ErogameScape -エロゲー批評空間-

dovさんのフツウノファンタジーの長文感想

ユーザー
dov
ゲーム
フツウノファンタジー
ブランド
EX-ONE
得点
83
参照数
2433

一言コメント

「エロゲー」だと思うと不満が多いが、絵と音が付いたラノベだと思えばかなり良い作品。【長文感想目次】1. 作品概要 2. 購入検討用の情報 3. 攻略用情報 4. 物語あらすじ(ネタバレ有り) 5. 感想(ネタバレ有り)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

1. 作品概要
・シナリオ攻略順はクリス→その他にするのがオススメ(どのシナリオでもクリスのネタバレがされてしまうため)

・シナリオ長さ
 体験版を4としたとき製品版フルコンプまで10程度。プレイ時間にして10~15時間程度。

・CG枚数
 計93枚
  ヒスイ:21枚(内HCG9枚)
  カレン:20枚(内HCG9枚)
  クリス:20枚(内HCG9枚)
  リブラ:20枚(内HCG9枚)
  その他:12枚(内HCG4枚)
     
・曲数
 計43曲。内ボーカル曲3曲(希望の剣、overtaker、"これから"を紡ぐ旅)

・Hシーン
 計20シーン
  ヒスイ1:野外、通常服。おっぱい出して手コキ
  ヒスイ2:野外、通常服。乳首責め→手マンでイかせる→正常位で射精→恋人繋ぎで騎乗位
  ヒスイ3:宿屋、私服。キス→服の上からパイ揉み→手マンでイかせてお漏らし→窓に胸を押しつける立ちバック
  ヒスイ4:宿屋、裸エプロン。パイズリ→パイズリフェラで射精→騎乗位で射精→正常位
  カレン1:木陰、通常服。自慰を覗く
  カレン2:野外、通常服。パイ揉み、うなじにキス→立ちバックで射精→正常位
  カレン3:宿屋、全裸。キス→全裸観察→パイ揉み、乳首責めでイかせる→正常位
  カレン4:宿屋、裸エプロン。キス→髪コキで射精→背面座位で射精→恋人繋ぎで騎乗位
  クリス1:船倉、通常服。フェラパイズリ
  クリス2:洞窟、通常服、最初から感じまくり。ディープキス→乳首責め→アナル責めでイかせる→騎乗位→正常位(クリスが下)
  クリス3:宿屋、私服。たくしあげ→キス→手マンでイかせる→側位
  クリス4:宿屋、紐水着。69で射精→立ちバックで射精→正常位
  リブラ1:宿屋、通常服。ハプニングでパンツのみのリブラの性器を触るだけ。極めて短いシーン
  リブラ2:船上、通常服。後ろから乳首責め→対面座位(抱きつきなし)で射精→立ちバック
  リブラ3:宿屋、通常服。立ち膝で後ろから乳首責め→正常位(リブラ上)
  リブラ4:宿屋、セーラー服。フェラ顔射→正常位で射精→バック
  土の魔将マーモン:宿屋で彼女から迫る→バック(CGでおっぱいは見られない……と思ったらちゃんと見えてた。小さすぎなんだよ!)
  水の魔将レヴィ・アン:昼の海岸で性器擦り合い→対面座位(抱きつかないで性器だけ合わせるもの)
  風の魔将ベルゼブル:魔王の玉座で頬にキス、耳噛み等イチャイチャ→背面座位
  火の魔将ベルフェゴル:魔王城で対面立位
  ※ちなみに全員処女かつ破瓜の血がCGで確認可能

2. 購入検討用の情報
・マユは攻略不可(水浴びCGで裸の後ろ姿は見られる)。エルエルも女神も攻略不可
・シナリオは基本的に一本道で、途中及びエンディングに選んだヒロインとのショートストーリーが挿入される形式
・1章毎にアイキャッチが2回挟まるが、このゲームは全54章構成(外伝含む)で最低8回エンディングを見なければコンプできないため、たった10時間強のシナリオなのに単純計算で800回以上アイキャッチを見なければならない。普通にプレイしていてもかなり煩わしいが、更にアイキャッチ及び選択肢の度にスキップが解除されるので自力フルコンプを狙う場合凄まじい忍耐力が必要となる点は要注意。スキップの「作業」だけで数時間持って行かれる
・加えてフラグ立てが複雑な為、攻略サイトも見ない場合CGコンプには残忍なまでの苦行を乗り越えなくてはならない。筆者はヒロイン全員のシナリオを14時間程度で見終えた後に6時間延々アイキャッチと格闘し続けてやっとCGコンプできた。最初から攻略サイトを見ていればアイキャッチとの格闘は2時間程度だろう
・基本的なシステムは揃っているが、どの機能がどこにあるか分かりづらい点は不親切。セーブ数はデフォルトで120個あるが無限に追加することができる
・文章力はフツウノプロ並。構成が意識され情報も整理して提示されるので引っかかることなくすらすら読めるが、文そのもので読者を酔わせるような筆力はない
・物語は要領よくまとまっているが如何せんボリューム不足。大きくユーザーの期待を上回ることも裏切ることもないだろう
・基本的にギャグテイスト。ラノベのようなノリとストーリー展開。FC・SFC時代のDQ・FFやウィザードリィ、メガテンなどのネタが豊富
・HCGはかなりヒロインの体型がおかしい。ダメな人は要注意。公式HPで閲覧できるHCGは比較的マシなものばかりなので、できれば体験版のHCGを見て覚悟を決めたい

3. 攻略用情報(断片的な情報に過ぎないが投稿時良い攻略サイトがなかった為書いた)
・ヒスイ、カレン、クリス、リブラがメインヒロインで各ヒロイン2種類のEDがある。
・どのヒロインのシナリオに入るかは後編第二章でパーティが一時解散するときにどのヒロインと行動を共にするか選択することで決まる。
・リブラ以外については、試練の大地でHをしていないと上記後編第二章で行動を共にする選択肢を選ぶことができない。
・リブラ以外については、好感度が高いとHシーン付きのEDを見ることができる。ただし好感度が低いEDでも固有のCGが見られるためCGコンプの為には両方を見なくてはならない。
・リブラのルートに入る条件やED分岐条件はハッキリしたことが分からない。ただ、試練の大地で全員とのHを回避すると確実にリブラのHシーン付きEDに入れるようだ。
・前編13章の選択肢で「カレン」を選んでいると、カレンシナリオに入ったときにイヤリングを買ってあげるイベントを見ることができる。
・ヒロインの選択によって変化するのは、後編の3~6章(ヒロインと二人きりで過ごす日々)、22章(最終決戦前夜)、エンディング。リブラのみ23章(リブラを破る時)での展開も変化する
・シナリオクリアしたヒロインの画像がEXTRAモードのルート画面に追加される。
・セーブフォルダを開きたい場合はゲーム画面のシステム→セーブフォルダを選ぶと簡単に開ける。

4. 物語あらすじ(ネタバレ有り)
 ・前編(フツウノファンタジー1)
 父の跡を継ぎ魔王になったジェイドは魔導書リブラにより自分が勇者に倒される運命だと聞かされる。彼は運命を変えるために勇者ヒスイやその仲間である戦士カレン・神官クリスの情報を集め冒険の妨害を試みるが、彼女達が死んでも所持金の半分で蘇られることや公然と泥棒が認められていることなど数多くの理不尽がまかり通っていることに恐怖を覚える。
 ヒスイ達の冒険の邪魔が上手く行かないジェイドは彼女達の仲間になるという奇策に打って出る。彼はヒスイ達が持つ理不尽な常識にツッコミを入れつつも、徐々に仲間として情を通わせていく。しかし彼の妨害の試みはことごとく失敗し、ジェイドは予言通り魔王としてヒスイ達に「泣きながら倒される」。
・後編(フツウノファンタジー2)
 死んだかと思われたジェイドは宿屋で目を覚ます。ヒスイやカレンが必死に彼を助けようとした結果だった。彼は魔王としての力を失ったが部下からの信頼は失っておらず、女王エルエルと和解し人とモンスターや魔族が共存できる世界を目指す。
 束の間の平和……だが、世界を創ったとされる女神アーリは世界を滅ぼすことを宣言し、特にジェイドの抹殺を図ろうとする。クリスはアーリに従い、ヒスイやカレンもアーリに操られ、ジェイドやその仲間達は世界の枠組みそのものである女神を相手に絶望的な戦いを強いられる。
 リブラはジェイドがこの世界の存在ではなく、彼が父だと思っていた先代魔王ジョーカーが女神に対抗するために異世界から連れてきた存在だと語る。この世界の者ではないジェイドはアーリの思惑から外れて行動することができ、彼が世界の矛盾にツッコミを入れられるのもそれが原因だった。また、ジェイドがジョーカーから受け継いだ九頭竜の力は女神に匹敵するという。
 ジェイドはこの世界を救う「勇者」として、再び仲間になったヒスイ達や魔族の手下達、グリーンやアクアリーフ、そしてリブラ達の力を借り、アーリを打ち倒すことに成功する。アーリは女神の力を失って世界の登場人物の1人になり、女神の力を受け継いだヒスイはその力を悪用することなく、世界は女神の支配から脱して人や魔族達は筋書きのない生を歩むようになった。

5. 感想(ネタバレ有り)
 端的にこの作品を表現すると「CGと音楽付きライトノベル」と言ったところ。当然ライトノベルとエロゲーとでは求められるモノが異なるので、このゲームにエロゲー的なものを求めた方は「特濃とんこつラーメンを期待してたのに出てきたのは手打ちそばだった」的な肩すかしを喰う。
 たとえば、このゲームの一本道という構成は体験版で期待を膨らませたプレイヤーを大いにがっかりさせたのではないだろうか。このゲームはリブラ(とクリス)がかなり「何かを知っていそう」な雰囲気を醸し出しているので、体験版をプレイすると1.ジェイドが敗北する2.女神が世界を滅ぼそうとする3.ヒスイ、カレン、クリスのルートではそれぞれの視点から物語世界の謎が解き明かされるも完全なグッドエンドにはならない4.他の3ヒロインのルートを終えるとリブラルートが解放されて全ての謎が明らかに&熱血展開&グランドフィナーレてな展開を妄想してしまう。
 ところが実際は上下巻で完結するライトノベルよろしく、体験版=製品版の前半で広げられた大風呂敷は体験版とほぼ同量の後編であっさりと畳まれてしまう。しかもタチが悪いことに、いわゆる「打ち切り」という印象はあまり受けないのだ。この作品は後半が特に駆け足になるということもなく(『前半も後半も駆け足だ』とは言えるかもしれないが)、予定された通りに作品が終わった印象なので、「た、確かに美味い手打ち蕎麦だった。蕎麦としては完成度が高い……だが、だがこれは俺が食べたかった特濃とんこつラーメンじゃないんだーっ」という、完成度は認めざるを得ないが求めたモノとなんか違ったという釈然としない感じを悶々と抱え込まされる。
 ヒロインとの関係もこの不満に拍車をかける。そう、このゲームの登場人物達は「キャラクターとしては」凄く魅力的なのだ。ありがちなハーレム作品とは一線を画し、ヒスイもカレンもクリスもリブラもそれぞれ最大限に個性を発揮しつつ、パーティ内でワイワイやっている感じを十二分に堪能できる。魔王軍の面々もそれぞれに個性的でプレイヤーを飽きさせない。これまたライトノベル、あるいはアニメの登場人物として見れば「今期の良作」と呼ばれるだけの質を備えていたのではないだろうか。
 ……が、エロゲーヒロインとしては何か違うと言わざるを得ない。やっぱりエロゲーは特定のヒロインとの関係に「特別」を求めるわけで、あの天真爛漫にして純情可憐なヒスイたんがジェイドの前だけでは違った面を見せたり、恋に落ちてからは相棒のリブラやジェイドを誘惑するクリスに焼き餅を焼いたり、そういう展開を求めていた方は多かったと思う(『そんなヒスイたん見たくねーよ』と思われた方もいるかもしれないが、ここで言いたいことは、ヒロインと主人公との特別な関係を何か見せて欲しかった、ということである。別に焼き餅でなくてもいいが、恋に落ちた前後で何か変化が欲しかった)。
 ところがこのゲームは一本道であるせいで、どのヒロインを選んでも主人公がリブラと相変わらず唯一無二の相棒関係を続けてどのヒロインのエンディングでも「ジェイドはリブラと世界を超える」と言われてしまうし、クリスを味方に引き入れる際には主人公が「お前は俺のものだ!」とシャウトしてしまう。To LOVEるやらラノベではそういうハーレム展開も許されるかもしれないが、エロゲーとして見たときは選んだヒロインとの「特別」な関係の邪魔にしか感じられない。
 ジェイドについてもヒロイン達と同様のことが言える。彼は単なる口先キャラに終わらず自らも行動し、リスクを負う。「アニメやラノベの主人公としては」かなり好感が持てるキャラだろう。が、エロゲー的尺度で見れば色んな女に手を出すがハッキリとはヒロインを選べない優柔不断野郎に映るわけで、例えばカレンを選んだなら彼女を他のヒロインとは別格に扱い彼女と戦うシーンも他のルートとは異なる強い葛藤を見せて欲しかったところ。
 ここまでで述べた不満点はお互い密接に絡み合っている。後半にヒロインとの個別ルートが用意されれば、ヒロインとの特別な関係を描くことができただろう。一本道にするならいっそヒロインの選択すら許さず完全なハーレム展開にすれば(それを嫌うプレイヤーも出てくるだろうが)もう少しヒロインとの関係も深いところまで描けたと思うのだが、一本道なのにヒロインの選択はできるという微妙な構成のせいで、共通の展開を邪魔しない程度にしかヒロインとの関係を深められず、みんなで行動している時には選んだヒロインを特別扱いすることもできないという実にジレンマの残るお話となってしまった。
 さて、「エロゲーとしては」色々と問題が多い本作だが、「エロシーンと声のあるラノベ」だと割り切って本作を楽しんでみると……案外完成度が高いのである。
 もちろんテーマが斬新とは言えない。主人公が魔王だったりRPGのお約束を笑ったり……なんて作品は文字通り山ほど存在するのだが、その中でも本作は頭一つ抜けた完成度がある。ジェイドがRPGのお約束に突っ込むシーンがそれ自体に物語上重要な意味があった点は高く評価できるだろうし、既に書いたとおり物語として要領よく話がまとまっており、キャラも個性的で、コメディも楽しい。また、恋愛としてはともかく友情としてはキャラ同士の絆がしっかり描けており、全体的に明るく前向きなテイストを崩さずシリアスのシーンではきっちりとシリアスをやり(ダークカレン戦の緊迫感やリブラを破り捨てるシーンの葛藤はよく描かれていた)燃えるシーンではきっちりと燃え(魔王戦や女神戦はBGMに助けられたきらいもあるけれどキッチリ熱血してくれた)、伏線の使い方もキマっている(例えばグリーンとアクアリーフの職業だけFFのジョブである点がストーリー内でちゃんと活かされる。ジョークにしか見えなかった『拝啓、親父殿』がジェイドと父の関係を描く後半キいてくる展開などはかなり上手い)。ラノベやアニメだったら結構いい評価が貰えただろう。結構批判を書いてる割に筆者がかなり良い点数を付けているのはこの辺を評価した。お話作りとしては年間屈指のレベルで非常に完成度が高い。
 とはいえ、粗がないわけではない。例えば前半のジェイドは「本気で世界の支配を目指す厨二病魔王」という設定で、じっさいそう解釈しないと最後の魔王戦などは説明が付かないのだが、ハッキリ言ってプレイしていてそう見えなかった。前半の彼はツッコミや保身に忙しく、また他のヒロインに比べて良識的な価値観を見せることが多いので、世界征服なんて大それたことを本気で考えているようには見えなかったのである。この辺はキャラの練り込みが足りない。
 クリスも掘り下げが足りない。彼女は「女神の道具として創られたことを自覚し諦めているキャラ」という美味しいポジションで、その役割とパーティメンバーとの絆に葛藤するシーンを描ければ彼女が前半で発揮した魅力と相まってかなりの良キャラに昇華できたと思うのだが、その辺の葛藤を「実は全部演技でした」と笑顔で語られてしまうのでプレイヤーはズコー、と滑ってしまう。彼女はジェイドの頭蓋骨が抉れるか陥没するくらい本気でモーニングスターの一撃を喰らわせたこともあり、完全にギャグキャラとして処理されてしまっているのが実に残念だ。この作品は明るいテイストを目指しており、それに比べて彼女が抱えている問題はシリアスに過ぎたので元々相性が悪かったことは理解できるが、もう少し高いレベルで折り合いを付けられなかったものか。
 作品で描かれる「絆」があくまで主人公中心なのは少しがっかり。ヒロイン同士の交流は殆ど皆無。
 とはいえ、いずれも致命的な欠点ではない。もっと上を目指せたのではないかという欲目に繋がる程度だ。

※ここからはかなり主観的な意見が入ってきます。読み飛ばし推奨
 このゲームでは視点の問題が大きく物語に関わってくる。
 よく知られていることだが、RPGに対するプレイヤーのスタンスには「主人公と自分を同一視して物語を主観的に見る」「主人公含めどのキャラとも自分を同一視せず物語を客観的に見る」の二種類があると言われ、前者の代表的なRPGがDQで後者の代表的なRPGがFFであると言われてきた。
 この問題はエロゲにも持ち込まれており、「主観派」のプレイヤーは主人公と自分を同一視して「リブラたんは俺の嫁えええ!」と叫び、「客観派」のプレイヤーはあくまで物語を客観的に眺めて「リブラたんはジェイドの嫁えええ!」と叫ぶ状況になっている。
 エロゲーメーカーはどちらのプレイヤーにも嫌われまいと、主観派に配慮して個性が強すぎる主人公は避け、他方で客観派に配慮して主人公が完全な無個性に陥らないようにもしようと苦慮した結果「やれば出来るんだけど普段はヒロイン達の仲裁役、ツッコミ役に終始する」という主人公を生み出し、このタイプの主人公が目下シナリオ重視エロゲにおけるデファクトスタンダードを勝ち取っている。普段は主観派がヒロインに対して思うことをツッコミという形で主人公が代弁してくれ、ここぞという時には大活躍して客観派を満足させる、そういうバランス取りである。
 こうした視点をこの作品はあざといまでに物語に取り入れている。つまり、我々の世界の常識でフツウノファンタジー世界にツッコミを入れているジェイドは、プレイヤーの分身であり意識はあくまで我々の世界に属している(アーリがジェイドに『元の世界に戻っても、色々大変だし。絶対に君はどこかでつまづく』『勉強かもしれない、進学かもしれない、就職かもしれない』『どこでつまづくのかは分からないけど、君は絶対に上手くいかない』『元の世界ではきっとモテたりはしないだろうし、それどころか女の子と仲良くすら出来ないかもね』と語っている)。しかし、後編ラストの女神戦と前編ラストの勇者VS魔王ではジェイドはプレイヤーの分身であることを辞め、あるいは辞めようとし、物語世界での役割を積極的に引き受けようとする。だからこの時だけジェイドに立ち絵と声が付くのである。
 勇者VS魔王戦においてジェイドはフツウノファンタジー世界を歪だと感じ、世界を愛することができなかった。そして「魔王」という役割はあくまで女神に(厳密にはジョーカーにだが)背負わされたものに過ぎなかった。だから「世界を超える」ことが出来ず(世界を超える呪文は不発に終わる)、戦闘は敗北に終わった。だが、仲間と絆を深めた女神戦においてジェイドは人々を通じて世界を愛し(=ヒロイン達から影響を与えられ)ており、そして自ら積極的に「勇者」という世界の役割を負うことで遂に九頭竜の力(=フツウノファンタジー世界の力)を使いこなすことができるようになる。世界に届くようになる。そして戦闘に勝利するのだ。
 この時ジェイドは真の意味でプレイヤーの分身=我々の世界の住民であることを超えフツウノファンタジー世界の住民になることができた。つまり彼は「世界を超えた」のである。そして創られた世界に過ぎなかったフツウノファンタジー世界は我々の視点から解き放たれ独自の道を歩んでいく(藤竜版封神演義っぽいね)……この展開は自分と主人公を同一視する「主観派」から見るとアツイ、アツすぎる!
 が、「客観派」からすれば意味不明な展開で、おそらく女神戦終盤でジェイドが何を言ってるのかさっぱり理解できなかっただろう。しかも、私の実感としてはシナリオ重視エロゲーのプレイヤーは客観派が多く、主観派は少数派である(その理由はシナリオ系エロゲが読み手に客観視を求める少女漫画の影響を強く受けているからではないかという仮説を知り合いが提唱している。その通りかもしれない)。ということはプレイヤーの大半が終盤の展開を「曲はアツいけど台詞がノリだけで意味不明」だと感じたはずで、ちょっと残念に思う。
 しかも、主観派はまさにヒロインと主人公との特別な関係がないとガッカリする種族であるから、結局このゲームは主観派の要望にも応え切れていない。……まあ、そういった「惜しい」点が数多いけれども、上述したようにシナリオはよく考えられており、「父と自分との関係」「世界と自分との関係」といったテーマをありがちに終わらないアレンジで上品に描けており、しかも最後まで明るく楽しく未来志向な物語という点は墨守できていたので、良作だと評価して良いと思う。個人的には格好付けて「哲学」を振りかざすあまり物語を放棄した作品なんぞより、物語として成り立っているこういうストーリーをよっぽど評価する。
 そんなわけで、筆者はこのゲームのシナリオを(そう聞こえなかったかもしれないが)高く評価しているのだが、音楽、CGも非常に気に入った。
 音楽は43曲とフルプライスとして見ても十分な数を用意してあり、それぞれのクオリティも十分で、かつパクリにならない程度にどこかで聴いたような旋律を流してくれるところがニクイ。おそらく全盛期のスクウェア作品の音楽を意識した曲が多く、曲の元ネタ探しをするのが楽しかった。
 筆者がこのゲームの音楽から想起した曲は以下の通り。

 02.悠久なる序曲:FFT冒頭でアラズラムが語りを入れてるシーンの曲
 04.フツウノファンタジー:FF4でセシルとカインが旅立つ時の曲(=FF12のOP)
 05.風吹く丘の旅人:FF4フィールド曲
 08.壮麗たるアワリティア城:DQ1ラダトーム城
 18.勇者出陣:6までのFF戦闘曲を思い出させる。イントロとか特に
 19.威風堂々:ロマサガ3の四魔貴族1
 23.折れた剣:SaGa2の『涙をふいて』
 24.翡翠のきらめき:FF4のトロイア
 33.火花散る(21、31、32、41も?):FF5のエクスデスの曲
 39.重なり合う熱:ロマサガ3のポドールイ
 
 個人的なお気に入りは24.翡翠のきらめき27.無限の書架34.掴んだ両手40.結び合う絆。もちろん20.我こそ魔王や41.Overtakerも使われたシーンのアツさと相まってお気に入り。 CGについては、確かにHCGでの体型の崩れは酷いがキャラクターの表情を高く評価したい。特にリブラは基本的に無表情キャラながら細かい差異が描かれており、立ち絵を見るのが非常に楽しかった。時々言葉や口調と表情がズレていることがあり、単なるスタッフのミス(あるいは適当な表情がなかった)かもしれないが、そのズレから彼女の本心を窺えるようにも感じられた。口パクや瞬きがあるなど細かい演出にも配慮が行き届いている。あとダークヒスイの立ち絵が凄くエロ可愛い。
 声優はエンディングムービー内で明かされる。キャストは以下の通り。

 ヒスイ:杏子御津
 カレン:平山紗弥
 クリス:猪狩純
 リブラ:火野瑛美
 マユ、マーモン:佐藤しずく
 アスモドゥス:髭内悪田
 ベルフェゴル、グリーン:加賀ヒカル
 レヴィ・アン、エルエル、アーリ:阿部未来
 ベルゼブル、アクアリーフ:鈴藤ここあ
 ジェイド:佐和真中

 システムは最悪。一本道なのに8回もエンディングに行かなければCGコンプができないという問題だけならまだしも、「次の選択肢に移動」が作品中100回も挿入されるアイキャッチで一々阻害され、CGコンプを目指す場合プレイヤーは「次の選択肢に移動」→アイキャッチ→次の選択肢に移動・・・という作業プレイを数時間単位で強要される。
 この事実を知って知り合いが2人このゲームの購入を見合わせたし、今後も散々批評空間で叩かれ評点も大いに押し下げるであろうから、評価を見てから購入するタイプのプレイヤーは逃げていくだろう。体験版時点で散々指摘されていたのにも関わらず修正しなかったメーカーには同情もできない。馬鹿な真似をしたねぇ。
 体験版プレイ時点ではカレンのキャラが弱いと感じたが、印象的なイヤリングのイベントがあったり、彼女との戦闘がもっとも緊迫感があったり、しかもそれ以降主人公への真っ直ぐな信頼を感じさせる発言が多いなど、むしろイベント面では優遇されていたと感じる。もちろん、もっとも優遇されていたのはリブラだけれども。