タイトルが素敵。純粋な求心と表現が暖かい余韻を残すClear最高傑作。
シナリオ10点(×2):主題は人間とコミュニケーション。構想の妙もさることながら、素朴な語り口が素晴らしい。
音楽9点(×2):ギターとピアノが印象的、渋くて温もりのある良いBGM。吸い込まれるようなOP曲も好き。
画力8点:質素ながら瑞々しく存在感のあるキャラデザが素晴らしい。イヴェント絵は出来の差はあるが総じて綺麗。
キャラ10点:素朴で身近な親近感、派手さとは対照的な慎ましくも凛然としたキャラたち。声優陣も高い水準。
エロ5点:標準的な純愛系Hシーン。テキストは前戯重視で割と粘っこいですが、絵が素気ないのでエロさは薄め。
操作性8点:リメイン系列独自の比較的完成されたシステム。ただし今回も大小のバグ満載、修正ファイルは必須。
量感8点:テキスト量はやや多め。選択肢が難しいですが、味のあるバッドエンドが多いので是非全部見て欲しい。
世界観10点:主題的にも、人間そのものへの肯定的で暖かい眼差しに救われる。黄昏た秋色のスクールライフも◎
総計87点
(雑感):Clearブランド第3作。設定だけみると今回も実に突飛で、どう考えても普通の学園モノにはなりそうもない異質な匂いを漂わせています。しかし、大きく設定を構えながら敢えて等身大のベースに下ろし主題を浮き彫りにしていくのがClearの1つの醍醐味。実際に今回もこの近未来的で大げさな設定は、よりによって普通の学園モノという枠組に組み入れられ、大して起伏のない平凡なスクールライフが緊張感もなく淡々と紡がれていくのです。全ては主人公が人間の感情を学ぶ為。つまり最初から大きな事件もアクシデントも要らなかったのです。ただ毎日、級友たちと話し、触れあい、関わりあっていく。その退屈な繰り返し。そんな中で起こるちょとした変化に伴う驚きと悦び。その当たり前でありながら何という新鮮な表現、鮮やかなテーマの回帰。正直、感嘆しました。全てのシナリオが成功している訳ではありませんが、その過程自体のなんと感動的なこと。なにより最後まであくまで普通の学園モノ、オーソドックスな純愛アドベンチャーという枠内で表現しきった構想に感心せざるをえません。その在り来たりな定型から浮かび上がるテーマの鋭さは、他にはない雄弁なメッセージ性を獲得しています。主人公の設定については一見設定倒れで不必要にも見えるかもしれませんが、個人的には大前提。『TALK to TALK』という素晴らしいタイトルが示唆するように、「ヒトがヒトであるために」、これはそういう物語なのです。
また一方で本作はその特異な設定から、メタフィクション的な解釈も可能です。主人公は人間の感情を学ぶ目的で派遣されている為、ヒロインたちの感情を理解できなかった場合すなわち選択肢を間違ってしまうと、「システム」にすぐさま回収され排除されてしまいます。つまりはバッドエンドですね。このように「リアル」なまでに主人公とプレイヤーがシンクロさせられており、プレイヤーは主人公同様、ゲーム世界に居続ける為にヒロインたちの気持を理解しようと苦心していきます。中々にアイロニカル。また、作品世界では主人公のみ「人工的」なものとして存在していますが、その「人工的」な主人公を通して、「人工的」でないプレイヤーが本来「人工的」であるゲーム世界に臨むという仕組も、非常に意味深で色々考えさせらます。そう捉えていくと、終盤の台詞も数々もまた違った意味合いを持ってプレイヤーに訴えかけてきます。本作のエンディングが一見ハッピーでありながら、設定上では素直には喜べない矛盾を内包してる点も、まさしく美少女ゲームの攻略における縮図を表したもの。これも作り手からの痛烈な皮肉、あるいはそれを超越した希望のメッセージなのかも知れません。
個人的には大きな感銘と衝撃を受けた愛すべき作品。客観的に見るととても万人向けとはいきませんし、出来自体決して完成度の高いものではないですが、ジャストフィットするとはまさにこういうものなのでしょう。前からClear独特の雰囲気は大好きでしたが、今回はその特質が最も活かされた作品だと思います。キャラではシナリオともども素直、樹里がお気に入り。エンディングではバッドエンドになりますが萩谷エンドが一番ですね。ある意味、本作の真髄ですし。主人公が最後につぶやく台詞が印象的でした。
[2003年10月 加筆修正]