失われることの重さを表現した、ホラー要素のある良作。
まず初めに。
実際に本作をプレイしたのは発売直後なので
プレイ終了後かなり経ってからこの感想を書いています。
誤り等が含まれている可能性が十分にあるので、その点ご了承ください。
【グラフィック:90点】
主人公の顔があまり好みでない点以外は満足でした(狐目主人公は苦手)
特にホラー系のグラフィックにはとても力が入っており
他ブランドと良く差別化されていたと思います。
【システム:70点】
クイックジャンプ機能がないですが
他は一通りあります。
【音楽:85点】
日常パートからホラーパートまで、雰囲気が良く出ている音楽が揃っています。
【声:80点】
各キャラに合ったキャスティングだったと思います。
【キャラクター:80点】
各ヒロインとも、なかなか個性的なキャラをしてますが
人物描写が丁寧で、ただ属性を詰め込んだのではなく
納得できるキャラクター像に仕上がっています。
また、キャラは濃くても、色恋に関しては年齢相応の
恋に恋する雰囲気もあったりで、初々しい個別ルートを楽しめます。
【テキスト:85点】
テキストは全く問題なく良かったと思います。
たまに出てくる、毒の塊のようなセリフが面白かったです。
【シナリオ:85点】
シナリオについては一長一短で評価が難しいので
良い点・悪い点をそれぞれ挙げたいと思います。
まず前提として、本作は
(1)幼なじみ&恋人であるまどかが殺され、主人公がその悲しみで廃人のようになるパート
(2)主人公がジョーカーへ復讐を誓い、サクラノモリドリーマーズとして活動、ジョーカーを倒すパート
(3)個別パート(暮羽ルートのみ真の決着へ)
と言う構成になっています。
『良い点』
このゲーム最大の良い点は
(2)のパートにおいてまどかは幽霊として主人公と共に過ごしますが
決して人間として戻ってくることはなく
必ず主人公と別れることになるところです。
もし、ここで、まどかが生き返ったり
ifルートでまとかと結ばれたりと言う描写があったならば
私はシナリオの点数を大幅に減点していたと思います。
本作においては
・主人公がまどかを失い
・ジョーカーへの復讐を成し遂げ
・まどかとの別れを乗り越えて日常生活に戻っていく
この3点が物語を描くうえで欠かせないものとなっており
一つ目にして大前提であるまどかを失うと言う過程や
失うことの重さががなくなってしまったら、全てが台無しです。
他のエロゲではユーザーの要望を反映して
このようなifルートを導入することが多いように感じますが
それが原因で本編で描いていた"重さ"が失われてしまっている場合もあると思います。
本作ではそこを敢えて"描かなかったこと"が、私の中でこのゲームが面白いと思う最大の理由です。
『悪い点』
悪い点と言う程でもないのですが
暮羽ルート後半のジョーカーとの決着については、あまり面白く感じませんでした。
ゲーム全体を見た時に、個人的に初音ルートが最もしっくりくる終わり方だったことや
深層付近の設定がぼんやりとし過ぎているからでしょうか?
また、リカー周りの話はご都合主義過ぎるかな?と思う部分もありましたね。
上記でも書いた通り、私は本作を「主人公がいろいろな過程を乗り越えて成長していく物語」と
解釈しているのであまり不満には感じませんでしたが
本作を「シナリオゲー」と解釈している方にとっては、大いに不満だったかもしれません。
次に、個別パートについて。
『暮羽ルート:70点』
繰り返しになりますが、ジョーカーとの決着の部分がいまいちでした。
また、これがあるせいか、主人公が日常生活に戻れることができたと言う印象が薄く
結末としてあまりしっくりこなかったのもあります。
『真幌ルート:80点』
一番普通なルート。
真幌の弟と言う共通点やサクラノモリドリーマーズの活動をきっかけに
初々しい歳の差カップルと言う感じが微笑ましかったです。
派手さはないものも、好きなルートです。
このゲームの個別ルートのデートシーンは
1日をしっかり描いていて、等身大の学生っぽさを感じるのが好みでした。
『美冬ルート:65点』
美冬自体はかなり変わった等身大の学生と言う感じで嫌いではないのですが
友梨香関連のシナリオの違和感が強く、このような点数となりました。
実質的に、TRUEの布石として深層の説明をするためのルートではないかと
邪推してしまいました。
基本的にボダッハ(赤)に取り憑かれる人間はまともな人間ではないので
そこに合理性を求めることが間違っているのは分かるのですが
それにしても友梨香が美冬をそこまで恨む理由が感じられなかったのが
原因だと考えています。
『初音ルート:95点』
個人的なTRUEは、このルートだと思っています。
このルートでは、主人公に恋心を抱いてきた初音と結ばれることも良いのですが
何よりもすごいのは、主人公の叔母であり、初音の母でもある美弥子さんを中心に
シナリオが展開することです。
この流れであることを理解した時に
『その切り口があったか』『完全に一本取られた……』と言う気分になりました。
主人公と初音が美弥子さんへと意識を向けるということは
主人公達が過去を乗り越え、日常生活に戻り
他の人の心配をする余裕が出来るほど成長したと言うことと同意義なんですよね。
また、一連の流れとして
・まどかが亡くなった後、初音と言う恋人ができ
・美弥子さんとの家族としての問題を解決し
・初音と結婚して本当の家族なるとともに
・初音との子供も生まれ、家族として幸せに暮らしていく
と、一本きれいな線が通ったシナリオとして完成しています。
この描き方を思いつくって本当にすごいと思います。
当時は『天才かよー』と思ったものです。
【総評】
メインシナリオだけを見ると、名作とまでは言えませんが
失うことの重さをしっかりと守った形で描かれており
その喪失感を乗り越えて成長する主人公が描かれた良作だと思います。
個人的に大満足なルートもありましたし
今回、感想を書くにあたって改めてざっくりと見直しただけでも
当時の感動が蘇ってきました。
次回作以降も、本作のようにキャラクターの心情や成長を大事にしたうえで
同じような路線が続くと嬉しいですね。