ErogameScape -エロゲー批評空間-

denkiさんの媚肉の香り ~ネトリネトラレヤリヤラレ~の長文感想

ユーザー
denki
ゲーム
媚肉の香り ~ネトリネトラレヤリヤラレ~
ブランド
elf
得点
89
参照数
1657

一言コメント

エルフの伝統と新たな才能の幸福な巡り合い。苛烈極まる「萌エロ」に震撼。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シナリオ10点(×2):緻密な構成、抑制の効いた豊かなテキスト。シーン構成のセンスの良さには惚れ惚れする。
音楽7点(×2):後方支援に徹底。シンプルでクリアなサウンドが、味気ない閉鎖空間によく染みる。
画力10点:繊細かつ柔らかい質感が素晴らしい。良い目を描く。彩色も美しく、宵闇の藍色、衣装のブルーが印象的。
キャラ10点:エロゲが女性ドラマであることを強く再認識させる。飾繕のない鋭い人物描写が冴え亙る。
エロ9点:アニメは充分鑑賞に耐える。絵も肉感的でエロい。しかし何よりテキストが絶品。名シーン多数。
操作性8点:色々な制約により少々不自由だが、ゲームコンセプトに沿ったもので違和感は薄い。寧ろ完成度は高い。
量感9点:様々な試み、工夫が盛り込まれており、質量ともに贅を凝らした作り。余韻は重量級とは違うが、深く鋭く響く。
世界観9点:3D移動による情報の制御が絶妙、完成度の高い「ゲーム空間」。病的なまでの無機質さがコワい。

総計89点


(雑感):年々存在感が弱くなってきている感のあるエルフ。しかし近年の作品群も、依然として他ブランドの真似の及ばない高度なゲーム設計を見せており、エルフらしさが失われた訳ではないと思えます。著しい求心力低下は、単純にユーザーとエルフの求めるものが離れてきている結果と分析することも出来るでしょう。そんな中で発表された本作は、タイトルも箱絵もなんともインパクトがなく地味。ただ、こういう時のエルフは「何かある」と見るべきでしょう。箱裏に赤字でデカデカと大書された「萌エロ」という煽り文句からして怪しさ極まりないあたり、苦笑して手にとりました。

本作を統制しているのは3D移動。ただ毎日、邸宅内を徘徊しイヴェントを進めていくだけという、一見シンプルなゲーム設計。しかし3D移動を巧妙に利用した舞台空間の造形、人間関係の構築は見事と言えましょう。情報を3D移動で制御することにより、非常に無駄のない精巧なシナリオ構成が実現されています。行間ならぬ3D移動の「間」を効用することで、独特のテンポがシンプルなテキストに雄弁な輪郭を与えているのも見逃せません。ただ、本作が傑作たりえたのは、シナリオの主眼が舞台設定から想像されるミステリーや謎解きではなく、ひたすらキャラクターに向いているところでしょう。過激なまでに「性」を前面に出したこのシナリオは、エロゲとは「女性ドラマ」である事を強く再認識させるもの。煽り文句の萌エロに偽りはなく、これはエルフなりの苛烈な萌エロと捉えることができます。圧巻は裏ルート。抉るようなテキストの深さ、幕切れの鮮やかなセンス。かつて、ここまで激しく主人公を想ったヒロインがいたでしょうか。香織を香織のまま終わらせたからこそ、この作品には強い説得力が宿ったのだと思えます。見事な「萌エロ」です。

コンセプトとゲームデザインの完成度の高さ、噛めば噛むほど旨味の出る懐の広さ。エルフの「伝統」と新しい才能の幸福な出会いによる、会心の傑作と言えるでしょう。スタッフが代わっても意欲的な挑戦の姿勢を失わないエルフの「伝統」が受け継がれているのは、頼もしい限りです。近年はやや空回りしたタイトルもありましたが、本作のような傑作が「いつ出てきてもおかしくない」底力を改めて思い知らされました。今後も常に業界に刺激を与え続ける存在であって欲しいものです。