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dovさんのソナビア -SonabiA-の長文感想

ユーザー
dov
ゲーム
ソナビア -SonabiA-
ブランド
えのきっぷ
得点
85
参照数
449

一言コメント

読み捨てられるはずの物語を「拾う」ということ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 およそ物語というものは読み捨てられるためにある。
 映画を見るにしろ本を読むにしろエロゲをするにしろ、それらはふわふわした夢のようなものを私達に見せた後で、多くは二度と読み返されることなく消費されてゆく。
 これは気に入った作品であっても例外ではない。1度見てしまった夢からは新鮮味が失われる。私達はその時得た驚きを、興奮を、情熱をもう一度味わいたいと思うけれど、同じ物語を再読したところでもうそれは得られない。――記憶を消去でもしないかぎり。
 ここに物語が持つ消費の運命があり、一回性の儚さがある。
 このゲームはその点について極めて自覚的である――と感じる。
 例えばそれはヒロインに現れている。
 女の子達の世界しか知らない箱入り娘「ソナ」は、物語を進めてゆくにつれどんどん汚されてゆく。
 初めは男性に対し全く警戒心というものがなく、見知らぬおじさんにも無邪気な笑顔を寄せていたような彼女は、騙され・利用され・服従を強いられ――やがてそれすらも利用してやろう、というふてぶてしさを得てゆく。まるで私達が「汚れちまった」過程を早回しで再生するように。
 例えばそれはキャラクターの関係に表れている。
 このゲームは不変の関係を徹底的に否定している。ソナと関わる多くの人々(その中には凌辱してくる男性もいるのだが)は彼女の人生と一瞬だけ交わり、彼女に何らかの感慨をもたらしてすぐに舞台から消えてゆく。慕っていた親代わりの人物とは決別し、一生仲良しでいたいと願った親友とはすれ違う。――ソナは物語の初めから終わりまで孤独の中にいる。
 そんな彼女と作中ずっと連れだったのがラビアだが、その期間とて決して長いものではない。二人の間にあるものの殆どは打算で、そこに本当の友情があるのかすら怪しい。ただ寂しかった二人の女の子が、成り行きで一緒にいた相手ともう少しだけ一緒にいる――その程度の頼りない繋がりにさえ見える。
 二人はそこに救いを見いだしたように見えるが――

 このゲームが与える情報は極めて断片的で、多くをプレイヤーの想像に委ねている。「ストーリーの完成度が低い」とも言えるのだが、あまりそう言いたくならないのは、このゲームが「しょせん夢」であることを積極的に引き受けているからだろう。
 プレイヤーはそうした「しょせん夢」に、だが「しょせん夢」だからこそ、ずっとたゆたっていたいと願う。――物語の最後に、ソナとラビアがもう少し二人でいることを選んだように。
 このゲームには圧倒するボリュームも、息を呑むような美麗さも、作り込まれた世界観やストーリーといったものもない。そこにあるのはただ消費されるヒロインであり、消費される処女性であり、消費される小さな物語の羅列である。あるいは数時間もプレイすればすっかり秘密が解き明かされて、私のようなゆとりゲーマーでも最適化できてしまうような、消費される小さなシステムである。
 ――だからこそこの世界にもう少したゆたっていたくなる。ときおり思いだして反芻してみたくなる。
 そういう矛盾のあるゲームである。

 このゲームを私はある知人から、「自分が今までプレイしてきた同人エロゲの中で、最も面白いと感じた作品」と言われて薦められた。
 今では、私にとっても最もお気に入りの同人エロゲになっている。
 読み捨てられるものだからこそ拾いたくなる。そんな作品だった。