シナリオの完成度及びそれを彩る音楽や幻想的なグラフィックは最高峰の出来。一方でそれを楽しむためには、読みにくいテキスト、分かりにくいシナリオ構成、牛歩のごときテンポ、複雑な世界観と乗り越えるべき壁も多い。最高級の評価とは裏腹に人を選ぶ作品。
⚫︎雑記
・シナリオ
本当に本当にシナリオが長すぎる。
共通が終わるくらいまでは本当にダルく、本作品の内容も合わさり悟りを開くための荒行のようなゲームです。
テキストは最序盤から、ダラダラと無意味に長く一行書けば済みそうな出来事を30分くらいかけて説明してきます。
そのため、OPが始まるまでに3時間くらいプロローグを見ることになります。
遅すぎるテンポと独特テキストにここでギブアップして、OPに辿り着かずにやめた人間もいると思います。
日常シーンかと思いきや、意味深にテキストを強調したり、昔語りしたり、スキップを許さない作りです。
重要だから覚えておいてくれと、気にして欲しい文言にはご丁寧に文字の上に点を配置して表示してくれているのは良心でしょうか。
しかし、この文字の上の点量も頻度も半端じゃない数があります。
また、カットインによる場面転換も誇張抜きで何百回も見せられます。
着地点は不明、主人公のバックボーンは不明、時系列はめちゃくちゃで回想シーンのオンパレード。
クロ√に入るまで、ゲーム開始前の世界で何があったかを想像しながらプレイすることになるのも中々もどかしいところです。
余りにも多くの伏線(と思われる意味深なテキストや発言)が大量に散りばらめられ、回収は十数時間後が当たり前です。
複雑怪奇な人間関係も当然搭載されており。
他ルートで名前や設定だけ少し出たキャラが、別ルートで詳しい生い立ちが分かったり。
ハル√では並行世界や時間移動まで飛び出してきてストーリーを複雑にするための要素がこれでもかと詰め込まれた。
本サイトの中央値と平均値の乖離は4点、標準偏差は16で済んでますが。(2025年2月現在)
中央値90点総合12位タイの中での標準偏差は一番激しい作品になっています。
また、本サイトの面白くなってきた時間中央値は10時間らしいですが、10時間ってクマのぬいぐるみとバトルするあたりですか?
もしくは、共通ルートが終わるくらいのあたりですかね?
より詳しく見ると20時間くらいかかった人も一定数いて、1ルート終わるくらいでしょうか。
とにかくスロースターターなゲームです。
遠慮せずに言えば、評価の数値以上に人を選ぶ作品だと思います。
完走して高評価を投稿する人間と、ギブアップして酷評のレビューをする人間両方の気持ちがわかります。
ここまでストーリーの長さの文句ばかり書いてきましたが。
ストーリーの長さと文章の読みにくさ以外は非常に完成度の高い作品だと思います。
姫織の母親の話はすごく上手いと思います。姉妹で入れ替わったのは姫織ではなく実は姫織の母親であったり。
ソルとナハトと千和の関係、そしてソルのふりをした遠矢の話は意外性も感動がありました。
ハルの話も泣きました。なぜハルは死を選ぶのか、母親は何を考えていたのか。さくら、もゆ。の主題歌も合わさりとても感動的です。
そしてクロ。
健気で不器用な彼女の愛情には数時間胸にジーンときながらプレイしてました。
何度も生まれ変わり、主人公のことを応援して寄り添う。
思い出しただけで泣きそうです。
この世界に産まれてきてくれて。本当に、ありがとう。
その言葉の重み、彼女の想い。
あまりにも長いシナリオはこのセリフに最高の輝きを与えるのためだと感じました。
また、主人公の「奏大雅」は助け出したいと思った憧れの人物の名を借りているようなものであり、本当の「奏大雅」ともいう人物がいること。
それがクロ√でお互いが自己犠牲を図りながら相手の幸福を願うために過去を変え未来を変えるシナリオは斬新で面白かったです。
クロ√は張り巡らされた伏線を回収しながら意外性のある展開が多くて飽きずにプレイできました。
(裏を返せば共通や他√は中だるみの激しい部分もあります)
テキストの読みにくさとシナリオの長さを許容してでもプレイして良かったと私は思います。
序盤が看過できないほど退屈なシナリオや読みにくいテキストは厳しめの目線で評価していますが、本作に関してはその迂遠的なシナリオ構成やテキストも演出上必要なものだと受け取れたため、減点は少ないです。
・Hシーン
全くエロさを感じなかったです。
失礼ながらアダルトゲームである意味は特に感じない作りです。
Hシーン数は各キャラ僅か2シーン。
魔法少女の服など持っているはずですが、その服でのHシーンはないキャラも多々あります。
極太のシナリオを見せられてからHシーンに入るので、戸惑いすら感じます。
ハルルートはその2シーンとも前後に極太のシナリオとシリアスな展開が目白押しなのでエロいとかそういう感覚になる暇がありませんでした。
1シーン目は初見なら使えるんでしょうか、クリア後に回想モードでプレイした場合。
彼女に後に起こる悲劇がチラついたりしませんかこれ。
クロのシーンも一切そういう目線で見れなかったです。
ようやく二人が結ばれて良かったという気持ちにしかなりません。
今までのすれ違いを埋めるような会話がエッチの前後にあってもう頭が混乱しそうです。
このゲームのHシーンに言及するのも野暮だと思いますが、2シーンしかないのに2シーン目は制服姿でHするんですけどクロって制服着てることほぼなかったですよね?
この服でわざわざやる必要ありますかね?
また、クロのHシーンはそれなりに会話も前後の流れを汲んだものでした。
シナリオの理解が困難になるほどじゃないですけど、コンシューマ版だとばっさりカットされてるんでしょうか。
ほぼエロシーンは削ぎ落とした構成ですがフェラシーンだけは全員分用意されてました。
回想シーンを眺めていたら、偶然気が付きました。
他、十夜とあさひはサービスシーンすらないです。
あさひは見た目も性格も幼いヒロインたちとは異なり大人の女性らしい体型と精神的余裕をもっていましたので、少し残念な気もします。
・音楽
BGM収録は驚異の約70曲
主題歌からBGMまで幻想的な夜の国を彩っています。
特にお気に入りの曲は、さくら、Reincarnationとさくら、もゆ。
・タイトル
ゲーム起動時。
毎度、初めからに自動でカーソルが合わさるんですが、使いづらいです。
いろセカHDでは、タイトルで続きからに自動でカーソル当たる仕様になってました。
(非HD版や同ブランド他作品の挙動はやったことないのでわかりません)
これは何か演出的な意図があるんでしょうか。
・パッチ
修正パッチが配信されています。
DL版でも最初から適応されていたりはしないので手動で当てる必要があります。
内容は誤字や演出の修正程度のはずですが、なぜかセーブデータの互換性はない。
ちなみに、パッチを当てても誤字はまだ残存しています。
姫織ルートで姫織が消えたあとに、ナナちゃんと話してるシーン。
千和ルートで夜の世界の桜が枯れ、ナハトと話してるシーン。あたりは確実に残っていました。
このパッチ、本作発売後約4年の歳月を経て配信されていますが、タイミング的にコンシューマ移植に合わせて直したようです。
・システム
必要十分は揃っているとは思います。
バックログが短めなのだけは少し気になりました。普通のゲームなら別にいいですが、このシナリオと構成だともっとたくさんバックログが見たいです、シーンジャンプもありませんし。
ハル√でA地点とかB地点とかの解説をされたときはバックログが足りずによく分からない羽目になりました。
●総評
重厚、長大、シリアス、感動、H要素は薄め。シナリオゲーの極致のような作品です。
シナリオの完成度及びそれを彩る音楽や幻想的なグラフィックは最高峰の出来ですが、とにかくシナリオの長さとテキストの読みにくさがネックです。
最後までプレイした人はそのプレイ時間の長さと文章のくどさにも意味を感じることが出来る作りだと感じました。