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derrida_mishimaさんのLOVESICK PUPPIES -僕らは恋するために生まれてきた-の長文感想

ユーザー
derrida_mishima
ゲーム
LOVESICK PUPPIES -僕らは恋するために生まれてきた-
ブランド
COSMIC CUTE
得点
90
参照数
1804

一言コメント

正確無比なコミュニケーションをすることの不可能性とそれに対して如何なる態度で臨むべきかについて、未熟であるが真摯に生きる若い人々の彩りある関係を通して、雄弁に語ってくれた作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品で語られている事は何かと問われれば、私はまず第一に「齟齬」と答える。
何の齟齬であるか、それは愛する関係同士のものであったり、大事な相手とのものであったり、
はた又自分の感情とのものあったりと、様々に言い表すことができるだろう。

齟齬はコミュニケーションを通して生じる気持ちや言葉の「ズレ」であるけれども、
今作品に登場するキャラクター達もご多分に漏れず、そのズレを経験し四苦八苦している。
具体的な例を上げるならば、勇であれば棗に、まるなであれば父親に、ソーニャであれば
志穂や事務所の関係者に、有希であれば虎太郎に、織衣であれば両親にと。(あくまで一部の例)

少しのズレであれば早期の修繕を施すことで最悪の事態からは逃れることはできるが、
しかし、もしその処置が遅れれば手の出しようの無い状況になってしまう。
こういった事態を避けるには、”状況に応じた臨機応変なコミュニケーション”が必要とされる
わけだが、それが必要であることを理解していても実際に行動に移すことは限りなく難しい。
そうであるから、今作品のヒロイン達も最善を尽くそうとしながらも、実状によい按配に反映できず、
そして、半ばコミュニケーションを挫折してしまったりしている。

初めはこのような暗澹たる模様であったけれども、彼、彼女らは学園やニーシュでの生活を通して、
真摯な人間関係を築き、お互いを信頼し合うようになることで、過去の失敗からの「正確無比な
コミュニケーションの不可能性」を悟りながらも、また”新たな態度”で挫折したものに向き合おうとする。

そして、その新たな態度とは、どのような態度か。
それを説明するために、ここでいくつか、テキストを抜粋をしたい。

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まるな<<喧嘩はダメです>>
まるなはそこで、決意するような吐息を挟み―。
まるな<<ですが、目の前な大事な人から逃げるのは、もっとダメです>>
まるな<<仲良くなくてもいいです。伝えたいことあるなら、ちゃんと喧嘩してきて下さい>>
まるな<<わがままを、ぶつけ合ってきて下さい>>

            姫里勇ルート 12話 : VIVID RELATIONSからの引用
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ソーニャ<<あなたも、何があってもゆずれないものは、手放さないでください>>
ソーニャ<<手放さないで、ちゃんと大切にしてあげられれば、それはきっと、
       あなたに応えてくれるはずです>>
ソーニャ<<どんなにうちのめされても、あなたの努力はあなたを裏切らない・・・・・・
       それは絶対、です>>

<省略>

ソーニャ<<でも、嘘じゃありません。みんなも、努力した分、自分を好きになってくださいね!>>

             ソーニャルート  12話 : Re:FRICTIONからの引用
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”新たなな態度”などと大仰な表現を用いたが、その態度というのは単純なものである。
それは、自分が心の底から大切に思う、大事に思う、価値があると思うものがあるならば、
それに対して真摯に向き合い続け、それを離さない態度である。

そして、このような積極的な態度は作中で何度も何度もキャラクター達の会話や振る舞いから、
語られているように私は感じられたから、これ以上言うに及ばない。



上述の態度はまるで信仰のようで奇怪だ、と感じる方もいらっしゃるでしょう。
私も少々そうように感じます、しかし一方で交わりだけでなく捻じれもあってこそ、
活き活きとし強固な人間関係を織り成すことができるだろうから、こういった態度から
目を背け続けるべきではないと感じる気持ちもあります。

誰とでもそんな人間関係を築くことは不可能でしょうが、自分がほんとうに大切に大事に
したい関係くらいは、そういう真摯な態度で向かうべきなんじゃないかと、今作品をプレイ
しながら、何となくですが感じました。

人だけじゃなくて物に対してもですが、大事に感じるなら誠実に向き合いたいものですね。
雑然かつ煩雑な感想となりましたが、LOVESICK PUPPIESは苦く一方で非常に温かい、
安堂こたつ先生の魂の籠った作品であったと私には感じられました。
何やら騒動があったらしいですが、まあ、とりあえず私は安堂こたつ先生に
素晴らしい作品をありがとうございました、とここで讃辞を贈りたい。