心に刺さるグラフィック、謎が謎を呼び綺麗に回収されるシナリオ、誰もが主人公たり得る魅力を持った登場人物達、最高に面白いヤツだった比治山……だが私を含め多くの方が比治山を気に入ったことは、実はこのゲームの致命的な欠点と裏表じゃなかろうか?
つまり、比治山だけがこのゲームのキャラクターで感情移入しやすいのだ。
彼は、遺伝子の元となった人物も含めて「沖野が好き」という強烈かつ殆ど唯一のアイデンティティを持っており(例外:焼きそばパン)、ブレることがない。
だからこそプレイヤーは安心して比治山にだけは感情移入できるのだが、他の12人はそうではなかった。
時系列をバラバラにして提供するこの物語では、AがBを愛しているかと思えば、AがCを愛していたり、AがBと争っていたりする。
シナリオが進めばAが実は見た目が同じ別人A'であることが明らかになり……といった具合で、感情の手がかりが乏しく、というより感情の手がかりらしきものを額面通り受け止めることができず(Bを愛しているように見えるAはA"かもしれないのだ)、「このシーンでAはどんな気持ちか」に想いを馳せることを殆ど拒絶するつくりになっている。
……今私が述べたことにピンと来た方もいるだろうし、ピンと来ない方もいるだろう。
ピンと来なかったとしたら、貴方はおそらく「客観視点で物語を楽しめる」タイプだ。
そしてこのゲームをデザインした方も多分「客観視点で物語を楽しめる」タイプなのだろう。そのため私のように「登場人物になりきって気持ちを想像したい」タイプにとっては非常につらい作品になってしまった。
以上に述べた点で決定的に反りが合わなかったゲームだが、それでも何十時間もプレイさせる魅力があったし、それだけの時間プレイしても矛盾を感じさせなかった設定の練り込みは見事だった(シミュレーション世界という、矛盾を誤魔化しやすい設定を使ってはいるが)。心に残ったいくつかのシーンもある。
鞍部と薬師寺(と三浦)の晩餐や、冬坂が友達と戯れる下校姿……中でも網口が暮らすマンションは私にとってとても印象的で、その時代にまだ生まれていなかった私にも何か無性にノスタルジーを感じさせた。