ErogameScape -エロゲー批評空間-

dovさんのNatural Another One 2nd -Belladonna-の長文感想

ユーザー
dov
ゲーム
Natural Another One 2nd -Belladonna-
ブランド
DreamSoft(F&C FC03)
得点
89
参照数
2047

一言コメント

男が持つある種の執拗さに限界まで応えようとした「究極」のゲーム。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 まずは他のゲームのテキスト容量を見て欲しい。

 家族計画:1.83MB
 CLANNAD:3.91MB、
 Fate/stay night:4.29MB、
 遥かに仰ぎ、麗しの:3.85MB
 Hello, World:7.0MB

 さすがハロワ狂ったように長いぜ。
 それはさておき、これらを見た上でNatural Another One 2ndのテキスト容量はどれくらいだと想像するだろうか?
 まぁハロワは異常として、かなり長い作品と呼ばれるFateやCLANNADやかにしのでさえ4MB前後なのだから多くてその程度だろうなと見積もる方が殆どであろう。
 ところがこのゲームのテキスト容量は8MBなのである(※1)。「あのハロワ」より長いゲーム(※2)、それが本作なのだ。
 さて、そう聞けば大抵の方はこのゲームを「大作」だとみなすだろう。そしてこんな疑問を抱く方もおられるはずだ。あれ、それだけ規模の大きなゲームなのに何で知名度が低いんだ? と。
 その答えは明白である。このゲームは「大作」ではない。
 なんじゃそりゃ、8MBも使って「大作」ではないってどういうことだ。そう思われる方は実際にプレイすればおそらく納得するはずだ。このゲームで描かれる世界は非常に小さいのである。
 まず、登場人物が主人公以外にたった6人しかいない。メインヒロインである樹・碧葉・響果・蜜音、サブヒロインである美園、そしてサブキャラクターにして悪役でもある鉄男。これで立ち絵のあるキャラクターは全てだ。大作どころか普通の大きさのゲームと比べても登場人物は少ない。
 しかも更に言えば、美園や鉄男は殆ど出てこない。そして響果と蜜音は基本的にセットで登場する。……つまり、このゲームは8MBもある容量を「樹」「碧葉」「響果&蜜音」とのやりとりで殆ど使い切ってしまっている。
 登場人物が少なければ舞台も極端に狭い。このゲームはいわゆる「館モノ」で、館の中で話が終始する。しかも21もエンディングがあるが基本的に話は一本筋で、あらゆるシナリオは鉄男の悪意と館が持つ霊的な悪意を(シナリオによって描かれ方や両者の関係が異なるのだが)どうにかするという話でしかない。
 さて、ここまで読まれた方は余計混乱するかもしれない。登場人物がたった6人(+主人公)で、舞台はただの洋館、そしてシナリオは一本道……これでFateの倍近くにも及ぶ容量をどうやって埋めたのかと。それがまさに冒頭で書いた「執拗さ」なのである。
 前置きが長くなったが、ここで答えを明かしてしまおう。この作品の「執拗さ」とは主人公たる男の情念と女の情念とのぶつかり合いをこれでもかという程に徹底的に容赦なく発狂するほどに描き続けた点にある。この点においてこのゲームは他のゲームを全く寄せつけておらず、このゲームに匹敵する作品が今後生まれうるのかどうかも怪しいと思われる。
 ここからは具体的にその「執拗さ」の中身を明らかにする。

-主人公-
 男と女の情念のぶつかり合いにおいて「男」側をたった一人で担うのが草平こと彼である。「女」側の濃すぎる連中とたった一人で対峙するだけあって、その設定はこっ恥ずかしいほどに中二病だ。
 小さい頃既に両親を喪っており、たった一人の肉親である兄とも不仲で、彼は闇医者の世話になりつつ生きてきた。知能は極めて高く、大学には殆ど通っていないが成績は優等を誇る。それなりの修羅場を潜っておりその辺のチンピラなら二、三人まとめて倒せるほどの腕っ節がある。そして天性のジゴロで数多くの女を手玉に取り、特に美園を彼無しでは生きていけない肉奴隷に仕上げた経歴を持つ。
 更に彼は不完全ながら相手の心が読める能力を持っている。時々相手の考えが自分に流れ込んでくることがあるのだ。
 ……この設定を聞いた時点で我慢できない方はこのゲームに向いていません。お帰り下さい。

-ヒロイン-
 さて、そんな彼が向かった館に住むヒロインたちは、全員が恋人どころか友達さえ一人もいないという凄まじい環境で生きている。彼女達にとって世界は完全に館の中で閉じられており、話す相手はお互いだけ。彼女達はみな心の傷を負っており、しかも自分達を引き裂き利用しようとする悪意に晒され続けている。
 そんな地獄のような環境下で、少女達は母娘とメイドという疑似家族を形成して互いの傷を舐め合っている。いつか自分達を救い出してくれる誰かを待ちながら、暗闇のような孤独に必死に耐え続けながら……。
 そこに草平が現れる!
 さあ、もうこの時点で凄まじい物語が展開されることが予想されますね!

-樹-
 このゲームのメインヒロインである彼女は、しかし純愛ゲーム的なメインヒロインとは少し異なった位置づけである。
 まずは彼女の設定から説明しよう。樹は草平の幼馴染でお互いを憎からず想っており、彼女は数ヶ月だけ草平よりも早い生まれだったことからお姉さんぶって「草平ちゃん」と呼んでいる。呼び名通り草平に対してエロースというよりアガペーに近い愛情を注いでおり、ゲームでの立ち位置も「恋人」というよりも草平が何をしても、他の女をコマしても無限の包容力をもって赦してくれる「母親」に近い存在である。
 さて、そんな設定から窺える通り慈母のように心優しい彼女だが、その境遇は悲惨である。まずこの館の先代主である隆三に両親を自殺に追い込まれ、更に両親のカタキである隆三の嫁として迎え入れられる。そして彼の監視下で1年以上誰とも一切の交流を取ることができないといったあらゆる精神的苦痛を与えられ屈服を強いられ、隆三の奴隷に堕ちる。見知らぬ男に抱かれても構わないとまで宣言し隆三に体中の穴の中を自ら開いて見せるほどに尊厳を失った彼女は、しかし処女を散らされる最後の瞬間で隆三を「殺」してしまう。
 また、彼女は薬を飲むことで予知能力が得られるのだが、その代償として著しく命を縮め、ゲーム開始時点で既に明日にも寿命が尽きるかもしれない状態である(ハッキリとは描写されないが彼女の余命は1ヶ月~2,3年くらいだと予想できる)。
 ……ゲームをプレイしていないでこの感想を読んでいる方は「狂ってるなこのゲーム」と思うであろうが、そういうゲームなんだ。
 さておき、そんな彼女の草平に対する想いは強烈だ。
 なにせ、家族を失い、友人とは引き離され、人としての尊厳の全てを奪われ、心優しいのに「殺人者」という十字架を背負わされ、そして自らの命ももうすぐ尽きるのである。何もない……心の全てが枯れ果てた彼女の前に愛しい男、かつての幸せな日々を体現する男が現れる。彼女の心に女の情念という名の燎原の火が燃え広がることは火を見るよりも明らかであろう。
 じじつ彼女は「凄まじい」と形容する他ない愛を惜しみなく草平に注ぐ。彼女の愛を疑う草平に対して再会初日で処女を捧げ、翌日からは朝起きたら犯され昼食を食べたら犯され夜寝る前に犯される生活を悦んで受け容れ、いかなる場所・状況でも服を脱ぎ捨て、草平に求められれば尻の穴を開いてみせ彼の目の前で排泄してみせ、首輪を付けられ裸で屋敷中を引き回され「あなたのためなら人間を辞めます」「私はあなたの奴隷(雌犬)です」「あなたが求めるならいつでも喜んで身体を開きます」などと貞淑な顔のまま凄絶な発言を繰り返すのだ。
 もちろん彼女としても、もっと普通の愛が欲しいのだが、草平がそういう人間ではない以上、受け容れるしかない。彼女には草平以外何もないのだ。いかなる陵辱を受けようと他の女に手を出されようとただ恥じらいながら気狂いながら彼に愛情を乞うしかないのだ。
 だから、彼女はいかなるシナリオに進もうと草平に自らの全てを与え続ける。そういう意味で彼女は紛れもなく「メインヒロイン」である。
 ただ、男ってのは女を攻略したい願望があるわけで、いきなり全てを開いてしまう彼女はある意味既に攻略対象ではない。最初から究極に至ってしまったがゆえシナリオも存在しないに等しい。草平と彼女との関係はただひたすらに彼女が草平に貪られるだけである。だからメインヒロインらしくないと批判する感想が多いのであろう。
 だが、彼女がこの物語の軸であることには疑いの容れようがない。詳しくは後述するがこの作品がこれだけ陵辱・グロ要素を備えていながら基本的に未来志向で明るく楽しいとまで言えるのは、間違いなく彼女のおかげである。

-響果-
 彼女はこの異常が跋扈するゲームの中で唯一まともと言えるヒロインである。八千草一家に襲い掛かる人間的な脅威に立ち向かい続ける碧葉、霊的な脅威に狂わされつつある蜜音、そしてその両方に引き裂かれそうになっている樹がいるなかで、彼女だけは脅威から距離を置いた立ち位置にあり、その悩みも「義母である樹と打ち解けたい」「草平に恋をしてしまった」と年頃の少女らしい。
 もっとも、彼女が知らないというだけで邪悪の牙は彼女のすぐ側まで寄ってきており、シナリオによっては彼女の幼い命は悪意の供物とされてしまうのだが……(当初彼女は全シナリオで殺される予定だったらしい)。
 彼女は幼い頃、碧葉によって実母の首が吊られる様を目の当たりにしている。それがきっかけで口が利けなくなった。しかしそんな境遇にも関わらず彼女は元気いっぱいで、心が読める草平に一生懸命自分を知って貰いたいと心のお喋りを繰り返す。
 彼女の年齢は中学生のようにも高校生のようにも聞こえるようにぼかして語られているが、ある意味初めて「他人」と向かい合う様子はまるで小学生かそれ以下の幼子のようである。彼女は精一杯笑い、怒り、抱きつき、刷り込まれた小鳥のように草平に懐く。そして記憶の中にあって自分でも信じられなかった幸せを再び与えてくれ、樹との仲も取り持ってくれた草平に恋を抱く。
 そんな彼女を子供扱いしながらもそこはジゴロの草平、花の咲き乱れる温室でキスをして(このCGがとても美しい)、服を脱がせて机の上に横たえ、女の悦びを彼女に少しずつ教え込んでいく。無垢な彼女は草平の言うままに身体を開き、快楽を覚え込まされて、やがて肉欲に溺れてしまったいとけない裸身を自ら草平に晒して愛撫を乞うまでに至る。そうして穢れない幼体に確かに自分を刻み込んで行くのである。
 その過程は確かに「調教」なのかもしれないが、彼女はありのままの草平を求めており、また草平も飾らずにありのままで接してくる響果を好ましく思っている。狂気と悪意に包まれた世界の中で、素のままで向かい合う二人の関係はまるで泥に咲く一輪の蓮華のようでもあり、作品に透き通った輝きをもたらしている。

-蜜音-
 双子ヒロインは一緒くたに扱われてしかもコンパチキャラであることが多いが、響香と蜜音の姉妹についてはそうではない。蜜音は響果とは全く異なるパーソナリティを備えている(ちなみに二人の声優さんは本物の双子が担当したらしい)。
 彼女は響果と共に母の死を見て明るい場所での視力を失う。だがそれ以上に重要な点として彼女は他人の意思を感じることができる草平と同種の能力を草平以上に強く有しており、その結果館に残った霊の意思に取り込まれてしまっている。
 霊は幼く善悪も分からなかった彼女に囁く「館の主を見つけよ」「邪魔する者は殺せ」と。そして彼女は殺すことが悪いことだと認識できない。なぜなら死んでも霊はそこにあり、彼女からすれば在り方が変わっただけだからだ。
 こうして自我を浸食された彼女は霊を操り平然と人を殺すおそるべき本性を終盤で現すのだが、そんな悪い子にはお仕置きである。
 草平の器量は彼女の無邪気な殺意すら呑み込む(呑み込みきれずに殺されてしまう場合もあるのだが)。悪い子にはお尻ぺんぺんですよ、と彼女のつややかなお尻を徹底的にイジメ抜く。彼女もまた人間的な温もりを求めており、どんどん人間からかけ離れていく自分を人間に戻してくれる存在を――すなわち罰を与えてくれる存在を待ち望んでいた。彼女は自らを「悪い子」と称し、「お仕置き」を求めるのだ。その理由を作る為か蜜音はよく粗相をする。我慢できずに草平の前で黄金の潮を吹いてしまい、罰として下半身を剥かれまぁるいヒップが真っ赤になるまで叩かれ、アヌスに肉棒をねじ込まれ涙をぽろぽろ流す。それが彼女の求める愛の形なのだ。
 恋ではなく、爛れた親子のような関係――そんな淫靡で背徳の蜜の味がする「秘密のレッスン」が草平と蜜音を結んでいる。それは響果が草平と築く関係とは全く異なるものだ。

-碧葉-
 さて、他のヒロインも十分に魅力的なのだが、それでもなおこのゲームは「碧葉ゲー」だと言える。純愛と陵辱の極地に位置するこの作品を体現するかのように、彼女はその揺れる心を、草平に抱く強烈な感情を愛にも殺意にも変化させる。このゲームは選択肢が過剰なまでに大量に用意されており、しかもその度に物語のディティールが変化していく(これを実現するために8MBもの容量を必要としたのだろう)のだが、彼女の場合はディティールどころか性格そのものが大きく変化する。また、このゲームには「パラメータ」というシステムがあり、ヒロインの主人公に対する感情やヒロインに対する調教具合が逐次表示されるのだが、これは「行動」の値くらいしか攻略には役立たず基本的には「ヒロインは今こんな状態なんだよ」とニヤニヤする為のものである(Fateにおけるステータス画面に近いと言えば伝わるだろうか?)。パラメータは樹の変わらぬ愛を確かめたり無垢な響果が堕ちていく様を数値化して眺めてニヤニヤすることもできるが、その最大の目的は碧葉の「殺意」から「愛情」へと激しく揺れ動く心を表現することであろう。つまり、このゲームの特徴やシステムは碧葉の為に存在する。
 さて、他のヒロインは一応誰かから愛情を与えられた時期があった。樹は隆三によって両親を自殺に追い込まれる高校生の頃まではごく普通の家庭に育ってきたし、響果や蜜音も小さい頃は母親に愛され、また意外なことだが隆三は薬を服用しない限り二人に対して優しいパパだったらしい。
 ところが碧葉にはそんな救いは一切存在しない。生まれた時から屋根裏部屋で空を見上げながらたった一人で生き、闇医者に発見されて隆三に「飼われた」後は屋根裏部屋から現れた面白い「動物」として芸を仕込まれた(その時に覚えたのはあらゆる学問とあらゆる戦闘術である)。そして隆三に騙され響果と蜜音の母親を殺した。
 そうした経歴を持つ彼女はこの家の中で最も心が脆く、自らを「犬」と呼ぶ程に自尊心が低く、そして同じ闇を抱える樹や贖罪の相手である姉妹を脅かす者を殺してでも排除すべき敵と認識している。また、彼女は存在すると教えられた実の兄を狂おしいほどに求めており、いつか兄が自分をこの地獄から救い出してくれると信じている。彼女にとって唯一絶対である兄に対する感情はもはや家族愛か恋愛か定かならず、毎晩まだ見ぬ兄を想いながらオナニーに耽っている。
 さて、ここまでで予想できるだろうがこの実の兄というのが草平である。もちろんお互いはお互いを兄妹だと自覚していないが、しかし碧葉は草平を見た瞬間激しく心をかき乱され、それを敵意に変えていく。他方草平は碧葉の100cmを超える豊かな胸に熱視線を送りつつ、樹とのラブラブライフの為にこいつをどうにかしないとなまぁコマしてやろうかなどと考えている。
 このすれ違いが物語の序盤ではコメディチックに描かれる。草平が人参を苦手だと知ると碧葉が徹底して料理に人参を混ぜてきたり、草平も碧葉の潔癖症を知るとわざと陰部を晒して碧葉を羞恥で真っ赤に染めたり、お互いのやりとりが「まるで兄妹喧嘩」である。二人が兄妹であることは一定のシナリオをクリアしないと明らかにならないのだが、それを知る前も微笑ましく、それを知った後は一層微笑ましいシーンとして個別シナリオに入るまで彩りを与えている。
 中盤では草平との関係が近づいていよいよ感極まってしまった碧葉が感情の落としどころを見つけられず草平を殺そうとする。今まで人と交感し合ったことがなく、ただひたすらに殺人技術だけを鍛えてきた彼女の悲しい行動だ。その碧葉への対処によって大きく純愛ルートと調教ルートに話が分かれる。
 純愛ルートにおいては、草平が兄ではないかと疑った事や、自分を助けに兄は来ないと思っていた諦め、一時的な記憶喪失で碧葉が草平に懐いたらとても心地よかったというきっかけが重なり、彼女は草平に妹として甘えまくる。このデレっぷりが凄まじく(いい歳してお兄ちゃんお兄ちゃん連呼するのがある意味痛々しく)、ツンデレの破壊力が存分に発揮される。基本的に幸せなルートである。
 調教ルートにおいては、草平に対する強い感情(実は愛情)と草平によって汚されてしまったからもう兄は来ないという絶望が絶妙に絡まり合い、更に草平の「言いなりになったら愛してやる」という言葉が決め手となって彼女は心が壊れてしまう。誰よりも愛に飢えていた、しかし誰からも愛されなかった彼女は自分を調教した草平に愛を乞うしかなくなったのだ。草平にレイプされずっと守り続けていた純潔を奪われた彼女は錯乱し、アヘ顔で「愛して下さい、愛して下さい」と連呼しはじめる。それほどまでに彼女は愛を求めていた。完堕ちした彼女は「ご主人さまのモノでしたら、排泄物だって……」「種付けをされた家畜が、逃げ場もなく孕まされるような惨めな気分になって」などと樹顔負けの隷属性を発揮し始める。
 しかし彼女は樹と異なり草平と積み上げた時間がない。草平も樹のようには優しく碧葉に接しないこともあって、彼女はどうしても草平を信じ切れない。そして彼女は樹や美園を陵辱して草平の関心(彼女にとっては殺意でも良かった)を買おうとしたり、やっと出会えた「お兄ちゃん」と心中を図ろうとしたりと狂気の行動に出始める。そんな彼女の乳首にピアスを突き刺して奴隷の証を与えてやり、愛を実感させてやるのも良いだろう。あくまで樹を選ぶなら彼女を銃で撃っても良い。樹同様、もはや「草平」しかなくなった彼女とどう向かい合うかで結末が変化する。
 一途を極端に突き詰めすぎた彼女の七変化は間違いなくこのゲームの目玉である。

-美園-
 彼女もサブヒロインながら印象的だ。年増扱いされている彼女は最初から草平の奴隷である。身体は開発され尽くされ、胸には極太のピアスが突き刺され、草平がその気になればいついかなる場所でもアヘアヘ言わされるだけの存在でしかない。そして事実何度かそうさせられる。しかも彼女は草平を愛しており、彼に捨てられることを心から恐れている。そんな彼女が草平に対し悪ぶったり先輩ぶったりして必死に体面を取り繕おうとするのがプレイヤーにある種の感慨を与える。しかもそんな彼女が幸せなエンディングを迎えることもあるのが味わい深い。

-鉄男-
 悪人ながら小心者でどこか憎めない彼。
 頭脳戦では樹と碧葉に全く歯が立たず、大学教授という肩書きがあるくせになんと斧を持って屋敷に押し入り肉弾戦に及ぶところがジワジワと笑えてくる。
 ちなみにそれでも碧葉が本気を出せば(彼女の本領はナイフではなく実は犬使い)瞬殺である。
 まあ、それではシナリオとして面白くないので、碧葉に兄の情報をちらつかせて彼女の行動を封じたり、霊に操られてゾンビ化したりするのが大抵のルートなのだが、彼との戦闘はいわば「狩り」である。中二病を極めたこのゲームらしく、猛獣となった彼を「狩る」という興奮に胸躍る。
 演出もあって「狩り」の臨場感はなかなかのもの。

-まとめ-
 さて、ここまで書いてきてあまり伝わらなかったかもしれないが、このゲーム、終盤に入るまでは基本的にほのぼのゲーとかコメディゲーである。確かに生臭い要素や「何かある」と思わせる違和感、そして恐怖描写もあるのだが、基本的には樹とエロエロし、響果と蜜音にイロイロ教え、碧葉と兄妹痴話喧嘩を繰り広げる、それがこのゲームである。終盤に入ると蜜音や碧葉の暴走、鉄男の襲撃、そして館の霊による怪異が登場して決してハッピーだけとは言えなくなるのだが、しかしそれでも雰囲気は前向きだ。
 もちろんそれにも理由がある。彼女達が求めていたのは隷属的な愛であり、そしてそれを与えてくれる男が物語の最初に既に登場しているからだ。つまり彼女達全員を調教することが彼女達の幸せであり主人公の幸せであり、もうそれが叶うことは確定しているのである。後は彼女達と交流を深めながら「幸せ」をくれてやればいい。物語は常にハッピーに向かって進んでいる。
 また、樹の存在も大きい。最初から彼女との愛が絶対不変のモノとして存在するが故に「何があろうとコイツだけは味方」という確固たる軸が物語に生まれている。だから怪異や悪意に遭遇しても基本的に「ちょっと冒険」気分でそれと立ち向かうことができる。
 確かに樹の寿命は短いがそれもあまり気にならない。彼女には草平との子供を産むくらいの余命が残されているし、また彼女が死んでも館の霊としてずっと草平達を見守るという設定があるからだ。草平達が死ねば彼らも館の霊として一緒になり、樹と共に館を彷徨いやがて天に帰っていくだろう。ドラゴンボール的な「死んでも先がある」「永遠に一緒の」世界観なのである。
 また、ヒロインに対する陵辱も肉体を傷つける系統のものは行われない(任意にピアスを刺すことはできるが)。あくまでヒロインの羞恥心に訴えかけるものに止まる。この辺は陵辱ゲームに慣れているとヌルイとさえ思えるだろう。
 また、ヒロイン達は全員処女である(樹はやや無理があるが)。
 以上の要素を総合して、この作品は純愛ゲーでありかつ調教ゲーであるという希有な作品に至っている。このゲームにおいては調教こそがヒロインを幸せにする道であり、主人公は愛ある故に調教するのだ。そしてハーレムこそがヒロイン全員を幸せにする最適解である。ここにある種の法悦がある。
 しかもこのゲームは分岐の量がとてつもなく多く、おそらく全てのテキストを見られた者はいないであろうと思うレベルである。というか攻略サイトを見ないと全部のエンディングを見ることさえ不可能に限りなく近い。それくらい物語は選択肢によって緻密に分岐され、しかも以前の選択肢がかなり後になって影響したりする。こうした分岐はゲームを複雑にしてデバッグを難しくするし、また選択肢一つ一つで細かくヒロインの反応を変化させていくことはライターとしても同じような話をかかされ苦痛であるはずだが、このゲームのライターは敢えて逃げずにそれを描ききった。つまり何度もプレイする度に千変万化のヒロインたちを鑑賞できる。無限とも思える時間その快楽に浸っていることができる。その為の8MBであろう。
 さて、以上の要素が化合するとどうなるか。それは例えるなら汲めども汲めども尽きない泉を飲んでいる気分とでも言おうか。
 調教というのはある意味でヒロインを「壊す」行為に他ならない。取り繕っていた外面を壊し、素のままの彼女を引きずり出し、そこに自分を植え付ける行為だ。このゲームでは肉体的な破壊は描かれないもののヒロインが極限状態にあるだけあって、精神的には魂さえひきずりだすような強烈な破壊願望が満たされる。
 初回プレイで碧葉を中心に破壊したいと思うのなら、彼女のツンデレを楽しみつつ主人公への愛に自壊していく彼女をニヤニヤと眺めることもできる。少しだけ……ほんの少しだけ押してやるだけで彼女は壊れ、絶叫し、涙を流し、延々とアクメを迎えるだけの奴隷と化してしまう。もはや彼女は主人公が死ねと命じたら即座に自らの頭を吹っ飛ばすような肉人形だ。
 そうして15時間ほどのシナリオを終えたら、また最初から進めて今度は蜜音に教えてやることもできる。もちろん蜜音を中心に攻略しても樹に前回とは違ったプレイを強要することができ、碧葉についても前回とは異なる葛藤を彼女にプレゼントすることができ、同時に蜜音のお尻をペンペンして彼女に「ありがとうございます! ありがとうございます!」と絶唱させることができるのだ。
 このようにして40時間も50時間も話の螺旋は続く。圧倒的で執拗なヒロインに対する絶対的支配、無限の金と時間を得た主人公と自己を同一視する幼児的万能感、それらを存分に味わいつつ千変万化の選択肢を弄びヒロインをただただ壊し続ける作業を続けて行くと、善悪の彼岸を越え、痴呆者やパチプレイヤーが陥るのと同種の恍惚状態に入っていく(プレイ中鏡は怖くて見られない)。じっさい、脳波を量ったら同じような値が得られるのではないだろうか。このゲームはドラッグである。イチャイチャエロエロイチャイチャエロエロイチャイチャエロエロ……。
 もちろん物語には「怖い要素」や「痛い要素」も存在する。しかしそれがイチャエロに影響を及ぼすことは殆どない。なぜなら、いついかなる時も樹が絶対の愛を寄せてきており、彼女との関係は例え死しても永遠に続き、そして彼女とのハッピーエンドをTRUEだと思えば他のエンディングは可能性にしか思えなくなるからだ。延々と続く快楽の波に時間の感覚を失ったプレイヤーは樹が死のうと主人公が死のうと「ああ、そういうこともあるのか」としか思えなくなる。それらは無限の中の一瞬にしか感じられなくなるのだ。
 快楽の津波とも呼べるこの感覚を味わってしまったらもう他のエロゲが物足りなくて仕方なくなる。これほど強烈な麻薬要素を備えたエロゲは他に類をみない。このゲームは点数の割にPOV「魂」に投票している人が多いが、それはおそらくこの感覚を味わった人が投票しているからであろう。
 奇しくもマルセル氏が仰っている(2012/4/22時点で)。
> 今後100年のエロゲのヘゲモニーは我らがNYAON先生を中心とする「完全ハーレム萌えゲシナリオ」派閥の手に渡ることは、トノイケダイスケが庭の完全パッチを必ず出すのと同じくらい確実なことであろうと、僕は完全無欠の勝利宣言をいまここに表明しましょう!
 庭の完全パッチが出る確率って低そーだなとかはさておき、また彼が思う「完全ハーレム萌えゲシナリオ」がこのゲームのような方向性を指しているかもさておき、とりあえず言葉面の上ではNatural Another One 2ndこそが「完全ハーレム萌えゲシナリオ」と呼べるものだと私は思う。萌えてエロくてハーレムで調教までやっちゃってちゃんとストーリーがあってそして何よりプレイ中ずっとほんわか幸せでいられるゲームなんて、私はこのゲームしか知らない。
 ちなみにこのゲーム、かなり怖い。ムービーや演出の使い方が上手く、常に「何かいる」感じを表現できているので夜中やるとあまりの怖さに叫んでしまうかもしれない。
 じゃあ何でこのゲームの点数が低いんだよ、と思った方もおられよう。確かにこのゲームは私が熱弁するほどに点数が高くはない。
 その理由は、感覚的に示せばこのゲームが「ファミレスの料理をありったけ出した」「気に入ったコンビニ飯を全部買って来た」的なものだからである。つまり、プレイヤーに圧倒的な満腹感や満足感を与えてはくれるのだが、しかしどいつもこいつも本当に美味しいとは言い難い側面がある。
 音質がかなり低く、システムが微妙に使いづらいといった問題もある。しかし、最大の問題はエロシーンが83もあるのに実質的なCG枚数が差分抜きで60~70枚程度(ギャラリーには100枚弱あるのだがCG差分を分割して表示しているものが多い)しかないこと、そして選択肢によってディティールが変化するシナリオは裏を返せば同じことを繰り返しているようにしか見えないことだ。絵とシナリオが同じとしか思えなくなってしまうと周回プレイのモチベーションはかなり落ちる。絵はともかくシナリオは細かく変わっているのだが読み飛ばす方はその辺を感じられないかもしれない。
 ちなみに単純なテキストの質は十分だと思う。テキスト自体に魅力があるレベルではないが、事実を端的に伝えており分かり易い。そしてプロットはこれまで示したとおりかなり高いレベルでまとまっている。



※1
下記サイトでは10Mと書いているが、個人的にやった感想としてはそこまでの量はないと思う。
http://blog.livedoor.jp/fallis/archives/54979013.html

※2
ただし本文に書いたとおり容量の多くが分岐に使われているため似たようなテキストが多く、しかも(飛ばされがちな)エロシーンが極めて多いので体感的にはハロワより短くなると思われる