「ノベル」ではなく「ノベルゲー」としての面白さ
この作品は「ノベル」ではなく「ノベルゲー」としての面白さが際立っている。
ストーリーの骨子はいわゆるメタフィクション(※1)とループものであるが、今まで15年以上にわたって多くのギャルゲーをプレイしてきた自分にとっては、劇中の登場人物のセリフのあまりにもリアルすぎる内容には気持ち悪さだけでなく恐怖を覚えた。
だが、そのともすれば嫌悪感を感じるセリフ回しや、冗長な日常パート(※2)、システム的なメタ要素、その全てが見事な演出となっており、ただただ目を見張るのである。
いまだかつて、ここまで一つの選択肢だけでプレイヤーを悩ませるギャルゲーがあっただろうか?
1週目(および2週目)をプレイしていて、「やたらアオイルート入りづらいな?」と違和感を感じなかっただろうか?
メタルートで「ループもの」であることに気づき、そこから脱出する方法を攻略サイトではなく「自分の頭」で考えただろうか?
クリア後にチートコードの存在を知って、入力を躊躇っていないだろうか?
この作品を純粋な「物語」として読んだ人は、作品に裏切られたと低評価をつけるだろう。
この作品を挑戦的な「ゲーム」として読んだ人は、そのギミックに感嘆し高評価をつけるだろう。
そして、「このセカイは、ゲームなの」という冒頭のセリフが、「物語」としての伏線すら回収してしまうのである。
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以下に自分が感じた「ノベルゲー」としての面白いポイントと、演出面で感じ入ったポイントを記載します。
◆「ノベルゲー」としての面白いポイント
・一見、作品そのものが「普通の萌えゲー」にしか見えないにもかかわらず、突然主人公とプレイヤーの立場が入れ替わる「ドンデン返し」オチの面白さ
→このオチに到達する前に、まさしくプレイヤーは「スキップ」と「セーブ&ロード」を繰り返しているであろう……!
・美雪(メタルート)がループものであることに気づき、そこから脱出するための「謎解き」オチの面白さ
→攻略サイトを見ず、ひたすらループを繰り返すことで抜けられる「スマホのロック解除のための10問」は素晴らしかったです。(私は1回目でクリアしました。w)
また、「美雪がカミサマを使ってコントロールしている悪人にしか見えないが、実はアオイのカミサマによる被害者」というオチも最高でした。
・電話番号のフリー入力
→選択肢とは違った方法でプレイヤーの意思をゲームに反映するのは没入感を誘います。
(直接は関係ないですが「頽廃ノスタルジア」と「ほとせなる呪ちとせなる詛」を思い出しました。)
◆演出面で感じ入ったポイント
・真っ赤な空
→シンプルに異常を表現していて好きです。「沙耶の歌」を思い出しました。
・2週目に挿入される微妙なテキストの変化
→エロゲーマーが既読スキップをすることを前提に、途中でループに気づける仕様。
・メタルートでコンフィグを開くと、アオイの声のボリューム調整ボタンがない。
→美雪がアオイを存在させないことを表現している。
・美雪がプレイヤーとセックスするシーン
→三人称視点から一人称視点への変化はこのシーンの前に登場する訳ですが、まさかエロシーンでもあるとは。
・エンドロールを途中で巻き戻す、スキップする
→「ゲームの作者」という神の立場から操作していることを感じさせるメタ的表現。
・ラストの選択肢を選んだあと、ゲーム上から消えるヒロイン
→CG鑑賞にも、OPムービーからも消えてしまう。
タイトルロゴも「君と彼女と彼女の恋。」から「君と彼女の恋。」に変更になっている。
・クリア後はセーブデータが消失し、もう片方のヒロインを攻略することができない
→アンインストールが必要。ここまで、別ヒロインのルートプレイを躊躇わさせるギャルゲー作品(※3)はありません。
・チートコードの存在
→作中の重要な場面で入力するととんでもないことになるらしい。まだ試していません。
・エロシーンが意外と濃い
→判で押したようなテンプレ抜きゲーのよりテキストもボイスも良かったです。
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(※1 個人的に、王道メタフィクションは江戸川乱歩の「読者諸君に挑戦!」だと思っている。「うみねこのなく頃に」の「愛がなければ、視えない」も、読解力の低い(=真剣に理解をしようとしていない)ユーザを相手にしていない感じが好き。)
(※2 冗長な日常パートから一気に落とす作品は数多いが、ここでは「ひぐらしのなく頃に」を推します。)
(※3 筆者のプレイ時期は2021年。ギャルゲーではないが、真っ先に思い浮かんだのは2017年にプレイした「ニーアオートマタ」のラストを彷彿とさせた。(コンフィグメタネタとか))