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dearoldhomeさんのplanetarian ~ちいさなほしのゆめ~の長文感想

ユーザー
dearoldhome
ゲーム
planetarian ~ちいさなほしのゆめ~
ブランド
Key
得点
81
参照数
59

一言コメント

シナリオはロボット物としては凡なのかもしれない。けれどその丁寧な筆致やゆめみへの思い・沈黙を貫く封印都市、降り続く雨、そんな世界観と情景に懐かしい感動を覚えた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

Key作品の中で、題材とボリュームから敬遠し続けていた作品。
シナリオはおおよそが直球で流石に予想通りだったものの、想定していたよりも凄惨な状況下のストーリーであることでのギャップやテキストの丁寧な筆致・BGMの質、何より「ほしのゆめみ」というその存在に大いに感動させられた。

第一に世界規模の戦争が行われている近未来という設定に不意を打たれた。この辺は前情報の少なさが功を奏したのかもしれない。荒廃した土地、人影ひとつない封印都市、そんな中に場違いに呑気なロボットとこれまたそれ自体が(平和だったころには)呑気に感じられる「プラネタリウム」の廃墟。そこで出会った少女の形をしたコンパニアンロボット。喋る言葉や表情は柔らかく、30年前のブツだけあってかなんともとぼけた感じがするが、実際にはやはりただの機械で、その役務を全うしようと今もこの街で一人呼び込みを続ける、「孤独」さえ分からないような寂しい無機物。
外は気候変動によって降り続けている雨で満たされている。そんな中で絶望すらもできないようなくたくたの屑屋がそれに出会うのだ。私はそんな哀しみ同士のぶつかりを、尊いと思ってしまう。

プラネタリウム上演時のゆめみの語り、そのちいさな小宇宙をものにして誇り高く声を上げるゆめみが好きだ。ここで輝くためにつくられている(プログラムされている)のだと認めざるを得ない。語られている内容は何の変哲もない、宇宙を志すためにまずは世界の平和を望もうという内容かもしれない。だがそれは彼女が語ることによって、彼女の「望み」に規定される。そんなまっすぐな、純粋な言葉を無駄にしたくないと思う。そうやって感銘を受けていく。
私には「ほしのゆめみ」の存在を認められたことが何よりも重要。彼女の純真な、汚れのない目を覗いてしまったからには、このことを心に留めて居続けないと思う。それが礼儀だから。

ただ待ち続けることができるのって機械的というか、ロボットだから成せる事だよなあ。私はそういう独りぼっちの少女を見るときに同情的な目を向けてしまいがちだが、まず30年も、30年も待ち続けるなんてことは人にはできないことだ。それこそ寂れた観光地の受付に置かれた置物のように、ただそこに在るということが寂しくて、ロボットに至ってはそれを正せるのがたった人類だけ、ということが悲しい。人に作られて人の施しを待つしか出来ないのだ。

作品の中だと、対戦シーンで撃たれたときに真っ白になる演出は普通に怖かった。光に覆われた白の中で、絶えず聞こえるおどろおどろしい兵器の音。ゆめみはどれだけ近づいてもモーター音とかしてくる演出が無かったから余計。


ラスト。「こわれた機械がつかさどる秩序の腕に抱かれて」、彼はゆっくりと夢から覚めるのか。喜ばしいはずの狂いが、元の世界に戻っていく道筋を照らして、瞼の裏の星々と胸に抱いた記憶をもとに封印都市を離れる。


星はロボットで、ロボットは夢で、人は夢追い。いつか届いてしまっても、それを志向した日々の煌めきを忘れぬように。それは戦火のふもとにある人間たちが望む「平和」と同種のものだと思う。いつか平和になったとしても、その死闘の史を忘れることのないように。

サウンドトラックを流して静かに感想を綴っている。短いながらもそんな余韻のある作品だった。
派生作品を読みたい気持ちと読みたくない気持ちが4:6くらいである。