主人公がとってもいいヤツ。良くも悪くも子供っぽい幼馴染の感情をいつでも受け止めてやり、彼女に頼まれ事をされれば全力で応えてやり、彼女が苦しそうな顔をしていると心から心配してやる。競馬場で幼馴染に投げかける言葉も格好良く、こんなに素晴らしい主人公から大切にされている幼馴染に思わず嫉妬してしまった。
--目次-----------------------------------------------------------------------------
1. 感想(ネタバレあり)
2. 考察(ネタバレあり)
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1. 感想
いわゆるループモノだが、「ループしているのは主人公でない」という点が特徴的。何度も何度もループを繰り返すとプレイヤーには段々全体像が見えてくるのだが、主人公である久賀は最後まで幼馴染である三野原の行動や動機を知ることができない。そんな設定上絶対に不可能な三野原の阻止を、彼女への想いだけで成し遂げてしまう久賀の格好良さに胸がきゅんきゅんさせられる。
このゲームの凄さは「全く訳がわからない」初回エンドまでの約10分で実は情報が大半与えられていること。後は与えられた情報を頭の中で正しく整理できるかがクリアの鍵。整理し終えると「これだけ深い物語が隠されていたのか」と驚嘆すること必至。この点では私が知る限り唯一無二のゲーム。
批判を受けそうなのが終盤の「当てずっぽう」だが、周回を記憶していなくても三野原がノートに「田籠」という名と電話番号らしきものを書いており電話した男をおそらく競馬で酷い目に遭わせていること、三野原の父が八百長疑惑で蒸発したジョッキーであり彼女がそれを気に病んでいることなどを考え合わせれば、当てずっぽうで十分言い当てられる範囲だろう。
テキストも細かいところまで練られている。リングイーニのしゃべり方や変な律儀さに地球人離れしたところがあったり、三野原の父親に対する想いの強さ(彼女を捨てたのは父であるはずなのに怒りの矛先を絶対にそれ以外に向けようとする、『運動神経の良さは父親譲り』と自慢気に言う等)など人物の特徴も細やかに描かれていた。
ただ、後述するが考察を深めていくとどうしてもモヤっとした部分が残るのがちょっと不満。もちろん作品のあり方として全てを描かないというのも当然アリだと思うが、私個人の感情として満足できないところが残る。
ところで、久賀が三野原の何をそんなに気に入っているかは知らないが、エンディング03でクラスメイトに囲まれた時久賀を真っ先に頼るなど三野原の方が久賀に求めているのは明らかに「父性」なわけで(最後に復讐を諦めたのもガツンと言って貰えたからだろう)、この二人が恋人になれるかはちょ~っと微妙である。
2. 考察
おそらくこの作品の出来事を時間順に書くとこうなる。
16年前、リングイーニが水晶をなくし、田籠直人に水晶探しを手伝って貰う
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リワインダーを利用して田籠直人が万馬券を当てた結果、三野原の父が八百長を疑われ失踪する
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リングイーニが学校で田籠を探す(おそらく異星人である彼は田籠が卒業し既に学校にいないことを知らなかったのではないか)
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興味を持った三野原がリングイーニに話し掛け、人捜しの手伝いを申し出る。リングイーニは三野原にリワインダーのキャップを渡す
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時間が巻き戻り、【二週目】の朝へ
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三野原はリングイーニにリワインダーの仕組みを教えられ、田籠捜しを依頼される
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三野原は久賀に田籠という名字の生徒の情報を求め、自分は図書館で16年前の事件を調べに行く(おそらくリングイーニから田籠捜しを依頼された時点でピンと来るものがあって、自分の想像が正しいか確認しに行ったのではないか)
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(三週目の朝のノートに馬券の連番らしきものが書いてあったことから、おそらくこのタイミングで『今日』の競馬の結果を知ったと思われる)
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時間が巻き戻り、【三週目】の朝へ
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三野原は学校の卒業生を辿って田籠の電話番号を知る(四週目の朝のノートに電話番号が書いてあったので、このタイミングで知ったと思われる)
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時間が巻き戻り、【四週目】の朝へ
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三野原は田籠に「復讐」を仕掛け、彼から何かを尋ねる
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時間が巻き戻り、【五週目】の朝へ
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三野原は電話で何者かに「リワインダー」「いい話」「資金」などの話をする
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リングイーニが警察に捕まりリワインダーを取り上げられる
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エンディング03
※エンディング01の場合
【五週目】の朝
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三野原は電話で田籠直人にリングイーニに会うよう説得する
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田籠直人とリングイーニの再開を三野原は見守る
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エンディング01
ここまでは自力で考えられたが、綾塚の行動の理由がさっぱり分からなかった。彼女が何らかの理由でリワインダーの存在を知っていることまでは推測できたのだが、彼女がリワインダーを欲しているのだとしたらエンディング02で壊す理由が説明できない。
そこで他の方の考察( http://enpedia.rxy.jp/2nd/World_rewinder )を覗くと、以下の理由であるという記述があった。
綾塚はリワインダーの所持者で、それを利用して優等生の立場を手に入れている
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リングイーニがリワインダーを使用したため、デッドロック禁止機構が働いて綾塚は世界史の抜き打ちテストのためにリワインダーを使えなくなった
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三週目以降、三野原が綾塚に世界史の抜き打ちテストの答えを渡すのはそのため
なるほど、これなら筋は通る。この説に立った場合の綾塚の行動と動機は以下のようなものだろう。
・三野原が綾塚に渡そうとするメモが世界史の抜き打ちテストの答えであることは、久賀がメモを見た場合に限り世界史のテストの内容に既視感のようなものを覚えることから間違いないだろう(しかし全クラスで同じテストを課すのはリワインダー抜きでもカンニング可能じゃねという疑問が残るが)
・エンディング02の場合、おそらく彼女はキャップを手に入れた後、ペンの持ち主であるリングイーニに近づいてペンも奪ったのだろう。二つ必要なものではないから、リワインダーを壊すのも納得がいく
・綾塚がリワインダーの持ち主を知らないことは、主人公が彼女に見つかってしまった場合財布を漁られることから明らかである。綾塚が三野原に近づいたのは三野原の行動が不審だったからだろう
・2周目に三野原と綾塚を接触させた場合三野原が勝つが、3周目の場合は勝敗が逆になるのは3周目の場合三野原がメモを渡したと思って油断しているからだろう。4周目はそもそも三野原が復讐中で学校にいないので2人は接触しない
・メモを渡すとなぜ授業中うろつかないかは、一応当面の問題が解決された以上授業中廊下を歩くリスクを負いたくなかったからだと推測できる
・彼女がエンディング01における5周目もうろついているのは、リングイーニがリワインダーのセットは解除していないからだと推測できる。彼の説明によれば「終点の時刻になったとき、私がペンに命じれば、時間の巻き戻しができる。そういう仕組みだ」とのことなので、5周目は「リングイーニはリワインダーをまだ動かしていたが、ペンに命令はしなかった」のだろう。
だがこう解釈した場合一つだけ疑問が残る。エンディング02の場合彼女はテストの結果を知るために最終日リワインダーを使用するはずだが、その描写がない。神の視点である我々からは当然彼女のリワインダー使用も見ることができるはずである。これは作者のミスなのかちゃんと理由があるのか判断できない。
さて、綾塚以上に大きな疑問となるのが、競馬場前で三野原が言う「最後の仕上げ」だ。そもそも田籠を破産させたところで時を巻き戻せば意味はない。故に4週目で彼を破産させた目的は破産させた彼から何かを聞き出すことにあったと思われる。
ここで三野原は田籠から何を聞きだしたのだろうか? 次の周でリングイーニを警察に逮捕させていることから、おそらくそれに関わることであろう。だがそれ以上はよくわからない。リングイーニを逮捕させた理由が父の復讐だとして(リワインダーを取り上げたいだけなら警察を動かす理由はない)、彼と父の事件の関わりが既に明らかなのにこれ以上田籠から何を訊く必要があったのか。そもそも、なぜ田籠から「何か」を聞き出す前に彼を破産させる必要があったのか。
三野原が警察を動かせた理由も不明である。小娘の通報でそう簡単に警察が動くとは思えない。まさか「あいつにペンを盗まれました!」と電話で報告して逮捕しにぞろぞろやってきたわけでもあるまいし。
これらの謎を解明しようと色々仮説を立てたがイマイチ上手くいかなかった。……どなたか教えてください。
(2012/8/13追記)
書き忘れていたが、エンディング01の最後のやりとりも結構謎である。
> 「放課後なんて、もうずっと来ないんじゃないかって思ってた」
と三野原は言うが、たった6時間×5周、しかも奔走しまくって相当忙しかった彼女がそんな風に思うのはおかしいのではないか?
この言葉を受けた久賀の心情も変である。
> 俺には、まったく意味がわからなかった。たった1日の間に、三野原がこんな風に変わった理由も想像すらできなかった。
と彼は思うのだが、よく考えれば彼は朝からずっと笑顔の三野原しか見ていないはずだ(ループ前の登校時や教科書を借りる時も普通に笑顔だった)。他の部分が大雑把だったら「作者のミス」と断定するところだが、これだけ細部に拘った作品となると、やはり意味があるのではないかと思ってしまう。