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dakatuさんの終末の過ごし方 ~The world is drawing to an W/end~の長文感想

ユーザー
dakatu
ゲーム
終末の過ごし方 ~The world is drawing to an W/end~
ブランド
アボガドパワーズ
得点
78
参照数
153

一言コメント

物語の終わりから終末のその時まで彼ら彼女らの淡い恋に幸あらんことを。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

本作は終末を迎えようとする世界での少年少女の淡い恋を描いた作品であるが、極限状態においてすら生じる恋愛の力強さやそれによる精神の救済を描いたものではおそらくない。何故なら希望も諦めも、行く末の分からない未来があるからこそ存在し、価値があるわけで終末という絶対的なピリオドが決定している状況では恋愛の力強さも儚さも、希望も諦観も存在しないし意味がないのである。
しかし、彼ら彼女らの恋模様に意味が無い訳では決してない。本作のテーマはおそらく、終末の直前という究極とも言うべき非日常によっても揺るぐことのなかった「日常」の強固さである。まるで普通の学園モノのように繰り広げられる部活、保健室の仕事、食事ETCといった「日常」の強固さは安定を望まずには居られない人間精神の脆弱性の裏返しなのだろう。終末直前という状況ではむしろ「日常」の強固さに身をゆだねることでしか安寧を得られないのだろう。終末直前で日常を繰り広げる彼らは強いのではなく、むしろ日常に忌避してしまっているのだ。この社会全体を覆う強固な「日常」を人は脱することは出来ずそれこそ世界が終焉を迎え、全てを消去しなければ「日常」は壊れないのだ。
ところで作中では主人公とヒロインが結ばれた時点で物語が、終末を待たずして、終わってしまう。ある意味彼らは恋愛を知り結ばれた時点で、一時的にだが、彼らの今までの日常は終了し淡い恋愛という非日常を抱えているのだ。当然彼らの恋が成就しようと社会全体の「日常」は変化しないし、暫くすれば彼らの勝ち得た非日常も新しい日常としてリスタートしてしまう。だが、彼らは新鮮な非日常が日常へと変質してしまう前に消滅してしまうのだ。悲しいかな、恋知り初めても消え行く彼ら。されど、幸せなる哉、永遠の非日常を抱いたまま消え行く彼ら。「日常」に強く捕えられ、間欠的にしか非日常を持てない我々からすれば羨ましい事ではないだろうか。プレイし終えた後の何とも言えない寂しさ、悲しさは終焉を迎える登場人物達と同時に日常を脱しきれない我々自身にも向っているのではないだろうか。「よい終末を」とは「よい日常からの逸脱を」とのことであり、もっと言えば「よき生を」を意味するのだと信じたい。     なーんてね。

水彩風な絵柄を含めて静かな雰囲気が魅力的。全員メガネははっきり言ってバランスを欠き不快。端からメガネフェチ向けならともかく、売りはそこじゃないだろと言いたい。