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doeruさんの魔導巧殻 ~闇の月女神は導国で詠う~の長文感想

ユーザー
doeru
ゲーム
魔導巧殻 ~闇の月女神は導国で詠う~
ブランド
エウシュリー
得点
79
参照数
1460

一言コメント

突き詰めて言えば「あらゆる面で数字を管理して増やすゲーム」なのに、「全ての数字を管理し辛いよう、見えにくいように作られたストレスフルゲーム」。今のエロゲー批評の得点傾向から言えば85点くらいあっても良い作品だが、自分の採点で80点作品と同列には並べない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

エウシュリーのゲームと言えば「せっかく作ったのに見てくれない」という冗句があるほどの作り込みが売り
だろうが、こと今作に限れば、「物置に適当に突っ込んだから自分で探せ」と言わんばかりの不親切さが売り。
気がつけば時間を盗まれている時間泥棒という言葉があるが、本作は時間強盗だ。
なまじ途中で辞めさせないだけの面白さゆえに、無駄な時間を無理やり使わされていると意識せざるを得ない。
アルのボイスだの、チュートリアルの難度だの、魔導巧殻のエロがないの、工作ゲーだのははっきり言えば
枝葉末節のどうでも良いこと。

誰がどこにいる? LVが低いのは誰? 装備状況は? 未行動者は? 政治力の順は? 属性毎の一覧は?
どこに何を建てた? 何軒建てた? 建築効果は? 増築段階は? 環境が低いのはどこ? 収穫物毎の産地一覧は?
今手持ちの配合魔物は?
…一々一々、全部情報一覧を見ろと? 編成画面を見ろと? ソートも出来ない一覧を? 並べ替えも出来ない編成を?

ふざけるんじゃあないよ! それを管理するゲームを作ったんだろ? 育てるゲームを作ったんだろ!?
ならなんで管理育成の基礎数字を隠すんだ、いい加減にしろ!


ただ単に効率良くクリアするだけなら、実はレベル上げを強要される主要人数も従来より圧倒的に多い訳ではなく、
正史通りに進めれば正史を歩めるようにフォローもされている。
 例)アンネローツェの要請を受けてザフハと開戦すると、エアシアル戦用のLVUPがしやすいマルウェン首輪が入手出来る
   最低限の人数で進めると一国あたり2~3人の主要人物を、次の対戦国攻めの数ターンの間にLVUP出来る など

しかし、これだけ多くのモブ武将や魔物配合、地域育成に力を入れたのは、寄り道を存分にしてもらう事こそが自社ゲームの
愉しみ方だというエウシュリーの所信表明だと言えるだろう。そうなら、せめてプレイ環境にも最低限の姿勢は見せるべきだ。
口では楽しい壮大な夢を語りながら、全力で足を踏んでいるようにしか見えない作りになっている。

レベルアップについても、パッチで多少改善されたとは言え、無駄な時間経過を必要とし過ぎる。経験値分配の仕組みも
分かりにくく、交戦メンバー間での調整がほとんど出来ない。

兵士も陣形もほとんど種別に意味がなく、単純に高いものを雇って防陣を敷くのがセオリーになってしまっている。
発売前コメントでラングリッサーに触れたが、ここまで細かく兵種に凝るならいっそ兵士間の相性にじゃんけんを入れるべきだし、
信長の野望烈風伝がそうであるように、陣形同士の有利不利も必要だろう。でなければ兵士や陣形に種類を増やす意味が無い。
まったくない。プレイヤーが本来操作しなくても良い操作を増やすだけの、製作者のオナニーだ。
自由度の名を借りて、プレイヤーの負担を増やすだけの手抜きだ。
属性なんてところに凝る前に、プレイヤーの選択や操作に意味を持たせろよ。


エロスに関しては、批判というよりは残念な点が多い。
冒頭では些細な問題と述べたものの、ふぃぎゅ@にはフィギュアサイズとのエロがあるのだから、魔導巧殻とタイトルを
つける以上、そこにエロを期待するのは理の当然。含まれていなかったのは残念。
まさか触手や陵辱エロを含むタイトルにおいて人形エロへの期待を特殊嗜好とは呼ぶ方はおりますまいな。
今後のエウの新たな地平開拓に期待しましょう。

またこれだけネームド武将や女性魔物配合を豊富に用意しながら、それらがアダルトシーンに一切繋がっていないのは
ゲーム設計としておかしい。これはアダルトゲームですよ? 単なる駒を増やす為だけにコストと時間、レベルアップタイムを
使わせるのはあまりにも無駄が多すぎる。特殊な組み合わせ時だけの発生でも良し、一定レベルで発生でも良し、
プレイヤーの努力=ご褒美 という公式を無視しすぎでしょう。
この辺、決して技術で劣るとは思わないアリスソフトに、今一エウシュリーが及びきらない部分ではないでしょうかね。

三銃士など、一部のキャラにストーリー上もエロスの上でも存在感が欠けていたのは今回、多少は割り引いて見ています。
そりゃ師匠や仮面ドロス・ヴァス紳士の熱演があったら、そちらに存在感を食われますわな。かつてメタモルファンタジーで
甘美さん演じる校長が異様な存在感を醸し出していたのを思い起こします。
ただそうは言っても、ライバルっぽく登場したエルミナあたりはもう少しストーリー上に爪跡を残すべき。
そう、苦労して手に入れた高嶺の花という、美少女ゲームにおいて必須の”征服感”が今作の女性陣には足りない。


散々厳しく指摘したが、では詰まらないのかというとそんな事はない。
少なくとも手抜きゲームとは遥に対極に位置する意欲作・努力作と言える。

熱中させるゲームの必須要素と言われる収集と育成要素を、過去数年の同社作品にも増して全力で投入している。
魔物配合にネームド武将、素材や開発品のコレクション、各地域の収益最大化、魔導巧殻の衣装設計、各種依頼etcetc…

シナリオも、同社比とはいえ良好。仮に同じ条件でシナリオだけを比べれば、神採りについに付けることが出来なかった90点
を本作はきっと越えていただろう。

戦闘は工作兵だけでクリア出来ると言われるが、レベルを上げて押し潰すのも工作兵で戦の手間を省くのも、どちらも
出来るように選択の幅を広げてくれたと評価すべき点だろう。攻勢防壁や、工作兵が進めない地形を用意したり、あるいは
「工作兵育成にもっと投資が必要」なように作ったならもっと頭を使えたという程度だ。
誰でもクリア出来る難度を目指すなら試行錯誤の楽しみに含められる範囲だろう。

効率に徹してルモルーネ滅亡を座してみれば序盤から資産がラクになるが、英雄たるべき正道を意識すると中盤に至るまで
発展と金策の狭間で苦しみ、依頼解決の報酬が意味を持ってくるのも上手い作り。これもプレイヤーの自由度を保証した、
よく考えられた設計だと思う。


シムシティの楽しみとメガテンの楽しみ、さらに国獲りゲームの楽しみと、幾つも楽しめる要素を持ちながら、それらのゲームが
どれも必ず注意しているプレイアビリティへの意識をおろそかにしてしまったことが、本来90点以上も目指せた本作の評価を
大きく落としていることは疑いがない。だからこそ惜しいと思う。この経験をこのまま捨ててしまったら、本作が死んでしまう。
エウシュリーには絶対に、本作をベースにした飛翔を成し遂げてもらいたい。