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denkiさんのはじらひの長文感想

ユーザー
denki
ゲーム
はじらひ
ブランド
BLUE GALE
得点
66
参照数
956

一言コメント

埋もれた作品ではあるが、全盛期のI'veサウンド、異色の退屈シナリオなど、まだ見所は残っている。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シナリオ5点(×2):構成の弛みが著しく、刺激に乏しい。しかしリアルなまでの退屈の表現が異彩を放つ。
音楽8点(×2):I'veによるヴォーカル曲2曲が破格の素晴らしさ。対してBGMはやや凡庸。
画力6点:今見るとやはり古さを感じさせるが、立絵は衣装・ポーズとも豊富に揃っているなど、当時としては水準以上。
キャラ7点:露骨に柏木姉妹の影響を感じさせるのが懐かしい。やや単調なキャラ立てながら、嫌味はなく好印象。
エロ7点:豊富なシチュ・絵のエロさなど、純愛系では良質の類。回数的にも頑張っているが、各個が淡白なのが残念。
操作性8点:見た目こそ古いものの、機能に不備はなく標準をクリア。ディスクレス起動・選択肢自動セーブは有難い。
量感6点:無いに等しい個別ルート、大半を占める平板な中盤など心象はあまりよくない。エロが多いのが救い。
世界観6点:田舎(夏)ゲーだが、むしろパロディネタにより昭和へのノスタルジーを強く感じさせる。

総計66点


(雑感):感動モノからハード陵辱、果ては脱衣将棋まで、幅広い展開を見せつつも方向性が定まらないBLUEGALEを象徴するような作品。もっとも、この局面毎に色を変える軽快なフットワークこそ長く生き残ってきた1つの要因ではあるでしょう。しかし本作のジャンル・位置付けはどう解釈したらいいのでしょうか。萌えエロを先行したとは言えませんし、田舎ゲーの面を強く出してきている訳でもないです。全てに中途半端で重心が定まらず、なんとなく出来てしまったみたいなこの雰囲気。失敗作でしょうけど、少し不思議な味のある作品です。

主人公は長期休暇で田舎を訪れ、成り行き上、ハーレム生活に突入。緊張感のない無限とも思える楽園のような時間、この「桃源郷」こそが一応は本作のコンセプトでしょう。実際、ストーリーにはほとんど起伏が与えられず、美人姉妹に囲まれたエロ三昧な日々が延々と続くのみです。しかし素っ気無いまでに武骨な語り口により、狙ったものか偶然か「楽園の退屈性」がある程度具現化されているのは興味深いところです。ハイライトは過剰なまでの昭和ネタの投入、特に毎週ヒロインたちと一緒に見るテレビ番組。パロディ尽くしですが、これが妙に毎回面白く、次回が気になってしまうのです。主人公は他にやるべきこともなく(周囲もあまりかまってくれない…)、暇を持て余して散歩することくらいしかないので(河童やツチノコに遭遇したりするのですが、主人公は驚くだけでそのまま家に帰ってしまう…。)、作中のヒロインたちと同様、テレビ番組を見る時間くらいしか楽しみがなくなってくるのです(中でも、刑事ドラマでの衝撃の最終回とヒロインたちの醒めた反応が未だに忘れられません…)。テレビを見る時間を中心に回る、何の目的もない日常。なんという怖いくらいリアルな「退屈」なのでしょうか。退屈をそのまま提示することで結果的にやはり退屈になってしまったこのシナリオは、溢れかえる「退屈な」シナリオの中でも極めて異質なものと言えるでしょう。

あと忘れてはならないのがOP曲・ED曲の素晴らしさ。本作にはもったいないくらいです。BLUEGALEは毎回I'veに音楽を委託しており他作の曲も名曲揃いなのですが、本作の2曲はメロディ・歌詞・歌唱力全てに高水準で傑出しています。両曲ともに歴代I'veソングの中でも十指には入れたい程のお気に入りですが、どちらかというとEDの『秋風に君を思ふ』が好きですね。なかなかエロゲソングで秋っぽいものは名曲が少ない中、本曲は深々とした透明感のあるヴォーカルが素直に秋の空の高さを想起させ、絶品です。