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dovさんの恋×シンアイ彼女の長文感想

ユーザー
dov
ゲーム
恋×シンアイ彼女
ブランド
Us:track
得点
82
参照数
2603

一言コメント

きっと、何か切実なものを描こうとしたはずなのです。ですが、それはライターの力量不足やエゴといった要因により、切実なものにはなりきれませんでした。この作品はいわば「残骸」ですが、その「残骸」を楽しんだ記録を残したいと思います。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

---------------
1.前提
---------------
 (1)新島氏の関与部分
 新島氏は非常に特徴的なライターで、他の方の感想も殆どが、本作のシナリオへの評価≒新島氏が関与した部分の評価、としているようです。
 私もこうした見方に同調します。他のライターが下手だというわけではなく、殊更に取り上げて何かを論評できるような、特徴的なテキストを書かなかった、ということです(ただし、真崎ジーノ氏=神野マサキ氏であるならば、『こころリスタ!』での所行に鑑みて、彼を肯定的に評価することはできません → https://twitter.com/Matumori/status/664079631394275332 )。また、そもそもこの作品は、コンセプト・共通シナリオにいたるまであまりにお膳立てが星奏・彩音に集中しすぎており、しかも新島氏がエゴを剥き出しにしてしまったため、他のルートを担当したライターが個性を発揮できる土台ではなかったのかもしれません。
 さて、新島氏はこの作品のシナリオのどこにまで関与しているのでしょうか。少なくとも、星奏ルートを単独で書き上げたことは間違いないようです( https://twitter.com/nsimayu/status/660465179474292736 )。しかし、他の部分については公式での発表がなく、推測するしかありません。
 推測するにしても、なるべく客観的な指標が欲しいところです。そこで、新島氏の特徴的なテキスト「じゃぁ」(彼は、他のライターならば『じゃあ』と書く所でこう書く癖があります)がどこに使われているかを調べてみました。
 すると、ゆいルート・凜香ルートでは使われておらず、星奏ルート・彩音ルートでは頭からシッポまで使われていることが分かりました(スキップを繰り返しながらの確認なので、当然見落としの可能性はあります)。共通は概ね「じゃぁ」ですが、凜香先輩と話すときなど、時々「じゃあ」となっている場合もあります。
 したがって、「じゃぁ」を根拠にライターの区分けを推測するなら、

 星奏・彩音:新島氏
 共通:大部分が新島氏+新島氏以外の誰か
 ゆい:新島氏以外の誰か
 凜香:新島氏以外の誰か

 となりそうです。
 しかし、この見方は、「4つのルートに対して4人ライターがいるにも関わらず、新島氏が2つのルートに関与する」という点で、いかにも不自然です。星奏ルートは新島氏自身の言及があるから間違いないとしても、彩音ルートのテキストには別人の関与があったのではないか、という懸念が残ります。例えば彩音ルート終盤での
>星奏
>「そうそう、大変なのよ」
 ※グロリアスデイズが出られないことを伝える場面
>男子生徒B
>「なんか興奮してきた」
>ごつん。
>男子生徒B
>「誰かに殴られた!」
>洸太郎
>「~~~♪」
 ※彩音がライブしたシーン

 といったテキストでは、星奏が「だよもん星人」的な喋り方をしていなかったり、洸太郎が突如暴力行為に及んでいたりで、キャラ崩壊に首を傾げたくなりました(ただし、これらの場面の周辺でも『じゃぁ』は使われています)。
 この辺に別ライターの関与があった可能性は否定できませんが、それでもなお、彩音シナリオに、少なくとも新島氏のコントロールが及んでいることは、ほぼ間違いないと私は考えています。
 その理由として、彩音ルートのシークエンス自体は終始新島氏らしかったこと(恋人同士で買い物に行き、店員さんに高い買い物をさせられる・唐突なライブイベントなどは、過去に新島氏がそういうシークエンスを描いたことがある)、コメディのやり方が新島氏らしかったこと、私が思うに星奏ルートと彩音ルートはテーマ上裏表になっていること、また小ネタで両ルートに密接な関わりがあること
(例えば、
 ・彩音ルートで「魚って目が死んでるから、女の子によってはテンション下がるのかな」と洸太郎が言う→星奏ルートで、星奏が魚苦手だと明かされる
 ・星奏ルートで菜子が「おにーちゃんだって、絶対はまるって。どこかでごめんぺろとか言ってるって」→彩音ルートで「ごめんちょろ(^○^)」「せめてぺろ、とかないの」というやり取り
 が挙げられます)
 ここまでの私の考えをまとめると、以下のようになります。

 星奏:新島氏
 彩音:別ライターの関与はありそうだが、少なくとも新島氏の掌握下にある
 共通:大部分が新島氏+新島氏以外の誰か
 ゆい:新島氏以外の誰か
 凜香:新島氏以外の誰か

 新島氏が共通・星奏・彩音(の少なくともプロットやシークエンス)というこの作品の核部分を担い、他のライターさんがそこに肉付けしているという構図ですね。今後の私の感想は、こうした構図を前提として語ってゆきます。

 (2)この作品の構造・主題
 さて、この作品の冒頭を見てゆきましょう。
>どうしても譲れないものがいつでも胸の中にあって、本
>当は、それを伝えたくてたまらなかった。
>だけど口にはできなかった。
>それは言葉にした瞬間、何か別のものになりそうで。
>多くの場合、俺は黙して何も語らないことを選んだ。
>言葉はいつだって、本当に大事なことをそのままちゃん
>と伝えてはくれない。
>少なくとも、話下手な俺にとっては。
>だけど伝えることを諦められなくて……。
>俺は、何かを書こうとした。
>(中略)
>彼女もそうだったのだろうか?
>今となっては、何も分からない。
>結局のところ、最後まで彼女は何も語ってくれなかった
>から。
 ここでは、コトバで伝えることの難しさと、それでも伝えようとするが故に洸太郎が小説家を目指そうとしたことが述懐されます。また、星奏が何も語らなかったということ、彼女もそうだった=彼女が音楽で気持ちを伝えようとしたのではないかという示唆が与えられます。
 この冒頭部こそ、この作品のテーマであると私は考えます。
 終盤で國見洸太郎は「言葉はうそだ」と独白しますが、語れば語るほど真実から遠ざかりそうな美しいもの・輝かしいもの(作中では『真善美』などというコトバも使われます)を、文学や音楽で表現しようと全力で命を燃やした洸太郎と星奏の物語、というのが『恋×シンアイ彼女』という作品であったのでしょう。
 このような解釈は、星奏以外のヒロインを蔑ろにしているように聞こえるかもしれません。実はその通りです。上記冒頭で触れられるのが星奏のみであったこと、共通がほぼ星奏と彩音の物語であったこと、キャッチコピー「初めての約束とあの日に伝えたかった君のコトバ」が星奏と洸太郎を指していること、4人のルートをクリアすると現れるLast Episodeが星奏と洸太郎の物語であったこと、しかもその際OP画面が4ヒロインから星奏と洸太郎のものに変更されること――諸々を考え合わせると、この作品は星奏を中核に据えており、他のヒロイン達は脇に追いやられたと見るのが自然に思えます。星奏と洸太郎こそがこの作品の主役とヒロインであり、作品のテーマを表現する存在であり、他の3ヒロインはそうではなかった。そのような構図にあると私には見えました。
 ただし彩音には、星奏の対となる役割が与えられているとも感じました。彼女は不格好ながらも洸太郎に伝えようとした情熱が、「何も語ってくれなかった」星奏とは対照的です。また、星奏ルートが徹底して洸太郎と星奏とのディスコミュニケーションを描いていたのに対して、彩音ルートは徹底して洸太郎と彩音が繋がる様子が描かれています(詳しくは後述)。ただしそれでも彩音は星奏と対等ではなく、あくまでこの作品の主軸は星奏と洸太郎なのでしょう。


---------------
2.星奏
---------------
 (1)星奏の過去篇まとめ
 さて、彼女について論じる前に、まずは星奏の過去篇と呼べる部分を時系列順にまとめておきます。
 ――というのも、この過去篇は提示の仕方が非常に入り組んでおり、案外ユーザーごとに認識が異なりそうだからです。でありながら当然、星奏を語る上で重要な部分ですので、本論に入る前に、まずは私がこのシナリオをどう読み取ったかを書きたいと思います。

【洸太郎と星奏が夜の海を二人で見にゆく約束をする約1年前】洸太郎が書いた『さよならアルファコロン』が書籍化され、映画化もされる
 ↓
【5年生の2月】星奏が転校してくる
 ↓
移動教室で置いてきぼりにされそうな星奏の手を洸太郎が取る。星奏が洸太郎を好きになる
 ※この場面は二人の記憶に齟齬がある
  洸太郎の記憶:星奏は周りに気づいていない。洸太郎は教室内にいたまま星奏を見ていて、思い余って彼女の手を取る。洸太郎の発言は「次、別の教室だよ」「いや……ごめん」
   星奏の記憶:周りに誰もいないことに気づく。教室の外から洸太郎がやってきて、星奏の腕を取る。洸太郎の発言は「なにしてるんだ?」「いくぞ」
 ↓
星奏が洸太郎に話し掛けるようになるが、洸太郎は恥ずかしくて無視する
 ↓
星奏から桑畑がmyPodを取り上げる。洸太郎が取り返す
洸太郎「今度ゆっくり聞かせてくれない?」星奏「うん」(初めての約束)
その日一緒に帰ってスタパで飲む。この日から二人は友達に
 ↓
【春休み】洸太郎は星奏とずっと一緒に過ごす。星奏が北海道出身であることや作曲家であることを知る
年上の男子からmyPodを取り返し、星奏にこっそり返す(星奏にはバレていた)
※この時から、星奏は洸太郎のことをいつも見ていたと言及
 ↓
これ以降のア~エは時系列ハッキリせず


洸太郎が星奏に「ちゃんと持ち物を鞄にしまえ」「前を向いて歩け」「防犯ブザーを携帯しろ」などと自分から構うように
星奏「う、うるさいなぁ……」
洸太郎、自分が小説を書いていること、今は海賊船に乗る小説を書いているが行きづまっていることを話す。夜の海も見たことがないと愚痴る
星奏「読みたいなぁ。國見君の小説」
星奏の提案で夜の海を二人で見にゆく約束をする
洸太郎は書きかけの小説を是非とも完成させたいと思う
 ↓
洸太郎は星奏と夜のサイクリングに出かける
途中で洸太郎は家に連れ戻されるが家を抜け出して夜の海へ
雨上がりの朝日が射す海岸で、自らの曲を鼻歌で歌う星奏を見つける。洸太郎が星奏を好きになる


【GWが終わって梅雨に入る前くらい】星奏が秘密基地を見つける


【御影ヶ丘学園の文化祭の日】
星奏といつか文芸部に入る約束。
星奏「それで本読んだり」「ずっとおしゃべりするの」


【アよりは後】
洸太郎、自分が書いた小説が出版されていることを話す。星奏「す、すごい」
音楽のコンペに星奏が送る際、その手紙の作成を洸太郎が手伝う

 ↓
【エの1カ月後】星奏が北海道に帰ると告白する
洸太郎、星奏にラブレターを書いて渡す
返事をしないまま、星奏は町を去る
 ↓
【小学校を卒業する頃】星奏、プロの作曲家になる
 ↓
最初は人見知りをしていたが、メンバーに色々な話をするようになる
 ↓
星奏「今はあまりにも環境がめまぐるしく変わっていて、返事ができてない」
洸太郎から手紙を貰ったことを吉村に相談し、音楽に専念しろと叱られる


 (2)洸太郎と星奏
 さて、洸太郎にとって星奏との過去は、恐ろしく美しいものであったようです(もちろん、星奏と洸太郎の思い出がそれぞれに微妙に異なることから、美化されている可能性が高い)。
 彼は、初対面での星奏の印象を
>彼女の姿は、何か僕がひそかに思い描いていたきれいな
>空想のひとかけらのような、懐かしい印象を与えてくれ
>た
 と語り、彼女との思い出を、
>かつて、遠い未来が、遠い星みたいにきらめいて見えたように。
>今は、過去が、星のように輝いている。

>それは、暗い記憶の彼方に、ほのかに光る星のような思
>い出だ。
>もう決して、手の届かない輝きだった。

 と表現しています。
 また、この時二人の会話が少なかったことも語られています。
>よく一緒にいた。
>彼女は音楽をきいて、僕は本を読んでいた。
>だから、そんな二人の間にあんまり多くの会話はなかっ
>た。
>けど、それで十分だった。
>僕らはたくさんの話をしたわけじゃないけど、それでも、
>互いにとても多くのものを共有していた。
>二人は、友達だった。

 こうした曖昧で優しい関係を、洸太郎と星奏は、高校時代でも繰り返そうとしました。
 例えば星奏は、プラネタリウムを見た時にこう言います。
>星奏
>「何て言うかな……信じてくれる人じゃないと、いやだ
>なって」
>星奏
>「同じように信じてくれる人じゃないと、途端に。この
>空間が壊れてしまうような気がするの」
>洸太郎
>「うん?」
>星奏
>「これはあくまで室内プラネタリウムでしょう」
>星奏
>「これ、どこで買ったのとか」
>星奏
>「外の光、どうやって遮断してるのとか」
>星奏
>「気持ちは分かるけど、あんまり、そういうこと話した
>くなくて……この景色は私には、本物だから」
>星奏
>「最初は、本物として受け容れてくれるような人に見て
>もらえたらって思うの」
>星奏
>「洸太郎君は、きっとそういうこと言わないって、思っ
>たんだ」

 あるいは、洸太郎は星奏が隠している「何か」について、次のように考えます。

>人は誰だって、目に見えている姿も性格も、氷山の一角
>みたいなものだ。
>その下には、誰の目にも見えない大きな正体みたいなも
>のが沈んでいる。
>大事なのはそれを知ることじゃなくて……それをぼんや
>りと想像しながら、そうして、ぼんやりと受け容れるこ
>とじゃないかって思う。
>そうしてそういうふうに俺が受け入れることを、星奏も
>また、想像してくれて。
>互いが、ぼんやりとした気持ちを共有しあって二人で一
>諸にいる。
>そういう形が、俺には大事に思えた。
>本音を言うと、やっぱり気になるけどね。
>あの時渡したあの手紙、君はどういう気持ちで読みまし
>たか? って。
>そしてどうして返事をくれなかったのかって。
>だけど俺は想像することによって、その空白を埋め合わ
>せる。
>きっと誰もがそうやって世界を生きている。

 こうした曖昧で、ある意味理想的な関係を、二人を取り巻く高校生活は許容してくれていたようです。

>俺たちはさほど用も無いのに部室に集まっていた。
>そろそろ衣替えの時期なんだけど、時々肌寒い日もまじ
>るため踏ん切りがつかない、半端な時期だった。
>星奏は本を読んだり。新堂は携帯をいじったり。
>志乃と涼介は……なんでいるんだろう。

 しかし、こうした幸せな関係は、星奏が何も告げずに去ることで、終焉を迎えました。
 この時代を、後に洸太郎はこう述懐します。
>恋というささやかな言葉ひとつに一喜一憂する自分があ
>まりに子供で、こっけいに見えた。
>小学生時代の自分を滑稽に思い出す学生の自分。
>そんな彼自身がまた、滑稽極まりなかった。
>実体のない自ら作り出した幻影に突撃して空回りしてい
>るのだ。
>本をたくさん読んで何かを分かった気になっているよう
>で、あまりに子供だった。
>そんな風に当時の自分を辛口でやっつけながら、ひどく
>さびしくなる。
>あの頃の俺は恋やなんだというささやかなものに翻弄さ
>れる自分を恥じていた。
>他人からそんな自分を笑われることを、怖がっていた。
>だけど今、他でもない俺自身が、過去の俺を、そういう
>目で見ている。
>あの頃俺が恐れていたのは、未来の俺の、視線だったん
>だろうか?
>書かなければならない。
>書くことだけが、あらがう方法だった。
>つなぎ止めておく方法だった。
 理想的な恋であったかのように思い返される小学生時代では、星奏がラブレターに返事を返さなかったことで、それが単なる親愛であったのではないかという懸念が遂に払拭されませんでした。同じく高校時代の幸せな思い出も、星奏が音楽を取り戻すために街にやってきて取り戻すと去ったという事実のせいで、苦々しいものとなっています。そして教師時代に三度星奏に捨てられた洸太郎は、己の理想の恋を求める為に文章を書かなければならないと独白するわけです。
 さて、実際にユーザーがどう受け止めたかは別として、新島氏は「星奏も同じ気持ちだったんだ」と言いたいように見えます。
 「2(1)星奏の過去篇まとめ」を読み返して頂くと分かりますが、本作のキャッチコピーにある「初めての約束」とは、「洸太郎に星奏が作った音楽を聴かせること」です。この約束自体、実はこの二人が何度も繰り広げるディスコミュニケーションの1つ(洸太郎はmyPodの中身が星奏の作った音楽であると、この時点ではまだ知りませんでした)だったのですが、この時点で洸太郎が好きだった彼女は、「自分の曲を聴かせる」という誤解に基づいた約束を頑なに守ろうとしたはずです。
 なぜなら、星奏は約束を絶対に守る人物だからです。例えば、「夜の海を二人で見にゆく約束」を守る為に、律儀に雨が降っても朝までずっと待っていましたし、最終的には5年後の映画撮影時にその約束を果たしています(その時、洸太郎に対して「裏切り者が現れた」と彼女が言うのは、約束をきちんと覚えているのだぞという意思表示にも聞こえます)。あるいは、文芸部に一緒に入ろうねという約束も守りました。高校時代に洸太郎から再び去る時「メール、するね」と言った約束も「さようなら」という短いメールを送ることで、一応守りました。星を見ながらのHの際「ねえ。絶対また、しようね」と言ったことすら、社会人になった後にキッチリと約束を果たして4回目のHに及んだりしています。
 彼女の洸太郎に対する気持ちを表現した曲が、おそらく『GLORIOUS DAYS』なのだろうなと示唆するシーンもあります(星の音がロックになってしまう感性は正直よくわかりませんが)。
 例えば、彩音が洸太郎に惚れていることはユーザーの誰も疑わないと思いますが、その彼女が『GLORIOUS DAYS』を
>彩音
>「それに……なんか、こう気持ちにマッチするというか」
>彩音
>「感情移入しやすくて歌いやすかった」
 と評しています。
 しかし、洸太郎はこの曲に惹かれながらも、遂にそのことを彼女には語りませんでした。
>洸太郎
>「俺、星奏に聞かせてもらった曲で、どうしても忘れら
>れないものがあるんだ」
>星奏
>「え? どの曲かな」
>洸太郎
>「え……それは秘密」
>星奏
>「なんで?? 私が作ったものなんでしょう??」
>洸太郎
>「そうなんだけど……秘密なんだ」
>あの曲をハミングする星奏を見て恋をしたっていうくだ
>りが、妙に恥ずかしくて。

>星奏
>「洸太郎君が言ってた曲、入ってた?」
>洸太郎
>「うん。入ってたよ。懐かしかった」
>星奏
>「どの曲?」
>洸太郎
>「それは……秘密」

 また、教師時代に星奏と同棲したときにも、彼女がその時の想いを音楽にしていたことが物語ラストで示唆されました。
>もともとの彼女の曲に、そして……さらに別の曲が入っ
>ている。
>これは、三年前に二人で暮らし始めてから作った曲じゃ
>ないか。
>そんな気がした。
 当然、その曲に対する感想も、洸太郎は星奏に告げていません。
 星奏が洸太郎のラブレターに返事をしなかったのと同様(正直なところ、私には『同様』であると思えませんが)に、洸太郎も星奏の曲に何も答えを返さなかった。加えて、彼には、手紙誤爆事件の際に星奏が返そうとした五年前の手紙の返事から逃げた、高校時代に星奏が去るとき彼女に冷たい態度を取ってしまった、星奏と3回目に会ったときにグロリアスデイズの現状を知らなかった(つまり、星奏の曲は聴いていなかった)、という落ち度があるとも言えます。
 洸太郎が振られたと感じて恋から距離を置いた時期には創作することができず、星奏が自ら「二度と洸太郎には会わない」と宣言して恋から距離を置くと、彼女の曲のデキも悪くなってしまったというのも、彼女の曲と洸太郎との繋がりの深さを示すような表現です。また、凜香ルートと彩音ルート(つまり星奏が振られるルート)では、どうも星奏は曲作りを諦めてしまうようです。
 このように徹底したディスコミュニケーション・すれ違いがあったけれども、星奏と洸太郎は二人とも輝かしく・迂闊にコトバにはできないような「恋」を全力で追い求めた。これはそういう「物語」なんだと新島氏は訴えたかったように思えます。そしてそれに納得できたのであれば、惜しみない賛辞を送ることができたのですが――

 (3)批判
 残念ながら、そう思うことは私には出来ませんでした。おそらく多くの方にとってもそうでしょう。その理由は色々考えられるのですが、ア. 新島氏の知的怠慢、イ.新島氏のエゴの強さ それらア、イから生まれてしまったであろうウ. 新島氏の操り人形となってしまった洸太郎と星奏 の三つの視点に切り分けて書いてゆきます。

 ア.新島氏の知的怠慢
 予め書いておきますと、私は新島氏が馬鹿だと言いたいわけではありません。彼が創作において果たすべき知的作業を怠ったことを、問題としています。
 問題は大きく、下調べの不足と話の練り込み不足に分けられます。まずは下調べの不足について。
 新島氏はまず間違いなく、バンドがどういうものか下調べを行っていません。というか想像を働かせることすらしなかったのでしょう。
 例えば、星奏が純作曲家の立場でありながら、グロリアスデイズと一緒にいなければならなかった理由が不明です。彼女は洸太郎達と過ごしながら曲を作り、それをバンドメンバーに渡せば良かった(現実に、洸太郎達といることでスランプから脱出できたという実績もあります)のではないでしょうか? 「グロリアスデイズ云々というより、単に親元から長期間離れることが許されなかった」という可能性は、凜香ルートで星奏がいつまでも洸太郎の街に残っていた事実から否定されます。
 洸太郎がなった「ルポライター」の描写もひどいものでした。彩音とグロリアスデイズの元メンバーが関わっているのを知って、それをスルーしてしまうという情報感度の低さはあり得ません。素性がはっきりしている星奏の現在の所在地を掴めないというのも噴飯ものです。新島氏はルポライターの仕事を舐めてるんでしょうか?
 こうした稚拙な描写の数々は、新島氏が音楽ユニットやルポライターという仕事にまるで敬意を払わず、下調べをまるで行わなかったという杜撰さに起因するものとしか思えませんでした。
 練り込み不足については、例えば洸太郎の最後の述懐が挙げられます。
 この作品のラストで、彼は次のように反省します。
>今まで、想像してみることがなかった。
>星奏はあの手紙を実際のところ、どんな顔をして、読ん
>でいたんだろうって。
 しかし、彼は高校時代このように独白しているのです。
>本音を言うと、やっぱり気になるけどね。
>あの時渡したあの手紙、君はどういう気持ちで読みまし
>たか? って。
>そしてどうして返事をくれなかったのかって。
>だけど俺は想像することによって、その空白を埋め合わ
>せる。
>きっと誰もがそうやって世界を生きている。
 これは言い逃れようもなく矛盾と呼ぶべきです。
 「伝える相手の気持ち、想像してる?」というテーマは、例えば彩音ルートでも彩音が「私が、私の作りたいものを作るだけじゃだめなんだ」という気づきを得ているように、この作品における重要なテーマであるはずです。こういう部分で破綻を来してしまった理由は、つまるところ、この作品がある意味で新島氏の繰り言に過ぎないからでしょう。
 この作品はテーマといい描写といい、フワッとしていながら、同じような記述を何度も繰り返しており、中々つかみ所がありません。それを文学的などと有り難がる向きもあるかと思いますが(上記矛盾も、『人生とは気づいていたつもりのことを何度も見直し続けるものだ』などと擁護は可能です)、本作の場合、単に新島氏が考え抜く努力を怠り、思考が未整理のまま提示したと見た方が現実に即していると私は考えます。
 なぜなら、このような設定の綻びや矛盾は新島氏担当部分と思われるテキストの、そこかしこに現れるのです。
 例えば、洸太郎の過去回想では
>その少し前に僕が学校で書いた小説が大きな賞を取って、
>なんと本として発売されるということがあった。
>偶然だよと、照れながら周りに言いつつ、僕はやっぱり
>得意だった。
 というような記述がありながら、それ以降では、
>だからかな、俺が決して他の奴には言わないことにして
>いた、ある秘密を打ち明けた。
>洸太郎
>「僕さ……」
>洸太郎
>「小説を書いているんだ」
 などと、本を出版した事実が他者に知られていないかのような描写が繰り返されます。
 あるいは、これは彩音ルート(厳密には共通の彩音回想部分)の話になってしまうのですが、彼女の中学生時代でも、
>私はだらけた人が嫌いだった。
>がんばれなんて言わない。
>ただ、最低限やるべきことはやってほしいんだ。
 というような述懐の直後に、
>「がんばるべきときに、がんばらない人が、私は嫌いな
>んだ」
 と、洸太郎に語ったりします。これも、洸太郎と出会うことで彼女の中のコトバが変わったなどと擁護はデキるのでしょうが以下略

 イ.新島氏のエゴの強さ
 このように、頭を使うべきときに、頭を使わない作品が、私は嫌いなのですが、そもそもエロゲが要求するテキストの量は殺人的であり、シナリオの全編に渡って神経を行き届かせることの困難は理解しているつもりです。それでも、私が本作に対してはとりわけ、「新島氏が~」と名指しで批判するのは、彼があまりにエゴをこの作品で剥き出しにしすぎていると感じたからです。
 端的に言って、洸太郎=新島氏であるとしか私には見えませんでした。その洸太郎と星奏の物語を、他のヒロインを塗り潰すようなカタチで、OP画面を差し替え終章を用意して優遇する様は、もはや1ライターの範疇を超えており醜悪でさえあります。洸太郎は随分と我執の強い人物でしたが、それはとりもなおさず、新島氏の我執そのものであるように見えます。
 したがって、一々入れてくる洸太郎=新島氏の自己批判は、私には控えめに言っても「気持ち悪い」としか思えないものでした。

>部長
>「最後のシーンだけど、今は、少年が思い出の少女をち
>らっと見かけて……そのまま終わってるじゃないか」
>(中略)
>部長
>「これ、やっぱりちゃんと出会えた方が良いと思うんだ
>よね」
>(中略)
>そういう展開は自分には書けませんとは、言えなかった。

>奈津子
>「とりあえず、内向きな小説ですわな」
>「かといって自分の内面に深く踏み込んでいるかという
>と、そうでもない」
>「踏み込めない恐怖を繊細に描いているかというと、そ
>ういうわけでもない」
>「國見はんは、自分でも、何が書きたいのかたぶん分かっ
>てない。ただ分かってないものを表現するのが怖いから
>避けている」

>表現するって、もっと切実なものなんだ。
>そうしなければ生きられない、身の内から正体不明の炎
>によって焼き尽くされてしまうような。
>そういう人間が、そういうエネルギーを解放するために、
>創作活動に打ち込むんだ。
>俺は、違う。
>そんなエネルギーを、感じたこと
>書くという行為。
>それによって生まれる自分の分身が、誰かに愛されたり
>感動を与えたら気持ち良かろうという、ミーハーな思い
>があるだけだ。

>洸太郎
>「自意識という恐怖をこえてまで伝えるべきものがなかっ
>た」

>自分は冷たい人間なんだという、疑惑が、不意に浮かん
>だ。
>自分は自分にしか興味が無い。
>あるいは、あの宇宙から聞こえてくる、星の音にしか。
>友達の輪には入れなくても、音楽に包まれていると、ほっ
>とする。
>どんどん自分の内側にもぐっていって。
>そこでは、気持ちの良い、窒息感が、私を迎えてくれる。
>一人ぼっちなことも忘れて、やっぱり安心する。
※これは星奏の数少ない独白の一つですが、やはり新島氏の内面丸出しです

 ここに挙げたもの以外にも数限りなく気持ち悪い表現は出てきますが、作品の構成としても、自分の分身である洸太郎と星奏を作品内で別格のキャラとしてしまった辺りに、我利我利亡者の怨念を感じざるを得ません。SAGA PLANETSにいた頃はまだマシだったと思うのですが、そこを飛び出してからの新島氏は、俺俺俺俺で見るに耐えないです。
 完全に余談ですが、新島氏は彼自身コトバに囚われてるんだなと思った出来事が作品外にありました。彼は本作のブランド名Us:trackのtrackを「轍」と解釈していましたが、デザインロゴをちゃんと見ていれば( http://ustrack.amuse-c.jp/koikake/img/ustrack_logo_mini.png )、まずはtrackという単語にCDやレコードの「トラック」を連想するはずです(轍という解釈を否定するわけではありません)。
 さて、この作品は星奏の理不尽とも見える行動に炎上したそうです。正直、むべなるかなと思わざるを得ません。星奏の行動には理由が与えられているとはいえ、この作品は知れば知るほど、擁護したいと思えなくなってしまうのですよね。新島氏は前作『魔女こいにっき』でエロゲーマー批判をやった(ご存じない方もEDの曲名と歌詞を見ただけで察しが付くかと思います → http://www.viewlyrics.com/lyrics/monet/%E6%B0%B8%E9%81%A0%E3%81%AE%E9%AD%94%E6%B3%95%E4%BD%BF%E3%81%84/ )方ですが、もちろん作品の評価と制作者に対する好悪は別とはいえ、そういう人の自己語りを肯定したいとは普通思えないでしょう。そうして、擁護する者を失ったが故の炎上だと思います。

 ウ. 新島氏の操り人形となってしまった洸太郎と星奏
 洸太郎についてはア・イで語れましたが、星奏についてはまだ幾分語ることがあります。
 以下の内容は、新島氏の過去作を含む「作風」から演繹した読み方ですので、本作に対する誠実な読み方とは言えないかもしれません。また、この読み方は私が発見したものではないことを予め断っておきます(詳しく知りたい方は、http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=15425&uid=dov を "シロクマシナリオ=望月宝の読む物語" でページ内検索して下さい。なお、同ページは『はつゆきさくら』のネタバレを含みます)。
 さて、本作は冒頭が洸太郎の独白から始まっており、「洸太郎=新島夕が書く物語」としても見ることができます。つまり、『恋×シンアイ彼女』の中で描かれたものは、洸太郎の主観や創作が含まれている、ということです(こういう設定を織り込むのは、私の倫理観に照らせば、作者による怠慢の言い訳にしか思えず正直言って不愉快なのですが、我慢して続けることにします)。
 「洸太郎=新島夕が書く物語」の中において、星奏は「全部出して、私の子宮に、洸太郎君のミルク、全部どぴゅってしてっ」「私はいいよ。……す、好きな人の赤ちゃんなら」などと言ってしまうような(エロゲー的にはある意味)理想的な女の子であり、彼女との関係も理想的なものとして描かれました。
 しかし、これらが客観的な現実とは異なる(何をもって『客観的』とするか、そもそも客観なんてものが存在するか否かというような、哲学的なお話は措いておくとして)とすれば、おおまかな星奏の行動については、私はかなり理解できます。
 星奏が洸太郎に恋をしていたことは間違いありません。しかしおそらく、彼女は洸太郎と添い遂げる気にはなれなかったのでしょう。それは彼女が恋を追い続けるが故に、添い遂げてそれが恋ではなくなってしまうことを恐れたからかもしれません(恋とえいえんの対立は新島氏が前作で散々描きました)。あるいは洸太郎の夢見がちな部分に大いに共感しつつ(例えば、彼女は洸太郎への返事に『迷いながら何かを探し続けるあなたは、ずっと私のあこがれです』と書きました)も、そうであるが故の彼の浮き世離れした頼りなさに、最後の最後で添い遂げることが怖くなってしまったからかもしれません。
 いずれにせよ、彼女の洸太郎に対する接し方は、例え彼女自身にそのつもりがなかったとしても、彼を最終的に傷つけるものであり、恋の為に彼を利用したと言われてもしかたのないものになってしまいました。であれば、最後の手紙は彼女の最大限の誠意であり、これまでも約束は絶対に守ってきた彼女は、「誓って、もうあなたの前に現れることはありません」という「絶対の約束」を守ると思えます。
 それでも洸太郎=新島は、まだ、もう少し、全力で『恋×シンアイ彼女』という物語を全力で言うことで、彼の恋物語は竜となり、恋が永遠にはなり得ないことを恐れていた星奏に届いて現実と交錯するかもしれず……そう、これはヒロイン側が全力で恋を語った『魔女こいにっき』と対を為す、主人公側が全力で恋を語る物語だったのです!!!!!




 ひくわー。




 (4)その他、言い残した点あれこれ
 ア.
 上述したような「洸太郎=新島夕が書く物語」の読み方で、本作におけるかなりの矛盾を「これは物語だから」で誤魔化すことができます。しかし誤魔化しきれない部分もあることは付記しておきます。
 例えば、星奏がグロリアスデイズのメンバーと連絡を絶ったことです。確かに星奏の心情的には、他のメンバーの心理的負担を軽減する為にそうしたいでしょうが、現実にはグロリアスデイズが負った借金のうち、ある程度以上(かなりの程度、である可能性が高い)は返さなくて良かったはずです。それらの整理の過程で、どうしてもメンバーと連絡を取らねばならない場面はでてきます。

 イ.
 小学生時代に星奏がラブレターの返事を書けなかったことは、読み流すとグロリアスデイズのメンバーに止められたから、であるからのように見えますが、実際は星奏自身のせいです。
>吉村
>「けど今はあんまりにも環境がめまぐるしく変わってい
>て、返事ができてないって」
>吉村
>「そもそも応募のときに手紙を手伝ってもらって……そ
>の結果、転校することになって、それが申し訳なくて」
>吉村
>「そういうことを、説明することが、むずかしいって」
 このやり取りの時点で、洸太郎と別れてから結構時間が経っています。

 ウ.
 星奏への街案内2日目で、菜子が洸太郎の寝癖を見落としています。しかし彼女はゲーム初日では寝癖を見逃していないので、キャラがブレているように見えます。

 エ.
 洸太郎は「文部大臣賞」を受賞したとありますが、彼の世代を考えると「文科大臣賞」じゃないとおかしいですよね。

 オ.
 演劇を体験した星奏の台詞
>星奏
>「私は何かこう、まっすぐなだけの、ドアのつっかえぐ
>らいにしか役に立たない何の変哲もない棒の生まれ変わ
>りだったんだって……今日分かったよ」
 って言い回しは、何か実感がこもってて好きですw

 カ.
 星奏とのイベントは、結構幼い頃との対比が用意されています。
 やや分かりづらそうなものを挙げると、星奏とバイキングを演じるのは、小学生時代に洸太郎が海賊船に乗る小説を書いていると言ったことを受けていますし、自転車に二人乗りで海に落ちたシーンは、自転車で併走して一緒には海へ行けなかった出来事を受けている感じです。

 キ.
>愛美
>「私にさぼりの片棒かつげってこと?」
>(中略)
>愛美
>「おーけー」
 って何気ない愛美さんの描写が好きです。
 優しいですよね、彼女。

 ク.
>星奏は、欠席していた。
>もしかして風邪でも引いたのかなと思ってメールをする
>と、『作業をしてるの』ということらしい。
>映研に頼まれている曲かな?
>けっこう平気で学園をさぼるところは、ちょっと尊敬す
>る。
 仕事柄サボり慣れてそうですよね。

 ケ.
 森野精華のBGMが彩音と同じものになっていますが、まー星奏ルートにおける立ち位置は、両者に割と近いモノがあるかもしれません。

 コ.
 森野精華に会った当初、洸太郎は彼女のことを忘れています。『それからアルファコロン』の時には思い出しているのですが、どこで思い出したのでしょうか?
 夜の街を見回っている最中の
>子役、か……
>ん……?
>洸太郎
>「あれは……」
 のシーンの「ん……?」が、一見星奏を幻視した(本物の可能性あり)反応のように聞こえるのですが、実はここで森野精華と会っていたことを思いだしたのかもしれません。

 サ.
 作品初日で星奏がトイレに行くシーンですが、トイレが見つけられない、洗った手を拭かない(どうもハンカチを忘れてきたぽい)、ボーッとしてて男子にぶつかる、男子トイレをうっかり覗き込んでしまう、教室の方向を忘れる――といった具合に、彼女がかなり抜けていることが示唆されます。
 芸術肌の人ってそういうところがあるとは思うのですが、その後はあんまりこうした面が強調されず、逆にあり合わせのモノでササッと朝食を作っちゃうなど、彼女の如才なさの方が見えてしまうので、イマイチ描写から意味が見いだせませんでした。

 シ.
 と、いうわけで、私は星奏が巷間言われるような馬鹿女とはあまり思っていません。
 おそらく彼女の真意は「自分は洸太郎に死ぬほど恋をしていて、だからこそ添い遂げることはできない」というものであったはずで(この辺は新島信者or元新島信者でないと憶測できないものであるあたり、作品として不親切だなぁと思いますが)、そうであるからこそ、ああいうつき合い方しかできなかったんじゃないかなぁと納得してしまえるんですよね。
 彼女はずっと洸太郎と恋をしていたかった。だからこそ「さようなら」が言えなかったんだと思いますし、残酷なことを言えば、24歳ってのはあまり社会的なしがらみもなく、女としての最盛期を保っていられる最後の方の時期です。だからここで永遠に別れて恋を綺麗なままにしておきたかった、というのもあったのかもしれません。
 このように考えると、私にとって星奏の言動は一貫したものであり、まーいい歳したオトナとしてどうよ独りよがりじゃねって批判ももっともだとは思いますが、しかし洸太郎が星奏に求めたモノも「恋」であるという作中の描写からすれば、洸太郎にとっても、あれ以上マシな別れ方はなかったように思えます。
 あそこで星奏がいくら言葉を重ねても、洸太郎がいくら彼女を引き留めようとしても、それらは彼女と彼が求めた「恋」を台無しにするものでしかなかったでしょうから。
 星奏は洸太郎よりもずっとよく状況を承知していました。私から見た彼女は、優しくて賢くて自分も周りもよく見えている、しかしあまりにも真摯に綺麗なものを追い求めすぎた女性です。



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3.彩音
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 (1)星奏と彩音の対称性
 ともかく星奏と彩音は対照的に描かれています。序盤での印象をザッと挙げるだけでも、
・いつもにこにこしている星奏/いつもイライラしている彩音
・洸太郎に警戒される星奏/洸太郎を警戒する彩音
・昔とまるで印象の変わらなかった星奏/会っても気づかないくらい印象の変わった彩音
・授業中星奏を見ている洸太郎/授業中洸太郎を見ている彩音
 といった具合です。ここに言動の対照性まで加えると、数限りないリストを作ることができます。
 もちろん、こうした対照性は、テーマにおける二人の対照性を際だたせる為に用意されたものでしょう。結論から先に書いてしまいますが、星奏は想いを上手くコトバにできない・伝えられないというテーマを背負ったキャラであり、彩音は想いを不格好でもコトバにする・伝えるというテーマを背負ったキャラです。
 おそらく、そうしたテーマの対照性を最も端的に顕しているのが、洸太郎が小説を書く下りです。物語の初日、洸太郎は星奏を思って小説を書こうとしするのですが、「勘違い野郎が、恋愛を語るのか」と考えてしまい上手くいきません。後の映画撮影で彩音を思いながら「滑稽だっていいじゃないか。勘違いだって。届かなくたって」と考え、書き上げたことと裏表になっています。
 ただ、こうして書き上げた物語が、「君(引用者注:君=星奏)に届くものを書くよ。君を感動させるものを」である辺り、彩音は報われません。このように、彩音の「洸太郎へ想いを伝えようとする情熱」は、洸太郎に「星奏へ想いを伝えようとする情熱」を産む結果に終わるという構図が、共通では延々と続きます。
 例えば、彩音が何度も口籠もりながらようやく言えた「久しぶり」を受けて、洸太郎はようやく星奏に「久しぶり」と言うことができました。あるいは中学校時代、彩音の存在は、洸太郎が小説を再び書きたいと思う切っ掛けにもなっていたようです。
>姫野さんに振られてから……ほとんど小説を書かなくなっ
>たんだっけ。
>(中略)
>それが三年生の頃から、ちらほらと、書き切れないイメー
>ジボードのようなものが出てくる。
>あの頃、なんでまた小説を書こうと思いだしたんだっけ?
>そうだ。
>新堂が……

 さて、こうしたすれ違いの構図の発端はそもそも何だったでしょうか?
 星奏が洸太郎に恋をした切っ掛けは、私が2(1)で書いたものを再掲しますが、次のようなやりとりでした。

移動教室で置いてきぼりにされそうな星奏の手を洸太郎が取る。星奏が洸太郎を好きになる
 ※この場面は二人の記憶に齟齬がある
  洸太郎の記憶:星奏は周りに気づいていない。洸太郎は教室内にいたまま星奏を見ていて、思い余って彼女の手を取る。洸太郎の発言は「次、別の教室だよ」「いや……ごめん」
   星奏の記憶:周りに誰もいないことに気づく。教室の外から洸太郎がやってきて、星奏の腕を取る。洸太郎の発言は「なにしてるんだ?」「いくぞ」

 星奏の記憶は、特にコトバに関しては洸太郎のそれと全く異なっており、彼女にとってコトバは重要ではなかったことが示唆されます。星奏にとって大事なのは、自分が孤独だと感じていた時に手を差し伸べてくれた、洸太郎の行動でした。反対に、洸太郎が星奏に恋をした切っ掛けは、夜明けの海岸で星奏の歌う鼻歌を聴いてです。二人の恋はあくまでも非言語的なところにあります。
 対する彩音と洸太郎との関係の場合、コトバは重要な意味を持ちます。
 洸太郎が黒板に書いた「がんばるのは恥ずかしいけど、がんばらないのはもっと恥ずかしい」「青春は恥ずかしい」は彩音の心を震わせることができました。反対に、彩音からすれば「誰かが書いた、自分が洸太郎に掛けたかったコトバ」は洸太郎に伝わり、彼が一生懸命歌ったと思えたわけです。
 こうして芽生えた二つの恋は、やがて二通のラブレターとなって現れます。
 星奏は、彼女の音楽を聴いて恋をした洸太郎のラブレターに答えませんでした。
 洸太郎は、彼のコトバを読んで恋をした彩音のラブレターに答えませんでした。
 このように、星奏と洸太郎の関係×彩音と洸太郎の関係 の対照性は、物語の発端から貫徹されています。

 (2)ラブレターのイベントについて
 星奏or彩音ルートに入ると、文芸部がラブレターを代筆するイベントが始まります。これらのイベントも二人の対照性を考える上で示唆的なので、触れておきたいと思います。
 星奏ルートを選んだ場合の最初のイベントでは、依頼者は七転八倒した挙げ句、「誰かがあなたを思っている」という差出人不明のラブレターを差し出すに留まります。これは、非言語的なモノを好む星奏のスタンスを示してるのでしょう。もう一つのイベントでは、差し出したラブレターが相手に向かい合ってもらえず、これはこのルートにおいて、最後まで洸太郎に向かい合ってもらえなかった彩音に重なります。
 彩音ルートを選んだ場合の最初のイベントでは、依頼人の言いたかったことが洸太郎のコトバによってすっきりとまとまり、解決します。その姿はかつての彩音に被ります。もう一つのイベントでは、洸太郎のラブレターを受けての星奏のコトバが、知らない誰かへと届けられ、胸を震わせるのかもしれません。まるで星奏が作った歌がそうであった(洸太郎を思って作ったことが示唆される『GLORIOUS DAYS』は、彼女の知らない誰かの胸を震わせ、またこのルートでは彩音によって歌われ洸太郎の胸を震わせます)ように。

 (3)彩音ルート後半のデキの悪さ
 さて、星奏ルートとは対照的に、彩音ルートでは早々に二人の心は繋がり合ってしまいます。
 そもそも、共通段階でも洸太郎が「あのこと、怒ってる?」と彩音に尋ねるなど、ぎこちないながらも二人の相互理解はどんどん先へと進んでいます。彩音が告白して、洸太郎が返事をするまでの間でも、「私、國見君といるの、つらい」と、彩音はハッキリと自分の思いを口にします。恋人になれば更に、
>他の誰かよりは少しだけ本音が言い合えて、気が楽にな
>る。
 という関係だった二人は、
>人の気持ちは分からない。自分の気持ちさえ。
>だけど、ある瞬間全てが明瞭に通じ合い、心に鮮やかに
>映し出される時がある。
>(中略)
>二人の気持ちが、不思議なくらいお互いに共有出来てい
>る。
>そんな瞬間があるのかもしれない。
 という瞬間を経て、何の憂いもない恋人関係へと変わるわけです。
 そんな彼女のルートでは、章題「誰よりも、國見君の考えてることしりたいし……答えたいから」通りに、彩音は徹底して洸太郎、ひいてはユーザーのご期待に応え、都合の良い女になってくれます。例えば、洸太郎はよく星奏で妄想をしますが、妄想内での星奏は「現実」の星奏と全く異なります。ところが彩音の場合、なんとほぼ洸太郎の妄想通りの受け答えをしてくれるのです! なんて都合のいい女なんだッ。
 彩音ルートの後半は、そうした彼女の多分にキャラクター的な在り方を、敢えてカリカチュアとして描く(キリッ)とかゆー意図で、新島氏がクソを投げてきたように思えます。「ドラマか」というコトバがやたらと連呼され、実際ドラマ顔負けな超展開が連発されユーザーは辟易するわけですが、その裏に、新島氏の「どうだオタク共、これがお前等の大好きな都合の良い女、都合の良いシナリオだぞ~」「コトバなんて伝わらないのが普通で、伝わるようなこのルートはウソなんだぞ~」という腐った悪意を感じずにはいられません。この人、少なくとも『Coming Humming!!』以降、6作連続してこの手のクソをユーザーに投げつけてきたわけですから。
 感じなかったという方は、ぜひ前作のED曲のタイトルと歌詞を噛み締めながら、もう一度考えて欲しいと思います
( http://www.viewlyrics.com/lyrics/monet/%E6%B0%B8%E9%81%A0%E3%81%AE%E9%AD%94%E6%B3%95%E4%BD%BF%E3%81%84/ )。

 (4)その他、言い残した点あれこれ
 ア.
>スカッといきたいって、思ったところなのに。
>(中略)
>洸太郎
>「うんちも快調。トイレに行ってきまーす」
 スカってそういうことw

 イ.
>彩音
>「でもさあ、誰かの助言をもらってそれっぽく見せても、
>それってウソってことにならない?」
>(中略)
>彩音
>「おっと……いや、一般論としてね。別に私はなんだっ
>ていいと思ってるわけだけど」
 何でもいい、他人の助言を借りてでも伝えたいという、彼女らしい倫理観だと思いました。

 ウ.
 私も彩音ルートでは告白シーンに至る流れが一番好きですが、中でも気に入った洸太郎の独白がコレでした。
>新堂の浮ついた、どこか空回った感じを、どうして当の
>俺こそが理解できなかったんだろう。
>だって……それは、まさに、いつかの俺にそっくりじゃ
>ないか。
>(中略)
>どうして彼女が怒ったか。どうして彼女が、俺の前で、
>何かに熱中してるようなそぶりを見せていたか。
>(中略)
>俺は、新堂のこと、ちゃんと見ようって決めた。
>もう、恋やなんだと真剣に考えても、アレルギーは出な
>いようだ。
>うぬぼれたり勘違いすることを恐れるのはやめよう。
>間違っていたって、俺が恥をかくだけじゃないか。
 主人公が目覚めるシーンって、胸アツですよね。

 エ.
 「新堂のこと、ちゃんと見ようって決めた」と主人公が決意した後、実際じ~~~~っと彩音のことを見ている洸太郎に、彩音の表情がどんどん変わっていくのは笑いました。

 オ.
>彼女を中心にして、やっと、あの頃の俺には、世界が色
>づいて見え始めた。
>曇り空の下くすんでいた景色に日が差したような塩梅だっ
>た。
>そう。新堂のことを考えると、当時の思い出はちょっと
>だけ輝き出す。
 後になって良さを知ることってありますよね。
 私の場合、「ああ、あの時あの人は随分優しくしてくれたんだなあ。気づかずに突っ張っちゃったなあ」と思うことが多いです。ハズカシー。

 カ.
>彩音
>「國見君が、掃除当番さぼって」
>洸太郎
>「あぁ」
>洸太郎
>「俺、うっかりしてるから、よく新堂につかまってたな」
>彩音
>「つかまってって、なによ。こっちこそ、結局そのまま
>手伝ったりしてあげたんだからね。当番じゃないのに」
 合唱イベント以前も、二人は(涼介や志乃も加えて)結構絡んでたんでしょうね。
 そう考えないと、公園でいきなり二人が本音トークしてるシーンが流れとしておかしくなります。
 ――しかしその辺の仲良しイベントをちゃんと描かないのはどーなんだ。星奏とのイベントは割としっかり描かれたのに。

 キ.
 洸太郎がスマホに疎すぎる描写は、凜香ルートで普通にスマホを使っている描写と整合しないように思えます。ライター間で設定の共有がされてないですねぇ。

 ク.
 FF5が昔じゃないと星奏が叫ぶシーン。彼女はおそらくインドア系の趣味にハマってるんだろうなあと思いました。

 ケ.
>「自分の胸に聞いて」
 胸だけに。

 コ.
>涼介
>「あんな単純な質問に、よくそんな風に、長く答えられ
>るな。すごいと思うよ。皮肉じゃなくて」
 ホントに恋してるなーって感じが伝わります。恋を言葉にできるというのも、彩音ルートのテーマに合っています。
 それから、この台詞を聞いて初めて、涼介っていい友人だなとしみじみ思いました。
 ベタベタしすぎず遠すぎず、絶妙な距離感という感じ。

 サ.
>菜子
>「もぐもぐ。うーん……やっぱり、春菊は今が
>美味しい」
 何気に飯描写の多い彩音ルートですが、その中でも特に美味さを感じたシーンです。
 鮭のホイル焼きの描写も好きだったけど、こういうシンプルな書き方も好き。

 シ.
 初エッチ後
>彩音は何をしているだろう。
>二人が一緒にいた部屋で、あるいはベッドで、何を思っ
>ているんだろう。
 なんかこの辺の表現がいいと思いました。

>いつもの道で手を振り合う。
>だけど、なんだか別れがたくて、お互いそのまま無言で
>向きあっていた。
>そのまま、自然と口づけを交わしていた。
 この辺も、なんかいいなって……。

 ス.
>愛美
>「彩音ちゃん、こーちゃんのこと、よろしくね。ちょっ
>と理屈っぽいけど、けっこうバカだから」
>彩音
>「は、はいです」
>洸太郎
>「愛美さんは、俺のなんなんですか」
>理屈っぽいけどバカってなんだ。そんな風に見られてい
>たのか。
>愛美
>「おねーちゃん」
>洸太郎
>「はいはい」
 素敵なおねーちゃんだと思います。

 セ.
>いきなり出てきた我が家の若干生々しい事情に、彩音は
>興味を引かれたっぽいが、あえて詳しく聞いては来なかっ
>た。
 親描写の少ない作品ですよね。洸太郎は半分ほっとかれてたんでしょうか。
 しかし、星奏が親と距離を置いている感じなのは解せません。高校時代も社会人時代も全く影を感じさせないんですよね。大事な一人娘でしょうに。洸太郎みたく、なにか生々しい事情が隠れていたのでしょうか?

 ソ.
>志乃
>「兄貴の部屋にあるゴミ箱と同じにおいがする」
 結局あの後、彩音と洸太郎はヤッちゃったんすかね。

 タ.
>彩音
>「星奏もいろいろと考えてるんだ」
>彩音
>「ううん……星奏だけじゃない。志乃も志乃を見に来る
>人達も」
>彩音
>「私が、私の作りたいものを作るだけじゃだめなんだ」
>彩音
>「当たり前だよね……」
 こういう視野の広さを、星奏ルートの洸太郎は遂に持つことができませんでした。
 星奏ルートにおける描写の空疎さを思うと、もう洸太郎と星奏の物語は「二人で子供のままでいて成長を拒否しようとしたけど大人の社会が俺たちを引き裂くぜYEAR!」がテーマでいいんじゃないかな、などと投げやりな感想が浮かんだりもします。

 チ.
>星奏
>「コード進行が単純だからね」
 自分の曲であるからか、容赦ない評価。

 ツ.
>洸太郎
>(どうなる。どうする。アイプル)
>洸太郎
>(ぷるぷる)
 チワワ。

 テ.
>浦河
>「仕切るの、得意でしょう?」
 彩音、桜台でも仕切りキャラだったのかと苦笑い。
 彼女、どうも洸太郎の前でだけ猫被ってる疑惑が拭えません。映研部長に凄んでたりしますし。

 ト.
>洸太郎
>「どこかで書いて、どこかで配って……そういうところ
>からはじめようと思います」
 星奏は洸太郎と付き合えないと音楽がダメになるみたいですが、彼はどのルートでも書くことを諦めないですなぁ。

 ナ.
 この作品のタイトル『恋×シンアイ彼女』の意味ですが、色々と想像できます。
 例えば、星奏の洸太郎に対する想いが恋or親愛、とも取れますし、
 洸太郎が恋している星奏vs洸太郎と親愛の仲にある彩音、とも取れますし、
 最後まで「恋」だった星奏ルート(お互い相手への思いやりに欠けてますしねぇ)と、「愛」でもあった彩音ルートの対比、とも取れます。とりわけ彩音が好きになれた方にとっては、彩音ルートこそ「真愛」に見えたかもしれません。



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4.ゆい
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 正直、ここまでのロリキャラには女を感じられないです。その点を差し引いても、綺麗なものを綺麗なまま描いてしまったような印象がありました。富士山や日本海は確かに美しいでしょうが、それをそのまんま描かれても「ふーん綺麗だね」で終わってしまう感じ。もっと彼女の内側から滲み出る、人間的なモノが欲しかったとゆーか。
 このシナリオから敢えてテーマを見いだすなら「30年越しに伝わったコトバと想い」でしょうか。終盤の流れは綺麗に締めたと思います。
 しかし、これは凜香ルートにも共通することなのですが、シナリオの屋台骨である生徒会長のリコール→旧校舎解体という流れに、全く説得力を感じませんでした。拳法部とかつまらなかったです。
 このルートを書いた方の描写かは分かりませんが、共通の星奏への街案内を終えた後に、モネットで凜香がゆいを「店員さん、かわいらしいわね」と評するシーンがあります。しかし、ゆいルートで明らかになった情報によれば、凜香はゆいに花壇の手入れの許可を与えており、この時点で既に面識があるはずです。設定の整合性を以下略



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5.凜香
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 告白するまでの流れが結構好きでした。凜香の贅沢な時間の使い方も好き。ただ、声優さんの包容力のある演技は、「いじわる」というキャラ設定にほんの少し合わなかったかもしれません。色気のある声で好きなんですが。
 このルートにおける主要な問題である、この先自分がどういう道を歩めば良いか分からないっていう恐怖は、普遍性もありますし、退廃的なエッチにも繋げやすいので、美味しいテーマだと思うんですよね(例えば、『Clover Point』というゲームの月音ルートでは、それが非常に生々しく描かれました)。もちろん、洸太郎と付き合う事は、そうした問題に向かい合う苦しみの中で、一時の安らぎになったでしょうし、その最中で「人助け」という彼女のやりたいことを見いだす事にも繋がっています。しかしやはり中だるみ感は避けられませんでした。後半は無理やり「コトバにしないことで伝わらない」という作品の根底テーマを消化した感じです。
 また、テキストは丁寧ではあるのですが中途半端です。エロゲ的な軽快さを損うほど小説的に描写・説明が多いのですが、その質は新人賞で二次・三次落ちしそうなレベル。興味深い記述もありましたが、上手いとまでは言えません。



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6.その他
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 ア.
 彩音の胸がはち切れそうな感じ、見ていてたまらんです。
 イロイロなイミで。

 イ.
 シナリオはともかくとして、音楽や風景描写は本当に美しかったです。『風の止まり木』『flower』『とけかけの小豆アイス』『ここにいるよ?』『壇上のBlue eyes』がお気に入り。思いっきりヒロイン達(+妹)のテーマBGMなので、キャラへの愛着が反映されてる気もしますが。
 とりわけ、『ここにいるよ?』の後半部が大好きです。喫茶店の音楽というイメージの方が強いですねー。ゆいは嫌いじゃないのですが愛美さんが好きです。
 『壇上のBlue eyes』は凜香先輩のイメージにとても合ってると感じたので、如月先輩にも流用されたのはやや不満でした。二人が似ているとはあんまり思えなかった。
 これら美しい曲で彩られる、例えば朝に菜子とご飯を食べる時間、社会人編における一人暮らしの描写。この辺の独特の静謐感には、たまらないものがありました。やや酷い言い方になりますが、新島氏のシナリオは気に入らなくても、彼の空気感の描写は好きだって人、結構いると思うんですよね。

 ウ.
 主人公の部屋汚いですよねw 彼の荒廃した精神を象徴しているようです。綺麗なものだけを描いた彩音ルートだけは彼女が洸太郎の部屋に入ってこない、という事実も意味深であるかもしれません(彼女が部屋に入ったら掃除してしまって、CG差し替えの必要がでてくるかもしれませんし)。

 エ.
 共通で海へ撮影に行くときの菜子がとっても可愛い。物語開始から2日目の朝でダダこねて以来、ずっと兄と旅行したかったようです。果たされて「おにーちゃん大好き」とテンション上がっちゃってる辺りがラブリー。些細な約束が守られるだけで、子供ってすっごく喜びますよね。
 守りたい、この笑顔。