斬新なゲームデザイン。デビュー作ながら恐るべきアイデアと表現力。世界観も濃く、吟味しがいあり。
シナリオ7点(×2):硬派ながらユーモアのセンスも良く、歯切れのいい格調高いテキスト。ストーリーはやや消化不良。
音楽8点(×2):アンビエントからグレゴリオ聖歌風なものまで、神秘的なトーンでまとまり高水準。
画力8点:キャラデザはクセが強いが、粗っぽさが世界観とよく合っている。独特の不気味さを放つ背景絵が出色。
キャラ7点:アクの強い個性的な揃えではあるが、もう一段の意外性が欲しいところか。ヒロインが少し魅力薄い。
エロ5点:テキスト・絵ともに結構エロいのだが、少量なのが残念。この世界観ならもっとエロを増量しても良い。
操作性9点:ゲームデザインに基づいた、非常に透徹度の高いシステム。遊び心のあるデザインも良い。
量感7点:コンパクトによく引き締った感じで、適量。細部までこだわりを通した作り込みにより充足感は高い。
世界観8点:B級ヴァンパイア映画のようなケレン味たっぷりな雰囲気が良い。設定も綿密で、充分没入に耐えうる。
総計74点
(雑感):残念ながらゲームブックなるものはこれまで接したことがありません。で、予備知識もなくプレイしてみましたが、成程、なぜ今までエロゲでこのスタイルがなかったのかと驚くほど、面白い仕組みです。一寸先も読めないパラグラフの分岐は非常に刺激的であり、まさしく「ゲーム的」であると言えましょう。しかし何より驚いたのは、製作側の豪快に突き放した姿勢により、プレイスタイルに無限の自由度が与えられていることです。ステータスやアイテムの管理、戦闘の進行など、システムに組み込み制御することは造作もなかったでしょう。しかし敢えてそれらを放棄し、全てをプレイヤーの裁量に委ねた判断が凄い。プレイヤーは各数値の変動、アイテムの出し入れなどを全てメモるなどして自分で管理しなければならないのです。なんとも面倒臭く思える話ですが、この面倒臭さ、手間をかける「作業の楽しさ」自体が、この「ゲームブック」本来の魅力なのでしょう。幾らでもズルはできますが、そのことに全く意味がないことはすぐに悟らされます。実際私も必死にシートにメモをとり消しゴムを駆使しプレイしましたが、なんとワクワクすることでしょうか。徹底して「付き合う」ことによってもたらされるこの愉悦は、他の作品では味わうことのできない類のものです。久々に「ゲーム」をやっているという手応えを得ることが出来ました。これまでのエロゲーにはなかったアナログ的なプレイの楽しみをユーザーに与えたこのゲームデザインとセンスは非常に高く評価できます。
また、本作が没頭に耐えうるのも、システムのみならず根本の世界観が非常によくできている点を忘れてはならないでしょう。B級だけど妙に味のあるヴァンパイア映画のような、ケレン味と耽美的な色彩を両立させた雰囲気がたまりません。とりわけ独特のタッチで描かれた背景絵は思わず見とれてしまうほどの魅力があり、素晴らしいです。一方、全編に遊び心が浸透しているのも良いスパイスになっており、特にゲームオーヴァーのパラグラフ014と、爆笑してしまったパラグラフ404は傑作。数々のご褒美的な隠しパラグラフも収集意欲をかきたてさせられます。
デビュー作にしてこれだけの卓越したアイデアと表現力の高さを見せつけた本作、なにやら末恐ろしいものを感じますが、どうやらニトロプラスその他の支援があったようで、成程と納得。第2作も同じくゲームブック仕様とのことですので、ますます期待は高まります。ただ、いつまでもゲームブックという訳にもいかないでしょう(Littlewitchの迷走の例もありますし…)。真価が問われるのはまだまだ先かも知れませんが、その行く末をデビュー作から見守っていけるのは幸福なことですね。このような作品・クリエイターに出会った時ほど、エロゲーの不思議さと面白さを感じずにはいられないのです。