ErogameScape -エロゲー批評空間-

dakatuさんのSWAN SONGの長文感想

ユーザー
dakatu
ゲーム
SWAN SONG
ブランド
Le.Chocolat
得点
85
参照数
527

一言コメント

冷徹とも思える人間観、宗教観に裏打ちされた良質なストーリーが魅力的な作品。派手な展開や軽妙なギャグがあるわけではなく、やりきれない思いをプレイヤーに抱かせて淡々と物語は展開してゆく。言われているように、万人受けする作品では決して無いと思うが、多くの人が挑戦し、何かしら考えてみるだけの価値がある作品だとは思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品には、派手なバトルシーンやヒロインとのドキドキする様な恋愛があるわけではありませんが、時に非常に残酷な事柄さえも淡々と展開してゆく流れには一種凄みを感じさせられました。
全体的に陰鬱な雰囲気で話が進行していき、最終的には登場人物達にさえ救済は与えられません。鍬形によって代表されるような人間の弱さを妥協することなく描いています。
しかし、私個人としては、この作品にこめられたメッセージは「人間はお互いに理解し合えないし、個々人が出来ることなどたかが知れている。己のうちに絶望を抱えて日々生きることさえ苦しい。それでも、屈せずに生きていこう。」ということなのではないかと思います。

問いかけた言葉が、意味を失った単なる音として返ってくるあろえとの会話やコミュニティ間の対立などは人間の相互理解の難しさを表していると思います。
宗教による救済の否定、鍬形のコミュニティを維持しようとする試みの失敗などは人間の無力さの象徴なのではないでしょうか。
人間誰しも心の内に、自分自身や自分に関係する事柄を否定的に捉える側面があり、その感情を抱えるというのは苦しいものです。
司、由香、鍬形はそれぞれ心の内に絶望(コンプレックス)を抱えている人間です。司はそれに勝てなくとも屈しない決意をし、由香はそれに屈して絶望を再生産し続けることを選び、鍬形は絶望との戦いを別の目的へと刷り返ることを選びました。
どれが正しいかは、作中には明示されません。
しかし、作品の最後、彼女なりにつらい世界と格闘してあろえが作り上げたキリスト像を打ちたて、司が由香に伝えたかったことは「辛くても、救われなくても生きてほしい。精一杯生きてあなたなりのSWAN SONGを作ってそれを誇りに思ってほしい。」ということなのではないでしょうか。

これは、私個人の感じた印象であり、人によってこの物語の解釈は違ってむしろ当然だと思います。どちらにしろ、この作品はプレイヤーに何かしらの考えさせるだけの力があります。
シナリオメインの作品にもかかわらず、テキストが読み難いのはかなりマイナスでした。BGMやED曲はクラシカルで情緒のある美しいものですが、作中では無音状態が効果的に使われているためBGMの出番はかなり少ないです。Hシーンには期待しないほうが良いでしょう。