ただ一言で言うならば、「魂」の作品
プレイ直後に一番感じた感情としては、"困惑"が近い。
「これは、相当に評価に困るゲームだな…」と。
ストーリーとしては、1,2,3章(case1~3)+α構成。
1~3章は、章ごとにそれぞれ異なる大学生の主人公が、現在抱えている心や置かれた環境の悩みを解決するために心理カウンセリングに興味を持ち、そこで「橘真琴」というカウンセラーに出会う。
まこちゃんと呼ばれる(呼んでほしげにされる)そのカウンセラーに話を聞いてもらう中で、各主人公たちそれぞれの過去や問題が洗い出され、まこちゃんの心理学に基づいたアドバイスを元に各々が問題解決へと取り組んでいく…という、あらすじにしてみればごくごく普通の構成。
ストーリーに関して詳しいことは書かないが、1,2,3章とも、親・兄弟姉妹・友人といった身近な人との過去が絡むもので、特に目新しい設定は無い。回想が適宜挟まれつつ、各章1度くらいはじーんと泣けるポイントがあった。冗長に感じるシーンも無くはないが、主人公の意識の変化が分かりやすいため、話が進まない・展開が無いといった退屈さは感じなかった。好みとしては2>1>3。
1章のちょいホラー風の叫びや2章の格ゲー演出は面白かった。基本はシンプルすぎるくらいシンプルなデザインの画面だが、ここぞと言う時には一気に演出や雰囲気を変えている。
ただ、この作品の凄いところはなんといってもまこちゃんと行うそのカウンセリング。
作者が心理学などを学んでいたこともあって、まこちゃんはあくまでも説教臭くない程度に、今日から役立つ知識を丁寧に沢山教えてくれる。無論それは作中のキャラクターとの対話の中で出てくるものだが、黙々とプレイしていたとしても、結局はプレイヤーである"自分自身"に焦点を当ててしまった。「知識」を散りばめて共感させる、というのは啓蒙要素としてはかなり直接的ではあるが、それ程に実践的で簡単なものなのだ。
例えば、この作品に繰り返し出てくる印象的なワード、「観念」。
まこちゃん曰く、何かネガティヴな感情を抱くということは、自分の中に「観念」=〇〇ではいけない思っていることがある、ということらしい。この「観念」は、意識して掘り下げていくと深くまで根を張っている厄介なもの。それを、「〇〇でもいい/してもいい」と意識を変えてみることによって、「観念」を手放すことが出来る。…というたったこれだけのこと。
正直な所、私は心理学をこれっぽっちも学んだことがないので作中に出てくる知識や感覚、理論などの裏付けがあるかどうかは全く分からない。実践してみてもうーん?という教えもありはした。しかし、同じように「これで本当に大丈夫なのか?」と疑ってしまう主人公たちに、「最初はそれでも大丈夫」と笑ってくれるまこちゃんが居ると、信じてみようか、1度やってみようか。という気になってくる。この辺りは、本当に巧みというか、納得のいかない自分までもが橘真琴というカウンセラーに励ましてもらっている感じがして心地よかった。勿論強制されている感覚も無い。私自身カウンセリングは受けたことがあるが、為にならないどころか精神的に追い詰められた経験があったため、カウンセラーとしてこういう接し方・話し方は相当有難く思えた。会話の流れも何かの動画であるかのように絶妙に思えたし、作者はカウンセリングも実際の体験を元に書いているのだろう(か?)。
個人的な経験とも重ねつつ、新鮮な気持ちで読み進めることが出来た。
私が評価に困ると思ったのは、橘真琴という人物の真相が語られる+αのストーリー。
明らかに不穏なまこちゃんの"カウンセラー休止"の真相を突き止めるべく、海くんが名古屋に出向く。辻褄の合わない時系列、まこちゃんが"死んでいる"という事実。ここまでは想定内であり、純粋に橘真琴という人物の本当の姿、過去、全てが知りたくてドキドキしていた。
しかし、もうここからどんどん凄いことになっていく。「橘真琴」の回想ストーリー。
中高でのいじめ。家庭内での兄妹差別。優秀な兄との開いてしまった差。辛かったね、頑張ったね、そう言ってくれる人がいないことへの悲しさ、虚しさ、絶望。自分には何も出来ない。どんどんズレていく自分を変えたくて、変えられない何も出来ない悔しさ。怒り。そしてまた絶望。
この辺りの描写は、本当に鬼気迫るものを感じた。気分が沈むともまた違うが、クリックする速度が遅くなり、ここで、これは本当に魂の込もった作品なのだと感じた。これまでの苦悩をここまで描いてしまうのか、と怖かった。
腕に力が入らない、と泣き出す様子は何度も何度もリフレインされ、真琴は変われないのに、兄が変えようと変えようと焦っている。この頃には真琴は鬱や適応障害の類だったと思うが、あまりにも環境が良くなかった。そう思うしかないくらい、その苦悩はどうしようもないものに映った。自分の境遇と全く重なり、本当に心が痛くなった。卒業のくだりとか…
そして、最期まで苦しいまま、橘真琴は自分の誕生日に自殺してしまう。
相当に過酷で重苦しい話ではあるものの、本当に、ここまでは手放しで褒めていいくらい良い作品だと思った。
そして、橘真琴が幽霊状態になってから、が語られる。
今更、幽霊がどうとかオカルトがどうとか語りたくは無い。ノベルゲームに置いて、非科学的存在が唐突に出てきてペラペラと語り出すのは当たり前である。
ただ、自分が違和感を持ったとすれば、それはその圧倒的にリアルで救われない不幸物語における続きの展開として、温度差を感じてしまったのかもしれない。そして更に、作中で頻出した、いわばプレイヤーがこのゲームというフィクションの中でも現実に結び付けることの出来るような心理学を多用しておいて、そんな展開はあまりに…と思ってしまった点もある。
ただの感動劇としてなら良いのだ。沢山の伏線が張られていたがそれは全て回収されたし、「自殺」という結末を迎えてしまった自分に自責の念を感じていた(END前)からこそ、全ての人間を肯定してあげるという最大の寄り添い方が出来て、多くの人に慕われたとも考えられる。その点では本当にすごく良く出来ているのだ。某有名メーカー作品に並ぶ感動だ。
だが、私はここだけは、未だに受け入れられていない。
そして、未だにその受け入れなさは何が原因かも、正直今一つピンと来ていない。
きっと、重ねてしまっていたからだ。そして、主人公たちと同時に、考えてしまっていたから。
沢山の学びや感動を経て、待ち受けていた橘真琴の物語は酷く辛く、受け入れ難いものだった。
…結局、逆に"心理学的な要素"が尾を引いて、物語としては楽しみ切れなくなってしまったのか?
それでも、カウンセラーになったまこちゃんは本当に立派だった。
細細しいことを言ってしまったが、まこちゃんが本当に救われたのは、やはり死ぬはずだった場所であるホールで、まこちゃんのために集まってくれた沢山の人達からの拍手や、ありがとうという声だったであろう。涙を流しているまこちゃんを見て、本当に良かったと思った。
(ラストの歌、ちょっとGod knows...を思い出しました。)
そして何よりこのゲームの中で1番泣いたのは、最後の最後に、
まこちゃんが、「親愛なる孤独と苦悩へ」と言ってくれたこと。
私は未だに、このタイトルを読むと目が潤んできてしまう。
間違いなく、まこちゃんが、あの壮絶な孤独と苦悩に対して、"親愛なる"と言っている。私はこれが全てだと思った。
まこちゃんは、全ての意味を感じられましたか?