超短尺ながらゆったりとした雰囲気の良さ、意欲的なシステムなど、資料的価値は充分にある。
シナリオ3点(×2):怖いものなしの短さ、内容の乏しさ。よくこれだけの尺の中で纏めきったものだと、逆に感心。
音楽7点(×2):耳あたりのよい涼しげなサウンドで、まとまりも良い。洗練された作品カラーへの貢献度は高い。
画力8点:童顔にも見える端正なマスクから漂う色香、正確なデッサンによる安定感が魅力。背景はやや手抜き。
キャラ6点:設定自体に面白味がない。実は意外性はあるのだが、小手先めいて彫りが浅い。
エロ6点:各キャラ3回きっちりと用意。描写は淡白で物足りないものの絵は素晴らしく、半脱ぎの構図がエロい。
操作性8点:洗練されたインターフェイス、ナビゲートキャラが目新しい。機能的には最近の作品には劣るが、大きな支障はない。
量感3点:他作のプロローグ程度しかない短さ。エロゲとしてのアウトラインは一応固まっているが、物足りなさは決定的。
世界観7点:超短尺、スピーディーな展開にもかかわらず、ゆったりとした爽やかな雰囲気が漂い、侮れない。
総計58点
(雑感):最近の長大な作品に接する度に、ふと思い出してしまうのが、今はなきBeFというブランド。このブランドの作品群の特徴を端的に言い表すなら、とにかく「お手軽」。誰の目にも明らかなヴォリューム不足と内容の乏しいシナリオ。厘京太朗氏の美麗な絵を看板に掲げ、初動頼みの「絵だけゲー」というスタイルを3年間ひたすら繰り返し10本もの作品を量産(しかも単独ライン)した一種の頑固さは、商業的には中々したたかであったといえます。しかしこのブランドを扱き下ろす気になれないのは、他のブランドにはない独特の洗練されたセンスを持っていたが故でしょう。特にネーミングセンスの光るタイトルや、どこか品位のあるパッケージデザインは、「ダサイ」ものが多いエロゲ業界の中では群を抜くものであり、店頭でも異彩を放っていたのを思い出します。
本作は、そんなBeFのエッセンスが良くも悪くも凝縮されており、一応代表作と捉えてもよいでしょう。まず、やはり凄まじく短い。最近の作品に比すと、プロローグ程度。開幕早々矢継ぎ早にイヴェントをたたみかけ、ご丁寧に各キャラ3回のエロを挟み、気がつけばエンディング。その間、各ルート30分程度。まさしく「エロゲの簡単な作り方」とでも言わんばかりのアイロニーに思えますが、実質的にはローコストと製作期間の短さによる必然的な質量不足なのは明らか。にも拘らず性急な感じはほとんどなく、むしろゆったりした居心地の良ささえ感じられるのが不思議。開き直ったかのようなシンプルなゲームプランにより、持前のセンスのよさが前面に出てきているのは、BeFの作品に共通する妙味。大して意味もなく長大で鈍重な作品が多い中、この軽快な「お手軽さ」は大きな魅力です。しかし幾らお手軽とはいえシナリオの出来は許容範囲を大きく下回るもの。余分なものは無いに越したことはないですが、これはいくらなんでも削ぎ落としすぎですね。ただ、こんな冗談のようなシナリオは中々お目にかかれないので、或る意味貴重かもしれません。
見逃せないのがシステム。BeFは最後までシナリオには全くやる気を見せませんでしたが、システムにはこだわりを見せていたブランドでした。本作の「BEHAVIORシステム」は代表格として挙げてもいいものであり、現在見ても中々興味深いものです。本作は予め「運命」ルート(彩華ルート)が固定されており、それに逆らい別ルートに入る為には選択肢毎で「行動力ポイント」を消費する必要があります(行動力ポイントには上限があるので計画性が求められる)。この独特のプランは、無機的になりがちなAVGにおける選択肢に、具体的な形でプレイヤーの「意思」を介入させることに成功しており、従来のフラグ構成の裏手を取ったような斬新な視点には驚かされます。残念ながら本作ではシナリオの内容の乏しさと致命的なヴォリューム不足(選択肢が片手で数えられる程しかない)により全く真価を発揮できませんでしたが、アイデア自体は高く評価できます。エロゲのフラグ構成について考察する際、このユニークなシステムの資料的価値は非常に高いといえるでしょう。