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dontiさんの千の刃濤、桃花染の皇姫の長文感想

ユーザー
donti
ゲーム
千の刃濤、桃花染の皇姫
ブランド
AUGUST
得点
88
参照数
901

一言コメント

シナリオよりも、それぞれのキャラクターの考えに焦点を置いた『忠義』ゲーでした。以下、項目ごとの感想等。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


【グラフィック:95点】
キャラ・背景ともに最上級の出来。
キャラクターを色々な角度から描ける方、意外と少ないですよね。
気になるとすれば、差分が少なめだったことくらいです。


【システム:85点】
必要なもの+細かなものまで設定可。
Hシーン中の主人公ボイスがデフォルトがOFFであり
ONに設定できることに自力では気づけませんでした。
初回のHシーン開始時に『主人公ボイスをONにできます』みたいな
ポップアップが出たら、より親切かなと思います。


【音楽:85点】
作品の雰囲気にピッタリ合った音楽が揃っています。


【声:100点】
完璧と言っていいキャスティングでした。
メインからサブに至るまで、どのキャラも文句の付けようがありません。
演じられた方々の演技も何一つ文句ありません。


【キャラクター:95点】
このゲームのコンセプトである『忠義』。
この『忠義』に対して、様々な立場のキャラクターが登場し
シナリオが展開していく点が面白かったです。


 『宮国 朱璃:80点』
先代皇帝の娘でありながら、自暴自棄過ぎる点が目立ちますが
皇国と主人公の間で揺れる様に人間味があり、面白いキャラだったと思います。

 『鴇田 奏海 :85点』
控えめな性格に見せておきながら、その本性は
「義兄(主人公)が全て、他はどうなってもいい」と言う、気持ち良いくらいストレートなキャラ。
良し悪しはさておき、嫌いになれないキャラでした。
これくらい真っ直ぐでないと、「武人の娘が皇帝を騙る」と言う罪とは釣り合いませんよね。

 『椎葉 古杜音:100点』
小鳥居夕花さんにポンコツキャラを演じさせたら、萌豚と化してしまう病を患っており
正当な評価が困難です。
もちろん、テンプレなポンコツキャラではなく
斎の巫女としての大御神に対する『忠義』や自己犠牲の精神が色濃い
魅力的なキャラクターでした。
それにしてもこのゲームの巫女は、明確な形で自らの命を皇国のために捧げると言う
狂った仕事(役職?)と感じました。
武人は戦って死ぬでしょうから、まだ納得できると思いますが…。
その辺りも家を重んじる皇国らしいと言えば皇国らしいですね。

 『稲生 滸:70点』
稲生家の実質的な当主でありながら
大体伝わる呪装刀を使いこなすこともできず
奉刀会をまとめることもできないという、いまいちパッとしないヒロイン。
最終的には奉刀会をまとめあげ、頼もしい戦闘要員となりますが
個別ルート分岐の位置が不遇なこともあり、どうしても微妙な印象になってしまいますね。

 『エルザ・ヴァレンタイン:90点』
このゲームにおける一番"美味しい立場"のヒロインでした。
共和国人でありながら、共和国とも皇国とも異なる考えを持ち
第三者的立場から皇国を見て、皇国人と触れ合う中で、自らの『忠義』を確かなものにして
その『忠義』に基いて行動する様はとてもカッコ良かったです。
奏雨さんの、日常会話とシリアスシーンの変化の付け方も絶妙でした。


【テキスト:85点】
テキストは全く問題なく良かったと思います。


【シナリオ:70点】
体験版をプレイした感覚から、共和国側はエルザくらいしか絡まない、
かなり皇国寄りのシナリオになるだろうと予想はしていましたが
ここまで皇国だけに絞ったゲームとは思ってなかったです。

皇国を舞台にして共和国のことを描こうとした歪みなのか
顔見知りであるエルザとの戦闘と学園生活が交互にやってくる等
単純に事実だけ並べるとかなり無理のある流れですし
最後も超展開&ご都合主義ENDと言えてしまいます。

が、個人的にこのゲームは『忠義ゲー』と思っているので
各々のキャラクターの『忠義』をしっかり描き、魅力的に見せるという
最も重要な部分は抑えられていたと思うので
特別悪いものではないと思います。
ただ、国家間の戦争を期待していた方に取っては不満の残る内容だとは思います。

尚、余談のエピソードは、本編と落差があるコミカルな内容でとても面白かったです。


【総評】
手放しに褒められる完璧な作品とは言えませんが
シナリオ展開以外の基本的なクオリティが圧倒的に高いので
終わってみれば、満足できる作品だったと思います。