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dovさんの汐見崎学園演劇部 恋❤︎ぷれ ~あなたといちゃいちゃろーるぷれいんぐ!~の長文感想

ユーザー
dov
ゲーム
汐見崎学園演劇部 恋❤︎ぷれ ~あなたといちゃいちゃろーるぷれいんぐ!~
ブランド
Meteor
得点
86
参照数
3248

一言コメント

テキストレベルの高い萌えゲー。鮎香シナリオの完成度たるや圧巻。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

恋愛を演じる「恋ぷれ」を通じて3人のヒロインが新たな自分を発見していく物語。
コンセプトはベタだが各シナリオとも読ませるだけの文章力を有している。
長さは共通:瀬那:ここあ:鮎香=1:1:1:1で、全部音声を聴くとそれぞれ8時間程度。


・共通
体験版で共通部分全部がプレイできる。
このメーカーは序盤の掴みが弱い。「恋ぷれ」が始まってからが本番。
真一朗が相手に好意を向ける度合いは、おそらくは相手が「自分の本心を見失っていない」度合いに比例する。


・瀬那シナリオ
主人公との愛に溺れるあまり、我が侭を言い出す瀬那に皆が振り回される内容。
前作Clover Pointの夜々シナリオに類似している。
お嬢様という現実と幼い頃ただの女の子になれた自分という理想との狭間で、自分を見失った瀬那が、その間にある自分を取り戻していくというプロットは素晴らしい。
しかし、その過程で激しく取り乱す瀬那を受け容れるのが苦痛かもしれない。
青山ゆかりさんの演じ方もあって、それなりにオトナに見える瀬那だが、実際は手のかかる子供。
もっと可愛い声で演じていれば、瀬那が駄々をこねるシーンの唐突感を緩和でき、桜沢いづみさんの絵にも合ったのではないか?
兄への愛情を着せ替えという手段で発散しているように見えるここあ、自分の恋愛願望を瀬那に仮託したように見える鮎香など、周りの人間模様の描写は最も充実している。
余談だが、公式HPの紹介では舞台の学園は進学に力を入れていないはずだったのに、このシナリオでは進学校という設定になってしまった。


・ここあシナリオ
「ここあが可愛い」それに尽きる。
内容は皆無と言って良く、愛玩な妹を見守るだけ。もっともここあの魅力自体が相当なもの。
ライターのテキストがやや冗長。構成力を除いた単純な文章力で言うと、なかひろ氏と同等くらいか。
主人公が勝手に葛藤したり、義妹と結婚できないと思い込んでいたりと突っ込みどころが多い。一歩引いた視点で、そんな主人公のおバカさを笑える寛容さがあれば、それもニヤニヤできるかもしれない。


・鮎香シナリオ
前半は「実はエロメイドでした」「実はドジメイドでした」といったお約束で笑わせてくれる。後半は「瀬那のために完璧なメイドになりたい」と願ってきた素の彼女自身がフォーカスされる。
ころころと、非常に多様な面を見せる鮎香が魅力的。
完璧なメイドたろうとして、ある意味孤高を保ってきた鮎香を、主人公や周りの人間が優しく溶かし包容していく過程も見事。
その上で、更なる願望を「恋ぷれ」に込めていく未来志向のエンディングも印象的。
ほぼ文句の付け所がないシナリオだが、敢えて欠点を挙げるなら、鮎香が主人公を好きになっていく過程をもう少し詳しく見たかった。


低予算で演出面が弱いが、作中劇「恋ぷれ」の面白さとハイレベルなテキスト、Hシーンの充実で十分元は取れたと感じるゲーム。
特に鮎香シナリオの完成度は白眉で、エロゲ以外のメディアを漁っても、これ以上のラブコメには中々お目にかかれないのではないか。
作中劇「恋ぷれ」が楽しめる方、演出の弱さや真一朗のキャラに耐えられる方、桜沢いづみ絵が合う方(これらは全て体験版で確認できる)は買って損のない佳作だろう。少なくともヒロインへの愛着は裏切られない。