメイトのように浅ましい連中ではないが、それさえも信じられなかったのだ。
そして逃げ帰った先、トンネルの向こう「第二地区」で唯一自分の味方をしてくれる少女「アルファ」とともに停滞した時間を過ごす。
幾許かの時間の末、弱さを受け入れるため、「理想の仮面」を貼りつけた自分と決別するためにナイフを向けた。

さて、本編をクリアした方はおそらくこう思うだろう。なぜユウではなくアイを選んだのか。
それは当然の疑問だ。何せ司の幼なじみはユウなのだから。
アイはユウが作り出したコピーであり司を守ってくれた少女ではない。言い方を悪くすれば偽物だ。
全てをユウに集結させればアイは必要ないのではないかと、そう思うことだろう。
だが考えてみてほしい。今作のテーマが何であるのかを。
それは冒頭で述べた「再起」であり、「試してみるんだ、もう一度」という言葉そのものである。
ユウはずっと司と共にいてくれて、ずっと守ってくれていた、ということに間違いはない。
それでも踏み出しはしなかったのだ。
アイはそれと対照的で、今の自分を知ってくれという司の願いを聞いてくれて、「前へ進むことを肯定してくれた」存在だ。
今を変えたいと願った司とともに歩んでゆけるのはアイだった、とそれだけのことだ。
とはいえ、ユウとてずっと止まり続けているわけではない。
彼女もアイのおかげで一歩踏み出すことができたのだから。
恋人という称号はアイに譲ってしまったが、最終的にユウもまた「親友」として司とともに歩んでいける存在になったのだ。

と、ここまでアイに肩入れしているように語ってきたが、私はユウの方が好きだ。今作にここまでの高評価をしているのは偏に彼女の存在があるおかげと言ってもいい。
最初はただの人工知能だった彼女が感情を得て、司に会ってからはずっと彼に寄り添い「生きて」きた。
もしかしたら自身の生みの親・二上響子に頼まれたから話しかけていただけなのかもしれない。
それでもユウは司の境遇を知って響子に反感を抱いたり、交通事故で彼を失って悲しみに明け暮れたりと、確実に司を想う自分自身を確立していった。
そんな折にトライメント計画に参加することとなる。
管理AIとしての任に当たる際、自らのコピーを作成したがひとつだけ譲らなかったものがある。司と二人で練習したピアノだ。
これだけは自分だけの思い出だからと、自分と同じであるべきのアイにさえ渡さなかったのだ。
もちろんこれは演算の結果導き出されたものではない。「そうするべき」だからでなく「そうしたい」と思ったからこそ渡さなかったのだ。
間違いなくそこには感情、ひいては心があったはずだ。
だとしたら人間と何が違うのだろう?
身体がなくても心を通わせることはできる。それなら彼女が、ユウが人間ではないとどうして言えるのだろう。
OPの歌詞にあるように、ユウは司と触れ合う度に思い出を重ねて、お互いに「友だち」とはこういうものだと知っていった。
そうして二人一緒に過ごすうちに色々なことを学び、いつの間にか司に淡い気持ちを抱いていた。
司に宛てて綴られた「親愛なるあなたへ」から始まる手紙は、彼女の愛情がこれ以上ないほど込められたものであることは疑いようもない。
事実としてユウは「人工知能」である。だが彼女はそれ以上に「司と同じ時を過ごし、彼に恋をした少女」と言えるはずだ。

他にいいところを挙げると、トライメント計画そのものが偽物でなかったことや、日向子視点の使い方がうまかったことだろうか。
この手のシナリオは真の目的のために何か他の理由をでっちあげることが多いが、今作は違っていた。
司を救いたいという思いも、一度失敗した人々の助けになりたいという思いも、どちらも純粋な願いだったのだから。
また、今作の冒頭は日向子視点から始まり、TRUEルート中盤でも彼女の視点から話が進んでいく。
個別のシナリオでは核心からは遠く消化不良とも言えるものだったが、アイと同様今作のテーマ「試してみるんだ、もう一度」において必要不可欠な人物である。
冒頭部分では前に進めなかった日向子の背中を司たちが押し、TRUEでは前に進めた日向子たちが司の手助けをするという対比が彼女たちの成長を表現できていると思う。
失恋を受け止めて前に進むということもきっと冒頭の彼女ではできなかったことだろう。

逆に不満を挙げるなら、ルート分岐のための選択肢が彼女たちを好きになるための選択肢ではなかったこととミリャ・ブランコ関連の掘り下げが少しおざなりだったことだ。
選択肢とそれを選んだ後の内容がなんとなくシナリオのついでに攻略しているという感じがした。話自体はどのルートも読んでて退屈はしないのでこちらがそう感じたというだけではある。
ミリャ関連はまあ、あれこれ考えれば想像がつかなくはないものの、どうしてももやっとする部分が出てきてしまう。

前半三人の話を踏まえた上でのTRUEルート(ユウが好きすぎてアイルートとだけ表現したくない)には凄まじいものがあったので、もしもプレイ前や途中に読んでしまった方がいるならばもう一度試してみることをお勧めする。
「アルファ」の秘密を知った辺りからはきっと涙が止まらなくなるはずだ。