まるで幽霊のような少女たち。白昼夢かくの如しと思わせる倦怠感と仄かな恍惚感は見事。
シナリオ6点(×2):構成は単調。ストーリーも無いに等しいが、独特のローテンションな味わいは他にはない。
音楽7点(×2):サラサラした耳あたりの良いサウンド。綺麗に埋没し、気だるい雰囲気の醸成に貢献している。
画力9点:モノトーンの彩色配置が美しい。清らかな黒髪と儚げな桃色の表情。白肌の細身の怪しさ。素晴らしい。
キャラ7点:何を考えているのか解らないキャラばかり。手を伸ばせば突き抜けそう。この掴みどころのない距離感は好き。
エロ7点:受け主体の倒錯的内容。ゆるい描写、水彩画風の絵によりいやらしさは薄いが、珍品の類ではある。
操作性6点:機能的には際立った不足はないが、結果的に選択肢総当りを強いる教室移動は煩わしい。
量感6点:実質的に一本道であり短期攻略可。しかし独特のプレイ感と不思議な余韻により、割損な感じはあまりない。
世界観8点:カラフルで刺激的な夏のイメージを裏返したような、閉ざされた校舎の白昼夢的な倦怠感が堪らない。
総計69点
(雑感):発売以降、密かに気になっていた作品。清楚な絵柄、意味深なようでいて何の意味もなさそうなタイトル、飾りけのないシンプル極まりないパッケージデザイン。店頭で見かける度にいつも思わず手に取っていたものですが、「何かの拍子で」買ってしまったのが、もう2年ほど前。私は新作であっても買って直ぐプレイすることは殆どなく、大抵は積み上げてしまうのですが、本作に限っては内容が気になってしょうがなく、買ったその日のうちにプレイしたのを思い出します(そして、その日のうちにコンプ出来てしまいました…)。
特徴的な絵柄に目がいきがちですが、設定が中々変わっていて驚かされました。旧校舎解体に反対し立て篭もる少女たちに対し、「交渉係」に指名された主人公が夏休みの期間中、毎日旧校舎を訪れ説得を試みる…。ただこれだけで何ともシンプルですが、普通に思いつく構想ではありません。変です。「交渉」というからには、さぞ緊張感に満ちたストーリーが展開されるのかと思えば、これが全く逆で実にローテンション。登場人物たちは揃いも揃って醒めきっており、話が全く進展しません。毎日少女たちと喋っているうちに何故かHなイヴェントに発展…ただ、その繰り返し。読み物としては正直拍子抜け。しかし本作の真髄は、既に設定の段階で完成されていると言えるかもしれません。ストーリーなどはどうでもよく、恐らく作り手が腐心したのは世界観の構築。この舞台装置はストーリーを語る手段でなく、目的であったのだと思われます。解体が決まったコンクリートの旧校舎に閉ざされた日々が象徴するのは、少年少女たち、そして夏特有の限定的かつ刹那的な一頁でしょうか。何かに急かされているような、それでいて無限的な享楽。そんな数々のHシーンは珠玉。白の使い方がとても印象的。窓の外の空は青ではなくて白。制服の白。そして控えめな精液の白。清らかなようで、生々しいようで、何もないような、帰着する倦怠感と恍惚感が妙にリアル。ゆるいテキストも併せ、白昼夢とはかくの如しかと思わせる茫洋としたプレイ感は見事。校舎内の行く先々で出会う少女たちは、まるで昼間の幽霊のようですらあります。あまりにも唐突に訪れるエンディング、広がる優しげな夕空は、登場人物たちに「何か」が終わったことを告げているようで感傷的です。最後のイヴェント絵、お気に入りです。
残念ながらminiは活動を停止してしまい、もうこのスタッフが再び集うことは難しいでしょうが、本作が世に出ただけでも幸いでした。売れなかったでしょうし、受けも悪かったでしょうし、私自身「一人でも多くの人にプレイして欲しい」などとは決して言い難いです。しかしプレイを終えてみて初めて気づいた、「こんな夏ゲーが見たかった」という願望。それを手中に出来た悦び。トータルで見て欠点の方が目につく完成度の低い作品ではありますが、個人的にはいつまでたっても恍惚と振り返ることのできる「秘蔵」作品となりそうです。