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dai5さんの恋×シンアイ彼女の長文感想

ユーザー
dai5
ゲーム
恋×シンアイ彼女
ブランド
Us:track
得点
90
参照数
534

一言コメント

この話は、あまりにも不器用過ぎた普通の女の子と男の子の、ささやかで切ない恋物語です

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想



もともと気になっていた作品でしたが、安く購入できる機会があったので終章まで終わらせて頂きました
賛否両論な話であることは間違いありません。

星奏自身は、少しマイペースだけどどこにいてもおかしくない、普通の女の子だと感じました。

付き合い始めてからはお互いに好きという感情を持ち、デートもセックスもし、幸せな時間を過ごしていました。

ですが最終的になぜあのような結末になったのか、詰まるところ根本的なところでこの二人は大事な所で向き合っていなかったのです。

星奏はグロリアスデイズの作曲を手掛けていたが、スランプに陥りリハビリの為に思い出の町に帰ってきていた事と
洸太郎に対して昔くれた手紙の返事をしなかった理由を打ち明けず
洸太郎は、その手紙の返事をくれなかった理由を無理に問いただしませんでした。

それは、なぜか?
理由は簡単で、お互いに秘めた事実と向き合う事で今の二人の関係にヒビが入る事を恐れての事でした

星奏も洸太郎もあまりにも、不器用過ぎたんです

個人的な意見ですが星奏は存外普通の女の子だったと思います
手紙も自分の意志で書かなかった、事は間違いがないとしても
グロリアスデイズのメンバーからの圧(今は恋愛よりも音楽優先であるという論調)があったことは事実描かれています
星奏ルートのラスト、サマフェスでグロリアスデイズのメンバーにも説得された時も確かに葛藤があった描写がありました

星奏にとっては音楽も大事、洸太郎も大事、そしてグロリアスデイズのメンバーと置かれている状況も等しく大事だったんです

もし、節目節目の場面で洸太郎と向き合いお互いに話し合う事が出来れば、音楽も恋愛も両立はできたのではないでしょうか?

でも、それを星奏はしませんでした
そしてこれが致命的になるのですが、学生時代の洸太郎も星奏の才能を考え図々しくなる事はできず、どこか星奏には自分は敵わない、という諦観があった事は心理描写からもわかります

お互いに、予定調和のように向き合う事を避けて諦めていたんです

そもそも星奏にとっては音楽を、作曲をしたいという純粋な願いがあったはずです。
グロリアスデイズのために音楽を作るのではなく、音楽を作る結果としてグロリアスデイズがそれをアウトプットしてくれたにすぎません
が、作中を見ると音楽への情熱よりもグロリアスデイズとの付き合いと状況に流されている印象を強く受けました


メンバーが自殺未遂しようが、多額の負債を抱えようが、星奏が本当に芸術家肌で音楽馬鹿な人間であるなら
そんな周りの状況よりも自分の音楽を作り表現する事を優先したはずですから
でもそれをしなかった、成せなかった事は星奏という人間が、才能はあっても決して変わり者でもない普通の女の子であり普通の人間であるという事実を認識させられます
最終的に彼女の才能は世の中で埋もれ、忘れられていきます。
あくまで憶測でしかありませんが、色々な事がありすぎて星奏は音楽とも向きあうことが出来なくなってしまったのではないでしょうか
それはごく一般的な感覚であり、星奏という人間の普通さ、を表しているように思えるのです。決して音楽だけを考えて生きている訳ではない、と。

正直リアルタイムでプレイしたわけではないため、当時定価で購入し星奏という女性に完全に感情移入しきっていたらまた違った評価だったかもしれませんが…
音楽に寝取られた、という評価をされがちなこの作品
私自身の素直な感想は、あくまで少し臆病で不器用で、向きあう事の出来なかった男女の物語、ただそれだけの事だったと思うのです。