「空」「翼」の研ぎ澄まされたイメージが、快い余韻を残す。忘れがたい至純の逸品。
シナリオ9点(×2):抽象的ですが、主題の求め方、見せ方のセンスが非常にいい。テキストも言い回しが巧く美しい。
音楽9点(×2):理想的と思える程の素晴らしい主題歌。エンディング曲の方も旋律が良いのでヴォーカル欲しかった。
画力7点:独特の大きな瞳がチャーミングな絵柄。イヴェント絵も良いチョイス。服の色など配色が意味深で興味深い。
キャラ9点:門司氏の持味が充分発揮されたキャラとそうでないキャラの差は多少あるが、群像描写はやはり抜群。
エロ4点:特筆すべき長所もなく、ご褒美レベルの薄エロ。おまけHは前作を知っていると笑えますが…。
操作性7点:機能的には揃っていますが、ボタンが小さすぎたりレスポンスが悪かったりで、快適性はいまいち。
量感8点:共通シナリオがやたら長くバランスはベストではないですが、緩急絶妙でテンポは良い。
世界観9点:札幌とは思えない透明感、主題との一体感は見事。シンボルカラーのブルーが印象深い。
総計80点
(雑感):まず、とにかくテキストが至芸。語られているテーマは非常に抽象的ですし、劇中の台詞も観念論みたいなものばかりで難解。一歩間違えたらクソゲーの烙印を押されそうなスタイル。にも関わらず、なんという魅力的な語り口。決して雰囲気ゲーでもない。これも門司マジックとでもいうべきか、緩急の呼吸、キャラの出し入れが絶妙。説得力があるというより、いつのまにかペースに乗せられてしまっている。主題的にはとりわけ珍しいものではないものの、「空」「翼」を動機とした主題の求め方がたまらなくセンス良く、酔うことが出来ました。
他に特筆すべきは主題歌。emuはI’veに毎回主題歌を依属し大きな成果を上げてきていますが、今回は名曲中の名曲。本編同様に決して派手さはない曲ですが、これほどまでに歌詞と旋律が本編と一体化したものは稀。コンプ後に聴くと感無量です。あとは声優陣の出来も素晴らしく、門司氏の洒脱なテキストに見事に活彩を与えています。ヒロイン風夏の独特のイントネーションはまさしくこれ以外考えられず、そして篠原ともみ役である吉川華生さんの怪演は読み飛ばしを許しません……。
トータル的には決して大作や傑作を目指したような作りではないので、あちこち粗っぽさは目立ちますが、逆にその物量的限界が結果的に本作をここまでコンパクトで純度の高い作品に仕立て上げたとも言えます。粗削りではありますが、やりたいことや伝えたいことが自分たちのフィールドで無理なく出しきれている感じが窺え、とても好感がもてました。残念ながらもうemuでは門司氏の作品は見られなくなりましたが、印象的な「空の丘」の背景絵やどこか哀しいキャラクターたちと共に、いつまでも忘れられない作品になりそうです。