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dovさんのキサラギGOLD★STARの長文感想

ユーザー
dov
ゲーム
キサラギGOLD★STAR
ブランド
SAGA PLANETS
得点
99
参照数
5828

一言コメント

読み込むほどにテーマの美しさと内容の奥深さに魅入られていく傑作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

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■概要
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 時の流れの中でどうしようもなく移り変わっていく諸行を笑いあり、涙あり、そして笑いありの暖かな筆致で描いている。
 二見たちが暮らす世界は、小学生的な仲間グループがあったり、下町人情があったり、あるいは「にこにこふん」が放映されていたり(いちかシナリオ10月5日)とどこか懐かしい。しかし、そうした懐かしい世界はやがて終わりを迎えることが示唆されている。例えば、二見はいちかとこんな会話をする。

> 【いちか】
> 「ずっと、今のままじゃダメなのかな?」
> 【二見】
> 「え?」
> 【いちか】
> 「あの長屋で、沙弥ちゃん達がいて。ふたにぃと、私、2人で暮ら
>  して」
> 【いちか】
> 「そういう風に、ずっとずっと、変わらずにいられないのかな」
> 【二見】
> 「それは……無理だろうな」
> 【二見】
> 「ずっと友達でいられるとしても、今のまま変わらないなんて、無
>  理だよ」
> 【いちか】
> 「…………」
> 【二見】
> 「多分、2,3年の話なんだと思う」
(いちかシナリオ10月3日)

 二見たちはこうした大人になる直前の時間を生きており、彼らの住む長屋も築60年を超え(いちかシナリオ9月29日)、近代的なビル群がすぐ隣にまで進出し今にも飲み込まれそうな姿がCGで確認できる。彼らと関係の深い商店街に至っては、翼シナリオで実際に大型店舗の進出によって時代に押しつぶされていく様が描かれた(このゲームは喜劇調で、なんとか持ちこたえるのだが)。
 加えて、月というこの作品のモチーフも時代の変化を意識させる。月はもちろん満ち欠けによって変化を象徴するものだが、加えて、この作品は月が持つ現代のみの意義を浮き彫りにしている。

> たえず幻のように頭上に浮かんで、憧れを誘う。
> そのくせ決して手に入らないような輝きを……あの頃の俺は、憎い
> と思っていたんだ。
(最終シナリオ10月1日)

 二見がこう考えたように、古来より人々は月に夢や希望を重ね、時にはそこにたどり着けない憎しみを月にぶつけてきた(安倍仲麿の和歌などが典型だろう)。しかし現代はどうだろうか。作中で月読御伽草子(竹取物語に似た作中作)を聞いた二見はこう述懐する。

> 【二見】
> 「でもさ。現代では、さっきのおとぎ話は成立しないよな」
> 【二見】
> 「だって、今じゃぁ、行こうと思えば月まで行けるじゃないか」
(沙弥シナリオ10月15日)

 ここに月がもつ、おそらく現代人しか抱き得ない感慨がある。
 昔の人類は月には到達できなかった。だから夢は夢でしかなかった。しかし、現代は夢を現実にすることがもはや不可能ではない。
 反対に、たった一度月に到達しただけの今だからこそ、月に夢を託すことができるとも言える。やがて人類は当たり前のように月と行き来する時代を迎え、月はかつてのような感慨を与える存在ではなくなるだろう。もしかすると、このゲームをプレイしている私たちが、月に憧れを見出すことのできる最後の世代かもしれない。ここでも、時代の流れによる変化、あるものの「終わり」がメタファーされている。
 大柳さんはこう言う。

> 【大柳】
> 「これから人はどんどん宇宙に行くよ」
> 【大柳】
> 「それは今までの夢より、さらに向こう側へと行くことになるだろう」
> 【大柳】
> 「出来れば僕らよりずっと若い子達に、早くから宇宙を経験しても
>  らいたい」
> 【大柳】
> 「僕らはもう、満足しちゃうんだよ。宇宙に行けたという、それだ
>  けで」
> 【大柳】
> 「だから若い人達の中には、宇宙へ行くなんて当たり前、さらに
>  すごいことをしてやろうって人間がどんどん出てくるべきなんだ」
> 【大柳】
> 「そうして、人は先に進んでいける」
(最終シナリオ10月20日)

 こうした秋の作品らしい寂しいモチーフが重ねられる中で、二見たちは決して明るさを失わない。なぜなら彼らには夢があるからだ。この作品において、夢は初心、はじまりのきもちと同一視されている。はじまりのきもちは時代の移り変わりの中でも決して変わることがなく、だからこそ我々が抱く変化への不安を照らすGOLD★STARになるのだということを、OPはこう表現している。

> 流れ星になって、空を駆ける。
> 夢を乗せて。
> 無限の宇宙をひらめいていく。
> 懐かしい彼らのもとへ。
> 愛しいあの時代へ。
> 幼い頃の無垢な気持ち。未来に憧れるキラキラした日々。
> 光をまとった、ゴールドスターとなって降っていく。
> ……懐かしい人達のもとへ。まゆばい未来をのせて。
> 帰っていくよ。
(プロローグ)

「夢」=はじまりのきもちというテーマは、各シナリオの構造にも顕れている。
 沙弥や命はシナリオの最後で秋桜荘に帰ってくるし、翼は自分の夢が自分を育ててきた人々の中にこそあったことに気がつく。いちかシナリオでは彼女の出発点であった「妹」が娘として帰ってくるし、二見は長年の夢だった月にたどり着いた時、そこに懐かしい場所、懐かしい人々を見出す。
 こうしたシナリオ構造は、1つシナリオを終えると最初からやり直しというノベルゲーの構造と重なり合って、月読祭を1ヶ月後に控えたキサラギGOLD★STARの世界を永遠のもののように感じさせてくれる。この作品のキャラクターも

> 【翼】
> 「あーあ、せっかくこの学園でみんな揃ったのに、離れ離れか」
> 【命】
> 「まあ……そんなことの繰り返しだよ」
(最終シナリオ終盤)

 と語っているように、確かに私たちははじまりの状態、はじまりの気持ちに何度も立ち戻りながら生きていくのかもしれない。この繰り返しもまた月の満ち欠けにメタファーされている。
 あるいは、各シナリオは同一のはじまりから生まれた可能性の1つとも言える。例えばドラえもんでは鉄人兵団の話の時に魔界大冒険の設定は出てこないが、それはそれぞれの話が小学校4(5)年生ののび太がいるあの時代を共通の起点とした別の可能性の話だからだ。同様に、キサラギGOLD★STARの各シナリオは更衣学園2年の二見たちを起点とした別々の可能性の話であって、それぞれは独立している。だから、沙弥の話が終わったら月の民の話もそこでお終いなのだろう。
 ドラえもんの話において、可能性を生み出す原動力は「未来の道具」だ。それは当時の科学に対する夢を反映している。同様に、キサラギGOLD★STARで可能性を生み出す原動力だった「月の魔力」(それは沙弥の唄のように本当に超常的な力でもあるし、二見の父や瞳の姉、三日を惹きつけた魔性的な魅力のことでもある)は、我々の世代で終わるかもしれない月への想いを反映しているのかもしれない。
 このように「時代の移り変わり」というもののあわれを感じさせるテーマを扱いながら、このゲームが軽妙で明るいタッチなのは、夢という名のGOLD★STARの目映さにもある。そしてもうひとつ、作中で50人を超える多様で印象的なチョイキャラたち――銭湯でたいだるうぇーーーぶをかます吉野のお婆ちゃんや、言動の端々から気遣いと気品が溢れる命のルームメイト志村さん、カリスマさえ感じさせる化粧品の売り子さんetc――も、このゲームを彩る無数のSTARだと言えよう。確かにこの作品は群像劇。良い作品はいつも、脇役が魅力的だ。


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■命&冬理
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 命の夢は、「本当の家族が欲しい」だった。もちろん叔母のことを本当の家族だと思ってはいるが、人一倍他人を気遣う命はどうしても自分が叔母の重荷になっているとの意識が拭えない。だから、命は自分のせいで失った女としての幸せを叔母に満喫して貰おうと思い、家を出て行く。
 ところが、命は自分の存在が実の妹を苦しめていると知る。また、自分が父に似たタッチでしかもモーセ(実の親に故あって捨てられファラオの家で育てられるが、実の家族たちと共にファラオの国から出て行き聖人となる)を描こうとしていたことから、命は自分がどこかで本当の家族を求めており、叔母を実の家族だと認めていないから家を出て行ったのではないかと思い悩む。
 そうした悩みに苦しむ命は、恋人=家族としての二見の支えもあって、妹の冬理と和解し、実の父に対する憧れにもケジメを付け、まーくんが「本当の家族が欲しい」という願いを月の力で叶え続けていた存在だったことを知る。――要約すればこんなところだろう。
 ところがこのシナリオが巧妙なのは、「夢」「家族」のみならず、裏に「月」というテーマを忍ばせていることだ。冬理は一枚の絵に惹かれ、それを描いたのが命だと知り憧れるようになる。しかし、実は命の絵が冬理の父の才能を映したものだと知り、命を憎むようにもなる――というわけで、冬理から見たこのシナリオは、命を憧れと憎しみの対象=月になぞらえている。
 命が絵という「映す」才能を持っていることや、秋桜荘メンバーの中で唯一動物を飼っている(月は狩人と縁が深いシンボル)ことも、彼女を月のイメージと重ねさせる。
 このように、表では「家族」=「夢」、裏では「月」、という二重構造を備えたシナリオは、また、命が絵画を描く幻想的な場面やベランダ越しの逢瀬など美しいシーンも多く、ゲーム中随一の技巧を見せてくれるが――やや技巧的すぎるかもしれない。
 このシナリオでは命が一人で決めてしまう女性として描かれているため、二見はシナリオの傍観者になってしまうのだ。そのため沙弥シナリオのような二見の葛藤・決意は描かれず、命や冬理ともなりゆきで付き合ったきらいが強い(気心の知れた可愛い子と良い雰囲気になったから付き合う、というのは男としてむしろ当然かもしれないが)。命や冬理にとっても、辛いときに傍にいてくれたから二見と付き合ったという以上の理由はなかったように思える。
 キサラギGOLD★STARの魅力である二見やチョイキャラたちの存在感がなく、シナリオも説明調になってしまい残念だが、プロットの完成度が高いシナリオ。


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■翼&奈々子
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 翼シナリオは二見と付き合うまでの前半部、間に二見とのラブコメを描く中盤部を挟み、新たな悩みに苦しむ後半部に大きく分けられる。前半部は「もしも自分にピアノがなくなったら」という翼の恐怖が描かれ、後半部は「自分は何のためにピアノを弾くのか」という翼の悩みが描かれる。これら両者における、翼の反応の違いがミソである。
 前半部から見ていく。翼は容姿の華やかさもあって周りからアイドル視されているが、本来は自分に自信がない、内気で気弱な少女である。
 しかも彼女は、自分の実家を毛嫌いしている。父はグータラだし、兄はお金を持ち逃げして実家を出てしまった。そのおかげで、翼が実家を継がなければならないかもしれない。父兄に代わり家計を支えているのは翼の母だが、そんな彼女の姿はお世辞にも美しいとは言えない。翼が容姿に気を使うのは、そこにも原因があるのかもしれない。
 自分に自信がなく、自分の家も嫌い。そんなどん底の彼女を救ってくれるツバサとなったのがピアノだった。ピアノさえあれば、嫌いな自分から変わっていける、嫌いな自分の家から飛び立っていける。そう信じていた彼女にとって、実は自分のピアノの才能が借り物だったかもしれないという恐怖は奈落の底を覗くようなものだったに違いない。周りに当たり散らし、ドツボにはまっていく翼を二見は「翼からピアノがなくなったとしても、俺だけは必ずそばにいる」と抱きしめる。
 ここからが中盤。こうして二見と気持ちが繋がった翼は立ち直って行くのだが、明らかに好き合っている二見と翼はなかなか付き合おうとしない。二見は自分の気持ちに鈍感すぎるし、翼は臆病すぎるのだ。二人は秋桜荘のみなに後押ししてもらって、ようやく正式に恋人になる。
 ここで翼は溜め込んで爆発する性格、傷つけられたくない弱さを発揮し、「告白する時は……屋上で、二人きりで……って」と予め保険を掛けてから「大好きっ!!」と倒れるほどに連呼している。
 こうした翼の「気持ちに素直になれない→一度気持ちに素直になるとのめり込んでしまう」という気質は続いてのHまでの流れで効果的に使われていて、彼女は二見に抱かれたいと思っているのに、中々上手く誘うことができない。これが焦らしとして利いていて、何度も何度も寸止めを喰らわせて翼とプレイヤーの意識が十分に高まったところで、「いいよ……見ても」と銭湯で翼が裸身をさらけ出す運びがまことに秀逸。あの奥手な二見の頭がフットーして「俺と翼は、今ここで繋がる。そのことにもはや、なんの躊躇いもなかった」と狼思考になっちゃうのも納得のエロい展開だった。その後はいきなり翼の大股開きCG→Hシーン連発と高まったボルテージを存分に解き放てる。
 こうしてしばらくイチャラブ展開が続いたところで、後半部へ。先に述べたように後半の主眼は「自分は何のためにピアノを弾くのか」という翼の悩みにあるのだが、この時の翼は前半の彼女に比べ大きな成長を見せている。
 前半との違いを3つ挙げる。
 1つめ。前半では孤独に落ち込んでいった彼女と違い、後半の翼は辛いときには二見に頼ったり、梅子の話を聞く柔軟さを身につけている。
 2つめ。彼女の悩み自体、自分が二見や母、商店街のみなに支えられていると気付いたから生まれたもので、前半の彼女に比べて視野が広がっている。
 3つめ。悩みながらも翼は「ピアノは楽しむもの」という彼女にとっての基本を決して見失わない。
 こうした違いは100万の言葉よりも雄弁に、翼にとって二見の存在がいかに大きいかを物語っている。二見と通じ合えたから彼女は成長できたのだ。二見のことが信じられるから、お互い少し離れて別のことをしていても翼は幸せでいられるのだ。一見、悩みを抱えているという「弱い」彼女を描きながらも、その実「強くなった」彼女を描いているという手法はシンプルだが描写が上手く、ライターの底堅い実力を感じさせるできばえだった。
 蛇足ながらエンディングについても多少の考察を述べておきたい。
 結局翼が退学になったのかは微妙なところだが、そもそも梅子が勝手に盛り上がっただけで、特待生資格の話は彼女が言うほど厳しくはないとも考え得る材料が作品内で与えられている。

> 特待生資格の話……岡部先生も、叱責する意味で言ってくれたんだ
> ろうし、そこまで深刻なことだとは思えない。
(9月24日)

(命が絵の出展をやめると聞いて)
> 【二見】
> 「けど、進級、できなくなるかもしれないんだぞ? そしたら……
> 」
> 【命】
> 「わかっている。でも、難しいとは思うけど、大丈夫だ。頑張る」
(命シナリオ10月14日)

 このように、命シナリオでは「絵の出展ができないと留年になるかもしれず、留年になると特待生資格が取消される」と説明されていた。合興科も同様であるとするなら、翼が特待生資格を今すぐ取消されるということはないだろう。
 また、仮に特待生資格が取消されても学費を支払えば在学はできるわけで、残りたった1年分の学費を、翼のおかげで人を雇えるほど景気が良くなったはおとね酒店や柏原商店街が金銭的に支援してやらない、という展開は考えづらい。支援しなければ、翼の母や商店街は翼を生贄にした格好になる。
 そう考えれば、エピローグのシーンは、特待生資格は取消されたとしても周りから支援して貰って翼は在学できたが、ただ支援して貰うだけでは悪いので保育園の手伝いをして学費の足しにしている、とも想像できる。反対に、そうした支援をはね除けて保育園の先生の道を目指したという可能性もあるだろう。
 もちろんライターとしては、翼が自分の本当の夢に気付いたことが重要なのであって翼がどうなったのかは読者のご想像にお任せする、というスタンスなのだろうが。


-奈々子シナリオ-
 このシナリオは、翼の後半部分に込められたライターの主張を繰り返す内容となっている。抽象的な目的や義務感の為にやるとうまくいかないよ。地に足の付いた目的の為や楽しみのためにやってこそ上手く行くんだよ、という主張が翼シナリオよりも明確に描かれている。
 翼は二見と付き合った時点でその境地に達してしまった(つまり、師である奈々子を超えた)ので、翼シナリオではユーザーに伝わりづらかったであろう上記テーマをもう一度しっかり描いておきたい、という意図で作られたシナリオであろう。
 まあ、そんなメタな視点を持ち込むよりも、奈々子のダメ優しいご近所のおねーさんの魅力に溺れたほうがよっぽど楽しめるだろう。野球のルールを全く知らないおねーさん萌え。
 このシナリオでは翼がいいところまで二見に近づけたことや、翼自身が二見と奈々子のキューピッドになってしまったこともあって、主人公が別の女と付き合ったと知った時の落ち込み方が他のヒロインの場合よりも深刻で笑えた(笑っちゃ悪いとは思うが)。


-その他、細かいところ-
・発表会当日に、翼が梅子に初めての演奏会のことを尋ねて途中で遮った流れは上手い。
 翼としては「やっぱり義務感で演奏したって上手く行かないよね」ってことを梅子の話から確かめたかったわけだ。そして、梅子が語った部分だけで、彼女が初めての演奏会を義務感で演奏したこと、そしてそれがあまり嬉しいものではなかったことがちゃんと分かるようになっている。
 シナリオに余計なエピソードが挟まらず、梅子としてはライバル(笑)としてある意味美味しい役回りも演じられたわけで、話を打ち切ったのは大正解だと思う。
 この辺も職人芸だよなぁ。このシナリオは多分、姫ノ木さんが担当したんだろうけど。

・ライターとしては商店街のピアノの演奏で「今度は翼も二見を支えている」と表現したかったんだろう。しかし、そもそも二見がピアノを弾く流れが唐突で動機にも説得力がなかったせいで、こちらは成功しているとは思えない。このシナリオ最大の弱点はそこで、翼や二見が商店街から受けている恩恵をもっと丁寧に描写した方が良かったと思う。もちろん想像することはいくらでもできるのだが、翼が退学を賭けたり二見があそこまで必死になったりするだけの説得力には欠け、シナリオの流れも唐突感が否めなかった。

・二見、いくらなんでもピアノの成長早すぎね? と思ったらちゃんと伏線があった。

> そうだ。昔、命に絵を習い、翼にピアノを習い、沙弥に歌を習い……
> いちかの練習に付き合って。
> いろんなことを器用にこなせていたんだっけ。
(沙弥シナリオ9月26日)

 天才だな二見ェ……。

・翼とデートで一緒に行ったパスタ屋は、瞳の紹介だったようだ(いちかシナリオ10月14日で判明)。瞳はきっとデート馴れしてるんだろうな。

・デートの最中やその翌日、翼がブラックモードで考えてる内容が二見にダダ漏れ。しかも二見は自分が「翼の心の声」を聞いてる自覚がなく、翼も聞かれているという自覚がなく、ツッコミのないボケになっていた。ニヤニヤである。


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■いちか
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 他のシナリオが安牌な萌え路線であったのに対して、いちかシナリオとその裏となる月読の三剣士シナリオはかなり挑戦的なシナリオである。作品内にこういうシナリオがひとつでもあると個人的な心証は良くなるのだが、そうした贔屓目を差し引いても、いちかシナリオはかなり完成度の高いシナリオだったと評価できよう。
 ただ、一般的なユーザーが嫌うであろう要素に敢えて挑戦した、いわば地雷原を突っ走ったシナリオであろうことは否めないので、このシナリオが嫌いだと言われても仕方が無いなと思うところではあるのだが。
 このシナリオにどんな地雷があったか。 
 おそらくこのシナリオで最大に嫌われるであろう要素は、いちかの精神年齢が非常に低いことである。もちろん、いちかがいわゆるロリキャラであることは絵や設定から明らかなので、ユーザーも相応の精神年齢を期待していただろう。しかし、ゲームをプレイしてみると、彼女はそんな見積もりをはるかに下回り、小学生くらいの精神年齢であることが判明する。
 ロリコンでもAIRのみちるやCLANNADの汐とセックスしたいと思う人が稀であるように、ロリキャラにも限度があるのだ。いちかの精神年齢はあまりに低すぎて、多くのユーザーが彼女を「女」として見ることができなかったと思う。
 続いて、劣らず強力な地雷がいちかシナリオにはセットされている。――いちかは、あまりに妹臭すぎた。
 妹臭いという表現を使ったが、これは妹の嫌な面を見せすぎた、ということである。「現実の妹には萌えねーよ」とはよく言われるフレーズだが、理想化された妹とは違って、実際の妹には生々しい嫌な面がある。その面をいちかは少々見せすぎたような気がするのだ。
 例えば、兄に家事全般を任せっきりなのだが、手伝いもせず文句は言う。二見に「現国の成績を、もう少し良くして欲しい」と言われるほどアホの子で、言葉に詰まるとすぐ暴力を振るう。突然癇癪を起こしたり落ち込んだり家を出て行ったりする。食べてるモノを噴き出す(ご丁寧にCG付き。お漏らしはCGがなかったってのに!)。いちかが臭うという話があったりするetc.
 対する二見も、彼は他の人間を批判は口にせず、心の中でさえオブラートに包んだ表現を使うような温厚なタイプなのだが、いちかに対してだけは呆れたり小言を言ったりするシーンが結構ある。例えば、(ろくに挨拶もしないのに、食べ物には、めざとい)と思ったり、「お前はいつもそうだ」「思えば小学生の頃だって……なにかと空振ってばかりの人生だったな」「いちかは本番に弱いタイプだからな」などと家族ならではのちょっと嫌なことを言うシーンもある。英子に教えられたいちかの内面をさも自分が気付いていたかのように装って兄貴ぶるシーンもある。この辺の二人の関係性にも恋人とはほど遠い兄妹の生々しさが感じられる(二見が父がわりだったこともあって父娘のような関係にも見えるが、本稿では一応兄妹、という書き方で統一する)。
 ここまでをまとめると、いちかシナリオは「女子小学生と同棲している感覚が妙に生々しく描かれるが、果たしてその女の子を性の対象や結婚相手として見られるか」という、中々キツイ問題を抱えている。
 これらほどではないが、いちかが「義妹」で、その上お兄ちゃん呼びしてこない設定も、嫌な人は嫌だろう(記憶によるといちかはメーカー表記だと『妹』だったはずで、知り合いの1人はいちかが義妹だと知って購入を回避していた)。いちかはかなり妹してるキャラなのだが、血のつながりがなかったり、お兄ちゃんと呼んでこなかったりするだけで白けるという人はいる。
 しかし、こうした要素は単にマーケティングを間違えて組み込んだとは言えない。全ていちかシナリオに必要な要素だった。
 いちかの「恋人になったら家族には戻れない」という悩みはよく言えば純粋、悪く言えば子供じみており、仮に彼女が高校生相応の精神年齢を有していたら不自然だっただろう。彼女に幼子のような純真さがあったからこそ生まれた悩みと言える。
 序盤で特にキツかったいちかの妹臭さも、これまでは何も悩まずにいちかと二見が家族をやれてきた、二人が確かに兄妹だった、という設定に説得力を持たせるためには、必要な描写だった。
 義妹設定については言うまでもないだろう。このシナリオは実妹では決してできないものだ。
 シナリオに確かに必要だけれども、プレイヤーの一部をイライラさせるであろう設定というのは評価が難しいものだ。特に、エロゲーは欲望を満足させるためにプレイする方が殆どであろうから、気に入らない要素が出てくると一々引っかかるかもしれない。ただ、いちかシナリオのライターはおそらくその辺を自覚してやっているようで(それは何の免罪符にもならないが)、Hシーンもいちかを欲望の対象としてではなく、兄妹のスキンシップとして描いている。ありていに言ってしまえば、全くエロくない(銭湯でのHは多少頑張っていたが)。これまた落胆したユーザーが多いだろうが、いちかの立ち位置やキャラクターを考えると、確かにこういうHシーンの方が相応しいので、「うーん」と思いつつも評価せざるを得ない。

 ……と、ここまで散々な評価をしてきたが、ごく個人的な評価を言わせてもらえば、いちかシナリオは大満足だった。こういう小さなリアリティを添えた兄妹関係は大好きだ。
 さて、構成については分かり易く明確で今更書く必要もないと思われるので、シナリオを追いながら感想&考察を書いていきたい。――と、言っても序盤はひたすら笑い押しである。いやー、ホント笑った笑った。ギャグは好みがハッキリ分かれるので万人にはお勧めできないが、このゲームの笑いは自分にクリティカルヒット。どこで笑ったのかを羅列すると誇張抜きで10万文字くらい消費しそうなので列挙は控えるが、いちかシナリオは80秒に1回のペースで噴いていた。いちかとのやりとりも楽しいが、
(つまり、今日はまったく、いちかと言葉を交わしていないことになる) ←たった1日でこれかよ!
(文字通りの家庭崩壊が始まっているのか……) ← いちか怪獣じゃないもんっ!
(やばい。いちかに暴力振るわれたら、普通に負ける) ← 悲しいお兄ちゃんだ……
等々、主人公の内心だけでも十分笑える。ウオオォ、笑ったシーンをこうやって全部並べたいんだが血の涙を流してガマンするYO!
 それはさておき、地味なポイントとして、このゲームは声優の演技に色々魅せられるところがある。特にいちかシナリオ前半ではそれが顕著なので興味のある方は声を飛ばさず最後まで聴いてみて欲しい。いちかが自分の作った料理を食べる「ガツガツガツ」(9月28日)など凄い演技の目白押しである。
 圧巻は10月2日で行われた河原試合(やっぱり真剣勝負は河原に限るよね!)で、この時のいちかの口調は凜としながらも丁寧で柔らかく、幼いと思っていたいちかの少女剣士としての側面にドキッとさせられる。対する英子も負けていない。息を切らせながら語る演技にリアリティがあって、この時のいちかと英子との会話は私が知る限り最高の声優の演技を感じたシーンである。
 そもそも、いちかは剣道部にいるときは兄や幼馴染達の前と変わらないようで微妙に台詞も口調も変わっており、これもいちかの妹性にリアリティを添えている。ライターと声優さんの実力に感服しながら、「何故音質に拘らなかった」とPC机をガンガン叩く次第である。
 かくしてエンタメ全開のいちかシナリオ前半だが、そんな中でもちゃんと後半に繋がる伏線が細かく貼ってあるのでいくつか列挙してみる。

> 【いちか】
>「兄妹らしいって何?」
> 【二見】
>「えっ?」
> 【いちか】
>「兄妹は兄妹じゃない」
> 【二見】
>「いちか?」
> ……どうしてだろう。
> ついこの間までは、うまくやっていけていたのに。
(いちかシナリオ9月29日)

> 【朧】
>「今宵、一穴は、妹に、そして女になるのです」
> 【二見】
>「妹と女は、両立しちゃダメだろ!」
> 【いちか】
>「……」
(いちかシナリオ10月2日)

> 【朧】
> 「勝ちを確信した私の脳裏には、おにーさまのあられもないお姿が
>  ちらついていました」
> 【朧】
> 「あるいは、その邪心が、2撃目のおぼろいづなを鈍らせたのかも
>  しれません」
> 【朧】
> 「まさに、いちかさんのお兄様を想う、純粋な心の勝利といった
>  ところです」
> 【いちか】
> 「…………」
> 【いちか】
> 「そんなことないよ」
(いちかシナリオ10月2日)

 さて、言うまでもないことだが、いちかシナリオ前半は表向きいちかの兄離れ、実は二見への恋心がテーマとなっている。ゲームの性質上いちかが実は二見を好きだってことはユーザーにバレバレなのだが、ここもテーマのすりあわせにライターの工夫が感じられる。ゲームの――少なくとも沙弥、いちか、最終シナリオの――根本にある「もう子供ではいられない」→「まだ子供でいてもいい」というテーマを受けて、いちかシナリオでは命題A「もう兄離れすべき頃だ」がいちかをまず襲う。いちかは二見が好きなので兄離れなんてしたくないのだが、ここで葛藤するいちかは更にメタ的なもう一つの命題B「本当の兄妹なら兄妹の在り方について悩んだりしない」に苦悩するという二重構造になっている。
 こうして、ギャグでありながらしっかり命題を浮き彫りにした序盤の最後に、いちかを合宿に行かせるか行かせないかの選択肢が出てくる。
 明らかに行かせないのが正解だが、敢えて行かせる選択肢を選ぶと、不気味なバッドエンドに鳥肌が立つ。これまでがコメディ調なので落差が大きく、相当な不意打ちである。
 合宿に行かせせない方の選択肢を選ぶと、いきなりいちかが兄貴べったりになる。

> 数年前は、こんな風だったもんな。あの頃に戻ったと言うことか。
(いちかシナリオ10月3日)

 とのことなので、兄妹が上手く行っていた頃はこんな感じだったのだろう。ここからのいちかは兄貴が振る話題やネタにきちんと応えてくれたりと、メチャメチャ可愛い。しかし、精神年齢が更に退行して6歳とか7歳になった感じでもあり、やはり女として見るのは難しい。
 いちかが風邪をひき、昼休みに二見が「いちか……今、行くからな」(BGM:名月)と家に帰ろうとしたところで、唐突に「おにーちゃん」といちかが抱きしめてくる。……今思えばこのシーンってのは凄まじいシーンで、何も知らない初回プレイだとつい喜んじゃうんだよね。
 こういうゲームのヒロインは実際の女性と違って、その娘が身も心も自分に預けてくれるような――その娘を所有しているような感覚に浸れるのがいいところ。それがいちかちゃんときたら、もちろん二見を大好きなのは伝わるんだけど、現実の兄妹よろしく「これ以上は踏み込めない」っていう心の壁を感じるばかりで、プレイヤーとしてはお預けを喰らい続けてた状態なのである。それが遂に、「おにーちゃん」ですよ!
 やっとデレた! やっといちかちゃんが身も心も委ねてくれた!! ――だが、これはライターの罠だった OTL
 今見るとこのシーン、「お前らが欲しかったのはこういう妹だろ?」とライターが薄ら笑いを浮かべながら描いたとしか思えない。コノヤロウ! その通りだよコンチクショウ!
 そう、いちかシナリオをクリアした方はご存じの通り、彼女はいちかではない。「本当の兄妹」を目指すもう一人のいちか――にちかなのである。
 ここから先、「本当の妹」であるところのにちかがいちかを罵倒する様は見ていて本当に辛い。にちかがいちかに投げかける言葉のひとつひとつは、プレイヤーがいちかに抱いていた否定的感情そのものなのである。いわば、にちかは、妹キャラとしては微妙だったいちかに対するプレイヤーの悪意をゲーム内に顕現した存在なのだ。そのうえ、にちかは、二見(=プレイヤー)にもキッツイ一言を投げかける。

> 【???】
> 「新田いちかは、新田二見の妹である」
> 【???】
> 「本当に重要なのは、そこじゃないの、ふたにぃ」
(いちかシナリオ10月7日)

 この台詞には背筋が凍った。河原の剣道試合以降、そして風邪をひいて以来すっかり可愛くなってしまったいちかに「うんうん、やっと可愛くなってきた」と思っていればいるほどこの言葉はダメージが大きい。あなた私のまぼろしを(JASRACが怖いので省略)「お前が望んでいたのは、(プレイヤーが勝手に偶像化した)妹キャラである『いちか』という幻だろう?」と暗に挑発しているのだ。
 その前にいちどだけお色気シーンを入れているのも実に心憎い。というかライターが憎い。「妹とお風呂」はこの業界(何の業界だ)の定番だが、そこで見せたスク水でのお尻ドアップはHシーンがイマイチなこのシナリオで最大級にエロいシーンといえる。――そう、二見(=プレイヤー)はいちかを一度確かに「女」として見ている。
 二見はいちかに「妹」であることを望んだ。家族が欲しいと泣いた。プレイヤーも別の意味でいちかに「妹」を求めた。最近設定だけ「妹」で全然妹やってないキャラ多すぎだよぉと泣いた。剣士いちかは期待に応えようと苦しみ続け、今「妹」に殉じてこの世から消えようと壮烈な覚悟を決めている。ここで二見とプレイヤーは選択を強いられる。それでもなお、いちかに「妹」を求めるのか、いちかを1人の女の子として認めるのか?
 こんなに苦しいのならば悲しいのならば妹などいらぬ! そう断言できたプレイヤーは、あるいは多くはないのかもしれない。人の業って深いね♪ 敢えていちかに妹を求め続ける二見は、こう言い放つ

> 【二見】
>「でも、しょうがないよなっ」
(いちかシナリオ10月9日)

 「よなっ」である。「っ」が凄く兄貴らしい嫌らしさである。妹を励ますような、それでいて何かをはぐらかすような。
 そして、妹を選んでおきながら、いちかを消しておきながら、いちかを1人の女の子ではないと思っていながら、二見は最後にこう思うのである。

> ……さようなら、好きな人。
(いちかシナリオ10月10日)

 鈍感さで人は殺せるんだねママン……。
 でも、いちかが愛したのはそんな二見だから、愛に殉じたことに悔いはないのかもしれない。――この終わり方は一つのエンディングとして十分認められる、美しいものだった。

 気を取り直していちかを1人の女の子として認めよう。いちかがそれは出来ないと拒絶した翌日、沙弥の唄(not沙耶の唄)を聴いた二見はいちかがずっと苦しんできたこと、もらいっ子だと蔑む世間から兄を守り、母を追い出してまで家族を守ってきたことを知る。

> 今、いちかはあの頃と同じように、布団の中
> まるで時間が逆巻くようにして、俺たちは離ればなれになろうとして
> いる。
(いちかシナリオ10月10日)

 ここで、キサラギGOLD★STAR共通のテーマでもある、「はじまりのきもちに戻る」が出てくる。「家族になりたい」という気持ちと恋心を両立するにはどうすればいいのか? その答えは「結婚する」だった。

> 【二見】
> 「俺たちが弱くて、子供で……」
> 【二見】
> 「家族を失ってまで……お互い1人になってまで、好きだと言えな
>  いなら」
> 【二見】
> 「結婚しよう、いちか」
(いちかシナリオ10月10日)

 ここに、二つの倒錯がある。
 ひとつはもちろん、子供でいるために結婚するということ。「もう子供ではいられない」→「まだ子供でいてもいい」というこのゲームの中心テーマを、いちかシナリオではこのような形で表現した。実際、この後の二人は、おままごとのような新婚生活を繰り広げてプレイヤーをニヤニヤさせてくれる。
 もうひとつは、二見はきっと兄だからこそ妹のために覚悟を決めたということ。兄妹だからこそ、敢えて兄妹から離れていく選択をしたのだ。二見は家族を守るため自らの夢を封印して、結果的に母を家から追い出した。そして、家族を守るためいちかと兄妹であることをやめた。この選択は歪んで見えるかもしれない。しかし、歪んでいても想いは純粋だからこそ、美しい。――周りにもそれが伝わったのか、比較的すんなりと二人の新たな関係は受け入れられる。
 選択には結果がある。二見の告白を受けたいちかは「うれしい」ではなく「ありがとう」と言う。「兄妹らしくない」反応だ。ここから先、二見といちかは兄妹っぽさを残しつつも少しずつ恋人の関係へと変化していく。プレイヤーはそれを受け入れなければならない。キミが想い描いた「妹」はもういない……。
 いちかが心にしまった妹としての想いは、いちかの代わりに、にちかが語ってくれる。最初は敵のように思えた彼女も、二見への想いは真剣なのだ。
 決して相容れない恋人としてのいちかと妹としてのいちかの想いは、決闘という形を取り、交錯する。

> 【にちか】
> 「あの人が好きだった。おにーちゃんとして、好きだった。1人き
>  りが寂しいと泣いたあの人の、家族でいようと決めた」
> 【にちか】
> 「あなたが悩んでいるその裏で、私はずっともどかしくて、イライ
>  ラしていたわ」
> 【にちか】
> 「血のつながりがなんだ!」
(中略)
> 【いちか】
> 「私達は兄妹だった。それだけは、誰にも否定させない」
> 【いちか】
> 「苦しんだ分だけ、私たちは絶対に、兄妹だった――」
> 【いちか】
> 「それを、簡単に、言うなぁぁ!!」
(いちかシナリオ10月20日)

 妹としてのいちかと、妹から恋人へと変わろうとするいちかの絶叫は、プレイヤーの「妹はこうだ」という理想の押しつけに押し潰されそうになるキャラクターの悲鳴のように私には聞こえた。
 そして妹としての想いは月に還る。遙か遠く、しかしもしかしたら届くかもしれない遠くへと。……と思ったら娘として帰ってきた。喜劇らしい終わり方である。


-その他、細かいところ-
 最初から二見のことが好きなのは、翼といちか(と先生?)だけである。他のヒロインとくっついた時の翼の反応は見物だが、いちかも素直ではないとはいえ翼に負けず反応が面白い。
 特に翼シナリオでのいちかの反応が素晴らしく、付き合ったことを報告すると二見に返信しなかったり、その次に電話をかけると二見と翼に何があったか寝掘り葉掘り尋ねてきて、デートすると知ると「えっ」とかなりショックを受けた声をあげたり、最後は着信拒否までしたり、と動揺が伝わってくるのだ。その後もう一度かけ直してくれるのだが、その時(二見は既に翼とセックス三昧)の

> 【いちか】
> 「ホントにぃ? ふたにぃも翼ちゃんも、いざとなるとオクテになっ
> ちゃう気がするんだけどなぁ……」
> 【二見】
> 「ホントだって、今日だって翼と――」
> 【いちか】
> 「翼ちゃんと? またデート?」
(中略)
> 【いちか】
> 「まぁでも、そんなところか。元々仲はいいんだしね」

 というやりとりはかなりニヤニヤしてしまう。ごめんいちか、お前が少女漫画で培った想像よりずっと先に行ってるんだ。二見と翼がいざとなるとオクテになっちゃうという分析はその通りなんだけどね。
※このシーンを描いたのはおそらく別のライターなので、いちかのキャラがちげーよと思う方もおられたかもしれないが
 もちろん沙弥シナリオでのいちかも必見である。

・最終シナリオのネタになるが、これはひどいやり取り。

> 【いちか】
> 「え、何、いちかちゃんの中に、お月様があるの?」
(最終シナリオ10月1日)

 確かにその後、いちかちゃんの中にお月様が入るね……。

・これまた最終シナリオの話題になるが、二見を見送る時、いちかだけは泣くんだよね。小さい頃はよく泣いていたらしいが、ゲーム中涙声になるのはこの時だけだったと思う。


-「おかーさん」について-
 いちかシナリオで二見は、

> だから……俺は俺の、決着をつけよう。
(いちかシナリオ10月20日)

 と、母との和解を果たそうとする。この時の、

> 【かーさん】
> 「二見は、何か出展してないの?」
> 【二見】
> 「普通科は、何もしてないよ」
> 【かーさん】
> 「そうなの」
> 【かーさん】
> 「…………」
> 【二見】
> 「…………」
> 【かーさん】
> 「私もあなたも……」
> 【二見】
> 「……え?」
> 【かーさん】
> 「私もあなたも、あの時から、時間が止まってしまったみたいね」
(いちかシナリオ10月20日)

 というやりとりが最終シナリオをプレイし終えていると深いのだが、ここではその最終シナリオでのかーさんを含め、彼女について多少の考察を加えたい。
 最終シナリオでは「別にいちかに言われたから出て行ったわけじゃない」という風を装い、いちかがピエロになる(なにかと空振ってばかりの人生だったな)わけだが、あの時のかーさんの言葉は本音だろうか?
 いちかシナリオでは、彼女はこうも言っているのである。

> 【かーさん】
> 「なにかしら。びっくりするのは嫌よ? 私、心が弱いんだから。
>  ふふ……いちかにいじめられて、まだ落ち込んでる最中なのよ」
(いちかシナリオ10月20日)

 また、二見もかーさんについて、こう考えていた。

> あの人は家族をとても大事にする人で。
> その中に、俺は最後まで入れなかったように思う。
(いちかシナリオ10月9日)

 ここで、かーさんは意地を張ったのではないだろうか。いちかに言われてショックを受けたから出て行ったと認めれば、いちかが悪者になってしまう。だから、二見がこの家から距離を置いた方がいいと思ったのも本当だったろうが、敢えてそれだけを告げていちかの責任にはしない。そうして、いちかが意地を張って「妹」であり続けたように、かーさんもまた一度は逃げた「母」であり続けようとしたのではないか。
 だからこそ、いちかがいなくなってから、彼女は二見にだけ謝るのだ。

> 【かーさん】
> 「ごめんね、二見」
> 【かーさん】
> 「私、あの人と違って、人間が出来てないから」
> 【かーさん】
> 「あなたや、いちかの……力になれなくて……自分のことばかりに
>  こだわっちゃって……」
> 【二見】
> 「そんなことないよ、かーさん」
> 【二見】
> 「辛いこと全部引き受けて、ずっと我慢していてくれたんでしょ
> 」
> 【二見】
> 「俺はただ、逃げてた……。そうするしかなかった」
> 【かーさん】
> 「私も似たようなものだわ」
> ……
> 【二見】
> 「ねぇ、かーさん」
> 【二見】
> 「俺、宇宙へ行きたいんだ」
> 【かーさん】
> 「うん」
> 【かーさん】
> 「いってらっしゃい」
> 【かーさん】
> 「でも戻ってきてね? あなたは……私の可愛い、息子なんだから」
(最終シナリオ)

 考えてみると、いちかも小さな嘘を吐いたことがあった。

> 【二見】
> 「でも、いつから?」
> …………
> 【いちか】
> 「いつからなのかは、私にも分からないよ」
> 【いちか】
> 「でも、意識するようになったきっかけは……先月の十五夜の頃だと
>  思う」
(いちかシナリオ10月9日)

 もちろんこの説明は全くの嘘ではない。告白ブームがいちかの心を揺らしていたのは事実だろう(それは実際共通シナリオで描写されていた)。しかし、いちかはおそらく最初に出会った時から二見が好きで、彼女が兄妹として距離を置かなければならないと思い始めて態度が変わったのは数年前で、1年前に家を出て行ったかーさんもいちかの恋心にちゃんと気付いていて、いちかが二見を思って自慰をし始めたのは十五夜より前(高校入学後)だったはずだ。
 だが、いちかは敢えて一番最後の変化を挙げた。それは、二見に自分が苦しんだことを感じて欲しくなかったからだろう。このやりとりの「後に」二見が沙弥の唄(not沙耶の唄)を聴き、いちかがずっと彼を守り続けてきたことを知るのがミソである。
 二見は彼女たちの嘘に本当は気付いているのか、本当に鈍いのか、決して突っ込もうとはしない。詮索してもお互いが傷つくだけだと知っているからかもしれない。お互いを慮って時には小さな嘘を吐きながら、時には言葉を胸の奥底にしまいながら、彼らは家族であり続けるのだろう。
「ぶ――」は、いちかがよく使う口癖だが、実はかーさんや二見もそれぞれ一度だけ使うシーンがある。こんな些細な口癖も、彼女たちが家族である証なのかもしれない。


-月読の三剣士シナリオ-
 笑った。まーこういうシナリオがあってもいいと思う。家にいる猫の連中と合わせて考えると深い意味がありそうな気もするが……。キサラギGOLD★STARは何が出てくるか分からないビックリ箱のような作品だね。


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■沙弥
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 このシナリオについては、実はあまり書けることがない。決して気に入らなかったのではなく、むしろ最も気に入ったシナリオである。あまりに気に入ったので、「作品そのものを見て下さい」としか言いようがないのだ。
 それでも敢えて、思ったことを徒然と書いていくことにしよう。

・前半では一見ぽややんとした沙弥が路上でライブを行う姿にドキッとさせられ、二見との初々しい恋愛劇を繰り広げ沙弥がどんどん可愛い姿を見せてくれる様が見ていて悶える。
 後半は外形的には竹取物語を意識した構成となっており、内面的には力を過信して二見の記憶を封じた過ちを経て沙弥が心を伝え合うことの重要さを知り、みんなで素直な気持ちを伝え合いながら笑ってサヨナラ――でも、すぐに沙弥は帰ってこられた、という構成。

・なぜ沙弥がすぐ帰って来られたかについては、

> 【二見】
> 「この腕輪をつけてる限り、俺たちはつながっているんだ!」
> 【二見】
> 「そして、俺達6人の想いが合わされば、すぐだ」
(沙弥シナリオ10月20日)

 と、沙弥シナリオでも伏線が張られていたが、最終シナリオで6人全員の夢を二見はこう願った。

> 【二見】
> 「あのね、タイムカプセルに夢を入れながら、ちょっと寂しくなっ
> たんだ」
> 【沙弥】
>「どういうこと?」
> 【二見】
>「夢を……叶えられると信じてる」
> 【二見】
>「でも、その時、ずっと遠くに行ってしまっていて、……達は、
> 皆の夢のために、やっぱり別の遠くにいて」
> 【二見】
>「それはやっぱり寂しいなって思うんだ」
(中略)
> 【二見】
>「だからね。それでも……僕らは……」
> 【二見】
>「同じ場所で笑っていられたらいいねって」
> 【二見】
>「お願いするよ」
(最終シナリオ)

 6人が同じ場所で笑っているためには、沙弥も月での戦いを終わらせて地球に帰って来なければならない。なんだか「帰ってきたドラえもん」のような強引な理屈だが、この願いのおかげで沙弥は地球に帰って来られた、ということだろう。

・すごく自然な流れで書いているので気付きにくいが、

> 余計なものは目にしないようにしながら、目当ての物を探り出す。
(沙弥シナリオ10月20日)

 このト書きは、最終シナリオの伏線である。いちかシナリオでは「母」「家族」というテーマが見え隠れするが、沙弥シナリオでは「父」「夢」がうっすらと現れている。

・月読御伽草子は一見、貴族が月の姫君を想い泣き暮らす結末を迎えたように思える。しかし、本当は、貴族はむしろ姫君の夢のために笑って送り出した、そしていつか貴族は月にたどり着く事を夢見たのだと二見は考えた。
> 今なら……
> 池の畔に立ち続けたという貴族の男の気持ちが、なんとなく分かる
> 気がした。
> 【二見】
> 「沙弥。歌うよ。君が戻ってくるまで。そして、戻ってこないとい
>  うなら……」
> 【二見】
> 「僕が、月まで迎えに行くよ」
(沙弥シナリオ10月20日)

 貴族の夢は千年後に、二見が月にたどり着くという形で成就する。

・コウタロウは自己愛が激しく結果的に間違っていたが、彼なりに沙弥や二見たちを悲しませないようにしていたことが窺える。彼の喋り方も特徴的で聞き応えがある。「いい加減にしないか沙弥」(10月18日)は怒鳴っていながら上品さを失っておらず、すげえ演技だと思った。

・このシナリオでもいちかシナリオ同様、恋人(二見と沙弥)が兄妹(コウタロウと沙弥)を打ち砕く構成になっている。いちかシナリオは妹に戦わせたが、こちらのシナリオで戦うのは二見の方。

・エピローグに出てくる「山崎さん」は、小学校時代二見たちのクラスメイトで翼に匹敵する美人だったという山崎祥子さんかも。瞳がチョイチョイ口にするので彼の本命かもしれない。そして最後のCGで沙弥の後ろにいる子がその子かもしれない。

・狼男はもちろん、月(=沙弥)を見てぎゃおーしちゃう二見のことだけれども、三日はその名前から「不完全な月」を意味しているのかなと思っていたら、実は月の傍で輝く星をイメージしていたようだ。三日が「沙弥の隣で輝く」と言っていたり、星の髪飾り(普段も付けているが歌合戦の時は、よりハッキリしたものを付けている)から窺える。

・最終シナリオでの描写を見る限り、沙弥の月への願いは「二見――」で始まるようだ。きっと「二見ともっと仲良くなりたい」とか「二見と恋人になりたい」とか、そういう内容。
 実は彼女も初対面から二見のことが好きで、だけど月に還る宿命からずっと諦めていた――なーんてロマンがあるよね。


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■二見
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 かなり面白いヤツである。ハンパないシスコンで、奉仕活動(9月24日)に美術を選ぶと突如いちかの裸を想像して勃起する。ハンパないマダムキラーで、奈々子さんを落とすわ、先生をドギマギさせるわ、翼の母やかーさんにも妙に気に入られるわ、挙げ句十六夜様を「おねーさん」と呼んで胸キュンさせている。
 二見と十六夜様と言えば、彼女と出会う幻想的なシーンでさえ、

> 【二見】
> 「あなたは……」
> 【二見】
> 「にゃん」
> 「はい?」
(プロローグ9月22日)

などとワケの分からないことを口走るシーンがある(十六夜様の夢を見たとき猫の鳴き声に『にゃにゃ、にゃんだ?』と驚いたのを思いだしたのだろうが)。さっすが二見、俺たちには(ry
 こういうゲームの主人公らしい天然。おまけに鈍感。
 良い意味でボケていて、周りを安心させる人徳がある。多少トゲのある言葉を聞いても善意の解釈をするし、気に入らない相手と接した時も滅多に激昂しない。本気で怒ったのは、にちかと初めて相対した時くらいではなかろうか。ヒロインが感情を露わにしても同調したりはせず暖かく対応する。そして、決して人に悪態を吐かないし心の中でも思わない(いちかを除く)。
 実は凄い天才で、勉強ができ、絵もピアノも歌も剣道も器用にこなせていたらしい。ギターも披露した。CGから推測するに瞳みたいな華やかさはないが結構イケメンなのだろう。
 ……とまあ、性格といい、能力といい、月の力を解放した時女の子にモテるのも納得な彼。こんなヤツと長年同居していたいちかは実に生殺し。
 そんな彼の(シスコンを除けば)唯一の欠点は女装好き。最近のゲームの主人公は嫌々ながら女装して凄い美少女になるってのがパターンだが、こんなにノリノリで女装して全力で否定される主人公は初めて見た。二見が女装に目覚めるシナリオさえ用意されてるくらいだし(後述)。


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■その他
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 これまでに触れたシナリオ及び最終シナリオを除いてまだシナリオが2つある。1つは田辺さんルート(?)で、もう1つは喫茶店ルートである。喫茶店ルートに登場する人物はSAGA PLANETSの過去作のキャラであるようだが、(2011/10/25時点では)このゲーム以外のSAGA PLANETS作品をプレイしていないのでよくわからない。
 (2012/8/07追記)ナツユメナギサの登場人物でした。


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■最終
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 再び最初からプレイする。ここまでプレイしていれば、OPで二見が連れて行かないでと言った「その人」が二見のとーさんであることがわかる。
 月に手を伸ばすと、二見はいつもよりも早く目覚め、JETが宇宙事業を再開したことを知る。これが他のルートとの分岐ポイントであろう。二見も実は普通科の特待生であることが明かされ、彼は沙弥の唄を聴いて封じていた「宇宙に行きたい」という夢を取り戻す。
 ところが、腕輪の光はまだ揃っていないという。腕輪が光らない最後の一人は瞳だった。「えっ」と思い、通常ルートに向かう方のOPを確認してみると、確かに瞳の腕輪が光っているとは書かれていなかった。

> 見れば、沙弥やいちかの腕輪も光っているようだ
(中略)
> 翼の腕輪が光を発している。光は一条の光線となって、暗がりの向
> こうへと伸びていく。
> 見れば命やいちかの腕輪も同じように、光を放っていた。
(プロローグ 9月22日)

 シスコン二見はいちかだけ二度見ている。
 ここから瞳の話(not流川瞳ルート)が展開するのだが、この辺りもいちかシナリオ序盤に匹敵する面白さなので是非音声を最後まで聴こう! 白眉は二見が女装した時の男子生徒たちの反応。「あぁ……奴は俺たちをどうしたいってんだ」や「ああああああ。僕は、どうしてしまったんだ!!」などの演技は声を聴くだけで笑える。瞳の「それで腕輪を貰って、みるみる髪がやわらかくなってさ。なめらかになってさっ」の言い方もジツニヒドイ。
 言い方も酷けりゃオチも酷い。散々仄めかされた通り、本当に瞳の悩みは髪の悩みだった。いちかちゃんならずとも「ズコォォォ!!」(きゃー!! 禁断の恋!?)してしまう瞬間である。
 もちろん瞳がそれだけ髪に拘る理由には、姉が幼い頃口にした「サラサラヘアーになったら、結婚してあげる」という言葉を真に受けたことがあるのだろう。だから彼にとっては真剣な悩みであるはずなのだが……ゴメンやっぱフォローできない。
 姉を月に奪われたという思いから月(それは夢の象徴でもある)を憎み、それゆえ腕輪が光らなくなってしまった瞳。そんな瞳に二見はこのゲームを象徴する台詞を投げかける。

> 【二見】
> 「……夢見てもいいじゃないか」
> 【二見】
> 「その先で、現実を知って落胆することがあっても……それは未来
>  の俺の仕事だ」
> 【二見】
> 「今はまだ……夢見たっていいじゃないか」
(中略)
> いつか、瞳は向かい合わなくてはならないのだろう。現実と。
> だけど、淡い思いは……瞳なりの形で、まだ、追い求めてもいいん
> じゃないかって思う。
> 俺たちは、まだ……子供なんだから。
(最終シナリオ10月1日)

 こうして、「もう子供ではいられない」→「まだ子供でいてもいい」というテーマが二見の口によって語られ、瞳はサラサラヘアーを取り戻す!
 なんか、ちょっと……どうでもいい……かな。

 ところで、瞳の姉が惚れた月の人は誰だろうか? まさか、コウタロウ?
 その可能性もないではないが、

> 【二見】
> 「意外と、あちこちに、月のお姫様が降りてきて、ロマンスしてた
>  のかもしれないな。それでロマンスとして残ってたり」
(沙弥シナリオ10月15日)

 と、二見も語っているので、案外月の人はあちこちにいるのかもしれない。英子もそんなことを言っていたし。
 そして遂に6人の願いが揃い、二見は幼い頃自分が何を願ったのかを知る。

> 「おかーさんと仲良くなれますように」
(最終シナリオ10月1日)

 これはプレイヤーにとって意外であると共に、腑に落ちる願いでもある。ああ、だから、沙弥の唄で願いを封じた結果母と疎遠になったんだなと。

> かーさんに、まわりの人に笑ってもらいたい。そう出来る子になり
> たいと、思っていたんだっけ?
(最終シナリオ10月1日)

 こう願っていたからこそ、二見の月の力が解放された時、周りの人を惹きつけずにはいられなかったんだなと。
 そして、沙弥は自らの使命を果たしに行き、かーさんが家に帰ってくる。この時初めて、これまでどのシナリオでもエピローグを除いて超えることがなかった特異点「10月20日」の向こう側に進むことができる。
 二見は周りの人に笑ってもらうという1つの夢を叶えて、月へ行くというもっと遠い願いを追い求めはじめる。
 二見が先生に向かって言う台詞は、この物語の1つの締め括りである。

> 【二見】
> 「いつかこんな時が来るんです」
> 【二見】
> 「いつまでも一緒にやっていくには、やっぱりあの町は狭すぎます
>  よ」
> 【二見】
> 「俺だけじゃない。翼も瞳も、皆……もっと大きな世界に出て行く
>  時が来ると思います」
> 【二見】
> 「でも。それでも……きっと帰ってきます」
> 【二見】
> 「広い世界に飛び出て、自分がどこにいるかもわからなくなったと
>  き……ふと、戻りたくなったとき」
> 【二見】
> 「なんていうか……」
> 【二見】
> 「あの町は、あの長屋は、輝いて見えると思うんです……」
> 【二見】
> 「夜空に浮かんだ一番星みたいに、よく見えるはずなんです」
> 【二見】
> 「そうして……帰る場所があるから。信じて、進んでいけそうな気
>  がするんです」
(最終シナリオ)

 そして二見は宇宙に飛び出すのだが、一部のプレイヤーが望んでいたかもしれない、沙弥たちの世界と二見との邂逅は遂に描かれることはない。沙弥は1年で帰ってきてしまって月に向かう二見を見送る側にいるし(『ワン』をカウントしている)、月にたどり着いてもやはりそこは何も無い。白い大地と真っ黒な宇宙が静かに触れ合う世界だった。
 結局沙弥たちの世界とは何だったのか? 千年前の貴族が別れた女を想い、瞳が姉を想って湖畔に立ち続けた気持ちは裏切られたのだろうか?
 プレイヤーの疑問に対して、二見のとーさんは手紙にこう書き残している。

> 「そう。全てはおとぎ話さ」
> 「確かなことなんて何もない。目の前に立ちはだかる、ど
>  んな難題だって、気持ち1つで消え去るおとぎ話さ」
> 「何でも気に入ったものを選び、現実のものにすればい
>  い」

 そして二見は、月に父や過去の懐かしい光景を見出す。
 夢を叶え、町に戻ってきた二見に町のおじさんが語りかける。ここで彼が月を「あのお星さま」と呼ぶところが味わい深い。当たり前のことだが、月も星なのだ。最後の最後まで月と星を別のモチーフとして扱いつつ、最後にソッと重ね合わせたライターの技量に驚きあきれる。
 そして「きさらぎのゴールドスター」と呼ばれた二見は、秋桜荘に帰ってくる。見上げるのは十五夜だ。十五夜はこの物語の始まりである。彼はまた始まりの地点に帰ってきたのだ。そこで待っていたのは懐かしい――。

 最後は全員集合ではなく、二見が選んだたった1人だけが待っている。なぜなら、そのとき幼馴染たちは自らの夢を叶えるため町を飛び出しているはずだからだ。
 もちろん、またいつか全員が揃うときもあるかもしれない。しかし、とりあえず今は1人だけ。――長い長い螺旋をくぐり抜けて、今ようやく、彼らは大人になったのだ。END

 ……かと思いきや、ここで終わらないのがキサラギGOLD★STARである。これまでのシナリオも、終わったと思わせて新たな始まりを思わせる仕掛けがあった。このシナリオでも当然のようにそれは用意されている。
 もう一度初めからプレイしよう。プロローグを終えると(飛ばしても良い)、奉仕活動に「服飾」が加わっている。これが本当の最終シナリオである。
 いやー、最後まで笑わせて貰いましたw