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dontiさんの果つることなき未来ヨリ X-RATEDの長文感想

ユーザー
donti
ゲーム
果つることなき未来ヨリ X-RATED
ブランド
FrontWing
得点
78
参照数
1540

一言コメント

異世界モノと言うことでプレイ前は全くどういう展開になるか想像できませんでしたが、実態は戦争モノでした。凄惨な戦争の中で各ヒロインと行動を共にした一郎が、それぞれの立場で何を考え、どのような行動を取り、どのような結末に至るのか。そこが見どころです。以下、ネタバレありの項目ごとの評価。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【グラフィック:85点】
竜族の男がダサい以外は良く出来ていたと思います。


【音楽:75点】
それなりによく出来ています。


【システム:80点】
シーンジャンプ搭載だけでなく、2周目以降の共通部分を一気に飛ばせる仕様はありがたいです。
クイックジャンプがあれば完璧でした。


【テキスト:80点】
ルートごとの格差はありますが
基本的に面白いです。


【シナリオ:75点】
このゲームのシナリオの評価は非常に難しいです。
部分的に見ればそれなりに面白くできているのですが
シナリオを構成する際に、ブロックごとに完全に分離して作っているのか、
一つの話からもう一つの話へ移る時の繋ぎが驚くほど『雑』です。
控えめに言って、つぎはぎ。
きつく言えば、ただ並べただけで繋がりを感じられません。

せっかく演出等にお金をかけて作っているのですから
もう少し丁寧に作れなかったのでしょうか…?
正直に言うと『手抜き』に感じましたね。
もう少し取り繕うことはできたはず。

また、各個別ルートに入ると、その他のヒロインがいつの間にか完全消失するのが酷いですね。
一郎とユキカゼが異種族間交渉を経て味方に引き込んだのに
離れ離れになる部分で全く会話がないのは、さすがに?
ライター間で矛盾が発生しないように、ヒロイン相互不干渉を貫いているのかもしれませんが
もうちょっとなんとかして欲しかったです。

以下、ルートごとの採点と感想。


『共通パート:75点』
新しい世界の設定を覚えながら、各種族の成り立ちや現在の問題等を
現在と過去を交えながら描いており、基本的に面白いのですが
過去の回想シーンへの入り方が恐ろしく雑。
ユーザー側から見れば、何のために回想を見せられているのか分からず
どういう視点で見ていいのか分からないまま
とてもとても長い回想を読まされるのでとても苦痛でした。
過去の話自体は面白いのに、とても勿体無かったです。


『ユキカゼルート:75点』
ユキカゼルートというよりも、正史と言う印象ですね。
ヴィスラ帝国と真っ向から戦うレジスタンスである「バラウール」の立場から
作品全体の流れを描いており
その他のルートをプレイするための基礎にもなっています。

その他にも、
異世界漂流者の一郎とレジスタンス総大将のユキカゼの関係、
一軍人としての一郎と部下の384飛竜隊の師弟関係、
ユキカゼとセツナの確執等が描かれています。

個人的には、傍若無人な一郎を最も感じられる
384飛竜隊とのやり取りが面白かったですね。
特に気に入ったキャラクターはフランです。

このルートに限りませんが、かなりのご都合主義を含むので
ここは大きく好みが別れるところかもしれません。
私は、神が出てきたところで、とても萎えました。
そして、セツナと言うキャラクターは必要だったんでしょうか?
セツナを削除して、ヴィスラの思想等を掘り下げた方が面白かったような気がします。


『アイナルート:68点』
レフレリアキャラバンの代表かつ晴眼の「ファル」
アイラの無二の親友だったシャオリア「キュリオ」
キャラバンでの商売を生業としていた権力者の「オリバー」
彼女達レフレリアキャラバンの主要人物を失い
残されたアイラとリースが過去を振り返る話が中心でした。

ファルを失った後も、ファルの教えを忘れない部分に
義理堅いルルカリオンらしさを感じられて良かったですね。

対ヴィスラと言う視点で見た場合、ダモンがとても良い味を出しているキャラでした。
軍人としての矜持をしっかり持っている良キャラです。

逆に、ダモンの相方のような立ち位置のミスカは何なんですかね?
序盤から無意味に味方を殺す描写を入れておきながら
エピローグでダモンが死んだショックで路頭に迷っている描写をされても
「なんだこの屑、我が身が可愛いだけじゃねーか」としか思わないですよ。
個人的にこのエピローグは大失敗だと思います。

また、このルートもご多分に漏れずご都合主義の塊です。
いや、私はご都合主義そのものを全否定しているわけではないのですが
3つの晴眼が出てきたシーンはさすがに苦笑いしてしまいました。


『メルティナルート:50点』
会話はあまり面白くない。
一郎の良さもあまり見えない。
メルティナとの仲も遅々として進まない。
オカマが気持ち悪い。
シナリオ展開もご都合主義しかない。
オカマが気持ち悪い。
いいところなしでした。


『リアルート:90点』
ガード不能即死ルートでした。
このルートは本作で唯一の例外で
「民間人であるリア」と「できるだけリアを戦争に関わらせまいとする一郎」
と言う構図で描かれます。
基本的にリア視点でシナリオが進むので
一郎の傍若無人さはほとんど感じられず、まるで別人であるかのような印象を受けますが
逆に言えば、リアから見た一郎とはそのような人物だったのかもしれません。

しかし、だからこそ
 ・民間人から見た愛する人が戦場に向かう光景
 ・愛する人に知らされない寂しさ
 ・自らの無力さ
 ・何か一つでも愛する人の力になりたいと言う想い
を感じられたのが良かったです。

正直、結末はかなり序盤から予想できていたんですよね。
まず、リアの設定からして
「アンデッド(死なないとは言っていない)」にしか見えないですし
作中で「桜」の例えが出た時に、リアの結末は想像していました。
ヒューレーの古代魔法の件でもう確信ですよね。

しかし、それでも、
生前に、一族皆、生きたままゾンビ兵製造の実験台にされ、
アンデッドになってから、一族が皆朽ち果てるのを見届け、
仲の良いドワーフのリトゥルと共に爆心地でマジーの太陽の爆撃を受け
この世の地獄を見て歩いたリアが
「イチロー様のために」、自らの命を賭してヴィスラの基地内に向かうシーンは
涙腺が刺激されました。

さらに、ヴィスラの基地内を歩きながら、心情を語るリア。
死を目の前にして、初めて生の素晴らしさを心の底から実感するリア。
人を愛することを喜びを再確認するリア。
こんなものを見せられたら即死です。

なぜだか分かりませんが、このルートだけは見せ方がとても上手かったと思います。
力の入れどころを抑えているといいますか。

ちなみに、このルートが特別面白いというわけではないと思います。
悪く言えば分かりやすいお涙頂戴シナリオではありますし。
恐らく私が好きなだけですね。

このルートプレイ後に再考してみると、あまりにも悲しい結末に
リアを隔離して細々と暮らさせようとするオゾスの考えは
一概に間違いとは言い切れないのではないか?と思えてしまいますね。
リアは決してそのようなことは思わないのでしょうけれど。


【総評】
作品の第一印象は、シナリオのつなぎ目がとにかく「雑」・「手抜き」という
ネガティブなものでした。
しかしながら、期待した方向性とは全く違う意外なところで楽しめたのは収穫でした。
「新作買いをして損はしていない」と思える範疇に収まってくれたのは良かったですね。
とは言っても、ブランドの印象は悪くなってしまいました。